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運命の番は呪いか祝福か?  作者: 重原水鳥
妹・雪菜と運命の番
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01

 広義の意味において獣人と呼ばれる種族は、古くから最良の結婚相手――”番”を感じとる力を持っていた。

 彼らにとって番と婚姻を結ぶ事は至上の喜びであり、時には番を求めて数十年と世界中を放浪する者すらいるほどである。太古の時代から世界中で番を探す獣人の話が語り継がれる程なので、かなりの執着と言えよう。そのおかげで世界中で、獣人には「運命の番」という存在がいる事が知られている。

 そんな獣人だが、むかーし昔は他種族に虐げられて奴隷とされた時期もあった。というよりも、現在でも世界中を見渡せば奴隷とされている獣人はいるだろう。その問題については横に置くとして、歴史上奴隷獣人を利用した国家として有名なものの一つにある帝国がある。

 当時、世界最大規模を誇った帝国は、獣人たちを魔法契約で奴隷とする事で領土を拡大していた。獣人は他種族に比べて体が頑強で力があり、労働力という意味ではこれ以上ない存在だったからだ。

 しかしある時一人の獣人が強い魔法の素養で契約を打ち破り、帝国に反旗を翻した。あっという間に帝国中の獣人たちが立ち上がり、最終的に帝国は滅亡した。その跡地に設立されたのが、歴史上初となる獣人の国家である。


 国の名をアールストン。

 私が生まれ育った、母国だ。


 私の名前は雪花(せっか)凍狼(とうろう)侯爵家の長女だ。族名の通り、オオカミの獣人である。

 私の両親はオオカミの獣人の父と、父が他国で見初めた番である人間の母だ。二人の間には三人の子供がおり、全員オオカミの獣人。兄弟構成は兄と私と妹。

 元々、番と婚姻出来ずとも一途さで有名なオオカミの獣人なので、父は昔からそれはそれはもう母を溺愛している。その事は国内でも割と有名で、遠くから来た人も知っていたりするぐらいだ。仲睦まじい両親を見た人々は、誰も彼もがあんな風になりたいものだと呟く。そして番がいない人は、自分も早く番を見つけたいと言うのだ。


 ……そんな両親の元で育てられたにも関わらず、幼い頃から私には何故か結婚願望というものが皆無だった。


「父様のように愛する女性を見つけて、一生ずっと守り通したいです!」

「衣食住に困らない生活」

「お母様のように番に愛されて幸せな家庭を築きたいわ!」


 ある年の始まり、一族が集まる場で私たち三兄妹が将来の夢を語った時の言葉がこちらである。説明するまでもないが、上から兄、私、妹だ。

 周りの大人は兄の夢にそうだね素晴らしいと笑顔で頷き、私の言葉にえっという顔で固まってから、「い、衣食住もたしかに大事よね〜!」と曖昧に濁した。子供とて、場に合わないと濁されたのはなんとなく分かる。その後の妹の夢に話題もそらされたし。


 なんでそうなのか……私もよく分からないのだけれど、獣人でありながら幼い頃から私は番に対する関心が薄い所があった。周りの人たちが幼い頃から番に憧れ、番を求めて旅に出たり、実際に番を見つけてきたりしているのを見て、それ自体を素晴らしいと思う気持ちはある。けれど対岸の幸せを祝福するという感じで、自分事ではなかった。自分自身の事となれば、どうしたら今のように衣食住満ち足りた生活を続けられるか? という事ばかり考えていた。

 頼れる番を見つけて結婚すれば、衣食住にも困らないではないかと思うかもしれないが、必ずしもそうではない。だってそうしたら、何かあれば夫次第では衣食住を失うこともあるではないか。実際、配偶者の不祥事が原因で職を失い家を失い姿を消す者を私は何度か見た。

 だからだろう、他人に自分の生活を任せるなんてとんでもない! と思った私は、勉強する事にした。勉強し、自分で自分の衣食住を整える。それが私の夢となった。

 幸いにも家族は、番のつの字にも興味を持たない私を変わり者とは思っても、家族として愛してくれた。私も番は良いものだアピールをしてくる点だけはウザいと思う事もあるけれど、家族の事は愛している。

 もう一つ幸いなことに、人間等と比べれば、獣人の国であるアールストンは女性の社会進出が進んでいる。だからこそ私が学びたいと言っても、誰もそれを否定したりはしなかった。これ幸いと勉強に精を出せば出すほど将来出会うのかすら分からない番への興味が薄れていき、周囲からは少し頭を抱えられてしまったりしたのだが……。


 これは、そんな獣人としては何か欠けている私が、恋をしたりするまでのあれやこれを記した物語である。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 父親に番を求める性質が無ければ母親と結婚しなかったのか聞いてみて欲しいな。 [一言] 番を求めない事を認めているなら、父親なら「愛した人が番だっただけで、番だから愛したわけじゃない!…
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