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不定の大地  作者: 朱瑠
序章
3/47

スキルポイント製造機

日光という最大の敵を克服するのは無理だ。種族と特性に決められた、このアバターの特徴と言える弱点になってしまっている。

ということで、基本的には日光の差しこまない鬱蒼とした森か夜中での活動を行うことにした。

ゲーム内時間は現実の1.5倍速で進む。と言っても、1日が16時間なのではなく、脳に加速処理を施して24時間を16時間で体感させるというシステムだ。

よって、逆説的にログアウトしておけば時間が早く進む。スタートダッシュは出来ないが、ゲーム内時間が夜になるまでログアウトしておけば楽ではある。

ちなみにログアウトするとその場所がリス地に設定されるので、ログアウト中のアバターがリスキルされるかもしれないが獲得したスキルポイントは未だに0なので問題ない。


しかし、せっかくの初日なのにいきなりログアウトして待つというのもつまらない。やっとスポーンした森だ。探索して適当に動物でも魔物でも狩って、スキルポイントを稼ごうではないか。それに近くに街道があるかどうかも大切になる。そこを通るドワーフに奇襲して狩る予定なので、街道が無いと夜のうちに探して走り回ることになる。

また、日光は克服出来なくても少しでも当たらないようにするために身に纏うものを見つけるのも重要だ。一部でも晒されていれば死は免れえないが延命にはなる。その少しの時間が大切かもしれないのだ。やれることは全てしておく方がいい。旧暦の諺だとシンジに尽くしてテンメーを待つと言うんだったか?なんだか違和感があるが、まあとにかくそれである。シンジくんに尽くすのだ。


というわけで、森の中を探索して時間を潰すことにした。このゲームは何をしてもスキルポイントをくれる。歩いているだけでもくれる。微々たるものだが。それが森ともなれば、歩くのもなかなか大変であるため、普通に目に見えてポイントが増えていく。


──おお、こりゃいいな。


声を出したつもりだったが出なかった。そういえば今はスケルトンだ。声帯がない。でもこれ、魔物プレイヤー同士で協力とか出来なくないか?マイノリティいじめは良くないぞ。そう思った結果が魔物プレイヤーへの配慮全実装なのかもしれないが。


「……だって!それに……」

「いや、……ほうが……」


とか考えながら歩いていると、人の声がした。咄嗟に隠れてその方向を見ると、人間が居た。ドワーフでは無くヒューマンが居たのである。


──プレイヤー、だな。服装もお揃いの初期装備だ。


キャラクリエイト時にポイントを支払うことで初期装備を獲得することが出来る。ユリウスはポイントの使い道が決まっていたため選択しなかったが、5回目くらいのリスポーンで傍の森に駆け込もうとして失敗し、衣服はあっても良かったなあ、と思ったのは記憶に新しい。

しかし、これは思わぬ幸運である。スケルトンとヒューマンの初期ポイントの差は大きい。多分殴れば殺せる。殺せればドワーフの国なのにヒューマンの血を獲得出来る。ラッキーだ。と、言うわけでまずは一発いってみよう。


──『エレキシャワー』


本来は音声キーで発動するスキルだが、声が出せないアバターなので、強く念じる。すると、上手いこと発動して、2人の初心者に雷の雨を浴びせかけた。


「いっっってえ!!んだこれ、魔法!?」

「ぐぅ、だ、だから奥まで、行くのはやめようぜって、言っただろうがよ!」

「いやでも魔法使う魔物とか居ないって言ってたろNPCも!」

「奥は知らんとも言ってたろ!」


仲間割れを始めたようだ。アホか?

