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心中エンド?!

「ウニャァァアアアアアッ!!!」


 僕はありったけの声を上げて、鳴き叫んだ。


 痛い!痛い!痛ーーーい!!!


 どうして?!

 なんでこんな事になっちゃったのーーー?!?!



 ◇◇◇



 壬生さんに連れてこられて、このお屋敷に来て、最初は良かったんだ。


 ばあやさんは優しかったし、夕飯も美味しくて、お腹いっぱい食べて僕は幸せだった。食休みだって言って、古い映画を見ながらまっらたり寛いで、優しくナデナデしてもらい、大満足だったし、映画の後は、お風呂で壬生さんが、いい香りのするシャンプーで洗ってくれて、ドライヤーで乾燥させてフワッフワに仕上げてくれた。


 自分ではよく洗えない獣型でお風呂に入る事は少ないから、久しぶりに全身がいい香りになったのも、フワッフワになったのも、どっちも嬉しかった。


 その後は、悠里くんも真っ青の極楽なブラッシングをしてくれた。それはそれは気持ち良すぎて、骨なんか蕩けてしまったかもってくらいグニャグニャのグダグタになって、僕はひたすらゴロゴロと喉を鳴らした。


 ……そんな訳で、このまま壬生さんの飼い猫になっちゃうのもアリかなぁ……なーんて思いながら(宍戸先輩と恵美ちゃんには、ホレ見たことか!って言われそうだけど。)僕はウトウトし始めていた。


 だけど、壬生さんもそろそろ寝るのかな……ってなった時に、事態は一変した。


 壬生さんのお部屋に連れてこられて、お布団に乗せてもらった時に、壬生さんの手の中に、嫌な予感をさせる500ml入りの白っぽいプラボトルがあるのに気付いてしまったのだ。


 壬生さんの指の間から、チラリとパッケージの文字が見える。


 ……そ、それ、何に使う気だい……?!


 僕はサアッと青ざめた。


 まあ、猫なんで顔中毛だらけだから、青ざめてても分からないだろうけど、本当に僕は真っ青になってしまったんだよ。


 だってボトルには『消毒用アルコール』って書かれていたんだ。


 い、いや待て。落ち着こう、僕。

 ……僕に、僕に使うとは限らない……。


 壬生さんが壬生さんを消毒するのかも……。


 考えてみたら、僕に消毒すべき場所なんて、無いもん!!!


 怖くなって、すっかり目が醒めてしまった僕は、ヘソテン状態の完全リラックスモードから、香箱座りに体勢を変え、壬生さんの様子を伺う事にした。


 壬生さんは、戸棚から脱脂綿を取り出すと、それにアルコールをタップリと含ませている。


 あれで何処か拭くのか……?


 不意に僕を優しく抑えると、カッコ良すぎる耳毛……イヤータフトのある耳を丁寧にアルコール綿で拭き始めた。


 えっ?!


 ええっ???


 もしかして……僕……耳毛で見えにくかったけど、耳垢が酷かったとか???


 うわぁぁ。

 だとしたら、なんか恥ずかしい。


 アルコールで拭かれた所は、少しスースーしたけど、痛かったりはしなかった。……でも片耳だけ???


 もう反対の耳には耳垢無かったのかなぁ???

 あ、だから余計に気になった、とか???


 ……なーんだ。


 そういう事かぁ。……僕は少しホッとして、クルリと丸まり寝ようとした。


 だけど、壬生さんは、バッグから何かを取り出し、僕に見せない様に後ろ手にそれを持って近づいて来た。


 え???


 ええっ???


 な、なんか……す、すごく嫌な予感。


 僕はパッと跳ね起きら耳をペチャンコにして、後退りする。


 壬生さんの顔には……。


 ひっ!!!


 あの、暗い笑顔が浮かんでいた。


 ヤバい!!!これ、ヤバいやつ!!!逃げなきゃ!!!


 僕は布団から弾かれたように飛び降りる。……だけど、そんな僕を壬生さんの大きな手がグッと捕まえた。


 いやだっ!!!

 なんか怖い!!!

 離せっ!!!


 僕がジタバタとどんなに暴れてても、壬生さんは僕の脇に手を入れて持ち上げる。この体勢じゃ、引っ掻き攻撃も、噛みつき攻撃も無効だ。


 チラリと布団の上に置かれた、銀色の銃みたいな形の、ナニか見えた。


 ひっ!!!


 あ、あれ……、な、何……?


 あまりの怖さに、それから目を離せずにいると、壬生さんは僕をゆっくりと自分の目線の高さにまで持ち上げる。


「……なあ、理人。お前はリチャードだよ、な?」


 !!!


 バ、バレてる?!


