表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/44

あれから2年後半が過ぎました

 あれから2年半が過ぎました。


 ……当たり前だけど、神様から逃げきる方法はいまだ見つかっていない。海外に逃げたら?って話は出たけど、時間稼ぎにしか、ならないんじゃないかって……。


 今や何だってグローバルだからね。


 つまり今のところ、僕に待っているのは、「神様の元で永遠の退屈」or「自殺して逃げ切り自由の身」の二択って事だ。


 あはははは。

 どっちも選びたくなーい……って、ね。


 でもまあ、そろそろ覚悟を決めなきゃなんだよねぇ……。


 あ、ちょっと暗い話になっちゃったね!


 ……みんなの事について話そう。


 赤ちゃんたちは、最近じゃ安定して人型をとるようになって、二匹から2人に昇格したんだ!


 2人はやっぱりライオン獣人では無く、ユキヒョウの獣人で……ものっすごい美幼女に育ってる。

 どのくらいの美幼女ぶりかと言うと、お散歩やお買い物に連れて行く度に、スカウトに合うという美形ぶりで、世の中にはこんなにスカウトの人がいたんだ?!……と、僕らを驚かせる程に。


 宍戸先輩?……もちろんデレッデレだ。


 2人は将来、パパ(宍戸先輩)のお嫁さんになるって騒いでる。宍戸先輩はニコニコと、「ああ!もちろんだ!二人がお嫁さんになるのを楽しみにしてるぞっ!」って嬉しそうに答えていた。


 ……恵美ちゃんは、ほのぼのと話に聞いていたが、僕はなんだかこんな話、以前も聞いたよな……???って、妙に勘ぐってしまった。


 だってさ、2人とも2歳児にしては、妙に頭が働くし、落ち着いてて……なんだか人生2回目感があるんだよね。

 気のせいかも知れないけど……。


 ちなみに、宍戸先輩の前世の妻×2は、チビッコだった頃から宍戸先輩に惚れていて「大きくなったら2人ともお嫁さんにしてね?」ってずーっと言ってたんだ。宍戸先輩はそれに「もちろんだ!楽しみにしてる!」って答えちゃってて……結局は、そうなっちゃったっていうね……。


 ……。


 まあ、余命いくばくも無い僕には、三人のこの先の事なんて知る由もないけど……。多分、僕の勘は正解な気がしてる。


 恵美ちゃんはと言うと、リカルドと去年、結婚式を挙げて、その後程なくして、サクッと六つ子を産んだ。


 さすが、やると決めたら素早い恵美ちゃんだ。


 そんな訳で今や「猫獣人繁殖センター」は大忙しだ。


 所長の悠里くんは、赤ちゃん達が可愛いくて仕方ないらしく、恵美ちゃんには、また産んでもらいたいな〜って、真剣に語っていた。……リアルでサッカーチームが出来るかも知れない。まあ、悠里くんもリカルドもお金持ちだから、そのくらい産んでも育ててられるだろうし。


 ……先日、遊びに行ったら、やっぱりリカルドが赤ちゃんたちに吸われていた。


 もうね、ソレ、絶対に戻らないと思うよ。


 だってさ、雪乃ちゃんと雪菜ちゃんが卒業したと思ったら、次は六つ子ちゃんに吸われてる。悠里くんはまだまだ恵美ちゃんとリカルドを繁殖させる気だし……。つまり、リカルドのオッパイに、安息の日はそう簡単には訪れないって事だ!


 この間、嫌がる獣型のリカルドを抑えつけて見たら、雪乃ちゃんと雪菜ちゃんの代から使いこまれた2カ所は、今でも現役で活躍中らしく、そこだけ見事に毛が無くなってた。


 ……いいのか、コレ???

 前世のパパとして、僕はちょっとだけ心配になっちゃったよ。


「これからは、男も育児に参加する時代だよ……!」って悠里くんはリカルドを励ましていたけど、そこに参加しちゃえる男は、そう居ないんじゃないって僕は思う。少なくとも僕は、自分の乳は差し出せないかな……。


 恵美ちゃんは……なんと、覚醒した。


 六つ子ちゃんを妊娠が判明してすぐに、赤ちゃんたちを育てるお金欲しさに、仕事を真面目にこなすようになったのだ。


 前に宍戸先輩が、子育てにお金がかかると言ったのが、ここに来て効いたらしい。リカルドも悠里くんもお金は大丈夫なんだよ?って言ったけど、恵美ちゃんは、世の中何があるか分からないから、私も頑張るって言ったそうだ。


 そんな訳で、先月から産休も明けて、仕事に復帰している。


 実は恵美ちゃんは、宍戸先輩と会社に保育所を設立したくらいから、一目置かれるようにはなってて、それもあってか、今や宍戸先輩と肩を並べる程の若手のホープとされちゃってる。


 ……ま、それで悠里くんと在宅で働いているリカルドが、お仕事で忙しい恵美ちゃんに代わって、吸われまくる事になっているんだけどさ。


 恵美ちゃんに「母は偉大だね!」って言ったら、「恵美とリカルドが偉大なんです!」って言われた。……確かに、そうなのかも知れない。


 僕は先日、会社を退職した。


 ギリギリまでお勤めしてもいいのだろうけど、いくらお荷物社員だからって、突然消えたりしたら会社に迷惑かけちゃうからね。宍戸先輩と恵美ちゃんは理由を知っているから、最後の挨拶の時は号泣してた。でも、他の人たちは、まあ……お疲れ……って感じだった。つまり、僕はとうとう覚醒しなかったって事だ!!!


