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旅人の足音

作者: なと

古い町

窓硝子を覗き込むと

怪人百面相が

教育テレビの中

まっくら森を彷徨いながら

タケヤブヤケタ

謎を振りまいている

風の探偵が

旅人の恰好をして

或いは金田一の姿

宿場町を訪れた

翳のある女が

可愛い小鬼を睡眠薬密売人に

人身売買

古い看板には

古い錆びの中

不気味に微笑む

太田胃散の男


夕焼けの鍵を堕として

僕は凛とした眼差しの宿場町の娘を待っている

此処は何処までも風の棲み処となって

暗い過去を背負っている宿場町の片隅

君も仲間なんだろうと言われて

半分下半身が透き通っていたいたことを想い出した

母さん僕は旅人に

風の旅人になって

暗い影をずっと写真機で記憶に収める







夏の呼び声は遠くの山を越えて

山彦はまだかい夏と返してくる

メトロノームの中に置き忘れてきた心臓は

まだ脈を打って、過去の列車へ

飛び乗ろうとしている

駅員さんは向日葵を持っている

旅する少女を誘拐して共に自決できないかと

いつまでもいつまでもあの向日葵畑の中で

少年の姿のまま持っている






古びた通りに

檸檬の爆弾を置いてきた

空は晴れて何処までも澄んでいる

通りがかるのは老人ばかりで

若い人間は息絶えている

僕は宿屋を目指し

吸いかけの煙草を

側溝に落としてきた

硫黄臭い匂いがする

近くの工場の毒だろう

夢ばかり追ってきました

通りがかった妖しい女がそう云った

夏は今何処に






茹だるような夏のすぐ傍で

由比ヶ浜は潮騒を遠くまで

僕の中は伽藍堂で

とこしえの夏が

子宮の中の記憶を思い起こしてくれる

胎児だった頃の記憶はカワハギを食べた時みたいに

潮騒の香りがするものだろうか

只ひたすら昔の町家を眺めて

ため息を吐く僕の影は

遠い久遠の記憶を

いつまでも繰り返す







深夜の信号機は

地獄の中に点滅してる

夜の化物とは私の事

点々と町に残る灯りを喰いながら

宿場町の家々へ向かう座敷牢の鬼

宿場町のぼんやりとした灯りは

人の肌の匂いがする

風呂場のお湯が側溝に流れて

湯気が寂しい雨の中

ぼんやりと光って

夜とは仲良くやりたいんだ

信号機はそれでも青のまま







宿場町を語り継いできた婆様は云う

此処に来ちゃいけねえ

魂を吸われるからな

どうりで

僕は宿場町に囚われている

匣の中鳥籠の中箱庭の中にいるように

嗚呼僕は間違っているのか

宿場町は朝の光りの中で

只黙っている

屋根の上に鬼瓦が

僕は地獄の住人だと

睨みつけている

いや、此処は母親の子宮の中








鄙びた町並みは

頭から人を喰らうのさ

そして抜け殻になった躰には

懐古と言う名の過去の不気味な影が

居座る

こいつは厄介な病気で

人は只、旅人になって

あちこちを放浪する羽目になるのだ

過去に飲まれた人間は

それは寂しい顔をしている

格子窓から覗く幾つもの目は

君を彼岸の彼方へ連れてゆくよ






こがねは静かに開かずの間に隠れてる

座敷牢からは春の川

包帯はずいぶんと古びてしまった

枝のような腕はかつて人間だった証

布団の中に潜り込んでくる祭り太鼓の音と笛の音

春の桜を見上げる小鬼は

美しい人に満開の桜を捧げようと

黒主が背中に開けた孤独の穴から

小さな旅人が旅に出る春先のこと







ひとけのない船町に

逆さになった三輪車の歯車が

からからと鳴る風の訪れ

潮風が人魚の記憶を思い起こす

足のふくらはぎの鱗

廊下に散らばったガラス細工

座敷童が開かずの扉の向こうから

持ってきた

夜になるとタニシが黒々と貼りつく天井

人魚を飼っています

午前三時になると

夜桜の下で酒盛りを






夏影に思ふ過去の人

夕暮れまでには

部屋に返ってくる呪いの人形

夢待つとしきかば

墓場で待つと春の声

宿場町の魔力で

猫の目も赤く光る町家の影

鬼も娘を見つめる風呂場の覗き穴

村の片隅に残る塞ノ神

夢の中で合羽姿の少年が

じっと立つ橋のたもと

お母さんを待っている春雨の中







人の生き死にを見つめてきた宿場町

町の隅の蔵には何が眠っているのだろう

廊下に一杯魚の鱗が堕ちていた

家の裏の沼には人魚が棲むという

春になると虫と一緒に闇の者が目を覚ます

お嬢ちゃんそっちは危ない

お地蔵様の入ったお守りを胸に

彼女は宿場町に囚われた哀れな旅人

コートの中には櫻と死体







夕暮れ時はいつも寂しい

心にぽっかり穴があいて其処に手を突っ込んでみると

煙草が何本か這入ってゐた

また小鬼が悪さを

