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不定の大地  作者: 朱瑠
序章
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黒の侵略

VRMMOは何度かプレイしたことはあるが、βテスター達の評価を見ている限りこれは一線を画している。何せ、謳い文句は本当だ、という程度しか情報は流れていないが、それ即ち、世界政府の持つ技術と同レベルの最先端技術で作られた世界で自由に、本当に自由に遊べるということに他ならない。

故に、アーリーアクセスから早速プレイを開始した。今日やることはもう終わらせてあるので、母親に鬼のような形相をされることもなければ父親に地獄の稽古をされることもない。気楽に行こう。


ゲームを起動し、プレイを開始する。まずはキャラクリエイトからだ。が、めんどくさいのでスキャンデータを使う。種族はファンタジーらしくエルフにした。ファンタジーらしいと言えばドワーフや獣人もらしいし、ゴブリンやスケルトンなどファンタジー過ぎるとも言えるが、獣人以外は正直可愛くない。獣人は尻尾が邪魔そうだ。故にエルフにした。

しかし、特性の欄を見てイラッと来た。

そこには『小柄』『愛嬌』という2つの特性が鎮座している。

『小柄』はSTRとVITが下がり、AGIとDEXが上がる。取得コストは0。初期値しか変わらない為だろう。誰が小柄だ。チビで悪かったな。ちくしょう。

『愛嬌』は愛くるしい姿によりNPCからの好感度が上がりやすいというものである。取得コストは30。童顔で悪かったな、ちくしょう。

人のコンプレックスを散々突っついて来た上に、初期のスキルポイントは、既に50まで減っている。しかもスキャンデータを使う限りこれらの特性は外せないらしい。

キャラを作るセンスとか自分に期待できない。絶望的とすら言える。故にスキャンデータを使うことにしていたのだ。理由あっての選択をねじ曲げる気は無いので、腹は立つがこのまま行くことにした。幸い、私の家の道場は合気とかそういった類の武術を総合的にまとめ上げて磨き上げたものだ。力に頼らない技術には自信がある。50ポイントはもう保留にしておこう。やってみて欲しいスキルがあったら取ればいいや。とはいえ、どこから使うのか分からないのだが……。

とりあえず、この一連のゲームからの煽りを受けて、私のプレイスタイルは決定した。このゲームに仇なす存在になってやろう。とりあえず、エルフのままでとりあえずはいいが。PKでもやってやろうか?

そう思いながら、黒いプレイをすることは決まっているのだからと、プレイヤーネームに「ノワール」と付けて、ゲームを開始した。

チュートリアルでは、しつこい程にプレイヤーとNPCは同じと言われた。それを周知していないことでシステム面で何か問題があるとは思えない。恐らく倫理面の問題だろう。快楽殺人鬼みたいな存在を養成しないように、そういう注意はしていますよという格好を大切にしているのだ。

と、なると、こっちのやることは決まった。目指すはNPCの大量殺戮である。このゲームの運営が一番困るだろうことを「自由」にプレイしてやってやろうではないか。

そして、選択していた地域、大陸中央北部の『グレイス王国』で、ゲームがスタートした。







最初に降り立った土地は、草原だった。とはいえ近くには森が見え、その傍に街があるのも見える。普通にプレイしてやるつもりは既にないので、森に突入する。どうせ今死んでもデスペナは0だし、人型の魔物が出てくるならリアル技術で叩きのめすことも可能なはずだ。やれるだけやってみていいと思う。魔法に関してはなんとも言えないが、指向性を持つ物なら、理論上は銃と同じイメージで躱せるだろう。もし無理なら、AGIにでもスキルポイントを振って出直せばいい。


「おい、あんた。1人で森に入る気か?魔物だって出るんだぞ。死ぬぞ?」

「あっそ」

「なんだ、その態度は。こっちは親切心で──」

「……」


森に入ろうとすると、近くの街の兵士っぽい、森の見張りみたいな獣人の男に声を掛けられた。死んでもいいから突撃しているのだ。黙っていて欲しい。いや、いっそ黙らせるか。そうだ、それがいい。


