任命
「組合」の会合は定例で毎月行われている。
ほかに臨時の会合なんかもあるんだけど、そんなことなんかめったに無い。
当然、今回の会合は定例であり、内容は毎月と同じ「組合費は毎月納めましょう」とか、「今月の活動目標」とかそんなつまらないことばかりである。
が、今月はちょっと違った。
会合の最後に神妙な顔つきをした事務局長から
「最近、流れの非組合員がこの街に入ってきているようです。組合員の皆さんはトラブルに巻き込まれないように気をつけてください。この会合に出席されてない方には、後日文書でお知らせします。」
と言う連絡事項が報告された。
会場からはどよめきがあがる。
なぜか、極一部からは歓喜とも思える表情をしているものもいるが、どういう気持ちなんだろう。
祭り好きなのか?
理解できん。
まぁ、今回はたいした事はなかったな。
来る前に感じていたいやな予感が外れホッとした所で、家路に着こうと広間を後にしようとすると…
「ちょっと、良いか」と足元から声をかけられた。
どうやら、嫌な予感は的中したようだ…。
もう、何も言えねぇよ。
僕の嘆きなどお構い無しに声の主は話を(勝手に)続ける。
「お前に頼みたいことがある。私の部屋までついてきてくれ」
「…わかりました。」
この声の主は 幸 雪江さん。
この街の組合の偉い人であり、この店のオーナーでもあるすごい人なのだが、年齢不詳。
見た目はどう見ても〇学生にしか見えない。
大柄な僕と並んでいると、僕が警察から職務質問を受けることになる。多分。
「でだ、お前に頼みたいことというのは」
雪江さんの部屋に入るなり、雪江さんは座布団に正座で座る。
しかし、年齢不詳とはいえなんとも渋い部屋だ。
6畳程の和室の中には小さなちゃぶ台と箪笥がいくつか。
その上座に雪江さんは座りお茶を入れながら本題について話している。
「聞いているのか?」
聞いてませんでした。
聞いていたんですが、頭には入っていませんでした。
「ごめんなさい」
「うむ、ならば端的に言うぞ。事務長が言っていた流れ者、アレの始末をお前に頼みたい」
なんと言う事だ。
よりにもよって得体の知れないものを「始末」を一学生の俺に頼むとは。
「始末ってその、ヤっちゃうんですか、僕が?」
「可能ならな。ただ、無理なようだったら遠慮なく相談してほしい。まず対象をしっかり確認してくれ」
なんともおっかない事をサラリと言う人だなぁ。
見た目はお子様、中身はおっかない人
その名は……
その答えを僕が出す前に目の前の人は言葉を続ける。
「期限は一週間、報酬は追って連絡する」
報酬が出るだ…と。
「報酬がでるんですか?」
思わず確認をしてしまった。
われながら恥ずかしい。
「依頼があったのでな当然だ。そういえば、お前は未成年だったな。親御さんには連絡はしておくが、お前からも話を通しておけよ」
「わかりました」
「よろしい。では、帰ってよし」
雪江さんはにこりと笑いそういった。
見た目は美少女なのにこの会話。
雪江さんって一体幾つなんだろう。
いつもの疑問は消えず、さらに難問を押し付けられた。
僕は足取り重く、家路についた。