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マッチング出来ません!

 あれから、僕は黒上ブラザーズの名刺を時々見つめている。


 ……そう、モフモフシッポ持ちの僕には、マッチングサイトから、たくさんのヒトからのお誘いが来ているけど……絶賛お断り中だからだ。


 だって、僕の飼い主にふさわしいのは、年収が1000万以上の奴に限る。家だって持ち家で広々してて、僕専用のお部屋を用意してくれなきゃ嫌だ。だってさ、僕を一生養うんだ。そのくらいの甲斐性を見せて欲しいよね?


 それに、触ってもイイのはこのモフモフのシッポのみ。しかも、僕が良いよって言った時以外は触っちゃダメ。僕がいくら可愛いくてモフモフだからって、あまりしつこい奴なんか嫌だ。でも、僕が撫でろって言った時には、最優先で撫でてくれなきゃ困る。だって、撫でて欲しい時に撫でてくれないなんて、飼い主失格だろ?


 ……だけど、そんな奴はそう居ないんだ。


「はあー……。悪霊狩りしよっかなぁ。……マッチング上手くいかないし、それ以上に働くのに限界を感じてるんだよね、僕。」


 溜息混じりにそう言うと、隣の席の恵美ちゃんも深く溜息を吐いた。


「私もダメです。全然マッチングできません……。私も、お仕事、全然向いてないみたいだし……はぁ。これから、どうしよう……。」


 恵美ちゃんは、眺めていたスマホをポンと投げ出すと、悲しそうな顔で首を横に振った。


「恵美ちゃんは、ちょっと理想が高すぎなんじゃない?……ほら、僕と違ってモフモフシッポがないだろ?……その辺は加味して、ある程度、妥協してみたらどうだい?」


 恵美ちゃんの場合はさ、シッポが粗末だからさ、僕ほどの好条件は無理なのかも知れない。ほらさ、ヒトって、モフリたがりだろ???


 犬獣人もシッポがモフモフな奴らが人気だって言ってしなー……。ま、イヌッコロのシッポなんて、見た目だけで、実際はそんなモフモフじゃないけどね?あいつらってさ、意外に毛が硬いんだよねぇ。小型犬の奴らは、わりと柔らかめだけどスッカスカだし、やっぱ、ネコの手触りには勝てませんよ……。


 つまり僕の、このモフっとしたシッポ……。最高って事だよ。


 これが無い……いや、あるんだろうけど、ちょびっとしかない恵美ちゃんには、ヒトの心を鷲掴みにする、重要アイテムが欠けてる訳で……まぁ、妥協が必要なんだろうねぇ。


「モフモフシッポ、モフモフシッポって、理人さんはそればっかり!……言っときますけどね、カギシッポは幸運を呼ぶんですからね?……私は幸運を招く三毛猫獣人なんですよ?」


「えっ???恵美ちゃん、カギシッポなの?」


「ええ。そうですよ。カギシッポだから丸まってて、短いんです。和猫のステータスですよ?この曲がったシッポが幸運をひっかけるって言い伝えられてるんです。……いくらモフモフでも、真っ直ぐなシッポじゃ、幸運は引っかかりませんから、縁起の良いカギシッポの子を選ぶヒトだって、多いんですよ?!」


「へー……。」


 そうなんだ。そんな言い伝えもあるんだ……。


 僕は、まだ見ぬ恵美ちゃんご自慢のカギシッポを確認しようと、恵美ちゃんのスカートを持ち上げようとした。すると、背後からボカっと頭を叩かれる。


 ……いて。


「何をしようとしてるんだ?理人?!……まだ業務時間中だし、職場でスカートをめくるなど、破廉恥にも程があるだろ?!」


 宍戸先輩が鬼の形相で僕を睨む。


「恵美ちゃんのカギシッポを見ようとしただけですよ。」


「あのな、だからってスカートをめくるのはマズイだろ?!……慎みを持てと言う事だ。」


 ……。


 昔……前世のロイドの頃から、慎み発言、多かったよな。

 自分はさ、悪食な上に、エロいのと可愛いのに、滅法弱くて、チョロイドだったくせにっ!!!