「うるさい」

「いででででで!!な、なにしやがいだだだだ!」


サッと手を取って捻りあげる。ゲームでも技は有効らしい。無理に動かせば折れるようにしているから変に動けないはずだ。

空いている右手で相手の腰の剣を抜き、顔色が変わった兵士の顔面に突き刺した。流石にかなり深くまで達したらしく、兵士の体から力が抜ける。

さて、これでまず1人目だ。


「って重!『小柄』のせいか!」


ただの鉄製だろうロングソードが持ち上げるので精一杯だ。ゲーム的にこんなものも装備出来なくては立ち行かないはずで、間違いなく初期ステータスでもこの程度の剣を、鎧もない布の服装備のキャラクターが振り回せないSTRしかないはずがない。

つまり、『小柄』によるSTRとVITの低下は思ったより大きいのだ。いや、数字としては見ていたが、想像以上だった。

そして、兵士はこれに加え鎧も着ていた。先程の関節決めも、相手が力を入れて無理やり動かせばこちらの手などあっさり弾かれたのではないだろうか。不意打ち気味だから相手が混乱していて上手くいった、というだけなのだろう。


「うーん、これデメリットデカすぎだな……剣すら持てなかったら何にも出来ないし。今回ばかりはうちの流派が剛の武術じゃなくて良かったと思うよ」


鎧や剣をインベントリに仕舞いながら呟く。、

低すぎるSTRやVITも、ノワールの武術ならばあまり問題にならない。むしろ、AGIが比較的高いことで得られる反射神経などのメリットの方が大きい。

これはチュートリアルでAIが言っていたが、AGIが高いと有事において脳処理を加速して擬似的に反射神経を高めたような演出をするらしい。その類の特殊な脳処理は、既に安全性が確立された技術だが法律で利用者の許可を求めなければならないため言われた。

平たく言えばAGIに差があれば生きている世界が変わるということだ。低いステータスを補填するというのは『小柄』に負けた感じがしてイラッと来るので、それを利用しているのだと言わんばかりに、ここで全てのスキルポイントをAGIに振った。獣人兵士はやはり格上だったようで、破格の300ポイントという収益であった。ステータスは固定値で10ポイントで1上げられるので、保留していたものを合わせて35ポイントの上昇である。初期値が25であったので、倍以上だ。

スキルポイントを振り終わると、体が軽くなったような感覚に襲われる。うんうん、これでそこらの初心者プレイヤーなら一方的な戦いが出来るはずだ。どこかに初心者の雑魚は居ないだろうか。森の中を探索しているヤツらがいるかもしれないし、見に行ってみよう。







森の中に入ってしばらく進むと、襲ってきたのは猫だった。いや、ただの猫ではない。二足歩行する大型の猫だ。ケット・シーというやつだろう。

不意打ちの格好で襲われたのだが、AGIの力だろうか。風を切るダガーの音に反応して回避出来た。


「ラッキー人型だ!」


人型だの大型だの言っても、所詮は猫である。体格は『小柄』なノワールよりも更に一回り小さい。現実でも自分より小さな稽古相手はいなかった。

が、当然自分より小さな相手との戦い方も理論は存在するし、あまりやった事はないが慣れ親しんだ自分の流派の延長である。できないことは無い。

そう思って構えたこちらとは反対に、ケット・シーは不意打ちに失敗したと見るや飛び退り、手を前に突き出した。何をしているのだろう。お互い間合いの外であるのに。


「『ウインドカッター』」


ケット・シーの言葉と同時に、何か目に見えない物が飛翔してきている音がする。


「魔法!風の刃ってとこ!?」


飛んできているのは分かるが、どんな形状か判別出来ない。躱せるだろうか。いや、躱すのだ。

そう思った瞬間、時間が多少スローペースに進み始める。AGIの効果だろう。集中して前を見ると、風の刃──『ウインドカッター』が木の枝を切り飛ばすのが目に入る。横薙ぎの形だ。


