都合のいい関係の幼馴染なんて絶対に好きになんてなるもんか!
ズキズキと痛む頭を抱えながら、俺はゆっくりと目を開けた。
すると、そこは見知らぬ場所。
明らかに自分の部屋ではなくて……
「ほ、ホテル!?」
エッチなホテルらしき部屋のベッドの上に俺はいた。
生まれてこの方、彼女いない歴年齢を歩み続けている俺。
昨日は合コンに参加して、調子に乗って飲みに飲んでいたところまでは覚えている。
さすがに俺も一人で、ラブするためのホテルに泊まる気概はない。
一人だったら、まず間違いなくネカフェかファミレスだ。
つ、つまり。
俺は誰かと一晩を共にした可能性が非常に高いし高い。
が、しかし。
相当に酔っていたようで、誰と寝たかをぜんぜん思い出せない。
「んっ」
毛布をかぶり顔を見せない一緒に寝た誰かの吐息。
可愛かった沙友里ちゃん?
気さくで優しかった美玖ちゃん?
ギャルっぽかったけど超良い子な佳奈美ちゃん?
後は……。
偶然に合コンに参加してた幼馴染である咲奈くらいだな。
まあ、こいつはないか。
さて、合コンの中で良い感じに話せていたのは美玖ちゃんだった。
うん。たぶん、美玖ちゃんと俺はベッドであれした。
「よく覚えてないのはもったいない気がするけど……。ひとまず、俺は大人になったんだな……」
嬉しさのあまりガッツポーズを決め込んだ。
そして、俺は一晩を共にした相手を確認すべく毛布をめくって中を見た。
「は?」
毛布を引っぺがすと同時にさーっと引いて行く血の気。
それもそのはずだ。
「……ん~。朝?」
「な、なんで、お前が横で寝てるんだよ!」
「ふあ~。眠い。って、待った。なんで、雅人がいるの? しかも裸だし」
ガタガタと体の震えが止まらなくなる。
いや、待った。本当に待ってくれ。
幼馴染の咲奈とやったの?
幼稚園からなぜか一緒になることが多かった幼馴染と寝てしまったのか?
「よ、酔った勢いで泊ったんだろうな。ほら、俺達、金あんまりないしさ。割り勘なら安いだろ? で、寝苦しくて互いに酔っぱらってたし、服を脱いでしまっただけだ。うん、そうに違いない」
「あ~、確かにあり得るね。べろんべろんだったもん。よいしょっと」
布団から完全に出てくる咲奈。
程よい肉付きをした体をついつい見てしまう。
俺の視線をあまり気にしていない様子の咲奈は、得も言われぬ顔で股間あたりをさすり始めた。
「なんか痛いんだけど。やっぱり、やったっぽくない?」
「まあ、待て。まだ完全にやったと決まったわけじゃ無い」
「でもさあ、立ち上がったと同時にお布団からこんなの出てきたよ?」
中身の入った薄い風船を見せつけられる。
しかも、ちょっと血がついてるのが生々しい。
そして、証拠を見てしまったことで鮮明に酔った後の出来事が蘇ってきた。
『お前がお前がいなければなあ……』
美玖ちゃんとお近づきになりかけていた。
しかし、幼馴染の咲奈が俺の恥ずかしいエピソードを笑い話として振る舞った。
結果として、からかう対象として見られ、どう見ても脈なしに。
『あははは、ごめんごめん。てか、終電なくなったけど、どうする?』
『タクシー代なんかよりも、そこらのネカフェで泊った方が安上がりだ。俺はネカフェに行く』
終電もなかったので格安ネカフェへ行こうとした。
が、しかし。
『ほんと今日の合コンはクソだったし私は飲み直したい気分だしさ付き合ってよ。騒いでもOKなホテルで。ほら、ホテルの料金は私が払うから』
ということで、俺たちはお酒類をコンビニで買いこんだ。
そして、俺と咲奈は休憩所みたいなホテルで飲みなおすことに。
初めて入ったのに緊張しなかったのはきっと酔いに酔っていたからだろう。