即座に次の魔法をぶちかましてやろう。魔法はMP消費に加えて個々にリキャストが設定されていて、最も最近使った2つしかリキャストタイマーが進まない仕様になっている。故に『エレキシャワー』はあと5分は撃てないが、その前提となった『エレキアロー』と『エレキランス』は使える。どちらも単体魔法だが、かなり弱っている……と思うので、それぞれに叩き込んだ。


「ぎゃああああああ!!!」

「あっ!ウィレム!」


『エレキランス』を撃ち込まれた方の、森の奥まで行ってみよう派の方は死んだが、『エレキアロー』の方は生きているようだ。持っている魔法がもうない……と言いたいが、ウィレム氏を倒したことでスキルポイントが入った。これを使って、新しい魔法を取得する。


──『サンダーボルト』


これも単体魔法だ。範囲魔法は今のところエレキシャワーしか解放出来ていない。しかし、ウィレム氏では無い方も無事死んで行った。


──って、あ!!死体消えた!!


うっかりしていた。プレイヤーということはリスポーンしたら死体は消えるのだ。NPCはリスポーン出来ないのでその限りではないのだが、忘れていた。

これでは血を飲むためにプレイヤーが選びそうなエルフやヒューマンは何時でも狙えるだろうと思ったのは間違いだったということになるのだろうか?いや、もしくは生きているうちに血を飲むか?うーむ。スケルトンの軽い体でぶっ飛ばされないだろうか。

しかしまあ、やってしまったものは仕方ない。今まで居なかったはずの魔法を使う魔物が出たとかで討伐隊でも組織されればドワーフの兵士もやってくるだろうか。いや、アーリーアクセス初日のプレイヤーにそんな人脈など無い。まず何も起こらないだろう。夜になったら街道を移動して、小さい村に襲撃でもして血を頂くのが合理的か。

しかし、彼らがやって来た方角に進めば彼らの拠点となる街があるということになるのだろうか。ちょっと気になるし、そっちに行ってみよう。







所詮は初日プレイヤーの到達できた場所に過ぎず、奥の方とか言ってたからかなり深いのかなーとか思っていたが、20分も歩けば森の外が見えた。

その間遭遇した魔物はゴブリン1匹で、あれも倒して直ぐに居なくなったのでプレイヤーだったのだろう。魔物仲間に悪い事をした。

森の外に出たら死ぬので出ないが、そこにはどうやらちょっと大きめの村があるらしい。

城壁、とは言わないが柵に囲まれており、入口には兵士が立っている。身長が低く、ずんぐりむっくりという言葉がピッタリな見た目をしている。βテストで見かけたドワーフだ。つまりここはドワーフ村。よし、夜になったら襲撃をかけて血を頂くとしよう。

累計人数の可能性を考えるとなるべく戦闘能力の無いだろう子供を眠ったままで殺すのが最適か。男女どちらであってもスキルとステータスだけで強さが決まる時点で分からないので、生きている時間が短い分必然的に獲得ポイントの量の少ない子供を狙うのが合理的だ。

対兵士用に覚えた魔法は無駄になりそうだが、魔法は別に持っておいて損するものでは無い。システム上数を覚えていればそれだけ短時間の飽和火力が高くなるということになる。きっといつか役に立つはずだ。


と、ここで先程のヒューマンプレイヤー達がこっちに向かってくるのが見えたので、とりあえずここは穏便に、ということで木の上に登ってやり過ごした。もちろん追いかけて、ある程度奥に来たところでまたキルさせてもらったが。

現状ユリウス自身も弱いため、あの二人より強いとはいえ大きな差がない。向こうが装備あり、こっちは骨だけというのも相まって、総合戦力という判定では五分五分というところなのだろう。βテストでNPCをキルしていた時より遥かにポイントが貰えた。

何度も特攻してくれるので、美味しくリスキルさせて頂いた。ありがとう、ウィレム氏と愉快なお仲間氏。おかげでスタートダッシュは上々だ。


そんなことをやっていたら、日が沈み出した。これが不味かった。ウィレム氏達が何度も来てくれるため、森の浅い位置で見張っていたのだ。日が傾いて、木の幹の隙間から日光ビームがこの身を焼いた。


──いっでええええええ!!!!!!死ぬ!!!!


