赤ちゃんは可愛いけれど
あれから直ぐに悠里くんとリカルドがやって来て、やっぱりと言うか、案の定と言うか……赤ちゃんたちににメロメロになってしまった。
将来的に『猫獣人繁殖センター』のセンター長になるであろう悠里くんは、宍戸先輩に色々と聞きながら、赤ちゃんのお世話のお手伝いに積極的だし、恵美ちゃんとリカルドは、自分たちの赤ちゃんでも妄想したのだろう、やたらとイチャつきはじめた。
……つまんない。
僕はリビングの奥にあるカーテンの中で、ミノムシ状態になって、いじけていた。
みんなして僕を無視……。
ひどい話だ。
「おーい、理人、壬生さんが来たぞ。」
宍戸先輩がやって来てカーテンをめくろうとするので、僕はさらに硬くカーテンに巻きつく。
……赤ちゃんが来たからって、僕を壬生さんに押し付ける先輩なんか嫌いだよ。
「おーい、理人?拗ねるなよ……。」
「……。」
口をききたくないだけだ。
拗ねてなんかない。
壬生さんがやって来たのだろう、長年のファンだと言う悠里くんの歓喜の声と、それに答える壬生さんの声がする。
その後で、リカルドとも再開も再会を喜び合い、流暢なC国語で話す壬生さんの声も聞こえる。
なんか楽しそうだな。……出てはいかないけど。
さすが……壬生さん。
C国語もできちゃうんだ……。そういえば前世でも、出来ない事や苦手な事なんか、無かったもんなぁ。
「宍戸さん、理人は?」
近づいてくる人の気配と、壬生さんの声が間近で聞こえてきた。
「ああ、壬生さん。……理人は、カーテンの中に立てこもっています。みんなが赤ちゃんに夢中で、拗ねているんですよ。」
「俺が話そう……。」
壬生さんがそう言うと、宍戸先輩が遠ざかる音がした。
あ……。先輩、また赤ちゃんのトコに行っちゃいんだ。
恵美ちゃんは、僕の側に来てもくれない……。拗ねてるのに。こういう時に、一番に気付いてくれるのに。
……。
う……。泣きそう……。
「……おーい。理人ー?入ってますかー?」
壬生さんは、僕が入ったカーテンをユサユサと揺する。
やめてよ、それどころじゃなく僕は悲しい気分なんだよ。
「入ってません……。」
そう答えると、ブフォっと吹き出す音が聞こえた。
「理人……。俺は赤ちゃんに触ってないぞ?」
「……まだ触ってなくても、可愛いから、きっとすぐにメロメロになっちゃうよ。……それに壬生さんだって、どーせ、恵美ちゃんあたりに何か言われたんだろ?……『理人さんが赤ちゃんにヤキモチ妬いてるから、壬生さんは赤ちゃんの相手をしちゃダメですよ?』とかさ……。」
「まぁ……な。」
ほーらね、やっぱり。
僕がムカついて更にクルクルとカーテンに巻きつくと、壬生さんがカーテンごと僕を抱きしめてくれた。
……あったかい。
……。
くそっ、猫はあったかいのが好きなんだ!こんなんで絆されたくはないが、喉がゴロゴロ鳴っちゃうじゃんか!!!
「あのさ……。あの子たちって、多分、ユキヒョウの赤ちゃんなだ。フワフワな上に顔もすごく可愛いんだよ。ピーピー鳴くのもとっても可愛いんだ。……嫌味じゃなくて、きっと壬生さんも好きになるよ。見てきたら?」
僕だって、赤ちゃんは可愛いと思ってはいるんだぞ。
だけど、だけど……。
「赤ちゃんは……可愛いよな。……何故か分かるか?」
「……?」
「可愛くないと生きていけないからだ。何も出来ないからこそ、可愛いくって庇護したくなる容姿なんだそうだ。……いわば、可愛いの専門家、みたいなもんなんだ。」
……そうなんだ。
でもそう言われると、そうかも知れない。
「でも、俺はミノムシも可愛いと思うけどな???」
「……ミノムシなんか可愛いくないよ。中身は蛾だもん。」
「俺が言ってるのは……このカーテンをミノにしてる大きなミノムシの事だぞ?……この中には、すんごくカッコいい耳毛……イヤータフト付きの耳があって、モフモフシッポの、それはそれは可愛い猫獣人が入っているらしい。赤ちゃんじゃないけど、俺は一番に可愛いと思う。」
……!!!
