あれから2年後半が過ぎました
あれから2年半が過ぎました。
……当たり前だけど、神様から逃げきる方法はいまだ見つかっていない。海外に逃げたら?って話は出たけど、時間稼ぎにしか、ならないんじゃないかって……。
今や何だってグローバルだからね。
つまり今のところ、僕に待っているのは、「神様の元で永遠の退屈」or「自殺して逃げ切り自由の身」の二択って事だ。
あはははは。
どっちも選びたくなーい……って、ね。
でもまあ、そろそろ覚悟を決めなきゃなんだよねぇ……。
あ、ちょっと暗い話になっちゃったね!
……みんなの事について話そう。
赤ちゃんたちは、最近じゃ安定して人型をとるようになって、二匹から2人に昇格したんだ!
2人はやっぱりライオン獣人では無く、ユキヒョウの獣人で……ものっすごい美幼女に育ってる。
どのくらいの美幼女ぶりかと言うと、お散歩やお買い物に連れて行く度に、スカウトに合うという美形ぶりで、世の中にはこんなにスカウトの人がいたんだ?!……と、僕らを驚かせる程に。
宍戸先輩?……もちろんデレッデレだ。
2人は将来、パパ(宍戸先輩)のお嫁さんになるって騒いでる。宍戸先輩はニコニコと、「ああ!もちろんだ!二人がお嫁さんになるのを楽しみにしてるぞっ!」って嬉しそうに答えていた。
……恵美ちゃんは、ほのぼのと話に聞いていたが、僕はなんだかこんな話、以前も聞いたよな……???って、妙に勘ぐってしまった。
だってさ、2人とも2歳児にしては、妙に頭が働くし、落ち着いてて……なんだか人生2回目感があるんだよね。
気のせいかも知れないけど……。
ちなみに、宍戸先輩の前世の妻×2は、チビッコだった頃から宍戸先輩に惚れていて「大きくなったら2人ともお嫁さんにしてね?」ってずーっと言ってたんだ。宍戸先輩はそれに「もちろんだ!楽しみにしてる!」って答えちゃってて……結局は、そうなっちゃったっていうね……。
……。
まあ、余命いくばくも無い僕には、三人のこの先の事なんて知る由もないけど……。多分、僕の勘は正解な気がしてる。
恵美ちゃんはと言うと、リカルドと去年、結婚式を挙げて、その後程なくして、サクッと六つ子を産んだ。
さすが、やると決めたら素早い恵美ちゃんだ。
そんな訳で今や「猫獣人繁殖センター」は大忙しだ。
所長の悠里くんは、赤ちゃん達が可愛いくて仕方ないらしく、恵美ちゃんには、また産んでもらいたいな〜って、真剣に語っていた。……リアルでサッカーチームが出来るかも知れない。まあ、悠里くんもリカルドもお金持ちだから、そのくらい産んでも育ててられるだろうし。
……先日、遊びに行ったら、やっぱりリカルドが赤ちゃんたちに吸われていた。
もうね、ソレ、絶対に戻らないと思うよ。
だってさ、雪乃ちゃんと雪菜ちゃんが卒業したと思ったら、次は六つ子ちゃんに吸われてる。悠里くんはまだまだ恵美ちゃんとリカルドを繁殖させる気だし……。つまり、リカルドのオッパイに、安息の日はそう簡単には訪れないって事だ!
この間、嫌がる獣型のリカルドを抑えつけて見たら、雪乃ちゃんと雪菜ちゃんの代から使いこまれた2カ所は、今でも現役で活躍中らしく、そこだけ見事に毛が無くなってた。
……いいのか、コレ???
前世のパパとして、僕はちょっとだけ心配になっちゃったよ。
「これからは、男も育児に参加する時代だよ……!」って悠里くんはリカルドを励ましていたけど、そこに参加しちゃえる男は、そう居ないんじゃないって僕は思う。少なくとも僕は、自分の乳は差し出せないかな……。
恵美ちゃんは……なんと、覚醒した。
六つ子ちゃんを妊娠が判明してすぐに、赤ちゃんたちを育てるお金欲しさに、仕事を真面目にこなすようになったのだ。
前に宍戸先輩が、子育てにお金がかかると言ったのが、ここに来て効いたらしい。リカルドも悠里くんもお金は大丈夫なんだよ?って言ったけど、恵美ちゃんは、世の中何があるか分からないから、私も頑張るって言ったそうだ。
そんな訳で、先月から産休も明けて、仕事に復帰している。
実は恵美ちゃんは、宍戸先輩と会社に保育所を設立したくらいから、一目置かれるようにはなってて、それもあってか、今や宍戸先輩と肩を並べる程の若手のホープとされちゃってる。
……ま、それで悠里くんと在宅で働いているリカルドが、お仕事で忙しい恵美ちゃんに代わって、吸われまくる事になっているんだけどさ。
恵美ちゃんに「母は偉大だね!」って言ったら、「恵美とリカルドが偉大なんです!」って言われた。……確かに、そうなのかも知れない。
僕は先日、会社を退職した。
ギリギリまでお勤めしてもいいのだろうけど、いくらお荷物社員だからって、突然消えたりしたら会社に迷惑かけちゃうからね。宍戸先輩と恵美ちゃんは理由を知っているから、最後の挨拶の時は号泣してた。でも、他の人たちは、まあ……お疲れ……って感じだった。つまり、僕はとうとう覚醒しなかったって事だ!!!
