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僕は腰掛けサラリーマン

最後に、ちょっぴり壬生 英良の視点があります。……やっぱり、微妙に病んでます。

「おー、一ノ瀬くん!耳のそれ、ずいふんキラキラしているねー?!いよいよ、どこかのお金持ちのヒモにでもなる事にしたのか?!」


 心中エンドが来なかった僕が、仕方ないので、まずは報告書に取り掛かろうと机に向かっていると、トラ獣人の課長さんがニヤニヤしながらやって来て言った。


「違いますよ。お友達に貰いました。……てか、『いよいよ』ってどーゆー意味ですか?」


「いやいやー、一ノ瀬くんって、見るからにヒモタイプだし?来るべくした時が来たのかなって。……お友達ってさー、どんなお友達だろーね?……ま、いいけど。ところで報告書は、進捗どんな感じ???」


 ……。


 どういう風に見えてんだろ、僕……。


 まあ、いいや。


「報告書は、全然進んでいません!」


「……だろうと思った。でもさ、それを堂々と言うなよな、もう。それ、無理そうなら宍戸君に押し付けちゃうから、資料頂戴?……あのさぁ、一ノ瀬くん。こんな事、言っちゃなんだけど、君はさぁ……お嫁さんにでもなって、家庭に入る方が向いてるんじゃないか?」


 ……え?

 よ、嫁???

 課長まで、僕にお嫁さんになれと???


「ひと昔前まではさー、腰掛けOLさんっていって、数年でお嫁さんになって、辞めてっちゃう女の子がさ、けっこう居たんだよね?……今やそんな女子社員は居ないし、みんな長く働く気で頑張ってるからさ、オジサンは何も言えないんだけど……。一ノ瀬くんには、男だけど、是非ともそれを勧めたい!!!……男女平等の時代だろ?腰掛けサラリーマンが居ても良いと、俺は思うんだよね……。」


「あ!もしかして、課長?僕、戦力外って遠回しに宣告されちゃってます???」


「いやいやいやー。遠回しに言ってないって!直接的に言ってるよ?……理人くんは戦力外デス。いや、戦力外Death!!!アハハ、今って、こう言うの流行ってるんだろ?!面白いねぇ、俺!……仁科さんも酷かったけどさ、最近はマシだからねぇ。近頃は報告書も、すごくイイしさぁ……今は君がブッチギリのお荷物社員、Death!!!」


 ……え。


 ぼ、僕……恵美ちゃん以下なの?!

 ヤ……ヤバくないか?!それっ?!


「あのっ!!!恵美ちゃんの報告書ですが、あれはズルなんですよ?課長の好みに合わせた、媚び媚び報告書なんです!」


「うーん。媚び媚びでも何でも、私が気に入ってるんだから、かまわないだろ?……仁科さんは報告書の提出も早いし、何よりカワイイ!!!」


 は???


 恵美ちゃんが可愛い?!

 課長、『目腐れ』でしょうか……。


「いやね、仁科さんって、うちの子が小さい時にソックリなんだよねぇ。あの艶々な耳とかさ……。だから見てると、ホッコリしちゃうんだよねぇ。あの子はさ、怠け者だけど、君と違って要領良いタイプだろ?やる時はやってるしねぇ……。あ、一ノ瀬くん、君はないから。君もチビッコだけど、トラの子供はそんなモジャったい耳してないし、怠け者な上に要領も悪くって、俺としては、まるで可愛くないんだよねー?……じゃ、資料貰ってくねー!さっさと嫁に行けよー!」


 ……!!!


 こ、ここにもいたのか、艶々派のヤツがっ!!!


 ……。


 しかし、僕……戦力外……。


 報告書はやらなくて済んだけど……。


 ま、いっか!……クビになった訳じゃないし!……よーし、そしたら暇になったし『マイン・ド・スイ~パ~』でもしよっと!


 僕は考えるのはやめて、会社のパソコンに元々入っているパズルゲームを立ち上げた。


 僕ね、これ、かーなーり、プロ並みなんだよ?!




