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悪霊退治で大活躍

 僕たちは、お肉を奢ってくれると言う先輩に、絡まるようにして階段へ向かった。

 こんな時間だけど、焼肉ってのは、アリ中のアリだ。猫もライオンも、お肉は大好きだからね!


「ま、待って!!!」


 階段にさしかかる手前で、恵美ちゃんが叫ぶ。


「先輩、理人さん、ナニカ階段にいるよ?!」


 ……え?!


 僕も目を凝らし、階段を見つめる。

 階段には黒っぽいナニカが蠢いて見えた。


「!!!」


 い、いる。

 あ、アレ……なに?!


 僕も先輩のスーツを引っ張って引き止める。


 僕も恵美ちゃんも(恵美ちゃんの粗末なシッポは見えないから想像だけど。)シッポを足の間に巻き込んでガクガク震える。……耳は勿論ペタンコだ。


 な、なに……あ、あれ?

 あんな怖いの、はじめて見たよ?!


 禍々しく動くアレは、這う様に階段に広がっていて、手?触手?よく分からないものを動かしながら、ゆっくりと此方に向かってきている。


 不意に、アレと目が合う。


 !!!


 人型では無いはずなのに、淀んだ黒目と黄ばんだ白目は……まる人の目の様だ……。それらがアレには幾つも付いていた。そして、その目は、僕らを見据えると、ニィッと笑ったかのように、細まった。


 あ……ああ……。

 スウッと体温が下がっていく……。今は夏なのに、なんだとても寒い……。


 あ、あれって……目……合わせちゃ、ダメなヤツだったかも?!怖くて、気持ち悪いのに、全然目が逸らせない。


 僕は、宍戸先輩の無駄にたくましい腕に縋り付く。恵美ちゃんも反対側にガッチリと捕まっているみたいだ。


「……は?階段には何も居ないだろ?……ふざけるのはよせ。俺は引っかからないからな?」


 先輩はキョトンとした顔で、僕たちを見つめると、破顔する。


 ……え、アレ見えてないの?!

 あの禍々しく蠢くアレが?!


 先輩はアレにはまるで気付かない様子で、階段へ向かおうとする。……警戒すらしていないのか、呑気にシッポが揺れている。


 は……え?な、なんで???


 アレはボンヤリなんかじゃない、不気味なオーラを纏って、ハッキリとそこに見えてる……いや、居るんだよ?!


「だっ、ダメです!!!あ、あれはダメ!!!行かないで先輩!!!い、嫌っ!!!」


 恵美ちゃんは叫ぶ様にそう言うと、宍戸先輩がブリーリフケースを持つ腕を、グッと引き寄せた。いつものなら、恵美ちゃんなんかの力じゃ、宍戸先輩なんてビクともしないハズなのに、火事場の馬鹿力で恵美ちゃんが引っ張ったのだろう、宍戸先輩はヨロめく。


「お、おい???恵美?なんて力だ???」


 僕たちの騒ぎが聞こえたのか、黒上ブラザーズが慌てて駆けつけてくる。


「どうしたんですか?」


 黒上ブラザーズのどちらかが、僕たちに聞いた。


 恵美ちゃんは、ガクガクと震えながらも、先輩がこれ以上、階段に近づかないように、必死で先輩の腕を掴み、首を横に振っている。先輩は困った顔で恵美ちゃんを見つめ、黒上ブラザーズに「よく分からないが、怖がってるんだ。」と言った。


 や、やっぱり……先輩にはアレが見えて無いんだ???


「か、階段にナニカいるんだよ!僕と恵美ちゃんには見えてるんだけど、先輩には見えてないみたいで……。ね、ねえ、黒上さん……アレ、アレが悪霊なんでしょ?階段のトコにいる……アレが……。」


 僕が階段を指差すと、黒上ブラザーズは階段の上の方を見た。


 ち、違うよ!!!


 確かに上の階から来たのかも知れないけど、アレは、今は床にはいつくばって、こっちを伺ってるだろ?!


 ふと見るとアレは……蠢くど真ん中に大きな口?空洞?を開けた。……空洞の中には歪んだ無数の歯が、グチャグチャに並んでいて、それらは黄ばんで尖っている。


 !!!


 うわああ……。

 な、……な、なんだよ、あれっ……?!


「兄さん、計器が凄く反応してる!」


「よし、吸い込もう!……三人は危ないから、下がって!」


 二人はそう言って、階段の上り方を見つめ、ステック掃除機を構える……。


 違う。違うんだよ、そっちじゃない!!!……足元なんだ。アレは踊り場に広がってるんだよ。


 そんなに近づいたら……アレに……捕まらない???

 あんな口?みたいのがあるんたぞ?……アレは噛んだりしないのかい……???