「先輩ー。……マッチングが上手くいかないんですよぉ。私、誰かに養って欲しいんです……。」


 恵美ちゃんが宍戸先輩を見上げ、上目遣いでそう言った。


「……恵美。そんなに養われたければ、結婚でもしたら良いだろ?……お前は、てっきり理人がお相手なのかと思ってたが、違うってなら……そ、その……お、俺とか……ネコ科だし……。」


 ……。


 知ってた。


 宍戸先輩が恵美ちゃんを何となくー狙ってんの、知ってた。……ただ体格差がありすぎて、ド変態野郎にしか見えないから、全く応援する気にはなれないけど。


 だってさ、ペットを由来とする猫獣人と犬獣人の一部(小型~中型犬由来の奴ら)は、見た目が子供っぽくって、歳をとりにくいって特徴があるんだ。ヒトがペットを子供みたいに愛しんで可愛がって来たせいか、そういう個体を好んで育てきたからかは不明だけど、僕たちは子供っぽい感じのまま、表面的にはあまり歳をとらずに、中身だけが老いていくのだ。


 大型犬とか、野生動物が由来だと、普通に見た目も年を取るから、宍戸先輩は普通に20代半ばの見た目だ。一方の僕と恵美ちゃんは……頑張って14、5歳。身長だけなら小学生。


 ほら、変態感ハンパないだろ???

 

 まあ、獣人カップルでは、そう珍しくも無いんだけどさ。僕らは匂いで成人してるか子供なのか区別がつくから、別に先輩はロリコンさんって訳じゃ無いんだよ?


 だけどさー……なんか変態臭しかしないだろ???


 先輩は、真っ赤になりながら恵美ちゃんに言うが、恵美ちゃんはピロンと鳴ったスマホに気を取られてて、まるで聞いてなかった。


 ははは。……ざまあ。


「あ、すいません、先輩、何か言いました?」


 スマホから視線を上げた恵美ちゃんに、キョトンと聞かれて、宍戸先輩は言葉に詰まる。


「あ……。い、いや。いい……。その、三人でメシでも行かないか?金曜日だし、どうだ?」


「奢りなら行きます。」

「はい、喜んでぇー!」


 そんな訳で、僕たち三人は、先輩行きつけのお料理も美味しいと言うバーに行く事になった。


 もちろん先輩のおごりで、ね!


 ◇◇◇


「はぁー。本当に悪霊狩りしよっかなー。」


 僕はダイキリをチビチビ飲みながら、黒上ブラザーズの名刺を出して眺める。


「やめとけ。危険そうだったぞ?」


 宍戸先輩はドライマティーニを飲んでいる。


「でも、お給料は良いらしいですよね?なんか、今の仕事より悪霊が見えるって才能をいかせるし、イイかのも……。私、お仕事の才能ないですし……。」


 恵美ちゃんはキールを飲みつつ、ボソボソと答えた。


 ……そう、定例会議で恵美ちゃんのスライドが酷い出来すぎると、かなりの人にツッコミを入れられて、今日はとても落ち込み気味なのだ。あのスライドは、誰にもツッコまれない筈だったのに……。


「恵美は頭の使いどこがおかしいだけだ。才能が無い訳じゃ……あ、すまない、会社からだ!」


 宍戸先輩はそう言うと、スマホを片手にそそくさと店から出て行く。……社畜の見本の様だ。僕はあーはなりたくない。会社を出たらお仕事は終了、それがイイ。


「理人さん、もっと飲みます?」


 くいっとキール飲み干すと、恵美ちゃんが僕に聞いた。


「うーん。そうだね。先輩のお金だし、沢山飲んじおっか。なんかさー……ヒトとのマッチングも上手くいかないし、悪霊狩りは危なそうだし、仕事は向いてないし……はあ、僕の人生手詰まり感しかないわー。……すいませーん、僕、サイドカー下さーい。」


「ですよねー。はああ……。私もです……。あ、すいません、私はギムレットで!」


 僕たちは同時に、深く溜息を吐いた。


「あ、あれ?君たち……あの時の猫獣人ちゃん達だよね?!」


 突然、声をかけられて振り返ると、黒上ブラザーズがまたしてもお揃いのスーツ姿で立っていた。……でも、今日はネクタイの色が違っている。心境の変化だろうか???


「こんばんは。禮さん、蓮さん。……今日はお仕事じゃないんですか?」


「ああ。……ちょっと次の仕事が厄介そうだから、準備期間中ってとこかな?今夜は、気分転換に飲みに来たんだ。」


 赤っぽいネクタイの方の黒上ブラザーズはそう言って笑うと、恵美ちゃんの隣に座った。僕の隣には、青っぽいネクタイの方の黒上ブラザーズが座る。


 えーと?……どっちがどっちなんだい???


「……ねえ?なんで今日はネクタイの色が違うんだい?この前はそっくり同じだったろ?」


 僕がそう聞くと、赤いネクタイの黒上ブラザーズが笑いながら答える。


「……ああ。これね。僕達って区別がつないだろ?だから、いつもはネクタイを変えてるんだ。さすがにそうでもしなと、不便すぎるからね。今日はね、赤いネクタイをしてるのが僕……禮で、青いネクタイをしてるのが蓮だよ。でもね、悪霊狩りの時は別。区別がつなない方が、悪霊に魅入られないんだ。あいつらは、気に入った奴を、すぐに連れて行きたがるからね?……僕たちはソックリすぎて、悪霊も混乱しちゃうって訳。だから、あの時は違いが出ないように念入りにキメてたんだよ……。」


 へ……へえー……。


 だから、あんなにソックリだったのか!

