やっぱり僕はヒーロー?
こんばんは。
一ノ瀬 理人です。
前回のお話を読んでくだった方、ありがとうございます!
皆さんは恵美ちゃんの為に、自分を犠牲にして身代わりとなった僕の姿に感動した事でしょう。
……わかります。
『さすが理人さん、やっぱりこのお話のヒーローだ!』ってね?!
そうして、女性の登場人物が少ないが故に、とりあえずヒロイン枠に収まってる恵美ちゃんを、カッコよく守った僕に惚れましたよねぇ……。
……わかります。
惚れて下さい。無料です。
もしかすると、一部の方は、赤ちゃん達やリカルドに悠里くんから愛されて望まれている恵美ちゃんに比べ、僕には何もなくて、仕事すらも恵美ちゃん以下の『お荷物社員Death』で……だから、恵美ちゃんの代わりになったんだろうか……?なーんて邪推しちゃった方もいたかも知れませんね。
……ううう。わかります。理人さん、ちょっと可哀想ですよねぇ。
僕を自業自得とか思った人は、もっと広い心を持ちましょう。
今や心のバリアフリーとか、ジェンダーレスとか言っちゃう時代ですからね?……クズ差別もダメですよ?無能だって、生きてかなきゃならないんですからね?
だけどね、言わせて下さい。
……そんな事が理由ではありません!!!
僕はね……気付いてしまったんですよ。
僕の飼い主にふさわしいのは、宍戸先輩でも、リカルドでも、エリオスでもありませんでしたっ!!!
……そうです。
もしかして、神様だったんじゃね?……ってね!!!
だってさぁ、神様に気に入られて連れてかられるって……それってさ、労働力として連れてかれるとかでは、もちろんないですよねぇ。いわば愛玩用に連れてっちゃうって事ですよね?
……控えめに言って、最高じゃないですか?
愛玩万歳!!!グッバイ労働と納税!!!下々の者は働き這いつくばって生きるがよい!!!さらば、世俗!!!
神様、僕を最高に甘やかしておくれよー……!!!
僕はニマニマしながら、鈴の鳴る方へと走り続けた。
◇◇◇
チリン……。
僕が走っていくと、鈴の音と同時に本殿の格子戸がパッと開く。
入れって事だよね?!
「お邪魔しますー!」
僕はウキウキ気分で本殿へと足を踏み入れた。
そこには……。
美しい着物を纏った、性別すら超えて、輝くように美しい人が座っていた。
年齢は……20代くらいだろうか。白銀に輝く長い髪を一つにまとめ、十二単衣みたいに引きずる長い着物を着ている。それらはボンヤリと光っており、恵美ちゃんが覗き見て『絶対に神様だ』と言ったのが頷ける神々しさだった。
[こんばんは。来てくれたのですね。]
表情も口も動いていないのに、頭の中に声が響く。
「こんばんは。……はじめまして。」
とりあえず、挨拶は基本だ。僕はペコリと頭を下げた。……名前は言うのはやめてみた。念のため、聞かれてから答えよう。
[貴女がエミですね。ここの前を通る度に、貴女を見ておりましたよ。その、変わった色の魂が欲しいと……。]
……神様は、やっぱり恵美ちゃんと僕を間違えているみたいだ。……名乗らなくて良かったかも?
まあ、呼び名なんて、エミでも何でもいーし、僕は気にしないよ。
[……?あら?……少し、色が変わりましたか?]
ヤベ。恵美ちゃんじゃないって、バレちゃう???
「あー、最近ちょっと毛を切ったんですよね?」
テキトーに誤魔化しとこう。
バレたら怒られるかも知れない。……神の怒りとか触れたらマズいよねぇ???
[そうですか。……ですが、その色も嫌いではありません。]
……神様から僕らって、どう見えてるんだろう?
僕たち全く似てないし、性別からいって違うのに間違えるし、「色」って言ってるから……多分、イワシやサンマみたいに見えてるのかもなぁ。僕らからみたら、イワシはイワシでしかないし、サンマもサンマだ。性別も美醜もよく分からない。大きさくらいしか区別出来ない。……でも、神様は、僕と恵美ちゃんが変わった「色」だと言っていた。多分、神様にとって僕らは珍しい色のイワシとかサンマなのかも知れない。
「あの、神様?……僕は何をすれば?呼んで下さったんですよね?」
[そうですね。……珍しいので貴女を飼ってみたかった、それだけです。ここから一緒に、私とボンヤリと人の子たちを眺めて暮らす……それだけでしょうか。]
「なるほど……!」
ボンヤリ……最高ですね!!!
