駄コマは無視を貫く
……つまらない。
あまりの退屈さに境内の玉石でも数えようかと思ったけど、すぐに飽きた。意味がなさすぎるし、まるで楽しくない。
仕方ないので、駄コマの『あは〜んコマ』の開けた口に玉石を詰めてやった。『あは〜んコマ』ばかりイジメるのは可哀想なので、『んふ〜んコマ』はシッポの方に沢山の玉石を置いて、「ウンコもらし」と罵ってみた。
駄コマどもはピシッと軋むような音をたてたが……まあ、相変わらずの無視である。
……神社に参拝客はあまり来なかった。
朝のうちは駅へのショートカットコースとして、サラリーマンやら学生が横切っていったが、お参りにきたのは、お爺さんが1人と、ドングリ拾い目的で来た親子連れ……。
午前中は、合計で三人しか来なかった。
「……リカルドや悠里くんはともかく、エリオスは来ても良いと思うんだよね???」
不服げに、ひとりごとを呟く。
しかしながら、僕には誰もフォロワーがいないので、虚しいだけだ。
……あーあ。
どうしよっかなぁ、これからさあ……。
初日でこんなに飽きちゃったんだよ?……どーすんのさ、僕。
猫は一日のほとんどを寝て過ごすのだが、猫獣人はそこまで寝てはいられない。普通のヒトよりは寝るのが好きかもだけど……そんなもんだ。
……やっぱ、駄コマをなんとかすべきか。
駄コマと遊べれば、まだマシかも知れない。せめて、おしゃべりくらいはしたい……。駄コマと盛り上がれる話題があるか謎だけど。……あいつら一応はイヌだよな?フリスビーとか仕込んだら楽しいかも知れない???フリスビーなんて無いけど。
駄コマに向かって小石を投げてみる。小石は駄コマの後頭部にコツンと当たって、落ちた。
「クリティカルヒット!『んふ~んコマ』に1000のダメージ!」
……叫んでみたが、やっぱり無視だ。痛くないのかな???
因みに、小石なんかは直には触れない。僕が手を伸ばして掴もうとすると、シャボン玉の膜のとこが手みたいに掴んでくれるのだ。最初は変な感じだったけど、数時間で慣れてしまった。手が汚れたりしないし、ある意味快適でもある。
……。
参道の真ん中でゴロゴロしながら、どーしたら駄コマが無視てきなくなるかを考えていると、鳥居の方から人が話しながら入ってくる音が聞こえた。
あ、誰か来たっ!!!
……!!!
やって来たのはエリオスと黒上さん達だった。
「……壬生さんと理人さんは、ご友人だったんですね。」
「はい。……なので、どうしても連れ戻したくて。」
三人は話ながら参道を本殿に向かい歩いてくる。
……!!!
さすか僕のエリオスだ。恵美ちゃんと宍戸先輩は僕を秒で諦めたのに、連れ戻してくれる気らしい。
……ううう。
それなりに愛してたなんて言ってゴメン。……マジで大好き。超・愛してる!
「しかし、神隠しで戻ってくるのは極めて珍しい事なのです。神様に飽きられれば、戻されるかも知れませんが……。」
……へぇー。そうなんだ!イイこと聞いちゃった!
なら、飽きられて帰してもらおう……。
なるべく面白みのない人……例えば宍戸先輩みたくしてれば、すぐに「こいつ、つまんねー奴だな。」って思われて、帰して貰えるかもしれない!!!
……ってさ、飽きるも何も、その前に神様ってば、居ないし!!!
放置!!!
放置されてるんじゃん、僕!!!
飽きるより先に、忘れられちゃうんじゃないか、これ?!
「……神とて、理人に飽きる事などないでしょう。彼ほど、魅力的で興味深い人物はいません。」
エリオスが真面目な顔で黒上さん達に語った。
……や、やめて。
そ、それ……エリオスの場合だからね?
僕は僕に飽き飽きしてますし、そこまで面白みのある奴じゃありませんよ???
黒上さん達は何となく曖昧な笑みを浮かべた。
……うわぁ。呆れてんじゃない、アレ?大人だから顔にも出してないけどさぁ……。
「壬生さん、お力になれず、すいません。」
「いえ、理人はどこに連れて行かれたのでしょうか……。」
「わかりません。神の世界かも知れません。」
……居まーす!!!ここに、居まーす!!!
僕が頑張って叫んでも、やはり僕の声は届かない。……く、くそー!!!
三人は僕が間近に寄っても気付かないし、エリオスにも黒上さんたちにも触る事は出来なかった。
……うーん。幽霊みたいな状態なのかな???
