転生
短めです
スキルポイント製造機くん達の滞在している村を滅ぼしてから1週間弱が経った。鎧や衣服を手に入れたため、上手くやって日光から体を覆い隠すことに成功し、昼間も合わせて移動を続けた。筋肉に一切疲労が来ないというのは素晴らしい。精神が持つ限り走り続けられるのだ。やはりスケルトンこそ最強であると言えるだろう。
ちなみにスケルトンは色々欠落している。音は聞こえるし周囲も見えるが、耳や目でそれらの情報を得ているというのとは何か違う感じがする。そもそも脳が無いのだ。それらの感覚を処理する方法が無いはずなのである。一番顕著なのが味覚だ。食べたものの味は冗談抜きで全く分からない。というか飲み込んだものはどこに行ったのだろう。肋骨のあたりには現れてこない。気になるし運営に質問でもしてみようか?
まあ、そのおかげで躊躇いなく血を飲めているのは事実だ。味がしたらきっとあのドワーフ村では吐いていたと思う。飲んだ血を吐くヴァンパイアにはなりたくは無い。
これは思わぬ利点だったと言えよう。
村を出て3日ほどは、街道近くを走りつつ、たまに身体中を布で覆い隠して街道を走りつつ、目的の国『リバーズ王国』へ向かっていた。人間の王を持つ国である。が、公式のSNSを見ている限り初心者向けとの呼び声が高く、2日目あたりから初期スポーンとして人気が急上昇しているようだ。つまりエルフも獣人も、大半はプレイヤーだが居る。1粒で3度美味しい国だ。
ウェプス王国は大陸北東に位置すること、βの情報からも最適と判断されたこともあり、とりあえず南西に向かっていたが、そこがちょうど大陸中央から南部へ国土を持つリバーズ王国なのである。素晴らしい采配だ。自分を褒め讃えたい。
βテストで血を頂いたのは、エルフ10人、ドワーフ5人、獣人27人、そして人間52人である。人間の国……というか、それこそリバーズ王国で活動していたため、国交のあるリバーズ東の獣人国家『アルマ王国』と北のこれまた獣人国家『グレイス王国』、西のエルフの『シーフェア王国』から偶にやってくる商人を頂いていたのだが、ドワーフ共は物作りにご執心だったせいで商人の方がウェプスに買い付けに行く形式だった。故にドワーフの血が飲めず、いつまでもヴァンパイアにならないのを疑問に思って、もしかしてヴァンパイアいないのかなとか思いつつウェプスに行ってドワーフの血を飲んだらあっさり転生出来たのだ。
そんな経緯なので、ドワーフ5人以外各種の必要人数は不明だ。というか人数なのか量なのかも不明だ。βに飲んだドワーフ5人分と比較したら遥かに多い100人以上の血を飲んでいるためドワーフに関しては不足は無いだろうが。
それから3日のうちに、プレイヤーを含む人間を35名、獣人を24名、エルフを58名からある程度ずつ頂いているところだ。とは言えプレイヤーさん方はあまり血を飲ませてくれない。頑張ってふた口くらいだ。NPCの死体から飲んでいた量と比べて少ない。血を飲んでいる途中で引き剥がされたりリスポーンしたり、とにかく嫌がらせが大得意らしい。
ちなみに、公式SNSでは噛みつきスケルトンとかいうあだ名を付けられていた。プレイヤーの疑いを掛けられていたが、血を飲んでいたことから、プレイヤーにそんなことは出来ねえだろ!と言われていたのはありがたかった。ヴァンパイアのことは出来れば知られたくない。
そして今は、あと3時間で本サービス開始前のメンテナンスに入るというタイミングである。プレイヤー方も最後のアタックをかけているところだったので、その中から一番血が飲めていない獣人のパーティを選んでストーキングしているところだ。
なんだかんだ言ってPKをくりかえしたことでスキルポイントはたくさん貯まって、結果として隠密行動に限らず色々なことができるようになっていた。STRを上げる余裕も出来て、近接戦闘もやれるようになったのは大きい。
さて、『聴覚強化』によると、周囲には魔物も他のプレイヤーも居ない。向こうは獣人プレイヤー3人組。装備や動きからは上位プレイヤーの雰囲気を感じるが、金属装備をしている。狙い目だ。美味しく頂こう。
──『ボルテックフィールド』『サンダーレイン』
雷魔法の威力が上がるフィールドを作る魔法の後に、『エレキシャワー』の上位の範囲魔法、『サンダーレイン』を使う。その一撃で、獣人グループは雷魔法特有の追加効果、麻痺に陥っているようだ。装備が金属であったことも大きい。効果がよく出ているのだ。
あとは「噛みつきスケルトン」らしく、噛み殺してやるだけである。代金はスキルポイントと血液でお願いします!
そして、3人目の獣人プレイヤーさんを噛み殺したその時、頭の中にメッセージが流れた。それは、βテストの時にも聞いた文言。
〈特殊条件を達成しました。スキルポイント500を支払うことで『吸血鬼』に転生が可能です。転生しますか?〉
今しがた噛み殺した獣人を見る。既にリスポーンしたらしく、死体は消えていた。となれば、誰かに見られる心配もない。
──もちろん、転生する。
そう脳内で返答すると、骨の手を光が包み始めた。目の前が真っ白になり、転生のプロセスが進んでいく。
そして、転生が完了し、光が収まった。手を見れば、骨ばっては居るものの、骨そのものでは無くなっている。思っていたより時間は掛かったが、アーリーアクセス期間中にヴァンパイアになることは成功したようだ。正式サービスが始まったら、性能試験も合わせてとりあえずこの森を探索してみようと思う。何せ、βテストでは性能試験を本格的にやる前にテストの期間が終わってしまったから、ヴァンパイアのスキルはひとつしか試せていない。しかし、そのひとつで十分ヴァンパイアになりたいと思えるスキルだったのだ。
それは、ヴァンパイアの代名詞とも言えるスキル、『吸血』である。
『吸血』は発動した状態で血液に触れることでその血液を吸収するスキルだ。血を吸えば、HPとMPの回復にステータスのバフ、更に血液の主を倒すことで得られるスキルポイントを増加させる効果が得られるという紛うことなきぶっ壊れである。その他の『霧化』だとか『分裂』だとかも色々実験しなければならないが、それはまた後でやろう。
メンテナンス中に魔物に殺されないよう、安置を確保しておかないとならない。と言っても、この森に木の上へ攻撃を仕掛けてくる魔物はいないので、木に登っておけばいいのだが。
メンテナンス後が楽しみだ。
次回、もう1人の主人公編