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不定の大地  作者: 朱瑠
序章
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ゲームスタート

情報通信技術を初めとする、科学テクノロジーが発達したことで、世界は転換期を迎えた。

もはや現実と相違ない程に発達したVR技術は、世界から距離という障害を消し去った。

発達したAIは、人の発する言葉を柔軟に解釈し、その言葉に含まれるニュアンスを含めて自動翻訳されるようになり、仮想空間の中では言語すら人々を遮ることは無い。

国として隔てられた価値は、政治的な物しか残っていないと言っても過言では無い。

そんな世界情勢に、各国首脳陣の話し合いやインターネットを用いた世界中の人による投票の結果、世界はもはや新しいステージに到達したとして、新たな暦を用い始めた。


その暦での、75年。様々な物が移りゆく世の中で、変わらない物があった。進化を続けていても、その本質は変わらない物。それは、娯楽である。




***




うるさいほど高鳴る心臓を落ち着かせながらVR装置に寝転がる。

今日は、かねてから楽しみにしていた、最新技術をふんだんに使ったというVRゲームの、アーリーアクセスの開始日である。

自由を売り文句にしたこのゲームは、今まで世界政府くらいしかまともに運用出来ておらず、その政府も現状は災害予測程度でしかまともに使っていない、世界のシミュレータとでもいうような技術を用いたという。簡単に言えば、剣と魔法の世界を作って、その法則に則った世界が構築されているということだ。ワクワクするに決まっている。更に自分が幼少期より懇意にしているゲームメーカーの開発であり、熱が入っていた。

αテストやβテストにも応募した程だ。もちろん、βテストに応募したということはαテストには落選したのだが、βテストには当選していた。

今日は、そのβテストで得た知識を用いてスタートダッシュを決め、他の有象無象のプレイヤー共を大きく引き離した最強のトッププレイヤーとしてゲームに君臨するための第一歩の日なのである。少なくとも、今までこのメーカーのゲームは常にトップ層になっている程熱心にやっている。今回も逃す訳には行かないのだ。


午後4時、アーリーアクセス開始と同時に、VRMMO、『Indefinite(不定の) Land(大地)』を起動した。







ゲームが始まると、まずはキャラクリエイトを行う必要がある。ただ、これはほぼ決めてあった。

まずは見た目だが、VR装置の機能で自身の体をスキャンする。骨格を含め、体型が現実と同じであるというのは動きやすさを保証してくれるものだ。慣れれば問題ないが、なれる時間が無駄になる。

次いで、種族を選択する。人間、獣人、エルフ、ドワーフ、ゴブリン、スケルトン。この6種類から選択でき、これに応じて見た目も相応に変化するので見た目も同時に調整できるようにはなっているが、考える必要もない。さっさとスケルトンを選択する。

スケルトンを選択するメリットは、初期に獲得出来るスキルポイントが多いからだ。このゲームはあらゆる行動に付随して獲得するスキルポイントを用いて、その名の通りスキルの獲得や、それだけでなくステータスの向上すらも行う。人間の150ポイントがベースであるなら、獣人は50、エルフは70、ドワーフは60を減算される。対して、ゴブリンは100ポイント、スケルトンは50ポイントを獲得する。

ゴブリンは体をスキャンしていても体型が変わってしまう。故にスケルトンを選んだ。

これでキャラの見た目は完成である。と、思ったら、βテストから新しい項目が増えていた。

特性という欄で、そこには既に『美人』という物が鎮座していた。効果はNPCから好印象を持たれるらしい。え、骨が?

何故こんなものがあるのかサポートAIに問うと、どうやらスキャン時に強制的に追加されたものらしい。そして、外すならスキャンしたアバターを使わず1から作る必要があるらしい。実に非効率だ。何故ここでこれだけ外せないのか。

自分の細かい骨格など分かるわけもないし、スタートダッシュを決めたいのにそんなことをする時間はない。スキルポイントが30消費されてしまうが、これはもう放置することにした。

代わりに、消費されるスキルポイントを補填しておきたい。200という数字はβテストの時に効果的に始めるために必要な量と結論づけたものだ。マイナス効果を入れて30増やせばいいのである。幸いそういう特性もあった。

その中から、最もスケルトン、というかアンデッドにとって関係がないであろう物を選択する。

『薄色』は、体の色素が薄まり、日光に弱くなるというもの。いわゆるアルビノ個体だろうか。アンデッドと言えば顔色が悪くて当たり前だし、多少白くなったところで変わりはしない。少なくとも今は骨だから、尚更分からない。白は白だ。日光に弱いのは最早種族特性だ。つまりこれはフレーバー効果というか、ボーナスポイント獲得用の特性とすら言える。人間系にはそうでも無いが、ありがたい。20ポイントを獲得した。