 言われてみると、今日の禮さんと蓮さんは、髪型もちょっとだけ違う。禮さんは前髪を無造作に上げてるけど、蓮さんは左に流し気味に上げている。


 とは言え、まあ、そっくりなんだけどね?


「……でも、あのライオン獣人には見破られちゃたけどね?悪霊さえ区別がつかないのに……何であの人は区別がつくんだろう?……ねえ、あの人って、今日は一緒じゃないの?僕、すごく興味があるんだよね……彼に。」


 蓮さんが興奮したように僕に聞く。


 うーん……前世があの双子の片方なら、今世も惚れちゃった系でしょうか……?男同士だけど……。でもまあ、宍戸先輩はチョロイドだし……幸せのカタチは人それぞれだよね。


「蓮さんは、宍戸先輩に一目惚れかい?」


「え?……ま、まさか!確かに助けて貰って感謝はしてるけど、僕は男性に興味は無いよ?僕って、そんな風に見えたのかな?……実はさ、あのブリーリフケースが気になってね……。」


 蓮さんは苦笑混じりにそう言う。


 ……あ、そうでしたか。そ、それは失礼しました。


「……あのブリーリフケース、特殊な物だったんですか?」


 見当違いな事を聞いてしまい、気恥ずかしくなってしまった僕の代わりに、恵美ちゃんが聞いた。


「……特殊かは分からないんだけど、あのブリーリフケースって、ハイブランドの品なんだ。『レルメス』って知ってるだろ?そこのやつで、数百万はする物だったんだ……。」


 僕と恵美ちゃんは、思わず耳がピーンとなる。僕はシッポも。……恵美ちゃんの粗末なシッポは知らないが、多分ピーンとなってるね。


 ……え。


 先輩ってお金持ちって事?!


 つまりは……鴨ネギ???


「……えっと、話を続けて良いかな?君たち、変なとこに食いついてるみたいだけど。……つまり、あの品は手作りなんだよ。そこでシリアルナンバーから、作った職人さんを調べて、悪霊用の武器を作ってみてもらいたいんだけど、ちょうど刻印の所が悪霊の粘液で見えなくなってて……。だから、ギャランティーカードを持っていたら、見せてもらいたいんだよ。それに、とても高価なものだから、お金も払いたいし……。」


 蓮さんはそう言って、軽く辺りを見回した。先輩がいないのか確認してるのだろう。


「先輩なら今日も一緒ですよ?今、電話に行ってるだけなんです。すぐに戻ってきますよ?」


 恵美ちゃんがそう答えると、「そう。じゃあ待たせて貰おっかな。」と言って、蓮さんは嬉しそうに笑った。


「……あのさ、悪霊狩りって儲かるの?……確かに、お高いブリーフケースみたいだけど、ネチョネチョついちゃってたし、あげるって言うんだから、もらちゃいなよ。先輩も、もう要らないから蓮さん達にあげたんだろ?……お金、勿体ないよ。」


 ネチョネチョバッグにお金を払うなら僕にくれ。……内心はそう思ったけど、言うのは我慢した。


「ああは。そんな訳にはいかないだろ?ちゃんと払うつもりだよ。命も救ってもらったしね。……悪霊狩りが儲かるかは良く分からないな。ほら、僕らは悪霊が見えないから、この前みたいな命の危険もあるだろ?ある意味、命がけだからね。……そうだね、依頼料は経費込だけど、悪霊一体につき100万かな?……君たちの会社には五体いて、一体は特殊な奴だったから、1000万程でやらせて貰ったよ。」


 は……へ?

 ……いっ、1000万?!


 も、儲かり過ぎじゃない?!それ?!

 桁違いの金額が飛び出し、僕と恵美ちゃんは目を丸くした。


 ……あ、で、でも……そ、そうか。


 禮さんも蓮さんも、アレは見えてなかった。


 僕たちが居なかったら、危うく引き込まれるとこで……。引き込まれてどうなるかは分からない。だけど、確実にこうして此処に居られない状態になってただろうなって事くらいは、簡単に分かる。


 見えないのに、アレと戦うって……すごく危険で……。


 あ。


 あれ?


 見えたら……危なく無いのでは?


 あの気持ち悪いのを、先輩のブリーリフケースで潰して回れば良いんだね?その後でステック型の掃除機で吸って……


 不意に恵美ちゃんと目が合う。何を考えているのか、お互いに手に取るように分かる……。


 ……だって、僕らはいつも息がぴったりだからね。



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