 暗い目のまま、壬生さんは僕を見つめてそう聞いた。


 ……心中?!

 これから僕たち心中なのでしょうか?!


 耳がぺターンとなって、シッポは足の間に入ってしまった。


 ううう。……こわいよぉ……。


 男だからって心中なんて、あんまりだよ。……男なのに嫁になるのも嫌だけどさぁ……。


「理人。大人しく人型に戻れ……。」


 !!!


 じゅ、獣人なのもバレてんの?!

 う、嘘……。


「宍戸さんは、ロイド殿。恵美は、エミリアだよな。……まあ、お前らがつるんでる事に、特に疑問は無い。……宍戸さんの車にはジュニアシートが二つ付いていた。恵美が座らせられていたピンク色のシートと、誰も座っていない水色のシートだ。肘掛に名前とおぼしき刺繍があったが、遠目からでは確認できなかった……あれはお前の分のシートなのではないか?」


 バレてる、バレてる、バレてるのーーー?!?!


「宍戸さんは、前世でお前らの事を、本当に命がけで守っていた。……今世も、もしかしたら側に転生しているのでは無かろうかと予測していたが、やはりな。……恵美とお前は似たもの同士だ。どうせ気付いたら側に居るんじゃないかと思っていたが……全くもって、その通りだったな。」


 ……れ、冷静になれ、僕。


 僕はゴクリと唾を飲み込んだ。


 僕だって、壬生さんとの付き合いは長いんだ。だから、分かる。分かるんだよ。


 これは……絶対にカマをかけてる!!!


 だって、証拠なんか何も無い。


 禮さん、蓮さんだって、勝手にレイラとレーンだと思ってきたけど、ロレインとローレンスの可能性もで出来た訳で、お互いに記憶があってカミングアウトしなきゃ、本当にそうかなんて分からないんだ。


 大丈夫、大丈夫。

 冷静に行けば、大丈夫。


「ウニャ……ゴ?」


 怖い、何なの?って感じの声で哀れっぽく鳴いてみる。


 壬生さんの見開かれた目には、戸惑いの表情が浮かんだ。


 ほらね……壬生さんは確信なんか、何もない。

 僕を脅かして揺さぶってみているだけだ。


 いくら壬生さんでも、ただの猫ちゃんと心中なんかは、したくは無いはず。……だからきっと、ちゃんと僕だって確かめてから、あの銃みたいなのを使う気なんだ。


 つまり、確信が得られなければ、心中はしないはず!!!


「……なるほど、猫のまんまか。」


 ……。


「ま、いい。それでも、お前はリチャードだ。俺の勘がそういってるからな。……リカルドを連れてくるなど小細工までして、そんなに俺から逃げたかったのか……?お前は俺が嫌なのか……?」


 き、嫌いじゃないよ?!

 ……病んでなきゃね?!

 君ほど楽しくって、気が合って、頼もしい友達なんて居なかったよ?!


 壬生さんは少し寂しげにそう言うと、僕を膝の上に下ろして、頭を押さえ込んだ。かなり強い力で……。


「理人、痛むが一瞬だからな。」


 壬生さんが銀色のナニカを手に取った。


 えっ!!!


 お、終わりだ!!!


 心中エンドだ……!!!


 ……!


 ……。


 ……。


 ま、いっか。


 もう三回目だし、それなりに満足かも……。


 壬生さんなら、長く苦しむような事はしないだろうし、きっとサックリ終わりにしてくれるだろう。


 ……できたらさ、本当は今世も壬生さんと仲良くなりたかったなぁ。僕は、女の子が好きだから、嫁とか無理だけど、親友になら、またなりたかったんだぞ?……僕が壬生さんを避けたのが、そもそもの間違いだったのかな?ヤンデレを怖がらずに、今世も男だけど仲良くしようね?!ってあの時、人型に戻って明るく言っていたら、一緒にディノニクスランドとかに遊びに行けちゃう、そんなお友達になれた???


 来月、宍戸先輩と恵美ちゃんと行く約束のディノニクスランド、僕さ……楽しみにしてたんだよ……。


 それがちょっと心残りかな。


 あ……仕事の報告書……マジで一行も書いてません。来週、提出だったけど、死ぬから逃げ切れてセーフかも……。切れ者の部長に、お前も出せって言われた来月の社内コンペ……。こっちは一文字も書いて無い……。


 あれ?

 死ぬのも悪い事ばっかじゃないかも???


 うん。そんな気もしてきた。……さようなら。


 ……。


 僕は覚悟を決め、力を抜いて目を閉じた。

 銀色のナニカが僕の耳の辺りに当てられる。


 うっ……!!!


 ソレは、ガチャンと嫌な音を立てると……。

 物凄い激痛が、僕の()に走った。


 痛い!痛い!痛ーーーい!!!


