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Listen 1ー3 ○○き○

 って、なーんだ。


 生じゃないじゃん!


 よくよく見れば、机の上に載っていたのは生首では無く、マネキンだった。

 いや、マネキンじゃぁ無いのかな?

 もはや切られ過ぎてみる影も無いけど元々はふさふさと髪が生えていたはず。


 床屋さんや、美容師さんが練習で使うあれ。

 う~ん。名前が出てこない、というか、最初から知らない。子供の頃見た、Dash○岸に出演していた、一見すると怖い、首から上の人形。


 うん。机から血がしたたってる、なんてスプラッターも発生してないし、大丈夫だ。


 私はノゾキが見つからないようにと曲げていた膝を伸ばして、そのままあっさり扉を開けた。




 って、おかしくね?


 なんでこの子、学校に練習用のマネキンなんて持ってきてるのよ?

 よくよく考えれば、机の上に載っているのはイミフ(意味不)な物体だ。


 いや、それより謎なのは持ち主、かな?

 なんでこの人、こんな時間に、ここにいるの?

 床屋さんや美容師さんを目指す部活なんてこの学校にはない。

 う~ん。名前が出てこない、のは朝からか。最初から知らないわけじゃないし、子供の頃からの思い出もあるのが逆に怖いという、この事実。


 うん。机の上に気をとられ過ぎたね。




「みぃ~たぁ~なぁ?」

 ギ、ギギ、ギギギッ!

 錆び付いた機械がかろうじて動くように。

 ゆっくり、ホント、ゆーっくりと振り向いた彼女もこう言ってるし。


『はい、テンプレ。テンプレ展開いただきましたっ!』『いただきましたじゃネーよ!』

 ギュッと口元を引き結んだ私の脳裏に響いた声が途切れ途切れなのは、カチガチと奥歯が鳴りだしそうだから。




 待て、落ち着け! まだ慌てる時間じゃあ無い。


 ・・・例え、彼女に違和感を覚えたとしても、だ。


「うん、見たよ。ってどうしたの? 電気も点けないで」

 みぃ~たぁ~なぁ=見たな。

 雰囲気さえ無視できれば日常会話だ!


 日常! 日常が大事!


 まずは、灯り!


 暗いから変に思うのよ!


 カチカチ。

 私の指先で、スイッチが虚しく音だけを立てる。


『はい! 次の質問はぁ。なんで、怪奇現象に遭遇した時、明るくならないんでしょうか?』


「知らん。怪奇言うな」

 この状況を、そう認めたら。


 怖いでしょうがぁぁぁ!


「どうした、の?」

「いや、こっちの話。ん、あっちかな? どうして電気、点かないんだろ。アハハ」


 あ、これ使える。

 このまま、回れ右して職員室に知らせてくるね、って使える。


「ああ、カバンを取りにきたのね? はい、どうぞ」

 あ、使えなくなった。

 このまま、回れ右したら不自然すぎる。


 すぎるけど・・・。


「ね、ねぇ?」

「・・・?」

 なんで取りにこないの? と彼女が首をかしげる。


『そ・れ・は・ね』

 ・・・貯めてんじゃネーよ。


「その指、コスプレ?」

 脳内で聴こえ続ける能天気なラジオよりも。

 せっかく差し出してくれたカバンを、私がすぐ取りに歩みよらないよりも、不自然なところがあるからだ。


┌┐~♪︎┌┐~♪︎┌┐~♪︎


 突然だが、皆様はスタープラチナというスタンド(幽波紋)を御存知だろうか?

 初めて漫画に登場したのは約三十三年前。実に私の生まれる前なので知らなくてもいいが、最近アニメがテレビ放送されたので、知っていてもいい。


 なんでいきなりそんな話を? と思われるだろうが、もう少しお付き合い願いたい。


 このスタープラチナ、主人公の操るスタンドだけあって超チートを疑われるほどの能力持ちなのだが、今注目するのはそこじゃあ無い。


 ならどこに目をつけるの? と言えば、指。


 スターフィンガーである。


 伸びるのだ。指が。

 性格には人差し指と中指が。


 初見では、なんじゃこりゃって能力でも、見慣れるとカッコいい、はずもなくだんだんと登場しなくなった技である。


 ・・・なんでいきなりそんな話を? の答え。


 うん、実際に見てもちょっと。


 キモいよね・・・。


┌┐~♪︎┌┐~♪︎┌┐~♪︎


「コスプレじゃないよ~(ニコッ!)、ホ・ン・モ・ノ!(ピース!)」


 本物ですかそうですか。


 ニコッとか笑われるより不自然に長いピースサインより偽物って宣言された方が私も笑えて平和なんですがそうですか。


「う・ま・れ・つ・き」


 じゃきん!


 じゃきん! じゃキン! ジャキキン!


 彼女が指をクロスさせるたびに、皮と肉と骨製では出せない硬質な響きが、私達以外に誰もいない教室に木霊する。


「あー。そうなんだ。そう。生まれつきなら、しょうがないよね~」

 回れ右。

 この状態で彼女に背を向けるのは怖くて仕方ないけど、全力で走る為にはこうするしか・・・。


 ジャキン! どさ。


 何か。


 ナニカが切られた。


 いや、たぶんそれは私のカバンの持ち手で、何すんだコノなんだけど。


「だめねぇ、これじゃぁ」

 今問題なのは、ねちゃぁぁあっとした声の発生源だ。


「やっぱり切るなら」

 近い! チカイ! ちかい!


 すっ、と。

 首元が涼しくなったのは、決して恐怖のせいだけじゃぁない。


「女の子の黒髪よねぇ」

 くん、と引かれた頭皮から伸びた一房が、首回りを離れたせいもあるのだろう。


「ねぇ?」

 ちかい! ちかい! ちかい!

 これ、のってない? 私の肩に彼女のアゴ、のってない?


「ハサミ、入れさせて?」

「ど、どこまで?」

 ど、どこまでって・・・。


 かろうじて絞り出した私の間抜けな質問は。




 ごろり、ごろごろ、ゴロ、ゴロリと。


 転がってきた。


 頭皮ごと毛穴内部の毛まで切られた。


 首にたくさんの鋭い切り傷を刻まれた。


 耳の無い固い。


 固い、無機質な首が。


 無言で叫んで、答えてくれた。


 

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