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プロローグ

「異世界転生って流行ってるじゃん?」


「………ん、あ、………まあ流行ってるというか、もう末期的な感じがするけど」


 覚醒した気配を察したのか、おはようのあいさつもないまま、昨夜の酒宴の残骸にまみれて、まるで時間なんて経っていないみたいに話し始める友人の切り出しに、俺は寝ぼけながらそう返事した。


「あれって、実は転校きっかけに不良になって喧嘩で成り上がる漫画と本質一緒だと思うんだよな」


「あーまあ、そうだな、言われてみれば」


 4人入るには小さすぎる炬燵にむさい足4本押し込めつつ、俺は仰向けになって煙草を吹かしている。ヤニ塗れのパルックの薄汚れた光、立ち上る不健全自堕落を表す狼煙。


「あと、タイムスリップものでも一緒かな、自分の住む場所と空間が移したのをきっかけに、ハッタリなり偶然を味方にしながら、初戦を制して実力付けていくって流れで」


「確かに……おまえ天才じゃん……ん?」


 カチャカチャ、ズホッ、クチャクチャと炬燵の天板の頂の向こうで音がする。タッチが昨夜の鍋の残りを食っている。八つの箸先でめちゃくちゃに突きまわされ、夜氣に加え、我々の悲哀と憤慨と自虐といった夥しい感情を吸い込んで形而学のブラックホールと化し、海港1㎝未満、数本のもやししか浮かんでいなのにも関わらずである。


「タッチ、それは勿体ないとかと違うぞ?」


「味が染みててうまい」


 部屋の隅転がってたのピーナッツでも、皿に残り一晩経過マヨネーズでもこそぎ取って食べるんだこいつは。


「う、ゆるしてゆるして………」


 小太郎が俺たちの会話に反応したのか、寝ぼけて何かに許しを乞いている。こいつは2つ下の後輩で顔もいいし、小奇麗で気立てもいい。なぜ俺たちに付き合って酒をかっ食らっているのか不明だ。

俺が仮に悪いホモに襲われて傷物にされたら俺はこいつを襲おうと決めている。


 彼らが大学時代を過ごした数少なく代えがたい友人たちである。タッチは背が高くデブで、風雨に晒されたお地蔵さんのような顔しており、ア○マス等幼女が大好きで常に彼女たちの幸せを祈っていた。握力は80kgくらいあって、電車賃を浮かして課金するために片道2時間徒歩で歩いた。

 マサヒコは別にイケメンでないくせに、身長があるためか、軽薄が言動が好まれるのか知らないが女の気が多く、「そういやこの間知り合った女と」などと飲み会中に切り出しては、俺に義憤と劣等感を多くもたらした。性病になったときは本当にうれしかった。

小太郎は女の子になって俺の彼女になってほしい。

 

 そんな日々の先に、俺はニートになり、やがてニートになったことに耐えられず、スマホを捨ててアンパンマンもしもし電話DXに買い替え、愛と勇気の使者以外との連絡をすべて断った。昔のように彼らと会うことはなくなっていった。

 しかし時代がまた俺たちを引き合わせたのだ。


――現在―――


「あああぁああもう、ふっざっけんなよッ!!」


 岩龍のタッチがブチ切れた。伸びきったTシャツのような岩肌を震わせる。


「もういいよ、やればいいんだろ!うんざりだ、くっそおおおおぉおおおお!!!」


「おい、落ち着けタッチ…… 見ろよあの光景を!」


 俺は目の前に広がった惨状を千切れるほど腕を振りながら指さす。


 巨大な炎の弾やら氷の弾が無数に空を飛び交い、所々で地割れや竜巻も起きている。

 一面、空も地上も動体に埋め尽くされていた。あっちではゴブリンの大群が巨大な昆虫群に凄まじい勢いで捕食されながらも物量で襲い掛かるのをやめず、こっちでは巨人が無数の首を持つ蛇竜に締め上げられながらも頭を一つ一つ噛み千切っている。

 向こうの山を勢いよく駆け下りてきたケンタウロスの軍勢がエルフの弓の掃射を受け瓦解した上を大小無数の青黒い蛸の群れが蹂躙し、そこに朧車や餓者髑髏にぬっへほふなどの夥しい日本の妖怪たちが突撃をかましたかと思うと空から馬鹿でかい雪だるまが落ちてきてそれらを圧し潰す。

 その雪だるまにワイバーンやグリフォンなどの天空覇者達がサクサク突き刺さり、すぐさま崩壊するとそこは雪原の戦場に成り代わった。

 その遥か手前の山の麓の川のほとりでは河童の子供とホビット達が相撲を取って遊んでいる。

 越後平野は地獄と化していた。


「な、タッチ、落ち着こう?」


「達吉さん、はいグミ、俺もぎもぎフルーツもってきたんすよ」

小太郎が腹の袋からタッチの好物を取り出すが、怒り狂ったタッチは見向きもしない。

小太郎はせっかく竜になったというのに、小さいし、目は円らだし、おまけにお腹に袋もついてるし、ほんとにかわいい。ぬいぐるみみたい。


「うおおおおおぉおおぉおおお!!!」


 俺たちの静止も聞かずタッチは唸りと地鳴りを上げて走り始めた。踏みつけられたア○マス缶バッチを見つけた時もこんな怒り方はしなかった。


 止むを得ず、俺たちはタッチを追うが、竜族でも屈指の巨体を誇るタッチは周囲の木や岩を安々と粉砕し、敵を踏みつぶし、有象無象を踏みつぶし、友好種族をも踏みつぶしながらポセイドンらしい巨人をぶっ飛ばして戦場を一閃すると、また遠くの岩山もボーリングのピンの如く倒壊させながらどこかに走り去った。


(はへー、すっごい強いじゃん……)

 あきらめて途中で見送ったが、あれだけ凄惨カオスを極めた戦場が一瞬にして白けたようになっている。これだから竜族は重宝されるはずだ。


「タッチ、最初っからやったら良かったのに」


 マサヒコが呟く。

 やって出来ることが最初から出来ていたら俺もタッチもニートになんかならずに済んでいる。お前もだぞ、マサヒコ、そのことに気付いているか?

以前あげていたものをリメイクしてあげ直していきます。

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