あと10ポイントは『背信』。正式な宗教関係のNPCに無条件で敵対されるという特性を取った。これこそなんの意味があるのか。魔物を好む宗教もあるのかもしれないが、それは邪教というものだ。つまり正式な、に当てはまらない。アンデッドにとっては本当に何ら関係の無いものと言える。

多分だが、この辺はβテストでの魔物系キャラクターの難易度の高さが関係している。街にも入れないというのは大変だったらしい。つまりはテコ入れの為の、結果的に意味の無い特性達というものだ。素直にポイント増やせばいいのにとも思うが、ついでに新要素にしたのだろうか。


そして、キャラが出来たら名前を登録し、スタート地点を設定する。

名前は自分の本名を文字った、その上でありがちな「ユリウス」を登録。

スタート地点は、βテストでは舞台となる大陸にある、人間の国2ヶ国か獣人の国2ヶ国、エルフの国とドワーフの国の累計6つの国と、魔物の住処という物の7つから選択する。それぞれに該当する地点からランダムでスタートするらしい。

βテストでは王都固定だったが、これも魔物プレイヤーへの配慮だろう。何せβテストでは魔物が突然王都に現れ、命からがら逃げていくというのが頻発していた。プレイヤーのアバターはリスポーン出来るが、その時にスキルポイントを支払わなくてはならない。所謂デスペナだ。βテストでもそれは変わらなかったので、始まったばかりで弱いのにペナルティを払わされては堪らないと、必死になって逃げていた魔物プレイヤーを何人も助けてやったのは懐かしい。その結果兵士には敵認識されてそのうち王都を追い出されてしまったが、その時には欲しい情報は集めていたから問題無かった。


というわけで、スケルトンでありながらも堂々と、ドワーフの国である『ウェプス王国』を選ぶ。無論、これにも理由がある。

βテストでNPCに聞き、様々な本を読み漁り、得た情報。このゲームには、ヴァンパイアが存在する。殺した相手の血を啜る猟奇殺人鬼がそういった存在になり、日光で死んで行った、という伝説というか、御伽噺があったのだ。

それを見て、βテストで沢山殺して沢山啜った。結果、人間からヴァンパイアに転生した。その内訳で一番少なかったのが、ドワーフの5人である。5人目の血を飲んだら転生できるようになった。

累計人数なのか種類ごとの人数なのかは分からないが、後者の場合は、元々の数の少なさに加えてエルフほどプレイヤー人気が高くないこともあって、希少なドワーフが豊富にいる土地を選んだのである。

日光は痛いだろうが、初期支給のHPポーションがぶ飲みしながら近くの日陰に駆け込めば多分大丈夫なはずだ。

スケルトンからでも転生は多分できるだろう。そもそもヴァンパイアはアンデッドだ。なんなら正しいルートだとすら言える。βテストが終わって以来、如何にしてヴァンパイアになるかの計画を立てていた。

それを実行に移す時が、今やって来たのだ!


──続いて、チュートリアルを開始します。


出鼻をくじかれた気分だ。







チュートリアルはスキップ出来なかった上、同じようなことを繰り返し言われた。

端的に言えば、NPCとPCはシステム上同じタグ付けで扱われているからね!ということだろう。言い換えると、やりたければいくらでもNPCロールプレイも出来ますよ、ということだろうか。あとはチュートリアルらしくインベントリの使い方とかスキルの使い方とかも教わったが、これは本当に時間の無駄だった。何せβテストで知っている。

チュートリアルの最後にスキルポイントを用いてステータスやスキルの調整をしたが、それのためにスキップ出来ない仕様なら見直した方がいいと思う。


そんなユリウスのビルドは、魔法タイプである。ドワーフは筋肉バカが多いらしいのだ。生産職というのはSTRとDEXが大切な為、殴られるとほぼ確実に急所をぶん殴られて死ぬことになる。

故に、遠隔で殺すのだ。雷魔法を高い水準まで取得し、かつそこそこの威力、ダメージが通るくらいの数値までINTを上げる。これに必要なスキルポイントが200というラインだ。スケルトンはステータス上は人間と変わらないのにポイントが多い故に、強いのである。ドワーフくらいなら、ワンキルは無理でも麻痺の追加効果も込で一方的に嬲れるはずだ。

今からは殺戮ショーが始まるのだ!クソ長いチュートリアルから解放されたのだから!



──蘇生受付時間は30分です。新規に取得したポイントが存在しないため、リスポーンのコストは0です。リスポーンに設定された地点が見つかりませんでした。リスポーン地点は『ウェプス王国』内でランダムとなります。リスポーンしますか?


地上に降り立つと、周囲は広大な草原だった。日陰はない。故に、死んだ。アンデッド+『薄色』は陽の光に弱くなりすぎた。たったの20秒でHP全損である。

その後、ランダムリスポーンを繰り返し、12回目にしてやっと森の中にスポーンすることに成功するまで、日光に浄化され続けることになるのだった。

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