居酒屋と違って、ブッ潰れても文句は言われない場所。
ハイペースでストロング系の缶酎ハイを二人でぐびぐび飲みまくりながら、適当な話題でゲラゲラと笑いあった。
そして、俺はこんな愚痴を言ってしまったんだ。
『美玖ちゃんとはワンチャンあったかもしれないのに! お前のせいで台無しだよ!!!』
『あはははは。ざまあみやがれ! 私だって雅人がいなきゃ、超ぶりっ子で男どもに媚びへつらってやったってのに! 邪魔されて超最悪!』
『あ?』
『ったく。しょうがないなあ。はいはい、責任取ってあげますよ~。ほら! どうせ、女の子とやりたかっただけなんでしょ? ほれほれ、襲ってみやがれ!』
ホテルのベッドに大の字で寝転がった咲奈。
その咲奈に俺はあろうことか……
『後で文句言うなよ』
といって、俺は酔った勢いで部屋にあった備え付けのゴムを手にして……
幼なじみを襲ったというわけだ。
完璧に思い出した俺。
頭を抱えてどうすべきか悩む。
そしたら、咲奈が俺に近づいて来てこう言うのだ。
「まあまあ。気にすんな。私から誘ったんだし。いや~、まさか幼馴染の雅人で捨てるとは思って無かったよ」
「俺もお前で捨てるとは思って無かったんだが?」
「そっか。そっか。てか、まだ朝の6時じゃん。おっと、そうだ。時間あるし、もう一発いっとく?」
「おい、その軽いノリはなんだ」
「わりと気持ちよかったからね。正直、私はエッチするの大好好きかも」
「ちょ、おまっ」
本当に気持ちよかったらしく、咲奈にいきなり襲われる。
それから、俺達は……二度目の経験を済ませた。
そして、俺と咲奈は完璧に賢者となる。
勢いで2回戦目をはじめ、さらには3回戦としてしまった後、途方もない疲労感と倦怠感に襲われ理性を取り戻したからだ。
俺の横には時間が時間なのでホテルを出るため、シャワーを浴び服を着たちょっと気まずそうな咲奈が立っている。
「あははは……。私達は何をしてたんだろうね?」
「あぁ……。ほんと、何をしたんだか」
「今日のことはどうする?」
「どうもこうも、普通に忘れてだな……」
「いや、うん。そうだよね」
今までの気さくな幼馴染という関係でいられるわけがない。
忘れようとしても、忘れらないほど鮮明に残る咲奈との情事。
だからこそ、とある話を切り出した。
「友達(関係あり)っての意外と居るらしいな」
「フレンドのこと?」
「そうそう。俺達も一度は関係を持ったわけで、もはやその関係だろ」
「そうなの?」
「で、だ。変に元通りの関係を~って言うのは無理だ。またするかは別として、俺たちもそういう関係になったと割り切って考えた方が気が楽だろ。ほら、あいつと一晩の過ちを~って色々考えこまずに済むし」
関係を持ったとはいえ、幼馴染の咲奈と一緒になるビジョンが沸かなかった。
むしろ友達としてこれからもずっと仲良くしていたいくらいである。
ただ、何も無かったことにして友達を演じ続けるのはきっと無理。
なら、あったことはあったと素直に認めた方が気が楽だと思い提案していた。
「なるほどねえ。確かに、あれは過ちだ! って認めないよりか、認めちゃった上で関係を続けた方が気楽か」
「よし、じゃ、これからも友達だ。ただし、まあ少し特別なだけど」
賢者の時間も終わりかけ、俺と咲奈は新しい関係へ。
そうして、築き上げた関係は意外と悪くないものであることを、この時の俺と咲奈はまだ知らないのであった。
*
「は~、彼氏欲しい」
ため息を吐きながらぼやくは幼馴染であり、せのつく友達である咲奈。
季節は12月20日。
年内における大学の講義は終わったのだが、出された課題をせっせと一緒に頑張っている最中だ。
「俺だって彼女が欲しい」
「クリスマスってなんでカップルはイチャラブしてんの?」
