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37.戻って参りました

「そんなわけで、無事、森エルフの村に戻ってきました」

「誰に向かって言ってんだ……」

「さあてねえ。自分の感想って奴さ」

「そ、そうか」

「大和、村のことは何もしなくて大丈夫だからな。もっと大変だと思うけど……」

「そんなことねえさ。体がなまらないようにしなきゃな」

「相変わらずで安心したよ」


 お互いに苦笑いしつつ、拳を打ち付けあう。

 王都に帰還した俺は大和たちと協力してオハナシしたことの履行を求めた。

 曲がりなりにもにっちもさっちもいかなくなってしまった王国の状況を鮮やかに解決した俺たちに彼らも何ら要らぬ動きをしてくることはなかったのだ。

 勝手に呼び出し政治的な足の引っ張り合いで人身売買までしたにも関わらず、彼らから派閥調整の楔になって欲しいとまで言われる始末。

 身分も王国書記官と宰相に次ぐ地位を準備するとまで言ってきたのだった。しかも、各派閥の同意する旨まで記載された書状も付けて。

 どの派閥にも属しておらず、全派閥に対しオハナシをした俺は、彼らからしたら今回のように行き過ぎた争いにまで発展することを防止する楔となれる、と判断されても不思議ではない。

 だが、断る。

 あんな奴らのために汗水たらして働くなんてまっぴらごめんさ。

 貴族やら王やら、たんまりとお金をもらっているのだから王国民のためにしっかりと働けばいいんだよ。

 今後は異世界召喚なんて費用のかさむことはしないよう釘をさしておく。もし、やろうものなら、今度こそ……この先は何も言わなかったが、みんな顔面蒼白になっていたわよ。

 彼らの要になる人材は根こそぎ村まで連れてきたことだし、間違いが起こることは万に一つないはずだけどね。

 

 ははは。

 俺と別れたばかりの大和がローブ姿の壮年の男と何やら会話している。

 彼は宮廷魔法使いのトップである魔術師長だ。

 魔法なのか魔術なのか表記を統一しろよ、とか的外れなことを思ったりしたことも懐かしい。


「おーい、蓮!」


 別れたばかりだというのに大和が大きな声で俺を呼ぶ。

 

「どうした?」

「住む場所はどうする?」

「そうだな。池があるんだけど、その辺でどうだ? 木々が生い茂っているだろうから伐採していいか判断をもらってくれ」

「分かった。ええと、アザレアさんに頼めばいいんだったな」

「うん。アザレアに話を通しているから。準備ができたら呼んでくれ」


 大和は魔術師長を連れて北へと向かって行った。

 村の住宅がある位置から少し離した方がいいかなと思ってさ。争いが起きたりすることはないだろうけど、人間と森エルフはかなり習慣が異なるからな。

 俺は俺で先にやることをやっておくとしよう。

 仰向けにひっくり返っているパンダに目をやり、しゃあねえなとばかりに肩を回す。

 

「レンさん、どちらへ?」

「笹の補充にでも行こうかと」


 動き出そうとしたところで、ちょうどカルミアが家から出てきて肩を並べる。

 てくてくと笹の木の元まで歩き、幹へ手を当てた。

 収納。続いて隣の木からも収納。そのまた隣の木からも収納。

 笹の葉が無くなった木はこの後すぐに森エルフの誰かが元に戻してくれる手筈になっている。

 いや、ほんとチートだよな。森エルフの精霊魔法ってやつは。

 畑に撒いた種もみるみるうちに収穫までもっていけるし、彼らの魔力の元になる森の精霊とやらは際限なく湧き出てきている。

 肉と魚以外の食糧に関しては、食べたいだけ食べることができるという何ともまあ凄い事になっているのだ。

 それだけじゃないぞ。植物が元になっているものなら、種さえあれば何だって即準備できる。綿花とか染料とかね。

 羊と牛も街から連れてきたことだし、今後は家畜の飼育にも精を出す予定となっている。森エルフらは元々鶏に似た家畜を飼育していたから、飼育のノウハウはある程度問題ないだろう。

 そうそう、今朝、牛乳を飲んだんだ。牛乳なら森エルフたちも大丈夫なようで、この分だと乳製品全て彼らが食すことができる。

 食のバラエティーが増えて何よりだよな。一番喜んでいるのは俺だと思うけど!