 声を出したいけど、怖すぎて喉が閉まっているのか声にならない。僕の声は、「あう……。」とか「うあ……。」とか、意味の無い音にしかならず、歯の根が合わない。


 恵美ちゃんも、ガチガチと震えながら、僕と同じく床を見つめている。

 アレから……目が離せないんだ……。


 ……どういう事?黒上ブラザーズにはアレは見えてないの?!だ、だって悪霊狩りのプロ、なんだよね?!


 黒上ブラザーズが階段に近づくと、蠢くナニカは、黒上ブラザーズの片方の足を掴み、引き摺り込むように、触手?手?を伸ばしていく。それは少しずつ這い上がり、太もも……下腹部……胸へと延びて、体を這い上がってゆく……。


 そうして、とうとう黒上ブラザーズの片方を、顎先から飲み込むように、あの不気味な口?空洞?をポッカリと広げ……。


「い、いや。……だ、だめーーー!!!」


 恵美ちゃんは、真っ青になると……先輩の鞄をもったままの腕掴み、黒上ブラザーズの片方を飲み込もうかとする様なナニカに、思いっきり振り下ろした。


 グチャ!!!


 不気味な音を立てて、ナニカが潰れる。


 ブシャっと、ネバネバした赤黒い何かが吹き出し、妙に甘ったるいのに生臭い、気持ちの悪くなるような匂いが充満してくる……。


 ……潰れてしまうと、黒上さんや先輩にも見えるようになったらしく、気持ち悪いナニカに驚いて視線を落とした。


「だ、大丈夫か?蓮さん?!」


 這い寄られていたのは蓮さんだったらしい。

 先輩は、目を見開き固まる蓮さんに声をかけた。


「あ、ああ。……だ、大丈夫です。危ないとこでした。……ありがとうございます……。」


 蓮さんは青ざめた顔だが、我にかえり、掃除機でナニカを吸い、後始末を始めた。


「ねぇ……二人とも、アレが見えてたの?」


 禮さんが、僕たちに声をかけた。


「み、見えてましたよ?!黒上さんたちは、見えてないの?!」


 そう言いながら、恵美ちゃんは、ナニカのネッチョリがくっついた宍戸先輩のブリーリフケースを、蓮さんに渡した。赤黒いネチョネチョを吸い取ってもらう為だろう。


 ……先輩は複雑そうな顔で、それを見つめていた。


 ……僕なら、どんなに綺麗に吸い取ってくれても、あのブリーリフケースは捨てる。だってさ、気持ち悪すぎるだろ?あれ……。


 よ、良かったー……。僕の大切な鞄じゃなくって……。


「……実はさ、僕たちには悪霊は見えないんだ。気配は分かるけどね。だから、こうして計器を持ち歩いて、確認しながら吸い込んでるだけなんだ。さっきのは特に厄介で、その気配すら消してたんだよ。……ありがとう、蓮が取り込まれるところだった。……しかし、悪霊とは物理攻撃が効くの、か?……うーん???この人が特殊?いや、ブリーリフケースが特殊なのかな???」


 禮さんは、マジマジと宍戸先輩の顔を見つめた。

 美形さんにジッと見つめられ、先輩は赤くなって顔を逸らす。……ほら、悪食だろ、こいつ。男でも女でも、こんななんだぜ。


「えっと、君は見えてたんだよね?……で、この人の腕とブリーリフケースを使って、叩いたの???」


 目を逸らされたからか、禮さんは恵美ちゃんにそう尋ねた。


「は、はい……。く、黒上さんを這い上がるナニカが気持ち悪くて……。なんか口?みたいなのを開けて飲み込もうとしてるみたいに見えて……。だ、だけど、自分で叩くのは怖くて、つい先輩の腕とブリーリフケース使って叩いちゃったんです……。理人さんも、悪霊?アレ?見えてたよね?」


「う、うん。僕も、バッチリ見えてたよ?……先輩を使って殴るなんて、さすが恵美ちゃんって感じだけどさ……。」


 僕たちがそう言うと、黒上ブラザーズは僕たちを興味深げにジロジロと見つめる。……な、何なんだよ?!


「……悪霊は感じられるだけでも貴重なんだ。それが見えるなんて、さすがの猫獣人だね。猫獣人は霊感が鋭いと聞いてはいたが、今や数が減り過ぎてて希少だから、僕は、はじめて会ったけど……。とてつも無いな……。」


 思わず、恵美ちゃんと顔を見合わせる。

 ……え?そうなの?猫獣人って珍しいの???


