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32.門番さんおひさー

「……というわけなんだが、どうだ?」

「実現できるできないはともかく」


 大和が苦虫を嚙み潰し、さらに口いっぱいに頬張り、もうだめってくらいの渋面を浮かべている。

 せっかくの爽やかイケメンが台無しだぞ。えへ。

 

「ともかく?」

「えげつない。よくそんな手を考え付くな……この世界に来た時に蓮の頭に悪魔が住み着いたんじゃねえのか」

「先に言ったじゃないか。倫理観的にあんまりって」

「蓮と俺は権力争いに利用されようとしていたんだよな?」

「そうだな。いざという時には巨大な戦力になるし。アイテムボックスと言語能力があれば、商売にもってこいだろ。莫大な利益を生み出すことができるぞ」

「そんなもんか」

「そんなもんだよ」


 ただし、権力者の後ろ盾あってという前提条件がつくけどな。

 商売の仕組みがどうなっているか分からないけど、自由に手広く商売ができるわけじゃなさそうだし。

 ロザリオも言っていただろ。独占的な商業圏を持つ貴族がいるって。


「蓮殿の案は実現可能だとすれば、悪くないのではと思います」

「ロザリオ? 本気かよ」


 勢いよくロザリオの方へ顔を向けた大和に対し、彼女は静かに頷きを返す。

 彼女は確か騎士団に所属しているのだっけ。騎士団が支持する騎士団長派は王国の中だと一番まともな勢力の認識だ。

 政治と軍事を切り離す高潔な精神は立派なのだけど、裏を返せば政治的に彼らが後ろ盾になってくれることはない……と思っている。

 

「蓮殿の案は犠牲になる民が最小限で済みます」

「確かに、民間人が巻き添えになることは避けたいよな」

「はい。道義的にも各派閥はこれまで迎合し裏切りを繰り返してきました。直接的ないざこざに発展せずとも水面下で暗殺にまで手を出してたと黒い噂が絶えません」

「俺にもひたすら女の子を送って来ていたものな。情報源にはなったけど」

「大和様のお話しを聞くに、各派閥は策を巡らし懐柔や賄賂が日常茶飯事なのですが、雑です。今回も結局のところ、雑さの連鎖で連殿の言う『意味不明な状態』になったのではないでしょうか」

「だからといって俺たちも同じようにする、ってのが引っかかるんだよなあ」


 大和の言う事も理解できる。いくら各派閥がこれまでやらかしてきたからといって、俺たちも同じようにすれば王国の体質が変わることはないのかもしれない。

 目には目をの精神でいけば、終わることのない復讐の螺旋に突入してしまうことだってある。


「どこまで関わるか、難しいところだ。このまま放置する、のが俺たちにとっては楽なんだがそう言うわけにもいかないんだろ?」

「街の人が蹂躙されることが分かっていて、俺たちに止める力があったとすりゃあ、放置したくはないってのが本音だ」

 

 大和の思いを聞いてみたいと思い問いかけてみたら、考えの根幹が似ていることは分かった。

 悩ましいところがそこなんだよ。

 大和がどれほど強くなったのかは分からないけど、俺とパンダがうまく立ちまわることができたなら彼抜きでもそれなりの成果をあげることはできる……はず。

 

 問題はその先にあるんだ。街に迫る辺境伯軍を無傷で退けることができたとして、その先はどうなる?

 放置するのか? 放置した場合はもう次に何が起こるのか予測不能だ。

 王都周辺が王領だとすれば、辺境伯軍が周囲の村を略奪して回るかもしれない。辺境伯領に攻め込んだガルシア王国の軍が何故か辺境伯軍と協力して王都まで攻め寄せるかもしれない。

 これまでの経緯を見るに、最悪の斜め上を想定しなきゃなんないんだ。


「各派閥の動きは予測不能。ならいっそ、俺たちが操って、更には『元の世界に戻る方法』もゲットしちまおうって発想がでたんだよ」

「蓮の言う事も分からなくはねえんだ」


 俺だって答えを持ち合わせていない。こういう策ならあるというのは提示したが、もっと良い手があるのなら教えて欲しいよ。

 いっそのこと大森林に引きこもった方がいいんじゃないかとさえ思ってくる。

 大和と俺は望んでこの世界に来たわけじゃない。むしろその逆だ。俺に至っては人身売買までされてしまったんだからな。

 そんな奴らの王国の人命が、なんて……そこまで割切れたらいいんだけど。俺には無理そうだ。

 虐殺ヒャッハーを見て見ぬふりはできない。

 

 ◇◇◇

 

 翌日――。

 街から少し離れたところで一夜明かした俺たちは、えげつない案を採用することを決めた。

 権力者たちには仇こそあれ恩などないことが決め手になったのだ。やはり、何ら落ち度もない街に住む人たちや、王国の各村々に住む人たちの安全は確保したい。

 なので、自分たちで戦局と政局をコントロールできる道を選んだというわけだ。

 王国の各派閥からどれだけ恨まれようが、俺たちには帰る場所がある。そう、森エルフの村が。

 大森林まで刺客を送るのは骨が折れるぞ。結界の入り口も二か所しかないわけだからな。安全性は抜群だ。

 

「よっし、一気に行くぞ」


 街の外壁の一部を収納し、街の中に入ったパンダに乗る俺とカルミアは真っ直ぐ城へ向かう。

 大和とロザリオは別行動で、城に戻ってもらっていた。

 街の中は先日来た時より遥かに人通りが少なく、家の中に閉じこもっている人が多いのだろうと推測する。

 

 馬より速くパンダが駆け、すぐに城を取り囲む堀とその内側にある立派な城壁が目前になってきた。


「まずはここからだ」


 堀の水を全て収納。

 とたんに水を称えた堀が空堀になる。ぴちぴちとところどころで魚が跳ねていた。

 そこへ、空になった堀に降り立つパンダ。背には俺とカルミアが騎乗したままに。

 続いて、城壁に手を当てアイテムボックスに仕舞い込む。

 ほう、城壁はパーツ扱いになるのか。一気に全部を収納できるわけじゃなく、城壁は柱単位とでもいうのだろうか真っ直ぐ上まで四角い穴が開いた感じになっていた。

 間髪入れず城壁をぐるりと回り、完全に城を丸裸にする。

 ついでに門と跳ね橋も頂いておくか。

 

「たのもー」

「な、何者だ……」


 向かってくるではなく、たじろぎ後ずさる門番にいい笑顔で右手をあげる。


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転移したら無人島

・タイトル

拝啓、無人島でスローライフはじめました

・あらすじ

こつこつと生活を整えていく無人島生活。実は島が移動できる。

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