「っぶない!セーフ!」


ケット・シーが驚愕のあまり目を見開いている。不意打ちも不可視の刃も回避されたのがそこまで驚くことなのか、と思うが、恐らく躱された事がほぼ無かったのだろう。


「って逃げるな!」


考え事をしていたらくるりと反転して逃げ出し始めた。一方的に殴って失敗したら逃げるなど、なんというずるい戦い方だろうか。合理的にも程がある。

森に慣れていない相手なら追いつけないと考えて逃げ出したのだろう。

が、私は生憎森歩きにも慣れている。うちの家族はなんのためか私有地に森を作る変態だ。そこを体力作りと称して歩かせるどころか走らせるのだからたまったものではないが、経験が活きたと言えるだろう。

AGIはこっちの方が勝っているのか、相手がこちらを引き離せることは無かった。むしろ、順調に追いついていく。

森歩きをしたことが無いキャラクターで森を走り回った結果か、スキルポイントが稼げていたのでそれで風魔法のツリーを解放し、初期の魔法を放つ。意趣返しのつもりだ。


「『ガスト』」


本当に、少し強い風が吹く程度のちょっとした魔法だ。しかし、タイミングを見て、飛び上がった瞬間にぶつけてやったから、小柄なケット・シーでは耐えられず、バランスを崩して着地に失敗した。というわけで、追いついた。


「こ、殺さニャいで!」


……は?可愛い。何だこの生き物は。今ニャって言ったか?ニャ?というか人語を話せるのか。いやというかニャ?ニャって言ったよな。


「……君たちのボスはどこ?いるんでしょ、どうせ」

「そ、それは、言えニャ──」

「死にたくないんでしょ?」

「は、はいニャ!」

「じゃ案内しなさい」


この可愛い生き物のボスを見ておく必要がある。そいつまでニャとか言うようなら、すべきことは決まっている。叩きのめして従わせるのだ。道場でも師範代としてボコボコにぶちのめして力の差を示して素直に稽古を受けさせるなど日常茶飯事である。故に同じことをさせてもらう。

こちらの様子をビクビクと伺いながら歩くケット・シーの後ろをついて行く。

ビビっている姿も可愛いものだ。スクリーンショットはどこからするんだったか?えっと……お、出来た。永久保存版だ。


「着きましたニャ……」

「お、ご苦労さま」


そんなことをしていたら、どうやらボス猫の所に着いたらしい。森の中に開けた場所があり、生活が出来そうな集落が作り上げられていた。その奥の大きな家に入り、奥へ進む。

一番奥の部屋に鎮座する玉座に、1匹のケット・シーが居た。そこにいたケット・シーは一回りサイズが大きく……平たく言えば、ノワールと変わらない位の大きさの、クロネコだった。ここまで案内してくれたケット・シーちゃんはトラネコだったので、ひと口にケット・シーと言っても色々な柄があるのだろう。


「こんにちは、ケット・シーさん!お名前なんて言うの?」

「ニャんだ、貴様は……おい、サリー。ニャんでこんニャ物を連れてきたのニャ?」

「っす、すいませんニャ……命が惜しければ案内しろと……」

「……ふん、そういうことニャらさっさと叩きのめすだけニャ。おい、そこのエルフ。私はこの森を支配する王国の王、フレミーというニャ。我が同胞の受けた屈辱、貴様の命を持って償わせてやるニャ!」

「……」

「……?おい、ニャんとか言え!」

「……か、かわいいいい!!!!!何君、可愛すぎない!?その威厳でニャって、ニャって言っちゃうの!?ちょ、君私の配下になってよ!そうだよそれがいい!ね!?なんか公式サイト見る限り主従関係みたいなの作れるみたいだし!私に負けたら君私の配下ね!いいでしょ!」

「ふん、貴様が私に勝てるわけがニャい。驕るのもいい加減にするニャ」

「そういうのいいから。私が勝ったら君は私の配下!いいよね!」

「……国王は一番強いやつがやるものニャ。もし貴様が勝てたらそれも仕方ニャいかもニャ。しかし、そんニャことは起こらニャい!」

「やっぱりかわいいいいいい!!!!」


なんということだろう。偉そうな態度から繰り出されるニャはここまでの破壊力だったのか。これは逃してはならない。絶対に『なかまにしてほしそうにこちらをみている』状態にしてやる。

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