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運命の番は呪いか祝福か?  作者: 重原水鳥
妹・雪菜と運命の番
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ブラッドリー・ジョージ・アンブローズ・バートランドの事情 08

 ブラッドリーとアリステラ。真反対の兄妹の願いの内、神が聞き届けたのは妹アリステラの願いであった。


 ペンバートン侯爵が倒れてから丸二週間がたった朝、侯爵の回復が医務室より正式に報告された。


 既に宮殿は「ここから回復する事はないだろう」という空気感になっており、侯爵が亡くなった想定での人事異動の手配なども進められていた所での一報である。待ち望んでいた回復の知らせに喜ぶ者もいれば、まさか回復するとは思っていなかったと驚愕し焦る者など、宮殿の様相は混沌とした。

 アリステラは涙を耐えながら侯爵に会いに行った。先に通達され顔を出しに来ていたドナルド・ペンバートンを始めとしたペンバートン家の人々はアリステラに頭を下げてそそくさと退出していった。アリステラの後ろを歩いていたブラッドリーは、ベッドの上で上半身を起こしている侯爵の姿を目を見開いて見つめていた。


「姫殿下。わざわざ来てくださったのですか」

「当然です。わたくしの婚約者が回復したという知らせでしたもの」

「それはそれは。愚息からお聞きしました。姫殿下には私のせいで随分な心労を負わせてしまったと……」

「いいえ。いいえ…………本当に、ご無事で何よりですわ」


 侯爵は微笑む。

 頬は二週間も飲み食いをしていなかったためかこけているが、間違いなく侯爵本人だ。誰か似た人間を代役にしているとは思えなかった。

 ブラッドリーは絶望した。

 あれほど強く人の死を願い、半ば死を確信していた……けれど全てがブラッドリーも願い希望とは逆の結果になっている……。


 侯爵の目がアリステラの後ろ、呆然としていたブラッドリーに向けられた。

 目の奥に隠し切れぬ疲労があった。


「ブラッドリー殿下も、アリステラ殿下と共に私の無事を祈ってくださったとか。ありがとうございます」


 ブラッドリーは彼にそのあと、なんと答えたのか記憶にはない。



 ペンバートン侯爵はそこから、年齢を感じさせぬほどにみるみる内に回復していった。既に半ば通っていた爵位の譲渡もいったん凍結され、侯爵位は彼のまま。ドナルドが引き継ぐのはまだ先になった。ドナルドは表向き何一つ文句を上げていない。父が回復して良かったと、ただただ父親の回復を喜んでいた。

 侯爵が倒れている間に進められた様々な法案や書類は全て目を通され、問題がないものはそのまま実行され、問題があるとされたものは却下された。

 むしろ倒れる前より元気があるのではと言われるほど、ペンバートン侯爵は精力的に仕事を行い、彼の健康を不安視してアリステラとの婚約を無効にする事等到底出来そうにもない。そのような状態では、王妃たちがアリステラの新しい婚約話を提案しても、国王は頷かないだろう。結局水面下で準備されていたその婚約話は流れ、アリステラとペンバートン侯爵の結婚の日取りまで、指折り数えるような状況が再開した。


「お兄様。聞いてくださいませ、侯爵閣下がわたくしと結婚した後は、年上の義息子らと生活するのは気まずいだろうという事で、王都の外れに屋敷をご用意して下さいましたの。季節に合わせた四つの庭があるそうでして、いつでも花を見る事が出来るそうなんです」


 王都の外れ。

 第一王子の手の者を借りて調べたそこは、高い壁に囲まれた低い屋敷で、外から中の様子を伺うのは難しい作りになっているという。建物の四方には花の植えられた庭が整えられているそうだが、その場所はシンプルな作りで……庭を通る者がいればすぐにわかる。

 唯一の出入り口である正面の門は重く、数人の力のある男たちが力を合わせて時間をかけなければ開けられないような作りになっている。


 ブラッドリーは報告を聞きながら、拳を強く握りしめた。身の回りの者によって綺麗に切りそろえられている爪が、手のひらの皮膚を破って食い込み、そっと指を赤いものが伝って床へと落ちた。報告した者はそれに気付きながらも何も声をかける事は出来なかった。

 報告者を部屋から退出させた後、ブラッドリーは一人部屋の中でつぶやいた。


「まだ……まだだ」


 もう結婚式までの日取りは半年を切る。

 ブラッドリーを手伝ってくれている第一王子たちですら、半ばアリステラの結婚は止められないと思っているのが見て取れた。確かに今この状況からアリステラを救い出すのは絶望的だ。それでもブラッドリーは諦められない。……妹を、諦めたくなかった。


「何とかする、必ず……」


 これという手段がある訳ではない。それでもブラッドリーはそう自分に言い聞かせた。たとえどれほど手遅れになろうとも、どうにか出来ると己に言い聞かせなくては立っていられなかった。





 ……それはブラッドリーたちがアールストンを訪れる事になる、三か月前の出来事であった。

次から主人公サイドに戻る予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうなってしまうのか 二人して主人公の前に現れてるんだから、逃げたのかな? 楽しみだなー
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