表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/44

リカルドはリカルド

 結論から言おう。


 リカルドはリカルドだった。


 ……あ、意味が分からないよね。


 えーっと。


 前世で恵美ちゃん……その頃はエミリアちゃんだったんだけど、彼女には、とっても仲の良いリカルドってお名前の旦那さんがいたんだ。


 まあ、そのリカルドは、僕の息子でもあったんだけどさ。


 尚且つ、悠里くんの前世だったと思われる、恵美ちゃんの兄……ユリウス君の右腕って言うか、相棒っていうか、そんな感じでもあったんだよね。


 ちなみに宍戸先輩の前世、ロイドを僕たちの護衛だと連れてきたのもリカルドだ。


 つまりね、僕たちは、悠里くんからのメッセージを見てワクワクしたんだよ。だってさ、悠里くんの親友で、『リカルド』って名前なんだよ?こりゃー、リカルドが転生してリカルドになってんじゃないの?!ってね。


 ……あ、ちょっと意味不明だね。


 で、ワクワクしなが週末に空港までお迎えに行くと……居たんだよ、リカルドが!!!


 見た目もほとんど変わってない、金髪に青い目……猫獣人だから、茶トラの耳が付いてたけど……ちょうど15、16歳くらいの頃のリカルドにソックリな青年が、大きな荷物を抱えてキョロキョロとしていた。


 恵美ちゃんは、リカルドを見るなり、口に手を当てて固まってしまった。……あまりにもリカルドで、驚いたんだと思う。


 それと同時に少し怖くなってしまったのかも知れない。


 だって、こんなにソックリでも、他人の空似かも知れないし……前世の記憶が無いかも知れないんだもの。



『リカルド!!!』


 僕が声をかけると、リカルドは驚いた顔で振り返る。

 そんな小さな仕草さえ、前世のリカルドにソックリだ。


『……え、えっと???』


 声をかけられて、リカルドは不思議そうに僕を見つめた。


 ……ははは。僕だとは気付かないかー……。


 でも、聞いちゃう。


『こんにちは。悠里の代わりに君を迎えに来た理人だよ?……ところで、突然だけどリカルドって、前世の記憶とか持ってたりしない?……僕はね、あるんだよね。……前世でリチャードって名前で、君のパパだったって言ったら、笑わずに聞いてくれるかい?』


 僕がそう言うと、リカルドは大きな目を更に見開き、僕を見つめた。


 まあさ、前世の記憶が無くて、リカルドに変なヤツって思われても、別に気にならないからさ。僕って、もともと変なやつだし。


 でも、僕の勘は間違えてなかったみたい。


『……え……!……ち、父上?父上なんですか?!お、お会いしたかったです!……父上、父上!!!』


 そう言うと、感極まって、リカルドは僕にギュッと抱きついてきた。……やっぱり、リカルドはリカルドだ。


 どうでも良いけど、前世で僕とリカルドはソックリ親子で、顔もだけど、身長も同じくらいだった。

 だけど、今はリカルドの方がだいぶデカくなってた。……猫獣人で160センチ越えはズルいって僕は思う!おかげで顔は子供っぽいものの、リカルドは高校生位に見えなくもない。


 ……アレだ、もし本物の猫ならメインクーンとか言う、めっちゃデカくなる種類の、めっちゃデカくなったヤツ!!!


 ちなみに顔の系統は、リカルドも僕も今でも同じだ思う。

 だけど、かたや外国人、僕はあくまでバタ臭い顔なんで、似ているかって言うと……うーん???って感じ???


『リカルドあのね、喜ぶのはまだ早いんだ!……なんとね、エミリアちゃんとロイドもいるんだよ?……その、後ろでポカンとしてる二人組みがそう!……今は恵美ちゃんと、宍戸先輩……類って名前なんだ。しかも、恵美ちゃんはね、悠里くんのお姉さんなんだよ?』


 僕がそう言い終やいなや、リカルドは顔を上げて恵美ちゃんを見つめる。


『エミリア!!!』


「リ、リカルド……なの?本当に?……顔が似てるだけ、名前が同じってだけじゃ無く、記憶があるの?……う、嘘……。」


 恵美ちゃんは感極まってしまい、もう言葉が続かないのか、そう言うとポロポロと涙をこぼし、動けずにいる。


 ……リカルドは走って行って、恵美ちゃんをギュッと抱きしめた。


『エミリア……恵美。会いたかった……!!!会いたかったよ!!!……悠里は、ずっとユリウス様の生まれ変わりなんじゃないかって思っていた。だけど、前世の俺を思い出してはくれなくて……。悠里から姉の話を聞いた時に、もしかしてって思ったんだ。そう考えはじめたら、いてもたってもいられなくて……。ああ、やっぱり、やっぱりエミリアだ。……会いたかったよ……ずっと探していたんだ!!!』