エリオスは……棋士を引退してしまった。
本気で僕と心中する気らしく、資産を売却したり、不要な物を処分したりして、マジで身辺整理に余念がない。
……あれから何度エリオスを説得しても、エリオスは意見を変えてくれないのだ。
はあやさんはどうするんだ?!って言っても、君に憧れて棋士になった後輩たちはどうするんだ?!って言っても、生きていたら、前世の奥さんや、新しい素敵な出会いがあるかも知れないんだぞ?って言っても、笑うだけで、手続きを進めている。
……そんな訳で、僕は決めた。そっと居なくなろうって。
自分で死ぬなんて、やっぱ僕には怖すぎて出来ないかも知れない。だけど、エリオスと心中なんて、もっと嫌だ。……僕は、エリオスに死んで欲しくないからね。
みんなにも、お別れを言うのは、止める事にした。
まるで、ちょっと顔を見に来たって感じで、みんなの顔を見て、またねってお別れするのが、一番いいって思ったからだ。だってさ、最後だって思ったら、お互いに離れがたくなっちゃうだろ???
だから、恵美ちゃんたちの家には、アイスクリームを持ってフラリと遊びに行ったし、宍戸先輩のとこには話題の店のドーナツを買って遊びに行った。
またね!……って、僕が言った時、恵美ちゃんだけは、ギューって抱きついてきたから、もしかしたら恵美ちゃんは、何か感付いていたのかも知れない。
……恵美ちゃんと僕は似てるから。
宍戸先輩はね、ドーナツが旨いって喜んでた。雪乃ちゃんと雪菜ちゃんも、美味しいって沢山食べてくれた。……仕事を辞めたので、並ばないと買えない超・人気店のドーナツを持ってったんだよね。それが三人から大好評で、僕は満足だった。
先輩は、「泊まって行かないか?」って言ってくれたけど、「夜にエリオスとご飯に行くからまたね〜。」って言って帰ってきた。
……その夜、僕は微々たる退職金を使って、エリオスを高級焼肉店に誘ったんだ。……もしかしたら、エリオスは来なれてるかも知れないけど、僕にとっては憧れの焼肉屋さんで、値段なんか気にせず、バクバクと食べた。
「はー……お腹いっぱい!!!」
お会計は驚きの額だったけど、後悔はない。
最後の晩餐だしね。
「いいのか理人……。」
僕に奢られるなんて、滅多に無い事にエリオスが気遣わしげに言う。
「いーの!退職金、使わななきもったいないし。」
「……そうだな。」
明るい月夜で、僕たちは駅までブラブラと歩いた。
お酒を飲んだから、今日は電車なのだ。
「……泊まっていくか?」
「んー?……ばあやさんに悪いから、やめとく。僕が来ると夜中でも起きて出迎えてくれちゃうし。……次はさ、しゃぶしゃぶ行こうぜ?まだ退職金あるからさ!……あ、僕はここから電車に乗るから……。」
……ごめんね、エリオス。
これで最後だ。……今世もお世話になりました。
僕が地下鉄の駅に降りようとすると、エリオスにグッと腕を掴まれる。
「ま、待ってくれ、理人。」
え???
……何か、気づかれた???
「食べすぎて気持ち悪いんだ。少し食休みに付き合ってくれ。」
エリオスは苦笑いしながら、小さな公園のベンチを指差した。
「……いいよ。どうせ無職だし、終電に乗れれば。」
もしかしたら、僕もちょっと別れがたかったのかも知れない。エリオスの提案に笑顔で頷く。
「コンビニでコーヒーでも買ってこよう。……食べすぎにコーヒーは良いらしいからな。」
僕がベンチに座るとエリオスがそう言って、コンビニまで走って買いに行ってしまった。
……はあ。
明日の事を考えて頭を振る。気が重すぎる。自ら死を選ぶなんて、僕に出来るだろうか???痛いのも、怖いのも嫌だ。……でも、神様から逃げきったら、また転生してみんなに会えるかも……?だから……。
でも今夜はまだ、それは考えちゃダメだ。エリオスはコーヒーを買って戻ってくる。せっかくなんだし、楽しまなきゃ……!