 エリオスは……棋士を引退してしまった。


 本気で僕と心中する気らしく、資産を売却したり、不要な物を処分したりして、マジで身辺整理に余念がない。


 ……あれから何度エリオスを説得しても、エリオスは意見を変えてくれないのだ。


 はあやさんはどうするんだ?!って言っても、君に憧れて棋士になった後輩たちはどうするんだ?!って言っても、生きていたら、前世の奥さんや、新しい素敵な出会いがあるかも知れないんだぞ?って言っても、笑うだけで、手続きを進めている。


 ……そんな訳で、僕は決めた。そっと居なくなろうって。


 自分で死ぬなんて、やっぱ僕には怖すぎて出来ないかも知れない。だけど、エリオスと心中なんて、もっと嫌だ。……僕は、エリオスに死んで欲しくないからね。


 みんなにも、お別れを言うのは、止める事にした。


 まるで、ちょっと顔を見に来たって感じで、みんなの顔を見て、またねってお別れするのが、一番いいって思ったからだ。だってさ、最後だって思ったら、お互いに離れがたくなっちゃうだろ???


 だから、恵美ちゃんたちの家には、アイスクリームを持ってフラリと遊びに行ったし、宍戸先輩のとこには話題の店のドーナツを買って遊びに行った。


 またね!……って、僕が言った時、恵美ちゃんだけは、ギューって抱きついてきたから、もしかしたら恵美ちゃんは、何か感付いていたのかも知れない。


 ……恵美ちゃんと僕は似てるから。


 宍戸先輩はね、ドーナツが旨いって喜んでた。雪乃ちゃんと雪菜ちゃんも、美味しいって沢山食べてくれた。……仕事を辞めたので、並ばないと買えない超・人気店のドーナツを持ってったんだよね。それが三人から大好評で、僕は満足だった。


 先輩は、「泊まって行かないか?」って言ってくれたけど、「夜にエリオスとご飯に行くからまたね〜。」って言って帰ってきた。


 ……その夜、僕は微々たる退職金を使って、エリオスを高級焼肉店に誘ったんだ。……もしかしたら、エリオスは来なれてるかも知れないけど、僕にとっては憧れの焼肉屋さんで、値段なんか気にせず、バクバクと食べた。


「はー……お腹いっぱい!!!」


 お会計は驚きの額だったけど、後悔はない。

 最後の晩餐だしね。


「いいのか理人……。」


 僕に奢られるなんて、滅多に無い事にエリオスが気遣わしげに言う。


「いーの!退職金、使わななきもったいないし。」


「……そうだな。」


 明るい月夜で、僕たちは駅までブラブラと歩いた。

 お酒を飲んだから、今日は電車なのだ。


「……泊まっていくか?」


「んー?……ばあやさんに悪いから、やめとく。僕が来ると夜中でも起きて出迎えてくれちゃうし。……次はさ、しゃぶしゃぶ行こうぜ?まだ退職金あるからさ!……あ、僕はここから電車に乗るから……。」


 ……ごめんね、エリオス。

 これで最後だ。……今世もお世話になりました。


 僕が地下鉄の駅に降りようとすると、エリオスにグッと腕を掴まれる。


「ま、待ってくれ、理人。」


 え???

 ……何か、気づかれた???


「食べすぎて気持ち悪いんだ。少し食休みに付き合ってくれ。」


 エリオスは苦笑いしながら、小さな公園のベンチを指差した。


「……いいよ。どうせ無職だし、終電に乗れれば。」


 もしかしたら、僕もちょっと別れがたかったのかも知れない。エリオスの提案に笑顔で頷く。


「コンビニでコーヒーでも買ってこよう。……食べすぎにコーヒーは良いらしいからな。」


 僕がベンチに座るとエリオスがそう言って、コンビニまで走って買いに行ってしまった。


 ……はあ。


 明日の事を考えて頭を振る。気が重すぎる。自ら死を選ぶなんて、僕に出来るだろうか???痛いのも、怖いのも嫌だ。……でも、神様から逃げきったら、また転生してみんなに会えるかも……?だから……。


 でも今夜はまだ、それは考えちゃダメだ。エリオスはコーヒーを買って戻ってくる。せっかくなんだし、楽しまなきゃ……!