 そして冒頭のシーンへ戻るのである。


 ◇◇◇


「……それ、ダイヤですよね?……3ctはありそう。」


 恵美ちゃんは、僕の耳に無理矢理につけられてしまった、ダイヤモンドのピアスを眺めて、しみじみとそう言った。


 宍戸先輩がマジマジと眺める。


「キラキラしてて良く分からんが、ダイヤの裏側に何か書かれているぞ?」


「……どうせ、気持ち悪い愛のメッセージですよ。『フォーエバー・ラブ』的な。」


 恵美ちゃんが、ケラケラと笑うが、笑い事じゃない!!!


 ……そう。


 壬生さんが僕に向けた銃みたいなのは、ピアスガンって言う、ピアスの穴開けマシーンだったのだ。心中する気ではなくて、どうやら僕の耳にこのデカデカとしたダイヤのピアスを付けたかったらしい。


 あの後、僕は余りの痛さに鳴き叫び、宍戸先輩が僕を入れて壬生さんに渡したバッグに駆け込んで、朝までウギャー、ウギャーと鳴き続けて、出て来てなどやらなかった。


 壬生さんは、何度か手を入れてきたから、僕はここぞとばかりにフーッと唸って、手を引っ掻いてやった。


 そうして、再び無事?宍戸先輩と恵美ちゃんの元に戻って来れたのだが……。

 今の僕は極めて不機嫌である。


 ある意味、計画が狂ってしまった。

 報告書もコンペもらやるようじゃんか?!これ?!


「あのね。めっちゃ怖かったんだぞ?!すんごく痛かったし。猫の耳は耳たぶじゃないんだから、穴なんか開けたら痛いんだぞ?!……牛!牛の耳に付いてる札みたいだよ!コレ嫌だよ。先輩、取っておくれよ。」


「い、いや……取れる様になってないぞ、これ???」


 宍戸先輩は僕のイヤータフトを掻き分け、ピアスの留め具を見てくれたが、どうやらガッチリと金具がハマっているらしく、ちょっとやそっとでは取れなくなっているようだ。


 ……ますますもって、牛じゃんか。


「でもこれ、すごく高価そうですよ???普通、婚約指輪だって、こんな大きなダイヤじゃありませんよね?」


「耳から取れなきゃ売れないし、取れても何か字が入ってんだろ?!そんなの、ますます売れないよ!!!僕の名前とか入ってたら嫌じゃんか!……あ、そうそう、これ、GPSでも付いてるんだろ?」


 僕がそう言うと、またしても先輩は僕の耳毛を掻き分けて、ピアスをマジマジと観察する。……ちょっとこそばゆい。


「うーん?やっぱり文字は読めないな?これは、文字じゃなくて模様かも知れない……。何だろう、これ?……それにGPSは付いてないぞ、本当にこのダイヤと台座だけだ。確かにダイヤとしてはデカいが、GPSが入れられる程は大きくないし、本当に唯のピアスにしか見えないぞ?」


「ふーん。そうなんだ。じゃぁ何で壬生さんは、いきなり僕にピアスなんて付けたんだろ???」


 僕が逃げても捕まえられるように、GPSでも付けられたのかと思ったけど……違うんだ???


「そんなの、婚約指輪の代わりじゃないのか?」

「ですよね。プロポーズみたいなモンじゃないんですか?」


 ……!!!


「ますます取ってくれよ!!!男となんか結婚しません!!!僕はお嫁さんにもならないし、あんなデカい男をお嫁さんにもしませんからっ!!!……今夜はもう、壬生さんの家になんか行かないからね?!」


 僕がそう怒鳴ると、二人はゲラゲラと笑った。

 ……笑い事じゃありませんからね?!


「しかし、それだけ豪華なピアスを貰っておいて、もう行かないは無いだろ?それじゃ、貰い逃げも良いとこだ。」


「先輩っ!!!貰った気はないよ!勝手に付けられたんだ!!!……先輩は僕の飼い主だろ?可愛いペットに勝手にこんなピアスを付けられたんだ!怒ってよ?!」


「いや、しかしなぁ……もう、ほぼバレてんだろ?俺らの事も、恵美の事も。……怒ってもなぁ……。」


「そうですよ。下手に逃げ回ると、お父様……壬生さんのヤンデレは、どんどん悪化しちゃいますって。ほら、逃げれば逃げる程、追って来るタイプだったじゃないですか?……一応、今夜で理人さんのレンタルは最後なんですから、もうカミングアウトしちゃった方が良いんじゃないですか???」


 ……。

 そ、それはそうかもだけど……。


 僕は取れないビアスを手て引っ張りながら、うーん?と考え込んだ。






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