「あの、ご飯とかはどうなってますか?!」
神様はお腹が空かないだろうけど、僕は獣人だ。当たり前にお腹が空く。……不味そうなお供えしか食べられないとかだったら、何か嫌だなぁ……。
[エミには、こちらに入ってもらいます。この中にいる間は時が止まって、人からも見えません。擬似的な神になれると言えば良いでしょうか。]
神様はそう言うと、丸いシャボン玉みたいなモノを出現させて、僕に入るよう促した。
おお、なんかファンタジー!
[ここに入ると、貴女の力では出る事は出来ません。……それに、この神社の敷地より外には出られません。それでも良いですか?]
……そうなんだ。うーん……。
ずっとこの陰気臭い神社にいるの、飽きるかも……?
あ!もしこれ、嫌ですって言ったら、どーなるんだろう???……帰れたり、する???
「あのー、嫌ですって言ったらどうなりますか?」
[飢えて死ぬ事になりますね。]
……なるほど。嫌だと言っても、帰してはくれないのね。
じゃ、仕方ない。
僕的に『飢え死に』はしたくない死に方ベスト3に入っちゃうから、大人しく従いますか。
僕はポヨンとしたシャボン玉みたいなのに、おそるおそる入っていった。
……。
思った以上に、シャボン玉の中は快適だった。
なんだろう……ママのお腹の中ってこんな感じかも?って思わせる様な、あたたかな液で満たされていて、フワフワと体は浮かんで、膜が僕の動きに合わせて伸び縮みもするようだった。
手を伸ばすと、シャボン玉も膜の部分も伸びる。だから、絶対にそこには触れないようになっていて、出られないってこういう事か……って、なんとなく理解できた。
「神様……なんか僕、眠くなってきました。」
[なら、眠ると良い。時間はいくらでもあるのだから……。]
神様にそう言われ、僕は静かに目を閉じた。
◇◇◇
次に僕が目を覚ますと、100年後で……なんて事は無かった。
普通に翌日の6時頃に、僕は目を覚ました。
見渡すと、どうやら神様は居ないようだ。
……そう言えば、神様はいつも神社にいる訳じゃないって、黒上さんたち言ってたなぁ……???
僕はシャボン玉に入って、境内をウロウロとしてみる。この神社はそこまで広くはないらしく、ひと回りすると……やる事がなくなってしまった。
神社と外には壁みたいなものかあって、当たってしまって出る事が出来ないし、鳥居の部分だけが窓みたいになってる以外は、外を見る事も出来ない。
……あ、あれ???
思ったより、つまんないんだけど???
確かにグータラは出来るんだけど、娯楽……無さすぎじゃね?コレ……。
なんか、神様が気に入った奴を拐う気持ちが理解できた気がする……。暇だから、珍しいペットを飼いたいとか、そんな感じ???
しかし、せっかく僕を飼ったくせに放置かよ。
美形の神様とのキャハハ・ウフフもないし、シャボン玉が快適すぎて、グッスリ眠ったせいか、ぜんぜん眠気もやってこない。……暇すぎる。
「おーい、神様ー?!どこだーい!」
僕がそう呼ぶと、神社の入り口にいる不細工な狛犬が、「「主をお呼びするなど、恐れ多いぞ!」」と怒鳴りつけてきた。
狛犬くんたちは息がピッタリだ。……さすが阿吽の呼吸!
「お!狛犬くんたち、話せるの?!」
「「普段は話さないが、お前が目覚めたら、説明するようにと主から、いいつかった。」」
……なにそれ、チュートリアル担当的な???
「ふーん?で???」
「エミにはここで、神格を得られるようになるまで、街を見守るのだ。」
……えっ?
神格?……てか、仕事あんの?!
「ええっ、働くの???」
「「働くというか……見守るのが仕事だ。」」
……。楽だな、そりゃ。
「で?神様は次はいつ来るの?……僕、暇なんだけど。」
「「そうだな、主を祀る神社は数が多いから、ざっと三年後くらい先にはなるかな?」」
「えっ?……それまで、ひとり?!つまらなすぎて、僕死んじゃうよ?!」
「「その玉に入っている限り、死ぬ事などない。それに、ひとりではない。人の子たちを見守るという使命があるのだからな。」」
……えええ。見守るってさぁ……。
そもそも、ここからは鳥居の前の道路くらいしか見えないんだよ???「見守るって言ってもさぁ……(笑)」って感じだよ。たまには参拝客も来るだろーけどさぁ……。ここって、神主さんも居ない、ちっちゃーい神社だし、賑わってる神社ではないよねぇ。
僕の不服な空気を読んだのか、狛犬くんたちが続けた。
「「……それに、神格を得れば、お前も主を祀る神社ならどこでも行けるようになるし、主と親しい神社にも遊びにいけるぞ。」」
……神社。
映画館とか遊園地じゃなく神社。‥‥漫喫でもなく、ゲーセンでも無く神社……。
「せめて図書館くらい行きたいんだけど。」
「「そうガッカリするな。神社に秘蔵されている巻物やら宝物などは、好きに見ても構わないんだぞ?お供えに手をつけても構わないし……。」」
……。
巻物……宝物……。
まるで興味ねぇや……。狛犬くんたち、ドヤ顔で言ってますが、ぜんぜんドヤれませんからね?
