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運命の番は呪いか祝福か?  作者: 重原水鳥
妹・雪菜と運命の番
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ブラッドリー・ジョージ・アンブローズ・バートランドの事情 09

 時間軸が戻り、アールストンに来るまでのローザスサイドの話になります。

 第三者視点です。

「アリステラ……嗚呼、やっとお前を腕に抱ける……」


 会うの少しぶりである男は、同じ空間であるブラッドリーたちの事など目に入っていないという風に、アリステラの事を抱きしめていた。

 開いたうえでふるふると震える大きな翼のせいもあり、彼――アールストン第三王子伊空(イゾラ)とアリステラの傍に寄る事は誰も出来ない。翼が突然動いて接触するのを恐れているのだ。


 その様子を見ながら、ブラッドリーは彼と初めて会った日の事を思い出した。



 ――今からおおよそ三か月前の事。



 ローザス王国では年に一度の重要な日がやってきていた。

 王国の建国を記念する特別な記念日は、国内だけではなく国外の要人も招いて大きなパーティーが行われる。ブラッドリーもアリステラも側妃の子とはいえ正式な王子と姫。当然、そのようなパーティーでは要人の対応に追われる。


 この日の間は、忙しさのお陰でアリステラとペンバートン侯爵の結婚についてあまり悩まなくて済んだ。何故かと言うと国内外のやってくる要人の情報についての記憶やその前後の騎士の配置についてなど、把握しなければならない事や指示を出さねばならない事が沢山あった。後から思えば、この日に向けて兄殿下たちから普段より仕事を振られていたようにも思える。

 この記念日は、国王ですらこれより優先する事項がないという重要なもの。これはペンバートン侯爵も同様だ。故にこの前後にアリステラに余計な手を出す可能性は限りなく低かったので、追い詰められているブラッドリーが暴走しないようにと思っていたのかもしれない。

 実際、持ち直したと言えど長らく倒れていたペンバートン侯爵は年齢に加えて体力も無くなっていた事から、結婚式の準備についても手が止まっていたようだった。


 記念日当日。唯一の姫であるアリステラに近づいてくる要人は多い。亡き側妃の子で第三王子であるブラッドリーよりも、側妃の子であろうと唯一の姫であるアリステラの方が国際的にも価値が高いのはある意味当然の事であった。既にアリステラは結婚相手が決まっている訳だが、それでも結婚相手がローザスの重要人物であるペンバートン侯爵である事もあり、各国の人間が彼女とのつながりを持ちたがる。

 そういう人々をある程度防いだりするために、ブラッドリーは出来る限りアリステラの傍にいた。この行動はアリステラの婚約が決まる前からずっと同じであるので、国王から見てもそこまで違和感のある事ではない。そのお陰もあり、より力を入れながらアリステラを守っていた。


「……次はどの方にご挨拶に参りましょうか、お兄様」

「そうだな……」


 出来る限り早く挨拶をしたい要人のリストを思い出す。相手の方から会話をしに来てくれるのは移動をしなくて良いという利点があるが、こちらの事情で挨拶をしなくてはならない相手に会えなくなってしまう可能性もある。丁度一つの人の波を捌き終わった所だったので、まだ挨拶を済ませていない人物に会うべきだ。


「やはりアールストンか……」


 現状、ローザスが特に気を遣うべき隣国の一つが、アールストンである。


 歴史上初の獣人国家、アールストン。最古の獣人国家であると同時に、最大規模の獣人国家である。他に存在している獣人国家が国というよりも一つの種族の集まりが国を名乗っている小国が多いのに比べて、アールストンは様々な種族の獣人たちが入り乱れながら国を形成しており、国の中心を占めるのが獣人であるという点を除けば人間の国々と殆ど差異はない。


 今年ローザスにやってきているのは王子の一人だ。第三王子である伊空という名前の王子である。年はブラッドリーと近い。大きな翼を持つ彼は、周囲にも護衛の獣人を連れている事で遠目でも大体の位置の予測がしやすかった。獣人は人間より体格の面でも優れている者が多いので見つけやすい。


「あちらだな」


 二人はローザスの王子の元へと移動した。彼は他国の人間と会話をしているようだったが、会話相手の方が先にブラッドリーたちに気が付いて場所を引いてくれた。獣人たちは既にブラッドリーたちの到着を予期していたようで、狼狽える事もなく道を開けられる。

 伊空は、二人が傍によると振り返った。黄色い目がブラッドリーを見て、次の瞬間、アリステラを見た。どこか冷たい目だと、()()()()()はブラッドリーは思った。


 ブラッドリーとアリステラが彼に対して挨拶をするよりも前に、伊空はその場でしゃがみ込んだ。唐突な行動に二人は咄嗟に何の反応も出来なかった。理解が及ばなかったのだ。そんな行動を彼がするなど、誰が予想出来ただろうか。大国の第三王子が、会ったばかりの小国の王子姫に膝を折るなど……予想できるはずもない。しかも周りにはこの二国以外の国の人間も沢山いるのである。衝撃は一瞬で広がり、会場中が静まり返った。

 静まり返ると共にブラッドリーは気が付いた。伊空が膝を折っていた相手にブラッドリーは含まれていなかった。ブラッドリーの横にいた、アリステラに対して膝を折っていたのだ。


「お、王子!?」

「どうしたのですか!?」


 王子の傍にいたアールストンの人々ですら、あまりの行動に驚いていた。だがそれを無視し、彼はアリステラの驚いた勢いで宙に浮いていた片手を、そっと救い上げたのだ。


「ずっとずっと探していた……やっと出会う事が出来た。……我が番!」

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