「ああ、まったくだ。本当に何であんな見せつけるようにべたべたしてんだよ」
「ね~。は~、私も誰かとイチャラブしたいな~」
「同じく」
無駄口を叩きながら課題をだらだら進める俺ら。
俺の部屋にあるテレビではクリスマスデートの特集がこれみよがしに始まりやがる。ったく、本当に嫌な時期だ。
チャンネルを変えようとしたそのときであった。
「恋人がいないもの同士でクリスマスは慰め合う?」
「馬鹿言え。誰がお前なんかと慰め合うもんか」
「え~。つながった仲じゃん。結局、あの後も何回もしてるし」
「そりゃまあ。覚えたてで楽しいというかあれなこともあって……」
なんだかんだで、互いにこう、なんというか、ちょっとあれな気分なとき、誘ったり、誘われたり、といろいろとしてしまっている。
なんでかは意外と簡単で、互いに覚えたての快感を忘れられなかった。
そりゃもう、クリスマス前、世のカップルを妬んでいるような俺たちだ。
疑似でもそういう行為を味わい少しでも幸せな気分に浸りたい。
で、ずるずると恋人がいない虚しさを互いに埋めあうようになってしまったわけだ。
「恋人がいない者同士、気楽に慰め合ってるようなもんだって私は思うわけ。だからさ、それはクリスマスも対象範囲でしょ」
「でも、あれだろ。お前の慰め会うって、イルミネーションやら、展望台とかでロマンティックな経験をご所望なんじゃないか?」
「もちろん。正直、クリスマスだったら、肉体的な慰めあいよりもそういうのが良いに決まってるでしょ」
「めんどくせ」
「ひっど。いいじゃん。肉体だけのあれじゃなくて、普通に恋人みたく遊びに行くってのも」
「いやいや、誰がお前とイルミネーションを見に行きたいって思う。てか、お前は俺で満足なのか?」
「不満だよ!」
ぐっとこぶしを握り、演説かのように熱く語る咲奈。
「それでも、私は横にいるのが恋人じゃなくともイルミネーションを見て、クリスマスっぽい何かを経験して感傷的になりたいんだよ! 」
「嫌だ。デートするのはせのつく友達のする行為の範囲外だ」
「聖の6時間」
「あ?」
「イルミネーションを見に行ってくれたら、聖の6時間が楽しく過ごせるかもね」
「……いや、まあ」
「で、どうしたい? あ~あ。クリスマスだし、普段はしないこともしてあげて、ちょっと張り切ってもいいんだけどなあ……」
自信満々したり顔。
そんな咲奈に俺はあっさり敗北する。
「ならしょうがない」
気の赴くまま男として快楽をむさぼりたい俺。
彼氏じゃないとはいえ、誰かと一緒にイルミネーションを見てクリスマスを楽しく過ごしたい咲奈。
こんな俺たちの日常はどうでもよく続くのだ。
*
クリスマス当日。
人肌恋しい夜を一緒に過ごす女友達であり、幼馴染である咲奈とイルミネーションを見にやってきた。
なんとなく手を繋ぎ、なんとなくキスしてみたり、なんとなくおいしいご飯を食べて見たり色々とする。
ただし、別に恋人ではない。
寂しさを慰めるために『しょうがなく』二人で過ごしている都合のいい関係だ。
夜も更け、予約したホテルに入る。
そして、夜な夜な遊びに遊んで疲れ果てた。
責任なんて互いに取らない。取らせるつもりもない。
さきにへばり、横ですやすやと眠る咲奈の髪を触りながらぼやく。
「彼女欲しいなあ……」
咲奈との情事は別にわるくない。普通に二人で遊ぶのも楽しい。
だけど、それだけだ。
結婚して家庭を持って、子供を育てて、老後も一緒にゆったりと過ごしたい。
そういう風な感情は一切という訳ではないが、あまり想像できない。
大学の同じゼミにいる本郷さんとで思い浮かべると未来を想像できるのに。
この差は何なんだろうか?