「そ、それは……入っている、かも?」
僕は嬉しくなった。
僕の自慢のイヤータフトも、モフモフのシッポも、壬生さんはちゃーんと分かってくれてた。
「……理人は、寂しかったんだよな?……お前はずいぶん早くに親を亡くして独りで生きてきたんだろ?……家族同然の宍戸さんと恵美をとられたみたいで、寂しくて……ちょっと悔しくなっちゃったんだよな?」
……そう。
親を早くに亡くした僕は、家族みたいな宍戸先輩と恵美ちゃんと居るのが、凄く幸せだった。
宍戸先輩や恵美ちゃんが、素敵なパートナーを見つけるのも、赤ちゃんが出来るのもかまわなかった。……だけど、得体の知れない赤ちゃんが加わるのは、嫌だった。
僕は、ずっと独りで寂しかった。
……だから思ってしまったんだ。
赤ちゃんたちは……ずるいなって。
他人のくせに、捨てられてすぐに世話好きであったかい宍戸先輩も恵美ちゃんも居てズルい。……リカルドも悠里くんも、みんな赤ちゃんの幸せを願っててずるい。
赤ちゃんばっかり、寂しくなくってズルい。
僕だって、ひとりぼっちの時に……早く見つけて欲しかった。ずーっと誰も、気付いてくれなかったのにって……。
「……僕はさ、嫌な奴だから……。あんなに小さくて可愛い赤ちゃんたちなのに、ズルいって思っちゃったんだよ……。」
「そうか……。」
「僕は、ずーっと独りだったからさ……。笑ってもいいよ。馬鹿みたいだなって……。」
「笑わない。俺はお前を笑ったりしない。……早く見つけてやれなくて、すまなかったな、理人……。だけど、もう俺が居るから。俺がお前を見つけたから……だからもう、理人に寂しいはさせない。」
「壬生さん……!!!」
カーテンから飛び出して、僕は壬生さんに飛び付いた。
◆◆◆ side 仁科 恵美
私たちが赤ちゃんを可愛がり過ぎて、拗ねちゃった理人さんが、ふと可哀想になって、カーテンの方を見つめる。どうやらあそこに立てこもってしまったらしい。
理人さんが赤ちゃんにヤキモチを焼いているのには、すぐに気付いた。だけど、産まれたばかりなのに、母親から引き剥がされて鳴き叫ぶ赤ちゃんを、どうしたって優先せずにはいられなかった。
……それは多分、宍戸先輩も同じで……。
どうしたって、前世で子育ての経験がある私と宍戸先輩は、理人さんを後回しにしてしまったのだ。
の、だが……。
そちらを見つめると……今世も、お父様と安定のイチャイチャを繰り広げていた。
……可哀想とか思ったのがアホらしくなる!!!
壬生さんはヤンデレで、怖いんじゃなかったんかーい!!!
理人さんは壬生さんにヒシッと抱きついており、それを壬生さんが嬉しそうに抱き留め、撫でている。
なんだかかもう、生暖かい視線しか送れません……。
「あ、あのさ、恵美?……壬生さんと理人さんて、どういう関係?……お、お付き合いしてる、とか?でもさ、男同士、だよね???」
私の視線の先に気づいた悠里が、おそるおそる聞いてくる。
あはは。
そうだよね、そう見えちゃいますよね。
悠里は宍戸先輩と理人さんによると、お兄様の生まれ変わりらしいけど、前世の記憶はまるで無い。
……引くよね、あれはさ。
でも……違うらしいんだよね、あんなんだけど。
くっさいロマンス小説のヒーローとヒロインみたいな事を平然とやってのけちゃう二人ですが、あれでも、お互いに恋愛対象ではないらしい。
極めて変だけど、アレはもうあの二人のスタンダードだから、しょうがないとしか言えないんだよ……悠里。
理解に苦しむとは思うけど、慣れるしかないんだなぁ。
「……悠里、あれでもね、別に付き合ってはないんだよ。親友?らしいよ。理人さんと壬生さんは、あれが普通?なの。」
「なにその普通……。親友って?」
悠里が困惑気味に言う。まあ、困惑するよね。
「ねー、宍戸先輩、リカルドー?!……壬生さんと理人さんのアレは、付き合ってないけど、親友だから、しょーがないよんだね?あれが普通だよね?」
私が二人に尋ねると、二人は真剣な顔でコクコクと頷いた。
「えっ?そうなの?……親友って、あんなイチャつくもんなのか?あのくらい、親友ならやるの?!あれが普通なのか?……リカルド???」
悠里が驚いてリカルドに聞いた。
えっ???……悠里、変な方にいっちゃった???