エリオスが顔を歪ませ、悲しげに目を伏せた。
「俺が……失敗を誤魔化そうとして、ライオンカットなんかしたから……。毛玉切ろうとして、自慢のシッポにハゲが出来てしなったのを、ちゃんと謝っておけば、こんな事には……。」
やっぱりそうか……。君は僕のモフモフシッポをハゲるほど切ったのか……!!!
ぐぬぬぬぬ……。
エリオス、やっぱりマジで許さん!!!
……それにさ、事の発端ってソコだよね?!
僕がこんな退屈な目に遭うことになっちゃたのも、いわばエリオスのせいじゃん?!
なんだかムカついてきて、エリオスの体にパンチを入れてみるが、僕の腕はスルリとエリオスの体を通り抜けてしまった。
!!!
うひゃ?!なにこれ!!!
そこで、僕はピーンと来た。きっとコレをやれって天が言ってる……!
真剣に黒上さんと話すエリオスの胴体や股間から、僕は首やシッポを出して遊んでみた。
エイリアンが腹を突き破り出てくる真似をした後、股からシッポを出して、激しく振る。
あはははは!
ダセえ。エリオス、真剣な顔して、マジでダセえ。
シッポの先のボサボサをエリオス鼻の下から出して「鼻毛」にもしてやった。
あはははは!……イケメンも台無しじゃないですか!!!
……あーあ、この間抜けな感じ、黒上さんたちが気付けば、もーっと面白いになぁ……!
あ!……駄コマには見えてたりする?
振り返って見てみるが、やっぱり駄コマは無反応だ。
……チッ、つまんない奴ら。だから駄コマって言われんだぞ!まぁ駄コマも間抜けな目に遭わせてやったけどさ……。
そう思ったその時に、僕はふと気付いた。
あれ……???玉石には触れたよね……?って。
駄コマに近づき、そっと触れてみる。……やっぱり触れる。
さっき『あは~んコマ』の口に玉石入れたもんな……。
次に、子供が拾っていたドングリに触る。……ふーん、これも触れるんだ。
木も草も触れる。……生きているモノに触れないって訳じゃないのね?
駄コマたちは、宝物や巻物を見てもいいし、お供えに手をつけて良いと言ってた……。
もしかして、この神社のモノになら触れるって事なんだろうか???
……だとしたら、間接的に触るのはどうだろう???
……。
拾ったドングリをエリオスに向かって投げつけてみる。玉石にしなかったのは僕の半分が優しさで出来ているからだよ?……ドングリは、コツンとエリオスの後頭部に当たった。
……!!!
間接ならいけるんだ?!
エリオスが驚いて振り返った。
勿論、僕は見えていない。
だけど、もう一つドングリをエリオスに投げつけてみる。
ドングリはエリオスの胸元のあたりに、パシッと当たって足元に落ちた。
「黒上さん、突然ドングリが現れて、俺をめがけて飛んで来ました。……理人が居るんじゃないかと思います。何か合図を送ってるのかも……!」
「「え?」」
さすがエリオスだ。馬鹿じゃない。直ぐに気づいてくれた。
どうやら、僕が持っている間はドングリは見えなくなるみたいだ。
僕は、ドングリを拾い、黒上さんたちの足元に投げた。(ほらー……エリオスと違って、黒上さん達には何の恨みもありませんし、コントロールが狂って、お顔とかに当たっちゃったら痛いじゃん?気遣いだよ、気遣い。……エリオス?知るかよ。)
黒上さん達も、驚いてこちらを見つめる。
「……理人さん、いるんですか?いるならドングリを投げて下さい。」
赤系ネクタイの禮さんか言うので、僕はドングリをまた投げた。
「……今は神様はいますか?いるなら二個、居ないなら一個投げて下さい。」
青系ネクタイの蓮さんも言う。僕はドングリを一個だけ投げた。
「……壬生さん!これは、理人さんを取り戻せるチャンスかも知れません!神様が居ないない今なら、恵美ちゃんを連れて来れます。恵美ちゃんなら、もしかすると理人さんが見えるかも知れません!……何か理人さんを連れ戻す糸口が掴めるかもしれません!」
黒上さんが興奮気味にそう言うと、三人は慌てて神社から出て行った。
◇◇◇
「あはははは!!!!」
恵美ちゃんは境内に入ってくるなり、大爆笑した。
あれから程なくして、黒上さんたちとエリオスが、恵美ちゃんと宍戸先輩を連れて戻って来たのだ。
……今の僕は、エリオスの顔の下から顔を出して、トーテムポール風を装っている。
どうだい、面白いだろ?……どうせ、見えてないだろうけど……。
ん???
恵美ちゃん笑ったよね???……て事は、見えてるの???
