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Listen 1ー7 ぬ○く○

 パサリ、と。


 まあるいモノのまわりに散らばったのは黒く短い集中線(髪の毛)


 すっ、と。


 音もなく吸い込まれていったのは銀色の切っ先。


 ごろり、と。


 転がるがままにこちらを見上げるのは・・・。


「ひぃ     」

 遅れてなのか、すぐさまなのか。

 もう時間の感覚がわからない。

 肺の中の空気を全て悲鳴にかえて吐き出そうとした私の口は、またしても強引に塞がれた。




 漏れ出たのは最初の何音か。


 じゃきん!


 挟まれたのはその何文字か。


 少ない手がかりを目指して再度つき出された鋭利な二つ先端は、強引に頭を下げられる前、私の口があった場所で合わさると、何も挟めなかったのを不思議そうしばらく止まり、静かに壁へと帰っていった。




 いる。


 すぐそばに、いる。


 間に壁があるだけだ。


 至近距離、それこそ手を伸ばせば届く距離に。


 いる。


 とっ、とっ、どっど。


 静まれ、心臓。


 ふぅ、ふぅ、ずるっ。


 流れるな、鼻水。


 聴こえたら、どうする?


 これから、どうする?


 ただただ、無音で流れ出す涙越しに、壁を凝視する時間だけが流れる。


┌┐~♪︎┌┐~♪︎┌┐~♪︎


 あー、そろそろ息苦しいから、手、はなしてほしいなぁ。

 あー、そろそろ鼻水つきそう、手、はなしていいかなぁ。


 そんな思惑が重なったのか、私の唇は解放された。

 振り向いて、一つ頷いて、下を差す指先に同意する。


 ダッシュ。徒競走。それも全力。

 なるべく早くここから立ち去る覚悟は決まった。

 後はヤツがそれを許すか。

 そして、スタートの合図をどうするかが問題だ。


 そして、それは。

 たった一つの冴えたやり方? で解決された。


 摺り足で限界まで足音を立てないように。

 そっとゆっくり空気を揺らさないように。


 とん。


 やめてーっと無言で絶叫した私の叫びは、当然、彼女には届かなかった。


 切られた事に気づいてなかったのか、他の理由があるのか。

 頭を失ってなお、健気に立っていたの妹の体は、姉の人差し指の一刺でぐらりとバランスを崩した。


 どん。


 階段の壁にもたれかかるように崩れた音は、想像していたより、ずっとずっと小さかった。




 うわ! ひど!


 私を助けるためならこの子も満足よ! とは声に出せないが、振り向かずに走り出した姉は行動で示してしまっている。


 それでいいのか人として! とは声に出せないが、私も振り向かずに走り出すしかない。

 え、なんでかって? 無理無理、振り向いたら見ちゃうからでしょうが! 


 私はこれからもお肉を食べる生活を送りたいのよ!


┌┐~♪︎┌┐~♪︎┌┐~♪︎


 階段の正面から駆け出した先には、多目的ルームとか、パソコンがある実習室が並ぶ。

 さっき、私の足が階段に向かってしまった理由は簡単。

 ここら辺の部屋は高価な機材がある以上、普段施錠されているから。

 入れない教室の扉はただの壁だ。

 よっぽどの理由(もう教室に逃げ場がないとかね!)隠れ場所の無い廊下を走るのはいやだった。


 そして、唯一の隠れ場所はトイレ。

 でも、そこに逃げ込めばどうなるのかなんてのは、もう体験済みである。


 走る、走る、走れ!


 って、今日走ってばかりだな・・・。


 ホラーの舞台が、洋館とか森とか走りづらいところばかりなのは、そうしないとランニングのカットばっかりになるからかも。


 って、開くの?!


 先を走っていた姉の方が多目的ルームのところでごそごそすると、扉が開いた。

 振り向いた彼女の手には見覚えのある鍵。


 どうやら、こうなる(どうなる?)のも想定済みだったようだ。

 

┌┐~♪︎┌┐~♪︎┌┐~♪︎


「・・・あれは無いと思いますよ」

 ひぃ、はぁ、ふぅー。

 ソーシャルディスタンス+一メートル強。

 

 御時世に従いまくって息を整え、開口一番、私が口にしたのは感謝の言葉じゃあなかった。


 人としてどうかと思うが、助け方が人としてどうかと思う。


 カチャリ。


 静かに閉められた鍵は、追っ手を誤魔化す為だろうけど、他の意図がありそうで、私は歩み寄る彼女と距離を保つ。


「いいわ、それでも」

 彼女が、足を止めた。

 なんとなく傷ついているというよりか、時間がたつと解決できるのを知っているという感じ。 


 ここで無理に私と打ち解けなくてもという余裕を感じさせる姉の方は、無理私に近づくのを止め、扉の磨りガラスから差し込む廊下からの光を避けるような位置に移動して床座りこんだ。


 こっち向きに。

 いや、いい加減、姉の方という呼び方をやめて、名前を聞くべきなのだろうが、彼女は無言。

 かといって、私も自己紹介しようと思わないから部屋の中には沈黙が満ちて、息苦しくもなる。


 正体、不明。


 助けに来てくれたようだが、それも・・・。


 一人じゃあ無くなったのは嬉しかったが、一人がいなくなった悲しみがじわじわと押し寄せてくる。


 と。


 私の足元に影が差す。


 それは、丸いまあるい影。


 ちょこん、と。


 下に四角い出っ張りがついている。


 シルエットでは分かりづらいが、私はこの形を知っている。


 びーっ。

 ビーっ。

 Bーっ。


 やにわに立ち上がった姉の方が、やけに手慣れた様子で窓に貼り付ける為、伸ばしたテープの音が。


 何かの警報のように空っぽの広い広い部屋に。


 響いている。

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