「先輩、猫獣人って珍しいんですか???」


 恵美ちゃんが聞くと、宍戸先輩は気まずそうに答える。


「……お前ら、自分達の事なのに知らないのか?……猫獣人はな、みんなお前らみたいな怠け者が多く、こぞってヒトに飼われたがるんだ。それで、今や絶滅寸前なんだよ。……同じ種でしか繁殖は出来ない上に、獣人は誰でも良いって訳じゃないだろ?なのに、猫獣人は自分の伴侶を探すより、楽を優先させて、ヒトと過ごすのを選ぶ様な奴らばかりだかから激減してるんだ……。犬獣人なんかも、ヒトが大好きだが、猫獣人まで堕落してない。自立を望む奴も多いし、ヒトと過ごしていても、ちゃんとお相手探しはするみたいだぞ……。」


 思わず僕はギクリとなる。


 先月、お小遣いを使い過ぎた僕は、お財布がピンチのあまり、ついついヒトとのマッチングサイトに『モフモフシッポの猫獣人。飼い主さん募集中!』って飼い主を募ってるとこだ。


 ……ほらさ……?

 働く才能もありませんし。


 そーっと恵美ちゃんを伺うと、恵美ちゃんも『やべぇ。バレた。』って顔になってる。


 うーん……僕たち、やっぱりクズいのかなぁ。


「……。理人、恵美。まさかヒトとのマッチングサイトに登録なんてしてないよな?!」


 先輩が詰め寄ってくる。

 えっと……しました。してますが、何か???


「あ、あの!……先輩?ヒトとのマッチングサイトはいやらしいモンじゃないんですよ?ヒトは癒しが欲しいんですって。だから、癒してあげる、それだけですよ?……それだけなのに、養ってもらえるって、最高じゃないですか?!」


 恵美ちゃんは、開き直って答えた。


「そんなだから、猫獣人は、絶滅の危機なんだぞ?!……ヒトにするなら、せめて獣人でネコ科のヤツにしろ……!……あ、いや。恵美は理人がいるだろ?……お前ら、仲良しだろ?」


「あー……理人さんは、ない。」


「僕も恵美ちゃんは、ないなー。」


 お互い見つめ合って、お互いに首を横に振る。


 僕は恵美ちゃんは大好きだけど、恵美ちゃんと繁殖するのは考えられない。……なんか分からないけど、恵美ちゃんは無理だ。それは前世から変わらない……。


「はぁ???……お前ら、いっつもベッタリくっついてるのに……違うのか???」


 宍戸先輩は驚いた様に言うが……僕と恵美ちゃんは、同期だし気も合うし、普通に遊んだり仲良くしてるけど……付き合ってもないよ?別にベッタリくっついてなんかなし……。


 ……てかさ、僕も恵美ちゃんも、繁殖なんかより、ヒトに養ってもらうの狙いだからね???ある意味、その辺から息ピッタリだよ?!


 一時の快楽より、一生の安定だよ……。


 ……猫獣人の絶滅?知るか。別に滅んでも、僕は困らないよ?てか、猫獣人、みーんなそう思ってるから、減っちゃったんだろ???つまり……それはさ、淘汰……なんだよ。自然界の摂理だよ。


 不意に、宍戸先輩の背後から声がかかる。


「あ、あの……すいません。頑張って吸ったんですけど、あまり落ちなくて……。」


 さっきから、掃除機で先輩のブリーリフケースに付いたネチョネチョと格闘していた蓮さんが、先輩におずおずと、染みになったままの、生臭いブリーリフケースを手渡した。


「……。」


 先輩は引きつった顔で、それを摘むように受け取る。


「あ、あの……。これ、良かったら買い取らせてもらえませんか?……悪霊には物理攻撃なんて、普通は絶対に効かないんです。それが出来たなんて、このブリーリフケースが特殊なのかも……。調べてみたくて……。」


「あ、ああ?!……やる!やるよ、コレ。……金なんか要らない。差し上げよう。さ、さすがに聖なるブリーリフケースだとしても、俺は気持ち悪すぎて、もう使いたくないからな……。」


 先輩はそれを押し付けるように蓮さんに戻すと、蓮さんは嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます!!!……後でお礼をさせて下さい!」


「い、いや、いいよ。本当にそれ、気持ち悪くて要らないし。……さあ、俺たちはそろそろ帰ろうか?恵美も理人も疲れただろう?」


 先輩はそう言うと、僕たちに向き直る。


 ……うん。

 疲れたし、お腹もペコペコだ。


「お肉!!!」

「焼肉!!!」


 僕と恵美ちゃんは、先輩に激しく主張した。

 ……だってさ、奢ってくれるんでしたよね?!


「あのなー……、お前ら、カバン……もう取りに戻れんだろ?……まあいいや。メシ、食いに行くか……。」


「「わーーーい!!!先輩、大好き!そしてお肉は、もっと好きーーー!!!」」


 僕たちが喜びの声を上げながら、跳ね回っていると、黒上ブラザーズは苦笑しながら「もし、気が向いたら『黒上商会』においでよ。一緒に悪霊狩りしないか?……うちは、お給料弾むよ?」そう言って、僕たちにも名刺を渡してくれた。



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