『恵美ちゃん、見えてるのかい?』
僕がそう言うと、恵美ちゃんはキョトンとした顔になる。
「……理人さんが何か言ってるみたいなんですけど、見えるだけで声は聞こえないみたいです。」
そう悔しそうに言うと、僕の顔に手を伸ばす。
……その手は、やはりすり抜け、エリオスに当たってしまった。
「見えるだけ……ですか。」
黒上さんが渋い顔で言った。
「見えるだけでも凄いんじゃないか?!……恵美、理人はどうしているんだ?」
僕をサックリと諦めた薄情者の宍戸先輩(確か、僕に永遠の忠誠を誓った騎士のはず。)が、恵美ちゃんに僕の様子を尋ねた。……馬鹿な真似はやめて、壬生さんの隣に立つ。
「えーっと、今は壬生さんの隣に立って、神妙な顔をしてます。……なんだろう、カエルのタマゴみたいな、ぶよぶよした膜の中にいますね……。」
「膜……ですか。それが神隠しの正体なんでしょう……。その膜に入る事で、疑似的な神になっているのかも知れませんね。」
赤系ネクタイ黒上さんの推測が的を得ているので、僕はコクコクと頷いた。
「理人さん、頷いてます。」
「恵美……あの、一応、聞いておかいないか?理人の奴、下手に助けると『助けてほしくなかったんだよ!神様に養われて幸せだったのに!!!』って騒ぐかも知れないぞ。」
ナニソレ、僕の口まねかい?全然、似てないし……。
「うーん。それは確かにそうですね……。理人さん、助けて欲しい?」
恵美ちゃんの言葉に、僕は首を思いっきり縦に振る。
のんびりは良い!だけど、暇すぎるのは嫌だ!……僕が思い描いている『のんびり』は漫画や読書やゲームを堪能しつつ、好きな時に好きな事をして、ぐうたら過ごす事で、何もない神社で日がな一日、ポケーっと過ごす事じゃないのでっ!!!
「……助けて欲しいみたいですね。」
「なるほど……。でも、どうやったら、理人を助けられるんだ???」
恵美ちゃん、宍戸先輩、エリオスの三人は一斉に黒上さんたちを見つめる。
「多分ですが、そのブヨブヨした膜とやらを破れば、理人さんはこちらの世界に戻ってこれるかと。……だだ、神様が不在の時に勝手に逃げ出したりすると……祟られるかも知れません……。」
「「た、祟る……。」」
宍戸先輩と恵美ちゃんが、一斉に引いた。
「俺、最近……娘が出来て。雪乃と雪奈って名前で……。」
「私も婚約者がいるんです。来春に結婚する予定で……。」
……へぇ。
僕がたった一日いない間に、赤ちゃんたちは女の子って判明して名前まで決まって、恵美ちゃんはリカルドと婚約して結婚の日取りも決めたのかい……。
切り替え早すぎじゃない?!
サクッと僕の事、忘れすぎじゃないか、二人とも?!
「……祟られるより前に、膜には触れる事が出来ないんです。どうしたって破りようが無いじゃないですか。……理人さんも自力では出られないみたいですし、方法は分かってもそれが出来ない限り、助け出すのは不可能かと……。」
青系ネクタイの黒上さんが、困った顔で言う。
「……つまり、理人は、助けられないのか……。」
エリオスが悲痛な声を出し、崩れ落ちた。
……エリオス……ごめんよ。
薄情すぎる宍戸先輩と恵美ちゃんとは違い、君だけは本当に僕の事を心配してくれてたのに……。
あ!!!
……『ニャンテンドー・スイッチ』奉納してもらったら、良くない???
ゲームソフトや、漫画とか小説とかを定期的に神社に奉納してもらえば、暇問題は解決じゃないかい?!
僕は必死で恵美ちゃんにジェスチャーで訴えた。
「???」
「どうした、恵美???」
「いえ、理人さんが何か訴えているんですけど……ん???お弁当???お腹空いてるの???」
僕はブンブンと首を横に振る。違うよ、『スイッチ』ゲーム機だってば!!!
「ええ……全く分からないな???本……???調べてって事???」
違う、違うんだよ……漫画だって!!!本でも良いんだけど、調べるとかって意味じゃないの!
「そうだ、恵美、ひらがな表を持ってくれば、理人の言いたい事が分かるんじゃないか?!」
「なるほど!……『こっくりさん』方式ですね?!」
「そうだ!……いや、あいつはどうやら天使らしいから、『エンジェルさん』方式だな?!」
そう言って、ニヤつきながらエリオスをチラ見し、ドヤ顔で良い事言った風の宍戸先輩に、僕は思わずイラっときて、頭にパシッと突っ込みを入れた。
「うわ、痛っ!いきなり頭になんか当たったぞ???」
……え???
あ、あれっ???
宍戸先輩は……直接、触れちゃった???