頭の上にある眼玉は通りがかった女の子を

じろじろと眺めている

僕は宿場町の風に当てられて異形の姿

燐寸を擦って一息つくと

禅僧がやってきて

線香の香りでも嗅げと説教する






夏の座敷には過去が眠っている

夕べも町の橋の所にぼうと光るお地蔵様が

夜は知る救急車に

春祭りの太鼓の音が重なる

もう寂しくないね

山神神社の神様は笛の鳴る時期は静か

お座敷の日溜まりは物言わず昔を思い出して

婆の姿がこっそり影に

明日からは雨です

遠い常世からあめふらしが魂を喰いに来る






宿場町は小宇宙を抱え込む

凡ての謎は宿場町に在りマス

さる大学教授が

桜の花びらの舞い散る書斎で

人を殺したよう

妖しい眼差しで今こそ革命を

赤い紙招集令が

何処の家の壁にも貼ってある

お堂の墓地から黒い影がぞろぞろと

線香の匂いのする家へ消えて

逆さま地蔵が

仄かに輝く白菊を

お供えして







古い町

窓硝子を覗き込むと

怪人百面相が

教育テレビの中

まっくら森を彷徨いながら

タケヤブヤケタ

謎を振りまいている

風の探偵が

旅人の恰好をして

或いは金田一の姿

宿場町を訪れた

翳のある女が

可愛い小鬼を睡眠薬密売人に

人身売買

古い看板には

古い錆びの中

不気味に微笑む

太田胃散の男







夏の香りが仏壇の上の檸檬

線香の匂いの染みついた布団が瓦屋根の上で

洗濯物が強風にはためいている

此処は宿場町の裏道で

昼間は誰も人がいない通りは

凡ての人間が息絶えたみたいだ

カルピスを飲んで充電して

暗い部屋で電子の海を泳ぐ娘

懐かしい物になぜかと鼓動が

闇と古きは誘惑する







無人駅は煙草の香り

旅人はお座敷遊びで女の足首を手に入れて

そっとコートの中に隠してある

夏のむせかえる空気も

古寺の仏壇のお地蔵様も

入り江のあわびも

あの旅人のコートに隠されている

黒電話で慌てて僕の右腕を

返してくれと云ったが

旅人はもう荒れ野

座敷の上の猫もいつの間にか消えていた







夢日記で見た夢が本当になる灯篭祭りの夜

悪い子の家には鬼の面が飾られているから羨ましい

妖怪談義は押し入れの中で

カルピスを飲みながら

ちゃぶ台の裏の過去へ飛べるスイッチを探す

棚の中の饅頭が頭蓋骨になっていた夕暮れ時

いいですか?と聞いて

便所の中に居たのは家族のふりをした毛玉妖怪







夜の想い出は

夢の化物とおねしょの予感

昔のモノは夜空の花火と同じで

宝箱の中で人知れず変顔をして遊んでる

夕闇は謎だらけ

ひとけのない空き家には

夜の怪人が月を抱いて眠っている

夢ばかり追っています

潮騒は私の影を盗もうとしています

はらりはらりと櫻の花びらが

涙が舞い散るように







古い通り道は宝箱の底

硝子細工を座敷のひなたに置く遊び

夕焼けの色はなんであんなに綺麗

夢の中に僕ら生きている

秘密基地に持ち込んだ紙風船

夕方の電灯の瞬き

机の上の壊れかけた目覚まし時計

塀の上でうたた寝をする猫

夜というとばりが降りてきて

僕らは夜の怪人になる

笛の音で子供達を攫いに






夏の便りには貝殻の切手を貼って

雨が降り又晴れて夏の足影が少しだけ

泡沫のシャボンがたらいの中を彷徨い

宵祭りの太鼓の音が何処からともなく

咲いた櫻と芽吹いたつくしが

人を彼岸の世に連れて行き

生きてますか

死んでますか

そんな問いかけが馬鹿らしくなるくらい

夏の陽炎は脳を

夢幻の世界へ






夏の想い出は夢を見てる

昭和のあの道

年輪のような年寄の皺

入道雲の堕とす黒い影

凌霄花を浮かべたバケツの中

オルゴールの中のゼンマイには

幽かな幽霊が取り憑いていて

電柱は警官になっては

夏の扉を警備している

熱風が麦藁帽子を飛ばして

無垢な子供達が駆けだすと

夏の歯車は廻りだす






夕暮れの宿場町を

影踏みをして歩いた

夕陽は線香花火の終わりみたいに

火の玉を建物の影へ堕としてゆく

影の中には猩猩が隠れていて

私を山へ連れて行こうとする

なぜか踵を齧る小鬼は

よちよちと赤子の様で

旅人のポケットに隠してやった

風が吹いている

やがて雨が降って

花を散らしてしまうだろう










無人駅は煙草の香り

旅人はお座敷遊びで女の足首を手に入れて

そっとコートの中に隠してある

夏のむせかえる空気も

古寺の仏壇のお地蔵様も

入り江のあわびも

あの旅人のコートに隠されている

黒電話で慌てて僕の右腕を

返してくれと云ったが

旅人はもう荒れ野

座敷の上の猫もいつの間にか消えていた


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