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Listen 1ー5 かみきり

 先手必勝!


(って言うのは先に仕掛ければ勝ちやすいじゃなく、途中で試合が中止になる可能性もあるから、後で逆転すればいいやって油断しないで、必勝するなら先手から頑張りなさいって意味だから、言葉とい椅子の使い方、良い子も悪い子も真似すんな!)


 悪役レスラーは畳んで使うが、学校の椅子にそんな機能はない。

 だから当たるのは足だけ。

 それでも相当痛いだろうけど。


 でも、相手を気づかってる場合じゃあない!


 内心、ごめんね、ごめんね~と謝りながら私は、掴んでいた背もたれを頭上へと振りかぶった。


 じゃき! からの~ 

 すかっ! からの~ 

 がらん! からの~

 すっ。

 

 振り下ろしと同時に響く、鋭さを感じされる音。

 それと同時に私の手から重さが消え、後ろで何かが落ちる音がした。


 振り返らずともわかる、落ちたのは椅子の座面。


 ・・・なぜなら、私の掴んでいる物が、背もたれだけになっているから。


 じっさいに見てみると、うっすいなぁと感じる二本の鉄パイプは、それでも雑に扱っても曲がらない強靭さを持ち合わせているはず。


 ・・・なのだが。


 どれだけ切れ味鋭いのだろう?

 ハサミで切られたのに、ぺちゃりとつぶれるどころか、歪んですらしていない。


 完璧な円を保った断面は、角さえ立っている。


 金属のパイプを切る道具。

 例えば金ノコなら電動、手動を問わず断面は少し丸くなるだろう。

 分かりやすく言えば、ちぎったチクワと包丁で切った竹輪。

 断面を見れば、どちらが切れ味がいいかなんて、文字通り一目瞭然。

 細すぎてわかりづらいが、キラリと光る切断面には鏡のように私の姿が映るかも知れない。


 ・

 ・

 ・


 やっべぇ。これ絶対食らっちゃダメなやつだ。


 ぶあっ! と吹き出した冷や汗が止まらない。

 アイツはきょとんと、何かした? って顔してるけど、そんな様子ができる、って事は。


 なにも感じていないのだ。


 例えるなら、寄ってきた虫を追い払うかのような何気ない仕草。

 私の渾身の攻撃は、アイツにとって蚊やハエ程度の邪魔物でしか無い。


 逃走、ダメ。攻撃、ダメ。

(二つだけなのに八方塞がりとはこれいかに!)


 どうしようかと内心考えまくっても答えが出ない私へと、助け船は意外なところから現れた。




「かぁーいく、してあげる」

 かぁーいく? ああ、可愛いく。


「わたし、わたし、女の子の髪さわるの好きなの切るのはもっと好きでもわたしだけ楽しんじゃダメでしょだから色々勉強してるの得意なの」

 

 ああ、なんだ、話し、通じるじゃん。


 ・・・なんかこう、徐々に微妙に喋りが加速するのが怖いけど、言っている内容はおかしくない。


 今の私の髪の長さは数センチ。

 あまりに短すぎて何もして無いけど、カットで可愛くなるなら、こちらからお願いしたいぐらいだ。


「でもでもおかしいの。失くなっちゃうのいつのまにか。切ってるだけなのに失くなっちゃうの全部ゼンブぜんぶおかしいでしょ切ってるだけなのになくなるのかみもかもみみもかみもかみもぉ」


 前言撤回。

 おかしい、おかしいよ?! 

 ついでに話しも通じてない!


 結局、切りすぎ(振り出しに戻)るのかよ・・・。

(あと耳混ざってなかった?)


 バッ! と後ろに飛び退いて、今回手にしたのは机。

 足を掴んで天板=いつも読み書きする平らな面を、相手に向ける。


 普通の不審者(いや、不審な部分があった時点で普通じゃあ無いけど)ならそこそこ頼りなりそうな即席の盾も、役者不足。


 正直、あの切れ味の前じゃあ、紙(いや髪?)同然。

 防御には使えそうもない。


「けどね!」

 今度は振りかぶらず。

 両手で押し出すように投げつける!

 目標はアイツの頭のちょっと上。


 じゃきん! やっぱり、じゃっという音と共に上下から伸びる煌めいた線が、きん! と中央で合わさった。


 切断! 両断! 真っ二つ!


 でも。


 ここからが賭けだ!

 私のアイデアが使えるなら・・・。



 ごん(命中)


「っっっう?!」

 どうやら異常に高い攻撃力に比べ、丈夫さは大したこと無いらしい。


 何でも切れる剣で防御は可能か?

 そんな小説を書いてる途中の思考のお遊びの答えはノー!(いや、場合によるけど!)

 なぜなら、自分に向かってくる攻撃は切っても止まらないから!

 

 でこを押さえてしゃがみ込んだのを確認する間にも走る走る走れ!


 教室を飛び出して廊下に。


 後ろに過ぎ去る扉は───


 閉まってる。

 閉まってる。

 閉まってる。

 閉まってる。

 開けて閉めて。


 ───開いてる扉の奥へと飛び込、んだりせず、そっと静かに入ってしゃがみ込んだ。


┌┐~♪︎┌┐~♪︎┌┐~♪︎


 これでいい。

 たぶんいい。

 きっといい。


 途中開けて閉めたのは、アイツが聞いていたら? と考えたから。

 開閉音が聞こえれば、扉が閉まっている教室に入ったと思うだろう。


 思うよね。


『それは、どうかなぁ』

 うるさい。ひとの気も知らずに呑気にからかうように語尾をあげるラジオがうるさい。


『マア アリキタリ ダナ』

 何がだ。


 それでも人の声が聞こえると一人じゃないと安心できる。


 ・・・別の音よりよっぽどだ。


 カラカラ、トン。


 カラカラ、トン。

 カラカラ、トン。


 カラカラ、トン。


 何の音? そう、教室の扉を明け閉めする、あの音ですよ。


 なぜか、私の思考が夏の怪談で有名なアノ人の声で再生される。


 それがですね、近づいて来るんですよ。

 静かにね。

 怖い存在だから、さぞかし乱暴に明け閉めされるとお思いでしょう?


 逆なんです。

 あくまでも静かに、丁寧に。


 それがね~。なんともイヤな感じなんですよ。

 雑、だとこう。

 つけこむ隙がありそうじゃありませんか。

 それがね、まったくない。


 カラカラ、トン。

 カラカラ、トン。


 カラカラ、トン。


 すぐに連なるのは、教室から教室へと移動してるんですな。


 あいだが開くのは? って?

 探してるんですよ。

 しっかりと。

 なめるように。


 カラカラ、トン。

 カラカラ、トン。


 そんな調子で音がね。

 迫って来るんです。


 カラカラ、トン。

 カラカラ、トン。


 だんだん。だんだんと近寄る度に大きくなって。


 でもね。


 本当に叫びたくなるのは───。






 ───わかりますよね?

 

 

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