わずか一秒にして5%を削られ、更に隠れても継続ダメージが入る。なんという地獄だろうか。

VITを上げて継続ダメージの原因たる火傷状態のダメージを減らしていると、それによってHPも上がったことで日光ダメージ自体は固定値であるというのは判明した──決して油断していてまた日光を浴びた訳では無い。決して──ため、日光を克服するならVIT極振りなのだろうか。

しかしダメージ自体は食らうから、自然回復と釣り合うまで振っていたらきっと何も出来ない木偶の坊になる。何か別の手段を探した方がいいか。


それはそれとして、夜になった。草木も眠るウシミトキと言うやつである。草木すら眠っているのに牛を見張る役目とはなんという地獄だろうか。牛だって眠っているだろうに。この場合は草木も眠るドワーフミトキなんだろうか?旧暦の、それも既に何百年か前に生まれたという諺はよく分からない。

というか、既に村の明かりは消えている。ゲーム内時間では既に深夜の2時。起きている家は無いとみていいだろう。というかリアル時間ではもうすぐ10時頃か。さっさと襲撃を済ませてここを離れたらログアウトして食事や風呂を済まさなければ。明日もあるのだ。


──うわあ、寝てる……門番失格だ、ぞ!っと。


村に近づき、居眠りをこいている兵士の腰の剣を有難く頂き、その剣で居眠り兵士の首を落とす。職務怠慢により極刑である。どちらにせよこいつが寝ているせいでこの村が壊滅的被害を受けるのは同じことだ。きっと差別的な扱いを受けるに違いない。それならばその前にさっさと楽にしてやるのは慈悲とすら言える。

首を失った胴体から吹き出す血を飲み、目標を着々と達成していく。

ついでにそいつの着けていた鎧一色も頂き、パッと見はヒューマンのシルエットになることに成功した。もちろん顔は晒しているし、全身鎧ではないから生身、というか骨身なのは丸分かりなのだが。


というわけで、手頃な民家から中が静かであることを確認して忍び込み、殺戮を開始した。

ウィレム氏達がくれたポイントにより、『感覚強化』ツリーの『聴覚強化』と『素手』ツリーの『隠密』を獲得し、音を出さず、静かに暗殺することに成功している。この辺りはβテストの時点で存在を確認出来ていたので、あっさり取得できた。

各種属性魔法と『素手』ツリーの一番最初、『素手』、そして『精神魔法』から『鼓舞』を獲得するとで、『感覚強化』ツリーが解放される。聴覚強化は風魔法をひとつ持っていれば獲得出来るスキルだ。

『隠密』は風魔法を持った状態で『素手』を進めていけば普通に出てくる、音が出にくくなるスキルだ。ここまでで既にウィレム氏産のスキルポイントは使い果たしているため、ついでなので稼げるだけ稼いでいこうというわけである。


結局全員寝ていた為、順調に老若男女問わず全て殺戮し血も飲んで、ついでに、インベントリに使えそうな衣服を初めとする略奪品をしまい込む。順調に進めていく中で、ウィレム氏達が泊まっているらしい宿屋もあった。こういう場合はぶち壊してやるとリス地が破壊判定になり、彼らも路頭に迷うことになって面白いのだが、一応大量のスキルポイントの恩があるのでやめておいた。これで貸し借り無しだ。

というわけで、その村の村長宅っぽいでかい家に住んでいた一家を全て殺戮するまで隠密暗殺劇は続き、なんだかんだ言ってな3桁にも迫ろうかという数のドワーフの血を啜り、その場を去った。

なお、この時点で前回ヴァンパイアになった時点で飲んだ数を超えているので、各種族一定数という仮説の方が正しいことが判明した。後は人間かエルフの国でプレイヤー諸氏から生き血を啜っていればそのうちヴァンパイアになれるだろう。

その場で獲得した、予想外に多かったスキルポイントの大半をAGIに振り、月がちゃんと南に出ている事を信じながら、南西へ走って、先程出てきた森とは別の森に到達し、木の上でログアウトした。

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