「リカルド……。リカルド……会いたかったよ!!!」


 二人はヒシッと抱き合き、感動のご対面だ。


 リカルドはフサフサの長いシッポまで、恵美ちゃんの体にぐるっと巻きつけて、絶対にもう離すもんかって言う、強い意志を感じずにはいられない。


「あ、あの……?俺もいまーす……???リカルド殿……?」


 宍戸先輩が横からそう声をかけたが、お互いに頭をすり寄せ合い、二人の世界に入ってしまい……どうやらその声は届かなかったらしい。


 まあ、恵美ちゃんを見つけた瞬間、僕の事もポイっとしたしね。


 ……リカルドによると、エミリアちゃん……恵美ちゃんを探すためにSNSサイトを立ち上げようとしていて、知り合ったのが、そういうのに詳しかった悠里くんだそうだ。

 二人は知り合ってすぐに意気投合したんだって。

 そう言えば、悠里くんも友達とSNSの会社を作ったと言っていたから、リカルドがそのお友達って事なんだろうね。


 ◇◇◇


「あのさ!!!もうやめたいんだけど!!!」


 僕は蕎麦猪口を机に叩き付けるように、ガンッと置いた。


 お腹が空いていると言うリカルドの為に、僕たちは空港にあったお蕎麦さんで、お蕎麦を食べているの……だが。


「もー、理人さん意地悪言わないで下さいよ!」


『父上、俺の恵美は何と言っていますか?』


 ……そう。この二人、大問題なのだ。


 二人はさ、いわゆる、運命のお相手ってヤツなんだとは思うよ。それが、こうしてやっと再会できて、嬉しくて仕方ないってのも分かるよ、分かるんだけどね……。


 こいつらさ、お互いに言葉が通じないのだ!!!


 で、さっきから僕は、ずーーーーーーーーーーーーっと、お蕎麦屋さんに行くまでも、案内を待つ間も、お蕎麦を食べながらも、二人の甘い愛の囁き合いを、延々と通訳させ続けられているって訳!!!


 ……『』はC国語、「」はこの国の言葉でお話ししてるんだよねぇ。


 つまりさ、僕はね、激甘ロマンス小説を音読させられる以上の、羞恥プレイをさせられてるって事。


 当てられ過ぎて、もうすでに苦痛でたまらないんだよ!


 ……ちなみに宍戸先輩は空気に徹してる。


 さっきチラッと、「俺は窒素……。」って呟いてたから、空気と言っても、酸素や二酸化炭素みたいな人と関わったり、反応したりする空気では無いらしい。いわば不活性ガス……。


「理人さんが通訳してくれなきゃ、リカルドとお話出来ないじゃないですか!」


「だからさ、その『リカルド大好き〜!』っての、何回伝えたか分かる?もうね、100回以上は通訳いたしました!……獣型になって、『ニャゴー、ニャゴー!』って発情期の猫みたいに鳴いたんでいいんじゃないかい?!そっちでも充分に伝わるよ?!」


 ちなみに獣型になって鳴くと、嬉しいとか楽しい、嫌だとか……そんな気持ちが雰囲気でしか伝わらない。獣人同士でも、普通に話すには人型にならなきゃダメだ。


 僕が嫌気が差してそう言うと、恵美ちゃんは俯いてグスグス泣きはじめてしまった。


「り、理人さんの……バカ……。」


 な、なんだよ。

 泣くとか卑怯だからな!……僕だって泣くぞ!


「おい!理人、言い過ぎだぞ?!『発情期の猫』は流石に酷いぞ?!……あのな、本当の事を言われると、人はムカついたり悲しくなるもんだ……。恵美、泣くな。な?」


 ……先輩、遠回しに同意するなよ。


 恵美ちゃんが泣いてしまったので、僕たちの会話の分からないリカルドはオロオロと、恵美ちゃんの背中を優しく撫でている。


「エ……エミ。スキ。」


「リ、リカルド?!」


 恵美ちゃんが顔を上げる。


 さっきから何度も通訳を入れてたからだろう、バカじゃないリカルドは『好き』を暗記したらしく、片言で恵美ちゃんに伝える。


「エミ。スキ。……オレ、ダイスキ。」


「リカルド!!!私も、大好き!!!」


 二人は見つめ合っていたが、すぐきガシッと抱き合った。


 ……。

 ……。


 極めて馬鹿馬鹿しい。


 ……これのどこに発情期の猫との違いがあるんだよ!『ニャゴー、ニャゴー!』と鳴いているのと、何も変わらないじゃないか。


 だから僕も宍戸先輩と同じ様に空気……いや窒素になりきって、残りのお蕎麦を堪能する事にした。


 だって、このお店は、空港にあるお蕎麦屋さんなのに、非常にクオリティの高い蕎麦を出してくれている。僕は、お蕎麦の味と香りを堪能しながら、広い畑に蕎麦の白い花が風で揺れている風景を思い浮かべ、蕎麦に感謝を送った。


 ……ありがとう……蕎麦。


 そんな僕の目の前で、リカルドは少し何かを考え込んだ顔をしていたが、不意に恵美ちゃんの目を覗き込み、こう言った。


「エミ。……『愛してる。』」


「ん?……リカルド???『アイシテル』?……えっと……???『リカルド、アイシテル。』」


『恵美!!!すごい上手だ!俺も!!!俺も愛してるよ!!!』


『リカルド、アイシテル。……エミ、リカルド、スキ。』


 ……。

 ……。


 途中からC国語に愛の囁きは変更になった様だが、僕からしたら『ニャゴー、ニャゴー!』が、『ウンニャー、ウンニャー!』に変更になった位にしか思えない。


 非常にやってられねーよ!!!