そ、そうだ!……美味しかった焼肉の事でも思い出そう。
……僕はいつもは、カルビよりロース派なんだけど、さすが高級焼肉店のカルビは違ったよなぁ……。すごいサシが入ってるのに油がしつこくなくて、お肉の味もしっかりするのに蕩けるようで、すごく美味しかった。内臓系も臭みが無くて、食べ易かったし、アッサリ系とコッテリ系のお肉で無限ループに入れるかと思ったよ。
しかも、何より焼肉のタレが旨かったんだよなぁ。
単独だと少し甘みが強い気がしたけど、お肉につけると合たんだよね。塩見はあるのに、濃すぎないからお肉の味も感じられるし、サラッとしてるのに適度にお肉に絡むのが良かったな。
……なんで市販のタレってあんなに濃くてドロドロなんだろう?タレ味が濃すぎるから、お肉よりタレを食べてる感じだし、ドロッとしてるとお肉の食感も邪魔されるよね?
……僕がいつも買ってた奴が悪いのかな?実家で使ってたのを、何も考えずに買ってたけど、失敗だったかも。今度、時間がある時に、色々なメーカーの焼肉のタレを買って、何が良いか検討しよう。……あ、そんな時間、僕にはないんだっけ!なんか悔やまれるなぁ……!
「……待たせたな。大丈夫か?」
ハッとして顔を上げると、エリオスがコーヒーのカップを持って、心配そうに僕を見つめていた。
……し、しまった。
焼肉と焼肉のタレについて熟考してしまった。
「ごめん、考え事してて……。」
「そうか……。」
エリオスはきっと神様関連の事だと思ったのだろう、真面目な顔で僕の隣に座った。
「……不安だよな。だけど、俺も一緒だ。」
エリオスは僕の手をギュっと握る。
……えっと……。
焼き肉のタレについて考えてただけなんだけどな。
しかも、君を置いて失踪する予定だし……。
「エリオス……あの。コーヒーありがとう!僕、猫舌だからアイスコーヒー、嬉しいよ。」
……辛気臭い話なんかしたくない。今日はエリオスと過ごす最後の夜なんだ!
僕はエリオスが買ってきてくれたアイスコーヒーを笑って飲み干した。
◇◇◇
ハッと目を覚ますと、僕は毛布で簀巻きにされて、地べたに転がっていた。
……え???
ど、どういう……事???
目をパシパシと瞬かせる。
毛布はふんわりとした肌触りの良い物だが、ロープか何かで硬く縛られれいるのだろう、まるで体が動かせない。地べたは固く、何か模様?が書かれている……。
えーっと……公園でエリオスに貰ったコーヒーを飲んで……。そこでプッツリと記憶が途絶えている。……つまり、これをやったのはエリオスって事なのかい???
もしや、失踪する気だったのがバレたのか……?!
あいつはヤンデレだから、こうして僕が逃げないように簀巻きにして……。
でも、だとしたらここは……どこ???
見える限りだと、洞窟?みたいな雰囲気だ。
じめっとしていて、なんだか暗いし、蝋燭の明かりくらいしか無い。エリオスのヤツ、何をする気なんだ?!
「お気づきになりましたか、理人さん。」
背後から優しく声をかけられモゾモゾと動くと、その人は僕の正面に回ってくれた。
え……。
「ば、ばあや……さん?」
「理人さん、すみませんね。こんな所でこんな格好をさせてしまって。……もうすぐ英良様……いえ、閣下が見えますから、そうしたら三人であちらへと参りましょう。」
???
ば、ばあやさんも一緒に死ぬ気なのかい?!
「ば、ばあやさん、ダメだよ?!確かに、ばあやさんてば、老い先短いけど、早まってはダメなんだぞ?!」
ばあやさんは、きょとんとした顔になり、フフフと笑った。
「……。……本当に閣下は、何も理人さんにお話していないのですね。理人さん、私たちはね……。」
ばあやさんがそう言いかけると、背後で咳払いの音がした。
「勝手に理人に話さないでくれないか?……準備を頼む。」
エリオスがそう言うと、ばあやさんはコクリと頷き視界から消えた。
「……エリオスぅ。これ何だよ。なんで簀巻きになんかしたんだよぉ。」
「理人が俺を置いて、失踪しようとするからだ。簀巻きはお仕置きだ。それに、暴れて落とすと厄介だからな。」
「ん???落とす???……僕たち心中するんじゃないのかい?」
エリオスは屈んで僕を見つめる。……ひえっ、なんか笑ってる?!
「それもロマンチックだが、そう見せかけて、お前を連れて逃げようと思ってる。」
「逃げる……?どこに???」
えっと……海外に逃げても時間稼ぎにしかならないって、黒上さんたち、言ってたよね???……それにここ、エアポートにも港にも見えないんだけど?!
なんだか、めちゃめちゃ嫌な予感がする。
引きつった笑顔でエリオスを見つめると、エリオスは真っ黒い笑顔を僕に返してくれた。
「そうだな……神様が絶対に来ない場所。」
……ど、どこでしょう?!
なんだか心当たりがあるんですが?!
最終話まで毎日8時に更新予定です!




