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運命の番は呪いか祝福か?  作者: 重原水鳥
妹・雪菜と運命の番
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ブラッドリー・ジョージ・アンブローズ・バートランドの事情 05

 アリステラと他国の貴族の婚約を用意していた王妃は、国王の勝手な思惑に酷く憤慨した。その怒りは中々のもので、国王は婚約を撤回する事こそしなかったが、王子たちの思惑通りアリステラの結婚は彼女がちょうどよい年齢になるまで待つとされた。


 ブラッドリーは、この婚約の裏にある父の恐ろしい思惑を、アリステラには伝えなかった。

 最初は伝えようかとも思っていたが、アリステラは数日部屋に籠り、出てきた時にはこの婚約に対して真面目に正面から受け止めてしまっていたからだ。


「きっとお父様は、ペンバートン侯爵とより深い信頼を築きたかったのだと思います。ペンバートン侯爵は長年国に、お父様に尽くしてきた忠臣でしたから、その忠心に報いたいのでしょう。その証となれるほど、お父様が私を買ってくださっているというのならば、私はペンバートン侯爵の婚約者として立派に役目をはたして見せます! ……だから安心してください、お兄様」


 国王とペンバートン侯爵の裏にある思惑を、まだ若いアリステラが受け入れられるとは思えない。もしアリステラがそれを知り、激しく拒絶すれば、国王は無理矢理アリステラを手籠めにするかもしれない。想像するだけでも吐き気の催される事であった。

 結局ブラッドリーはアリステラに事の真意を伝えない事にした。王妃たちもその判断を否定しなかった。


 それからブラッドリーは以前にもまして、力をつけるべく活動した。

 味方が必要だ。何かあった時にアリステラを助けるために、出来るだけ多くの大衆が国王ではなくこちら側を支援してくれるように立ち回らなくてはならない。

 勿論簡単な事ではないし、ブラッドリーの動きが活発になると、無駄に勘ぐる者もいる。例えばブラッドリーが第一王子や第二王子を差し置いて王位を狙っている、とか。無論、そんな下種の勘繰りで甘い汁を求めて近づいてきた者たちは、適度に使って適度な所で切り捨てた。どれだけ非情だなんだと言われてもブラッドリーは構わなかった。アリステラを守る。それだけが、ブラッドリーの存在意義となっていた。


 味方作り自体は悪くない進捗だった。そもそもアリステラは唯一の王女として周りからの評判が良いし、ブラッドリーは王妃派にとっての対抗馬ではあるものの、現状彼らに歯向かった事はない。むしろ積極的に第一王子や第二王子の手助けをする事から、異母兄弟と雖も親しい間柄だと浸透し、一部の余計な企みを働く者を除けば良い立ち位置として見られていた。


 その一方で、婚約を解消する手立ては中々見つからなかった。ペンバートン侯爵は仕事第一とはいえ、婚約者であるアリステラを蔑ろにする事はなかったからだ。

 不服を唱えられそうな面と言えば、仕事が第一であるので夜会などに婚約者としてアリステラを連れて行く事がないという部分だったが、国王の忠臣として知られている彼の行動を大袈裟に咎めるものはいない。二人の年齢差を考えればまあ仕方ないのではという雰囲気と、ペンバートン侯爵に対して表立って文句を言える貴族が少なかったからだ。長年国王の忠臣として働いているという事は、彼の機嫌を損ねたりすれば国王からの印象が悪くなる可能性が高い。そんな危険を犯そうとする貴族はいなかった。

 アリステラの参加する夜会にはブラッドリーがパートナーとして参加できる状況だった事も、ペンバートン侯爵がエスコートしなくても良いではないかという空気を作っていた。ブラッドリーは実の兄だ。そしてブラッドリーが優先してエスコートすべき婚約者は国外にいるため、普段はパートナーの枠が空いている。だからアリステラをブラッドリーがエスコートするのはなんら可笑しくなかった。

 ペンバートン侯爵がアリステラをエスコートするような様を見なくて済んだのは良かったが、解決策が見つからず、歯がゆいまま月日が過ぎる。


 婚約当時十二歳であったアリステラは、十五歳の誕生日を迎えた。


「おめでとうアリステラ。本当に立派になったね」

「もうお兄様。いつも同じような事を言って……ふふ、でも嬉しいです。ありがとうございます」


 十五となったアリステラの誕生を祝う席は盛大に開かれた。多くの者がローザス唯一の王女を祝うべく駆けつけた。


 ……本当に、十五を迎えたアリステラは、記憶の中の母と瓜二つだ。強いて言うのなら母より背が低い気がするが、ブラッドリーは実際の母の背丈は分からない。幼い頃はいつも下から見上げていて、母はとても大きく見えた……。

 ブラッドリーたちと同世代ぐらいの子供では昔に亡くなった側妃の事を覚えている者は殆どいないが、一定以上の年齢だった者たちは国王に伴って夜会に出ていた母を覚えている者もいる。そういう者は、しみじみと言うのだ。


「本当に、亡くなられたお母上によく似ておられる」


 本来であれば、誉め言葉にもなったかもしれない。実際、母を慕うアリステラはその言葉に喜んでいた。

 しかしブラッドリーからすると複雑だ。母の事は今でも好きだ。しかし母と妹は別の人間である。母と似ている――それが理由で五十も年上の男と結婚しなくてはならなくなっているのだから。


 多くの者が順繰りにアリステラに祝いの言葉を述べる。その列がある程度落ち着いた時、上座に腰かけていた国王は立ち上がって、滔々と告げた。


「一年後、アリステラが十六を迎えると共に、ペンバートン侯爵とアリステラの婚姻の儀を執り行う」


 遂にタイムリミットが決まってしまった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読ませていただきました、続きが楽しみです。 [一言] 側妃の子たちも不憫だけど王妃さまおいたわしや・・・
[一言] 番に嫌悪感だったからそっちの問題が起きるんだと思ってたのにヤベェ父親問題だった……w
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