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運命の番は呪いか祝福か?  作者: 重原水鳥
妹・雪菜と運命の番
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ブラッドリー・ジョージ・アンブローズ・バートランドの事情 04

「…………愛している?」


 やっとその言葉を口の中で転がすも、とても理解できるものではなかった。


 国王が先ほどアリステラに向けた宣言は、彼女のこれまでの努力を踏みにじり、否定するような残酷なものだった。

 それが何故、愛に繋がるのか、ブラッドリーには理解できなかった。


「母上に兄上。あまり遠回しな言い回しは止めましょう。ただでさえ混乱しているブラッドリーが可哀想ではありませんか」


 第二王子はそういってブラッドリーに告げた。


「国王の目的は、アリステラを自分の手元に置くことだ。ペンバートン侯爵は国王の一番の臣下……たとえ妻を国王が()()扱ったとしても、彼は国王のためになるのならば何も言わない」


 第二王子の言葉はまるで遅効性の毒のようにブラッドリーに広がり、そしてブラッドリーは理解した。国王が……実の父が、(アリステラ)をどうしたいのかを。


 ほぼ反射的に、ブラッドリーは何かを吐き出そうとした。胸の内に沸いたドロリとした黒い何かを吐き出したかった。けれど実際に口から漏れ出たのは、か細い呼吸の音だけであった。

 そんなブラッドリーの様子を横目に、王妃たちは話を続ける。


「察する貴族も多いだろう。何せアリステラは年々、亡くなった側妃殿に似てきている」

「同じ男と言えど、流石に実の娘というのは……理解できませんがね。ただ手元で見ておきたいだけならばよいが、例えそうでも周りはそうは思いませんよ」

「ただ見ておくだけなものですか」

「それは妻としての勘で?」

「勘などという不確かなものではない。以前はそうではなかったけれど、ここ数年、アリステラを見るあの男の目を見ればそれぐらいわかります。分からないのと言うのならばお前たちは人を見る目が全く養えていない」

「手厳しい事だ」

「結婚後は社交界にも出てこれないかもしれぬ」

「酷い想像ではありますが、有り得そうで笑えませんよ」

「……どうしたら、アリステラを救えますか」


 やっと言葉を発すことが出来たブラッドリーは椅子から降りて、王妃たちの前で膝をついた。

 王族が他者に膝をつけるなど、大事である。部屋の人払いがされており、室内に王妃たちしかいないからできた事ではあったが、それでも通常ではありえない行為であり、王妃たちですら僅かに驚いた。


「王妃殿下、第一王子殿下、第二王子殿下……お願いします。アリステラは……アリステラは王族としての責務を分かっています。あの子は必ずこの国の利になる事が出来ます。兄上たちの治世を支える助力が出来る娘です。それが……それが父親の欲のために飼い殺しにされるなんて私には耐えられない……! お願いします、あの子を、あの子を救わせてください。どうかお願いします。お願いします……」


 頭を垂れて必死に王妃たちに縋るブラッドリーを、王妃はどこか冷たい目で見ていた。王族としてのプライドもなく膝をついたのが癪に障ったのかもしれない。

 しかし母とは違い、兄王子二人は膝をついた弟の腕をつかんで立ち上がらせた。


「王子という身分の者が、そう易々と膝をつくものではない」

あの子(アリステラ)を助けることが出来るのならば、私は何だってします……」

「そうだろうとも。よくわかったよ。だがブラッドリー、残念だが、今、アリステラを助ける手立てはない」


 ハッキリと無理だと告げられて、ブラッドリーは下唇をかみしめた。今でもブラッドリーは、年齢だけ重ねた、やはり後ろ盾のない弱い存在でしかなかった。側妃(はは)を失ったあの頃から、何一つ成長していない……。握りしめた手から血がうすらと滲んだ。


「だが時間は作れる」


 え、と顔を上げる弟を座らせて、兄たちは静かに言った。


「アリステラはまだ十二。まあ確かにしようと思えば出来ない事もない年ではあるが、王妃殿下から強い嫌悪感が出れば国王はすぐには動かないだろうし、流石にその年の差では周りから多少なりとも非難の声も上がる。そうなれば無理に結婚をさせる事はせず、婚約期間を取って時間を濁すだろう。その間に、アリステラとペンバートン侯爵の婚約をひっくり返す何かが起きないとも限らない」


 つまりは、二人の婚約がどう考えても無理な状況に()()という事だ。


「国際情勢は刻一刻と変わる――我らは水を求める花だ、より良い水を得られる場面があれば、それを求めるのは当然だ。……それで宜しいですね、母上」


 第一王子の言葉を聞いた王妃は、小さく息をつく。それから何も言わずに立ち上がり、部屋の外へと向かった。


「どちらへ?」

「陛下の元へ。……何をお考えなのか、王妃として問い詰めなくてはなりませんから」


 つまりは、王子たちの提案を飲んだという事だ。本心から納得したかは分からないが、それでもアリステラを救いたいというブラッドリーの私情に塗れた願いを、ほんの僅かながらも受け入れてくれたという事だろう。


 この日、ブラッドリーは改めて誓った。必ずアリステラとペンバートン侯爵の間に結ばれた婚約を破棄する事。そして生涯、兄王子たちの元、国のために尽くすという事を。

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