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運命の番は呪いか祝福か?  作者: 重原水鳥
妹・雪菜と運命の番
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ブラッドリー・ジョージ・アンブローズ・バートランドの事情 11

 決闘とは、王侯貴族や騎士たちが“譲れないこと”や“真実”をかけて行う一騎打ちだ。主に行われるのは冤罪をかけられた時に己の無罪を主張する時や、自分に不当な悪評が立てられた時に己の身の潔白を主張する時だろう。

 勿論それだけでなく、過去には望まぬ結婚を強いられる女性の恋人などが彼女を救うために決闘したという記録もある。この出来事は史実を元とした物語に改変され、ローザスでは長く女性たちから愛される物語となっている。

 ローザスの国民であれば一度は聞いた事のある話をなぞるかのような王子の行動に注目が集まるのは当然だった。


「お待ちください、伊空第三王子」


 誰もが動けないでいた中で、凛とした声が響く。会場中の視線が伊空から、発言者の王妃に移された。

 王妃は既に精神的にも立て直しているようで、落ち着いた立ち振る舞いのまま伊空を見下ろす。


「アリステラの結婚に物申したいとの事でございますが、誤解が多くあるようですね。我が国の唯一の姫に関わる事柄ですので、この場は話をするのに不適格でしょう。別室にご案内いたします」


 伊空は数秒の沈黙ののち、花を胸元に戻した。


「どこへ?」


 伊空の短い疑問に、王妃の指示を受けた騎士が動く。

 ブラッドリーは改めて、かの女性に感服した。


 先ほどの――伊空が花を掲げて決闘を申し込んだタイミング。あの時点ではまだ正式に決闘は申し込まれていない。起きればただではすまない決闘を止める、最後のタイミングであった。


 ローザスにおける決闘の手順は、以下のようなものだ。

 まず花を掲げる。この花は己の目的に合った花言葉を持つと尚良いと言われている。

 そして決闘相手に対して花を掲げながら己の主張を宣言する。

 次に、その花を相手に向かって投げる。ぶつける必要はなく、これは決闘しようとしている相手をより明確にするための行為だ。基本的にこの段階まで来た決闘は、行わなければならない。どちらが引いたにせよ、花を投げたと知られているのに決闘が行われなければ、どちらの名誉も傷つくと考えられている。

 最後に決闘相手はその花を拾い、正式に決闘が受諾される。

 この後は立会人などが決められて、いつどこで決闘を行うかを双方納得の元決めて、最後に周囲に大々的に周知する。


 花を投げてしまえば行わざるを得ないが、かといって我が国の重鎮である侯爵と自国より大国であるアールストンの王子で決闘を行わせる訳には絶対にいかない。だからこそ、王妃は止めたのだ。

 本来ならば国王が口をはさむべきであっただろうが、彼は動かなかった。だからこそ代わりに王妃が動いたという訳である。


 伊空が先に別室へと案内されていくと、王妃は立ち上がり会場中の人々に向けて宣言した。


「この場に集まった人々の胸に少しの不安を抱かせてしまっただろうが、我が国はこれからも美しい花を咲かせ続ける事でしょう」


 ローザスの貴族が、王妃の言葉に賛成するように拍手をする。王妃は少しだけ離れた位置にいた第一王子に視線をやった。


「しばしの間、この場は我が息子に任せるとしましょう。彼が用意した見世物が皆さまの心を幸せで満たすと信じていますわ」

「では皆さま。どうぞ庭の方へお集まりくださいませ。ローザスが命を懸けて整えた美しき庭園をお目にかけましょう」


 第一王子は流れるように王妃から会話を受け取り、客たちを別の場所にと誘導する。


 ブラッドリーはアリステラの傍に慌てて戻った。


「アリステラ。大丈夫か?」

「お兄様、私、私何が起きたのか……?」


 ブラッドリーがただ一人の妹を慰めている横で、王妃は座したままの国王に話しかけた。


「参りましょうか、陛下」


 彼女は国王を殆ど待つ事なく歩き出す。途中、ブラッドリーとアリステラにもついてくるようにと声をかけた。ほんの少しだけ座したままの国王や動かないペンバートン侯爵が気にはなったものの、ブラッドリーはアリステラの背中を押して王妃の後を追った。

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