 ◇◇◇




「理人、なぜお前のやるはずだった報告書が、俺のところに回って来たんだ。」


『マイン・ド・スイ~パ~』を、あと少しでクリア!って時に、宍戸先輩が顰めっ面で僕の机にやって来た。慌てて以前に計算ソフトで作ったグラフを前に表示させる。


「あ、それ、課長さんが宍戸先輩にやらすって。……僕は戦力外だから、サッサと嫁にでも行けって言われちゃったんだよねぇ……。」


「……酷いな……あいつ……。自分だって、たいして出来もしないのに……!」


 宍戸先輩は、手にしていた資料をギリギリっと握り、怒りの表情浮かべた。


「先輩、怒らないでよ。……まあ、ある意味、本当の事だし?報告書をギリギリまで手をつけてなかったのも事実だし?……はあ、本当に嫁に行こうかな……。なんかさ、僕って社会人向きじゃないんだよねぇ。」


「……壬生さんの嫁になる気か。」


「あのさ、男は嫌だって言ってますよね?……僕はねぇ、バリキャリのセクシー美女のお嫁さん希望だよー。……あっ!!!婚活!!!婚活しようかな?!なぁ、先輩、一緒に婚活パーティーに行こうよ!恵美ちゃんはさぁ、時間はかかりそうだけど、どーせリカルドとゴールインだろ?僕らもお年頃だしさ!レッツ、婚活!!!」


「……婚活パーティーも良いが、今夜、どうする気だ。」


 ……。


 うー。考えたく無かったから考えて無かったのに……。


「……恵美ちゃんが言うのも、もっともだなって僕も思うんだ。これ以上、壬生さんを避けても、病みレベルが上がって行くだけだろーし、今日は人型のまま行くよ。……でも、怖いから最初は先輩と恵美ちゃんにも居て欲しいな……。」


「分かった。恵美と付き添おう。……キッズ携帯、ちゃんと身につけておくんだぞ?壬生さんがお前を害する事は無いと思うが、監禁されるのに飽きたら連絡しろ。必ず探し出してやるから……。」


 ……う、うわぁ。


 なんだよ、それ。

 監禁される前提なのかい?!しかも『飽きたら』って……その表現、間違えていませんか?!


「あ、あのさ……ぼ、僕……監禁されないよ?」


「分からんだろ、そんなの。……少し逃げ回りすぎたしな。そのやたらデカいダイヤも不気味だし、お前が嫁になるまで帰さないとか、言うかもな。………ま、明日来なかったら、理人はインフルエンザにでもなったっと言っといてやるから、『マイン・ド・スイ~パ~』なんかやめて、引き継ぎしやすいように、キリの良いとこまで仕事を進めておくんだぞ?」


 先輩はそう言って、机に戻ってしまった。


 ……えええ……。

 監禁……されちゃうんだろうか、僕。


 しかし……。

 嫁、ねぇ???


 ……。

 ……。

 ……。


 よくよく考えてみると、僕、壬生さんの嫁の何が嫌なんだろう???


 男だから嫁なんてっ!!!って、反発したけど、課長の言うように、今や男女平等の時代だ。男が嫁でも構わないのではないだろうか???


 お嫁さん……つまり専業主婦……いや主夫。

 お家で旦那さんの為にお掃除したり、お洗濯したり、ご飯作ったりする人になるって事だよね……?


 うーん???


 僕、そんなに家事、得意じゃないんだよなぁ……。


 あ!!!

 でも、壬生さんの家には、ばあやさんがいる!!!


 僕が壬生さんのお嫁さんさんになったら……優しいばあやさんと、一緒にお掃除したり、お洗濯したり、ご飯作ったり……。


 え、なんか楽しそう?!


 ……いいな、それ!!!


 いやいや、待て。


 肝心な事を忘れていました。


 お嫁さんには……夜の『おつとめ』がありますよ。

 そうそう、僕的に絶対に嫌なのは、コレ……。


 男同士とか、無理すぎる。


 壬生さんは僕に執着してるけど、本当に僕とそういう事をしたいって、考えてたりするんだろうか???


 ……前世の壬生さんは愛妻家だったし、好きなタイプの女性の話になると、小柄なのにデカい胸の女性って最高だよなっ!って良く言ってた。宍戸先輩みたいに顔には出ないけど、美人がいたらチラ見してたし、パーティーの前には雑誌で女性にモテる髪型特集を一緒に読んで、どうしようかって研究したよね???


 ……うーん???


 やっぱり、壬生さんが男に興味があるとは思えないんだよなぁ。


 ……。


 ……あっ!!!


 そうだ!!!

 万が一、貞操の危機的な事になれば、僕が猫になっちゃえば良くない???……さすがに猫じゃ無理でしょ。


 それさえなければ……僕は壬生さんが嫌いじゃない。

 むしろ好きだ。


 一緒にご飯……楽しそう!


 一緒にお買い物……絶対に楽しい!


 一緒にゲームしたり映画を見る……盛り上がる事間違いなし!!!


 一緒にお風呂……転生前に寮生活してた時は、一緒に入ってたから、ギリギリいける!


 あれ???

 なんか、お嫁さんになれる気がしてきましたよ???


