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Listen 1ー4 ○○○り

 あ~もう! あーもう!


 絶体絶命とは、まさに今みたいな状況だ。


 至近距離、しかも背後。

 そこにいるのは、髪を切る事しか考えて無いであろう存在。


 髪を切る、とだけ聞くと問題なさそうだが、間に耳があろうが、先に首があろうが全々まったく気にしてないのが大問題である。


 そんなヤツが、自分の髪を掴んでいるなんて。

 キューティクルと心臓に悪すぎる。


 とっとっとっと。


『辛い時、うん、俺なら逃げちゃうなぁ』と軽い調子で聞こえるラジオと一緒に、だんだんと加速する自分の鼓動が鼓膜を震わせる。


 ここは──


 だん! からの~ ずるっ!


 ──あえて、髪を掴まれたまま(・・・・・・・・)、強引に一歩踏み出す! 


 そんな事をしたらさぞかし痛いだろうと思われるかも知れないが、心配は御無用。


 なぜなら、引っ張られて苦痛を与えるはずの、私の髪の毛は、キャストオフできるのだ!


┌┐~♪︎┌┐~♪︎┌┐~♪︎


 上だけを現場に残し、勢いに任せて全力疾走!


 追ってこないのはその手に残ったアレのせいか?


 ()った!

 ()かんだ!

 ()っきーだった!


 説明しよう!


 私、こと、袋野(ふくろの)魅々(みみ)の髪はウイッグである!


 つまり、ズラなんずら!


 ・・・お忘れかも知れないが。私、トラックに跳ねられております。

 そこそこ伸ばしていた髪の毛は、手術前に衛生を保つべくジョリジョリと剃られ、私から巣立っていたわけで。


 つまり今、私の本当の髪型はベリーベリーショート!


『ナンデ、カブッテタ?』


 うん。こちらが見えているかのようなラジオの声にお答えしよう!


 ・・・ウケ狙いが六割、恥ずかしさが半分!


 乙女の恥じらいを上回る、しかるべきタイミングで「ジャジャーン!」と外したら笑いを取れるかもという工夫がこの結末をもたらしたのだ!


 何でも仕込んでおくべきである。


 こうやって、階段まで逃げきれたし!


 ・

 ・

 ・


 って、あれ? なんかおかしくない?


 廊下を駆け抜ける勢いそのまま、階段も駆け降りていた私の足が、止まった。


┌┐~♪︎┌┐~♪︎┌┐~♪︎


 アイツが追いかけてこないのは、まあいい。


 ・・・。


 いや、よくない。


 たぶん、税込ン万円(親に小遣い前借り)のウイッグが。

 トカゲのしっぽよろしく、私の代わりに切り刻まれているからだ。


 おかしいのは階数。階段を降りた回数だ。

 降りた回数は三回。つまりは三階分。

 この校舎はコの字型で、学年と一緒の三階建て。

 三階にいたら三回でいいんじゃないの? と思われる貴方はまだまだ甘い(何がだ?)。


 三階から二階。二階から一階。

 三階建ての建物で三回降りるなら出発点は屋上。

 しかも、私が呼び出されていた職員室が三階で、二年生の私の教室は二階。


 何で一階分降りたところで気づかなかったの? という御質問は御容赦願いたい。

 本来なら私はもう、学校の玄関から飛び出して校門に向かって走っていてもいいはずなのだから。


 そーっと。


 アイツを刺激しないように、階段の角から静かに顔をだして、覗いた先に出っ張っているプレートは〈ⅡーA〉。


 つまりは、二階。


 ・・・

 ・・・ ・・・

 ・・・ ・・・ ・・・


 (元の)階、だと?!


 とはいえ、階段がおかしくなっているのは承知の事実。


 心のどこかで、やっぱりな、と思いながら、今度もそーっと置いたのは乙女のたしなみ、ハンカチだ。


 トン、トン、トン。

 一階分、降下。


 そこにあったのは見慣れた布巾(ぬのきれ)


 ・・・(布巾は普通に読むと“ふきん”です)


 ああ、いかん、イカン!

 一瞬意識がどこかにいってた。

 これはつまり・・・。


 追加するのは、やはり乙女のたしなみ、ポケットティッシュ。


 トン、トン、トン。

 一階分、上昇。


 やっぱりそこ並んでいたのは、見慣れた紙切れであった・・・。


┌┐~♪︎┌┐~♪︎┌┐~♪︎


 なんじゃこりゃぁぁぁぁ!


 スマホ! スマホはどこじゃ?


 家じゃ! バッキバキ中じゃ!



 ぜったい! 撮ったら絶対にバズったのに! 

 ウイッグよりも先に買うものがあったろうと、しょげつつ、身だしなみセットを拾った私が向かったのは、階段の踊場。


 職員室から戻る時に使った階段と違い、生徒が普段使うこちらは見通しを優先したのか、壁じゃなく柵の上にシンプルな手すりを載せたデザイン。 

 つまりは、真ん中から下を見れば下の階が見え、上を見れば上の階が見える。


 そんな事当たり前でしょって思ったあなた。


 見た事ありますか? 当たり前じゃあ無い光景。


「うっわ、下も上も、・・・無限?」


 見下ろせば一階の床。

 見上げれば三階の天井。


 それらが見えるはずの先には。


 どこまでも続く手すりがグルグルと螺旋状に伸びていたのだった。


┌┐~♪︎┌┐~♪︎┌┐~♪︎


『なんで、魔王からは逃げられないんですか? って聞かれてもねぇ』


 いやもうまったく。

 聞かれても答えられない質問はある。


 まあ、ラジオから聞こえる質問の答えはマヌケだからだけど。

 パル○ンテで双方逃げ出して戦闘が一時中断中、通常画面に戻ったところにセリフのウインドウは開かないが、勇者も魔王もいたたまれない気分なのは想像にあまりある。


『オヤクソク ジャネーノ』


 そう。お約束。

 鍵を開けたはずなのに、こちらの教室のウインドウはピタリと貼りついたように動かない。

 開いたらこけるのを承知で全体重(何キロかはトップシークレット!)をかけても、だ。


「何で、開かない、の、よ~!」

 真っ赤に染めても結果は同じ。

 二階の窓を開けて飛び降りるのか? という疑問は頭をよぎるが、そんな事を考えるのは後だ後。


 うん。仕方ない。

 結果はわかっているけど仕方ない。

 ホラー展開で、開かないはずの無い出入口が動かないのがお約束なら、こちらも当然。


 がっしゃ~ん!


 って割れるんかい!


 ええっ? 割れないもんなんじゃないの? こういう場合。 

 えっ? えっ? えっ? 何で割れたの?

 いや、近くにあった椅子を振り下ろしたの、私だけど、さぁ。




「みーぃ、つぅけ、たぁー」

 そんな私の疑問に答える声が。


 ああ、なるほど。そういう理由。


「きちゃった」


 じゃないよ!

 可愛く言ったってダメだから。


 てへぺろっ!


 じゃないよ!

 だから、舌、長い(怖いんだ)って!

 

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