 そ、そうだ!……美味しかった焼肉の事でも思い出そう。


 ……僕はいつもは、カルビよりロース派なんだけど、さすが高級焼肉店のカルビは違ったよなぁ……。すごいサシが入ってるのに油がしつこくなくて、お肉の味もしっかりするのに蕩けるようで、すごく美味しかった。内臓系も臭みが無くて、食べ易かったし、アッサリ系とコッテリ系のお肉で無限ループに入れるかと思ったよ。


 しかも、何より焼肉のタレが旨かったんだよなぁ。


 単独だと少し甘みが強い気がしたけど、お肉につけると合たんだよね。塩見はあるのに、濃すぎないからお肉の味も感じられるし、サラッとしてるのに適度にお肉に絡むのが良かったな。


 ……なんで市販のタレってあんなに濃くてドロドロなんだろう?タレ味が濃すぎるから、お肉よりタレを食べてる感じだし、ドロッとしてるとお肉の食感も邪魔されるよね?

 ……僕がいつも買ってた奴が悪いのかな?実家で使ってたのを、何も考えずに買ってたけど、失敗だったかも。今度、時間がある時に、色々なメーカーの焼肉のタレを買って、何が良いか検討しよう。……あ、そんな時間、僕にはないんだっけ!なんか悔やまれるなぁ……!


「……待たせたな。大丈夫か?」


 ハッとして顔を上げると、エリオスがコーヒーのカップを持って、心配そうに僕を見つめていた。


 ……し、しまった。

 焼肉と焼肉のタレについて熟考してしまった。


「ごめん、考え事してて……。」


「そうか……。」


 エリオスはきっと神様関連の事だと思ったのだろう、真面目な顔で僕の隣に座った。


「……不安だよな。だけど、俺も一緒だ。」


 エリオスは僕の手をギュっと握る。


 ……えっと……。


 焼き肉のタレについて考えてただけなんだけどな。

 しかも、君を置いて失踪する予定だし……。


「エリオス……あの。コーヒーありがとう!僕、猫舌だからアイスコーヒー、嬉しいよ。」


 ……辛気臭い話なんかしたくない。今日はエリオスと過ごす最後の夜なんだ!


 僕はエリオスが買ってきてくれたアイスコーヒーを笑って飲み干した。




 ◇◇◇



 ハッと目を覚ますと、僕は毛布で簀巻きにされて、地べたに転がっていた。


 ……え???


 ど、どういう……事???


 目をパシパシと瞬かせる。


 毛布はふんわりとした肌触りの良い物だが、ロープか何かで硬く縛られれいるのだろう、まるで体が動かせない。地べたは固く、何か模様?が書かれている……。


 えーっと……公園でエリオスに貰ったコーヒーを飲んで……。そこでプッツリと記憶が途絶えている。……つまり、これをやったのはエリオスって事なのかい???


 もしや、失踪する気だったのがバレたのか……?!

 あいつはヤンデレだから、こうして僕が逃げないように簀巻きにして……。


 でも、だとしたらここは……どこ???


 見える限りだと、洞窟?みたいな雰囲気だ。

 じめっとしていて、なんだか暗いし、蝋燭の明かりくらいしか無い。エリオスのヤツ、何をする気なんだ?!


「お気づきになりましたか、理人さん。」


 背後から優しく声をかけられモゾモゾと動くと、その人は僕の正面に回ってくれた。


 え……。


「ば、ばあや……さん?」


「理人さん、すみませんね。こんな所でこんな格好をさせてしまって。……もうすぐ英良様……いえ、閣下が見えますから、そうしたら三人であちらへと参りましょう。」


 ???


 ば、ばあやさんも一緒に死ぬ気なのかい?!


「ば、ばあやさん、ダメだよ?!確かに、ばあやさんてば、老い先短いけど、早まってはダメなんだぞ?!」 


 ばあやさんは、きょとんとした顔になり、フフフと笑った。


「……。……本当に閣下は、何も理人さんにお話していないのですね。理人さん、私たちはね……。」


 ばあやさんがそう言いかけると、背後で咳払いの音がした。


「勝手に理人に話さないでくれないか?……準備を頼む。」


 エリオスがそう言うと、ばあやさんはコクリと頷き視界から消えた。


「……エリオスぅ。これ何だよ。なんで簀巻きになんかしたんだよぉ。」


「理人が俺を置いて、失踪しようとするからだ。簀巻きはお仕置きだ。それに、暴れて落とすと厄介だからな。」


「ん???落とす???……僕たち心中するんじゃないのかい?」


 エリオスは屈んで僕を見つめる。……ひえっ、なんか笑ってる?!


「それもロマンチックだが、そう見せかけて、お前を連れて逃げようと思ってる。」


「逃げる……?どこに???」


 えっと……海外に逃げても時間稼ぎにしかならないって、黒上さんたち、言ってたよね???……それにここ、エアポートにも港にも見えないんだけど?!


 なんだか、めちゃめちゃ嫌な予感がする。


 引きつった笑顔でエリオスを見つめると、エリオスは真っ黒い笑顔を僕に返してくれた。


「そうだな……神様が絶対に来ない場所。」


 ……ど、どこでしょう?!


 なんだか心当たりがあるんですが?!








最終話まで毎日8時に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