 あー……あり?かも???


 ……ま、そんな事より、いざって時の為に、そろそろパソコンに向かいますか!


 僕は『マイン・ド・スイ〜パ〜』の画面を開き、監禁されて会社に来れなくなってしまったら心残りになるであろう、このゲームの最難問をクリアする事に決めた。


 仕事?……知らないよ。

 僕一人が消えたところで会社は簡単に潰れない。


 重要なのは、僕がこの会社で何が一番の心残りとなるか……だろ?人生は大切な事からやらないと……あっという間に終わってしまうからね?



 ◇◇◇



「やっぱり、理人は獣人で、リチャードだったんだな。」


 獣人の姿で、待ち合わせていたホテルのロビーに行くと、壬生さんは驚きもせずにそう言った。


「壬生さん、黙っていてすみません。」


 宍戸先輩が頭を下げる。


「いや……君の事だ、理人の意思を尊重しただけだろう。……恵美ちゃんはエミリアだね?……息災だったか?」


「はい。……お父様……。」


 壬生さんが恵美ちゃんを抱きしめる。


「リカルドにも会えたのか?……良かったな。今世も恵美の幸せを祈っているよ。……困った事があれば、相談にのるからな。」


「はい……!」


 感動の親子の再会だ……。良かったね、恵美ちゃん。


「……で、理人は何で俺から逃げ回っていたんだ?」


 心温まる親子トークから一変して、壬生さんが僕を怖い顔で睨んだ。


「え???あ、僕???……だってさ、壬生さんが今世は僕が女に生まれ変わってるって決めつけて、男なら心中とか言うからさ、怖くて。」


「……。そ、それは……確かに……言ったな……。」


 壬生さんは気まずくなったのか、手で目を覆った。


「でもね。僕……決めたんだよ。やっと決心したんだ!……僕、壬生さんのお嫁さんになる!!!」


「……は。」


 ……???


 あ、あれ???

 喜んでくれないの???


 壬生さんはキョトンとした顔で僕を見つめる。


「……理人……。」


「なんだい?壬生さん???」


「……すまないのだが……。俺は男はちょっと……、いや、どう考えても無理だ。」


 ……。

 ……。

 ……。


「えっと……???こ、このピアスは???プ、プロポーズ的な……?」


「勘違い……期待させてしまったのなら、すまない。そ、それは『魔除け』的なものなんだ。た、確かにダイヤなのだが、耐久性が高いからダイヤにしただけで……その……。理人は好きだが……そういう風には見れない……。す、すまない……。」


 え。

 えーっと……。


 なんか僕……振られてる???


「……嫁にするって……。」


「そ、それは……女ならに決まってるだろ???……心中は言ったが……冗談だ。どちらにせよ、男のお前とどうにかなる気はないんだ。まして今のお前は小学生にしか見えないし……。……期待に応えてやらなくて済まない。だが、前世に免じて、俺を友人として見てはくれないだろうか?」


 ええ……と……。

 ナニコレ、ナニコレ、ナニコレー!?!?


 完全に、僕が壬生さんに迫った事にされてない?!


 ふと、恵美ちゃんと宍戸先輩を見ると、二人は『プー!クスクス!』みたいな顔で僕を見てる。


 くううう……。なんだよ、その顔っ!!!

 二人ともムカつくーーー!!!い、いや、壬生さんもなんかムカつくんだが!!!散々、変な素振りをしやがって!結構、マジで悩んだんだぞ?!


「ぼっ、僕だって、男に興味なんか無いんだぞ!!!た、ただ、会社でお荷物扱いされて、楽したくって、壬生さんの嫁になりたいって言っただけなんだ!!!」


 僕が正直にそう叫ぶと、三人は呆れたように笑った。












◆◆◆ side 壬生 英良



 明け方、不意に何かにグイッと押されて目を開けると、寒かったのだろう、俺の布団に理人が入ってきていた。……別に布団を敷いてやったのに、猫獣人とは本当に寒がりなのだな……。


 スヤスヤと、呑気に人の懐で丸まって眠る理人は、前世で俺たちが初めて出会った頃と同じ姿をしている。……探し続けた俺の天使は、あの頃の姿で、俺の腕の中で眠っている。……それだけで、歓喜が胸に湧き上がってくる。


 違いと言えば、この猫耳がある事くらいか……。


 理人の耳で、キラキラと光るピアスを見つめているうちに、俺はこみ上げてくる笑が、止められなくなっていた。


 ……このピアスの意味を、誰も知らない。


 俺は眠る理人を抱え、まだ明けきらない闇の中で、声を殺して笑った。










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