敗走の後
…逃走
そう言っても過言はない。
たまたま近くを通ったパトカーによって窮地を逃れた僕は、補導と言う形で警察署へ連れていかれた。
すその部分がズタボロになった僕の服装、尋常じゃない僕の様子。
そんな状況を見た警官から幾つもの質問を受ける。
組合の事を正直に話すわけにもいかず、肝心な部分を隠しつつ、差しさわりの無いことを話す。
おかげで、警官からは説教を受けるが、しょうが無い。
それよりも大切なのものを手に入れたからだ…
反撃の手掛かり…
自分の命を餌にして得た、情報。
「親御さんに連絡しておいたから、迎えに来るまでそこで待ってなさい」
奥から初老の人が出てきた。
私服である事や、周りの警官との会話からそれなりの地位なのだろう。
「ほれ、こいつでも飲んでいけや。暖まるぞ」
と、その男は僕にコップを差し出す。
―はぁ、どうも―
コップを受け取り、口に入れる。
コーヒーだ。
…苦ぇ、ブラックだ、これ…
おとなしくしてるんだぞ。と一声掛けるとその男は、僕に説教をしていた警官に「彼の事はもう良いから」と一声掛け再び奥へ…
一体、何がしたかったのだろうか…
大体、僕は暴れたりなんかしてないのに。
僕に対して説教をしていた警官も自分の業務に戻るらしく、僕は一人迎えを待つことになった。
母さん、なんて言うかな。
補導されたからってあわてたりしないよな。
ーふぅー
頭を振って僕はため息をつく、家に帰ってから説明するのが面倒だ。
しかし、そのためにも少し情報と状況を整理しておく事にする。
・報告書にあった地点を探索していた時に対象と遭遇
・時間は夕暮れ時
対象について
・影に潜ることが出来る
・影の中を移動することが出来る
・力はそれほど強くない(少なくとも僕よりは強くは無い、抵抗できたのがその証拠だ)
・人を喰らう
今回の接触で確定なのはこれぐらいだろうか…
他にも僕が立てた仮説の一部も実証できた。
仮説が正しければ対象と渡り合うことが出来るだろう。
ただ、問題があるとしたら、いくつかの条件が必要ということだろうか…
その条件については「組合」の協力を仰げばクリア出来るだろう。
某宇宙戦艦の技術班、班長ではないが
「テストはまだだが、いけるぞ!古○」
といった感じだ。
我に策あり。
自然と笑みがこぼれる。
次はこちらから仕掛ける番だ。
その前に仕掛けを済まさないとな。
コーヒーを一口すする。
やはり苦い、どうやら僕にブラックコーヒーはまだ早いようだ…