遭遇、そして…
「今度の若造」
…確かにそう聞こえた。
全身が粟立つ。
僕の心が全力で「危険!」と叫ぶ。
だが、辺りを見回しても声を発しそうな人物は居ない。
陽が落ち、肌寒くなっているはずなのに汗が止まらない。
「ほうほう、ワシの声が聞こえとる様だの…」
また、声がした。
…逃げるか?
相手を認識出来ていないいのに?
何処へ?
声は何処から?
「声の主」は一体何者?
僕の頭の中は、いくつもの疑問と、見えない「声の主」への恐怖で一瞬にして一杯になる。
一瞬の静寂
空には月もなく。
周りの民家の窓からは一筋の光りも漏れておらず、少し離れた所にある街路灯がその存在価値を健気にも発揮している。
僕の足元には一筋の影
僕の影だ。
…!?
突然、何者かに足を捕まれた。
人はその想像を越える事態に遭遇すると声を失うと言う。
無論、僕もその例に含まれる訳で…
―…ッ―
強張る身体、動けなくなる。
「そう恐がりなさるな、ワシのデナーさんよ」
…「声の主」が判った。
影から腕を出し、僕の足を掴んでいるコイツだ。
「デナー」と言っていたな、ディナーの事か…
いよいよ、もって僕を夕食にする気満々だな。
…腹壊すぞ。
幾つかの疑問が溶け、身体の強張りも説けた。
必死にもがく
足を前へ進めようとする。
前へは進むが粘性の高い水の中を進んでいる感覚…
―むん!―
今度は、赤ん坊の様にはってみるも、あまり変わらない…
気合いの声も虚しく、状況は好転せず。
だが、体が動ける様になったせいだろうか…
頭の中に多少、余裕が出来た。
お陰で僕の考えはまとまる。
ここは…
「逃げ」の一手だ。
相手と接触と出来たが、判らないことが多すぎる上、分が悪い。
現に脛の辺りまで「影」の中に沈んでいる。
「ほほっ、今夜のデナーは活きが良いこと、良いこと」
声は嬉しそうである。
当然だ、活きが良い「食材」がもうすぐ手にはいると思っているのだろうから。
相手の気持ちが判る…
いわば、空気が読めると言う事なのだろうが…
……勘弁して下さい。
僕の正直な感想である。
何とか逃げる方法がないかを考える。
が
思い浮かばない…
もうすぐ膝まで「影」に沈む。
状況が着々と悪い方へ向かう。
その時偶然、正面から一台の車が来る。
赤色灯を点けている、警ら中のであろうか…
パトカーだ。
相手は影の中…
僕は一つの仮説を立てた。
―……やってみる…―
膝上、腿の近くまで沈んでしまったが、僕は目指す。
車道へ…
まるで亀の歩みであるが、確実に…
「何を考えておる?ええかげん、諦めい」
…ぼざけ
構うものかと、パトカーの通るであろう地点へ向かう…
そして、倒れ込むように車道へ出る。
警官からしてみたら、たまったものでは無いだろう、なんせ、突然進路に人が飛び出してきたのである
当然、パトカーは止まる。
そして、ヘッドライトから照らされる光が僕に当たる。
「なんと……影が…散…る」
悔しそうな声…
僕には複数の影…
僕を元にして出来た影。
「影が散る」
たしかに、そう聞こえた。
僕は地面に這いつくばっている。
どうやら危機を逃れたであろう安堵感から、大きく一つ息を吐く…
顔を大粒の汗が幾つも流れるなか、仮説が正しかった事を確信する。
手掛かりは掴んだ。
「今度はこちらが釣り上げてやる!」
裸足となり、ズボンもズタズタになってしまった上、警官から説教をされながらも、僕はそう考えていた。
ご都合主義でしょうか?
鼻に付いたのでしたら、大変申し訳ない…
相変わらず録に更生もしてないので、誤字脱語、矛盾点などあるやもしれません。
ご指摘頂ければ、幸いです。
また、感想や意見なども頂けると嬉しいです。