 何なんだよ、コレっ!!!


 ……宍戸先輩も、ウンザリしすぎたのだろう。


 帰りは、車内のレイアウトを変えて、僕を助手席に座らせてくれた。……いつもなら、危ないからって絶対に後部座席にしか乗せてくれなかったのに……。


 僕と宍戸先輩は、後部座席で延々と続く、たいして内容の無いイチャイチャに胸焼け状態で、リカルドが予約していると言ったホテルに向かった。


 ◇◇◇


「リカルドはホテルに泊まるのか?なんなら、俺のマンションに来れば良いだろ?」


 車の中で宍戸先輩がそう言う。

 恵美ちゃんとのイチャイチャはウンザリだが、僕らだってリカルドと再会できたのは嬉しくてたまらないのだ。


『ありがとう、類さん。だけど、仕事もしたいからホテルが便利なんだ。観光がメインだけど、この国の法人の上役と、会議やら面会も入れてるだよ。……まさか、恵美たちに会えるなんて思っていなかったし。』


 あ、そうだったんだ……。


 悠里くんもだけど、リカルドも巨大企業の顧問をやってるんだ。この国にもその企業はあるし、せっかく来訪してるなら、会って打ち合わせしたいって話にもなるだろう。


「そんなぁ。リカルドと居たいよ!!!私もこのホテルに泊まりたい!!!」


 ホテルに着くと、ロビーで恵美ちゃんがゴネ出した。


 リカルドが予約していたのは、都心のターミナル駅付近にあり利便性の高く、打ち合わせや商談向きの、それなりに格式のあるホテルだ。リカルドは打ち合わせの為に、広めの部屋を押さえていると言う。


「エミ。ダメ。悠里シンパイ、ダメ。」


 でも、リカルドは恵美ちゃんに向き合い、首を横に振りながら言った。


 ……リカルドはやっぱりリカルドだ。


 相変わらずクソ真面目で、いくら発情期(?)だからって、恵美ちゃんを連れ込んだりせず、ちゃんと家に帰す気らしい。

 まあ、いくら前世の奥さんでも、今は親友の姉だし、会ってその日にってのはマズイっちゃー、マズイのかな。


 僕なら気にしないけどさ。……多分、宍戸先輩も。

 だって、先輩も驚いた顔をしてリカルドをを見ているてる。


「でも!離れたくないよ!」


「エミ。順番、タイセツ。悠里、タイセツ。エミ、タイセツ。ね?」


「だ、だけど……!」


「怒ったら、ダメ、ね?……『ああ、もう!父上、恵美に通訳して説明下さい!……俺は恵美との今後を考えてる。だからこそ、悠里や家族から、反対される様な事は出来ないんだ。悠里には前世の記憶が無い。きちんと順序を踏んで、お付き合いしないと、理解してもらえない。俺は今世も恵美と結婚したいと思っている。愛しているし、必ず幸せにしたいんだ……だから、分かって欲しい。……ねえ、そう伝えて?』」


 ……うわぁあああ。

 説明も何も、ほぼプロポーズじゃんかよ、それっ!!!


『あのさ……さすがに、それを僕が全部通訳するのはどうかと思うよ?……今後を考えてるから、まだ早いくらいにしとこうよ?さすがに、プロポーズは自分でしろって。』


 ……そいだよ。そういう言葉は、恵美ちゃんだってリカルドから直接聞きたいはず!そこはやっぱり、この国の言葉を覚えるとか、恵美ちゃんにC国語教えるとか……とにかく、二人で頑張れよって話だし。


 だが、僕の返事を聞いたリカルドは、急にしどろもどろになり言った……。


『……。え……っと……さ、さすがに、出会った日にプロポーズは……恥ずかしいかな……。だ、だけど、あんまりグズグスしてて、他の奴に恵美を取られたくないし……。だ、だから、父上に代わりで言ってもらおう……かなって……。』


 ……。


 確か……前世もこんなでしたね、君……。


 誠実だし、真面目だし、態度は甘々なくせに、肝心な事は言えずに、下手すると余計な事を言って、鈍い恵美ちゃんとドンドン拗れていく、安定のヘタレ。


 今世も、リカルドはやっぱりリカルドだな……うん。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