悠里は飛び級して大学に行ったから、少し人間関係に疎いところがある。優秀だっだ故に、まわりにはいつも大人しか居なくて、対等な友人関係を築ける人があまり居なかったのだ。そして、それは悠里にとって、ちょっとだけコンプレックスになっている。
「……あー?タ、タブン?」
リカルドが悩みつつ答えた。
普通だって頷いてしまった手間、違うって言えなくなっちゃったんだろう……。
「……俺って、飛び級してるから、同い年の奴らと人付き合いした経験が圧倒的に足らないんだよな。……理人さんと、宍戸さんの事も変な目で見ちゃったり。……恥ずかしい奴だよな、俺って。」
いや。アレは変な目で見るのが普通だと思うよ。……私たち三人が前世からアレを見続けてるから、慣れちゃってるだけで。
「悠里、ダイジョブ。俺も飛び級シタよ。」
「あ。……リカルドもそうだったよな。……俺たちって、分からない同士だったんだな。よし……!じゃあ、俺たちも頑張ろう。」
悠里はそう言うと、リカルドをガシッと抱き寄せた。
リカルドは、ポカンとなっている。
「え???悠里???」
「親友になる為に、俺たちも理人さんと壬生さんを見習っていこうな……!!!」
あ、あれは見習わない方が良いと思うけど……???
「ゆ、悠里?アレ……ち、違……。」
「リカルドも、飛び級してるから、友達付き合いが、分からないんだよなっ!!!頑張ろう、俺たち!!!本当の親友を目指そう!!!」
悠里にキラキラした顔でそう言われ、リカルドはアワアワしているが……満更でもない様子だ。親友ってのが、嬉しくて堪らないんだろう。
なら、ま、いっか!
仲良き事は美しき……って言うし。
私は、また目覚めてウニャウニャとミルクを求めはじめた赤ちゃんたちに、ミルクを作ってあげる為にキッチンへ向かった。
◆◆◆
「ありがとう、壬生さん。……僕、今になったけど壬生さんが見つけてくれて嬉しいよ!」
僕は壬生に嬉しくて抱きついたまま、そう言った。
寂しい気持ちも、羨ましい気持ちももう無い。……だって僕には壬生さんがいるから。壬生さんが、寂しがってる僕を見つけてくれたから。
「俺も、理人を見つけられて嬉しいと思っている。……良かったら、前みたいにエリオスと呼んでくれないか?」
「うん、いいよ?壬生さんは英良より、エリオスって名前が好きなの?」
「ああ、英良は馴染まなくてな。」
へぇ……。
僕は今やリチャードの方が違和感あるけど???
「分かったよ、エリオス。……あ、あとさ、僕が死んだら、目玉をあげるね?……前世で欲しがっていたんだろ?」
「あはは……。それは光栄だな。……でも、もう目玉は要らないんだ。」
……え???
「なんでだい?……僕が半分はネコだから???ネコの目玉じゃ嫌かい?マグロみたいに美味しくは無いかもだけど、今世だって、結構綺麗だと思うんだよね???」
エリオスは、ポンポンと優しく僕の頭を叩く。
「……いや。理人ならどんなでも欲しいし、今世もお前の瞳は美しいよ。……だけど……そうだな……、理人からはもっと良いモノをもらうつもりだから、それはもう、要らないんだ。」
???
「もっと、良いもの……???」
目玉ですら良いモノとは思えない僕には、エリオスが欲しがる『もっと良いモノ』が何なのか良く分からない。
「まだ秘密だ。……そうだなぁ、お前が死ぬ直接にでも教えてやろう。……俺もね、きっとずーっと寂しかったんだ。だからソレを探していたし、欲しかったんだと思う。」
……なんだろう、ソレって???
くさいけど、愛……とか、かなぁ。
だとしたら、僕はエリオスが大好きだから、あげてると思うんだけど???それに、エリオスには沢山のファンもいるじゃんか……?それに死んだら、もう愛ってあげられないよねぇ???じゃぁ……もっと違うもの???
……でもなぁ、エリオスは変わってるから。
どうせまた、変なモンを欲しがるのかも知れない。このカッコいい耳とか、モフモフのシッポとか。ピアスもされちゃったし、もしかすると今世は僕の耳にご執心かも知れないな。……やっぱりカッコ良いもんねぇ、イヤータフトってさぁ。
「……ふーん???まあ、何でもいいや。好きなの持ってって?何でもエリオスにあげるよ。……そのかわり、僕が寂しくないようにしてくれるかい?」
「ああ。もちろんだ。……理人が寂しくないようにしよう。……きっと、もう二度と寂しくなる事なんてない。」
エリオスはそう言うと、僕のピアスを嬉しそうに撫でた。
なんだかピアスがじんわりと熱を持った気がしたけれど……。それはきっと気のせいだよね?