「ああ、なるほど。わかった。彼女にしたくない理由は知り過ぎてるからか」
意外と金銭について厳しい。
遅刻するとうるさい。
好きな人を管理したい願望あり。
小物が大好きで部屋はおしゃれ。
いま、あげたどれもが、俺がいまいち好きになれない咲奈の部分。
もし仮にだ。
咲奈を彼女にしたのであれば、全てをとまではいかずとも、色々と受け止めてあげなくては駄目だ。
それが嫌なんだ。
俺は咲奈と付き合っているわけではない。
だからこそ、俺の部屋がダサいからと言って小物を置きたいと言ってこようが、『死ね!』と言って断ることができる。
しがらみが嫌なんだ。
だからこそ、俺は咲奈と違って、
金銭はある程度ルーズ。
寝坊しても優しい。
管理してこない。
おおざっぱで部屋のレイアウトは適当。
そんな風に自分に合う性格? というか、個性を持った女性を彼女にして、ゆくゆくは結婚したいと思ってしまう。
うむ、一緒のゼミの本郷さんがそういう人だからこそ、俺は彼女との未来を想像し、結婚したいと思えるんだ。
だからこそ、俺は……口にする。
「こいつとはないな」
横ですやすや眠る咲奈。
決して、こいつとだけは生涯を共になんてしない。
咲奈Side。
「なにやってんだろ」
ベッドの上で疲れ果てぐったりしてる都合のいい男。
そんな彼とクリスマスに慰めあった。
イルミネーションを一緒に見たり、おいしいご飯を食べたり、なんとなく手をつないで歩いた。
で、だ。予約したホテルでクリスマスだからって互いに調子に乗って、愛をささやき合きながらというプレイをしていた。
もう、あれだった。
いつも以上に凄く良かった。
ホテル前のデートも、ホテルでのあれも。
そんな経験を経て私は気が付いてしまったわけだ。
「あははは……。私、雅人の事、好きなんだ」
大事な気持ちに。
だからこそ、私は責任を取らせてくれと言ってもらえる女になろうと頑張ることにした。
その決意を胸に横で寝ている雅人にキスをする。
「雅人が私を好きじゃない理由って多分あれだよね」
私は我が強い。
けど、雅人はそういう部分はあまり好きじゃないんだと思う。
互いに互いの我をぶつけ合う仲。
きっと、そうだからこそ、都合のいい友達が落ち着く。
なら、そうしなくすればいい。
だって、もう私は……。
「好きな相手と一緒にいたいなら、私は変われるに決まってんじゃん」
もう目の前にいるこいつのことが大好きなのだから。
ちょっと未来の二人side
「よっ。今日も遊びに来てあげた」
雅人の部屋にやってくる咲奈。
いつも通りに部屋へあがった。
「ほんと、殺風景な部屋なことで」
「うっせえよ。そう言って、俺の部屋に余計な小物を置こうとしやがって……」
いつも通りに雅人がそう言うと、咲奈はいつもと違ったようにこう答える。
「だって、殺風景だと面白くないじゃん。というわけで、こんなのどうかな?」
咲奈が取り出したのはくだらない小物ではなく、ちょっとした加湿器。
モノクロでシンプル。それでいて、実用的。
最近、部屋が乾燥していて喉を傷めている雅人にとってありがたいものだった。
「お、おう。確かにそれなら……」
「でしょ? 最近、気が付いたんだよ。雅人は意味のないものが嫌い。けど、ちゃんと意味のある小物なら喜んでおかせてくれるってね」
「あ、ああ」
雅人の気持ちは揺らぐ。
あんなにも自分勝手で部屋にいらない小物を置こうとしていた咲奈。
そんな彼女がこちらに歩み寄り、こちらを気遣ってくれることに。
思いがけない行動が彼の鼓動を早くする。
なにせ、乾燥でのどが痛いと言っていたのを心配して、加湿器なんてものを持って来てくれる優しさを見せられれば当然だ。
優しくされて、嫌な人はこの世にあまりにいないのだから。
「でさ、ほい。今日の夜は寒いから温まる鍋にしようよ。材料買ってきたし」
「いくらだ?」
しっかりと割り勘派の咲奈に材料代を渡そうと財布を取り出す雅人。
しかしだ。恋に気が付き、雅人が嫌う自分を変えようと決めた彼女の手は緩めることを知らない。
「今度、外でご飯を食べたときに奢ってよ」
「え? いつもは意外と金に厳しいのに、い、いきなりどうしたんだよ」
「大事なお金以外はあんまり管理しなくていいかな~って」
「お、おう」
「さ~てと、お鍋を作らなきゃ」
楽しそうに笑いながらキッチンへ向かう咲奈。
(ふふふ。雅人。私が歩み寄る姿はどうかな?)
「もう、飯時だしな」
キッチンへ向かう咲奈について行く雅人。
(な、なんなんだ? 最近の咲奈は……。お、俺に歩み寄ろうとしてる感が……)
「ねえねえ、雅人。こんな優しい私に惚れちゃだめだからね?」
(さっさと惚れて告白してね?)
「あほか。誰が、お前なんかに惚れるもんか」
(さ、咲奈はあの幼馴染の咲奈なんだぞ? ほ、惚れてたまるもんか!)
都合のいい友達な二人の日常は続く。
けど、都合のいい関係の終わりは……
意外とすぐそこに待っているのかもしれないし、待っていないかもしれない。