 

「よっし、こんなもんでいいか」

「一体どれだけ入るんですか……?」

「分からない。笹の葉だったらスタックするし、数値的には99万まではまず入ると予想される」

「数が多すぎて想像ができませんね……」

「これだけあれば、しばらく大丈夫だろ」

「はい!」


 その時、むんずと背後から肩を掴まれる。

 気配を全く感じなかったのだけど……何奴。


「アザレアか」

「そのあからさまに残念そうな顔を止めろ」

「ええ、だってえ」

「お前のために骨を折ってやったというのに」

「一応、アザレアもだよな。ありがとうな。族長にもう一度お礼に行こうかな」


 胸をすくいあげるようにして両手を組んだアザレアはふんすと鼻を鳴らす。

 からかい過ぎたかもしれん。姉妹だというのに、姉の方はよく育っていらっしゃる。


「変な視線を感じるのだが」

「気のせいだろ。そうそう、大和たちに池のほとりはどうかと言ったんだ。少し離れていた方がいいと思って」

「そうだな。人間と暮らすなど村始まって以来のことだから。人間側にとってもその方がよかろう」

「俺はそのままでいいんだよな」

「無論だ。人間と暮らすという大決断も、お前がいるからと族長が口添し許可が下りたのだからな」


 そうなのだ。さっき俺がお礼を言ったのは、人間たちと一緒に暮らすことができるよう族長が村人を説得してくれたからなのだ。

 先に話をしておくべきだったのだけど、作戦行動に注視するあまり基本的なことが抜けていた。急な来訪にそのまま許可を出してくれた族長には感謝してもしきれない。

 問題を起こさぬよう大和とロザリオが見てくれることになっている。

 といっても、問題は起きないと思うけど……。


「全部で50人くらいだし、みんな研究気質が強く他の人にちょっかいかけたりしないと思う」

「ローブ姿の者ばかりだったが、人間の魔法使いだったか」

「うん。王国の宮廷魔法使いを根こそぎ連れてきたんだよ」

「魔法が無ければ悪さもできないということか?」

「うーん、少し違うけど間違ってはいない」

 

 魔法使いは何も宮廷魔法使いだけじゃあない。街で魔法を使った犯罪が無くなることはないだろう。

 具体的に魔法を使ってどんな犯罪が起きるのかについては、勉強不足のため何も分からないけどね。

 

 ◇◇◇

 

 幸い大木を少しばかり切り倒したところで十分なスペースが確保できた。

 池のほとりって景観もよく、なかなかいいんじゃないかな。

 宮廷魔法使いの面々と大和、ロザリオ。そして、見届け人のアザレアに俺とカルミア……大所帯になったな。

 でもま、後からこの場所が違うとかならないよう各自に確認してもらいつつ進める方が却って手間が少ない。

 

「まずは大和の住処からいくか?」

「いや、先に一番大きな宮廷魔法使いの研究棟からのがよくないか?」

「分かった。なら、その次は宿舎だな」

「おう。頼む」


 大和と魔術師長に目くばせし、場所を確定させる。

 よっと。

 音も立てずに研究棟が出現し、何人かが驚いて腰を抜かす。

 事前に聞いていたはずなんだけどなあ……。口をパクパクさせている人が殆どな状況である。

 

 続いて宿舎をどどーんと。


「中を確かめてくれ。この後、家が別に必要な者の分を出す。家族を呼びたい者は申し出てくれ」

 

 手が上がった何人かと街に行く日取りを決め、大和、ロザリオ、魔術師長の家を出す。

 これで一応は宮廷魔法使いたちの移設完了だ。

 宰相らが余計なことをしないように異世界から人を呼び寄せる魔法を使うことができる彼らを手元に置かせてもらった。

 ついでといってはなんだが、「呼んだ者を戻す手段が今のところない」とか言うので、ここで研究に勤しんでもらおうとなったんだ。


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転移したら無人島

・タイトル

拝啓、無人島でスローライフはじめました

・あらすじ

こつこつと生活を整えていく無人島生活。実は島が移動できる。

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