それにお供えは、さっきチラッと確認してきましたが、埃がかかった日本酒くらいしかありませんでした。
……僕、ビールとカクテル派なんだよねぇ。頑張ってもハイボールくらいだよ。……日本酒とか嫌だぁ。
「まったり、のんびりは嬉しいんだけどさぁ、漫画とか『ニャンテンドー』のゲーム機とか、そういうのが切実に欲しいんだけど?!……それに、他の神社行けても楽しくないし!」
「「……お前のその感じだと、神格を得るのに、ざっと数百年はかかりそうだな。……とりあえず頑張れよ。ではな。」」
は……?
「他のそんなに面白そうでもない神社に行くのですら、数百年?!そんなー?!……じゃあさ、狛犬くん遊ぼうよ。狛犬くん?おーい、狛犬くん???」
言うだけ言うと、狛犬くんは固まっしまった。
え?マジ?チュートリアル終了したら、狛犬くんすら口を聞いてくれない訳?
ムカついた僕は狛犬くんに、『あは〜んコマ』と『んふ〜んコマ』とあだ名をつけてやった。……それでも、ずっと無視してやがる。
「チェッ、つまんないの。駄コマめ!」
仕方ないので、鳥居から外を覗いて暇つぶしする事にした。
◇◇◇
しばらく鳥居の外を覗いていると、7時過ぎくらいに、泣き腫らした顔の恵美ちゃんと、そうでもない宍戸先輩がやって来て、神社を見つめはじめた。
恵美ちゃーん!!!先輩ーーー!!!僕はここにいるよー!暇で仕方ないんだーーー!!!……僕は必死で叫んだが、二人にはまるで聞こえないみたいだ。
「……私のせいで理人さんが……。」
「恵美……。」
……恵美ちゃんがグスグスと泣きはじめる。
そんな泣かないで。
むしろ、泣きたいのは僕の方だしっ!!!
……こんな退屈だと思わなかったんだよぉ。美形神様もどっか行っちゃうし、駄コマどもは無視だよ?!
「私が近道しようとしたから……。理人さんが、私の代わりに……。ううっ、グス……。」
「恵美、気にするな。理人なら、大丈夫だ……。」
「宍戸先輩?!」
先輩は、恵美ちゃんの背中を優しく撫でて言う。
え???
先輩、もしかして……僕を神様から取り返すアイデアが?!
さすが、僕の騎士!!!
さすが、僕のスパダリ!!!
「……恵美が取り乱していたから言えなかったんだが……。」
ゴクリ……。
「理人は、鈴の音がする方へと走りながら……ニヤついていたんだ。」
「……え。」
「呪いのバイオリンに引きこもろうとした奴だ……。神様のもとで、ダラダラ好きにするさ……。行きたくて行ったんだ。気にするな……。」
げ……。
先輩の位置から、僕の顔見えてたの?!
「……そう、でしたか……。じゃあきっと、理人さんは神様の世界で幸せにやってますね……。」
恵美ちゃんは泣き止み、清々しい表情で鳥居を見上げる。
「ああ。きっとそうだ。……あ、そうだ!来月のディノニクスランドだが、理人もいないし、赤ちゃん達を連れて行かないか?ベビーウェルカムプランってのがあるんだ。リカルド殿も一時帰国する前だし、みんなで行こう!……神様になんて勝てる訳が無いんだ。理人はもう帰って来ない。サックリと諦めよう。沈んでいても、仕方ないしな!」
「……そう、ですね。はい!切り替えていきましょう!……あ、旅行の時に赤ちゃんたちに着せる、お洋服を買いに行きませんか?!」
「お!いいな!……せっかくだし、みんなでお揃いコーデとかどうだ?!さあ、悠里くんたちがマンションで待ってる。早く帰って、この話をしてやろう?」
二人は楽しそうに話しながら、段々と遠ざかって行ってしまった。
……え?……マ、マジ???
二人ともぉ!!!!僕をサックリ諦めないでよぉ!!!




