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生まれ変わっても君の嫁にはならないからね?

コメディですが、激重ヤンデレ回です。苦手な方はパスして下さい。

 僕は、壬生さん……元・エリオスの腕の中でガクガクと震えはじめた。


 だってこれ、僕だってバレたらマズイ事になるんじゃ無いだろうか。


「……他の奴らはもう諦めた。だが、リチャードだけは逃がさない……。」


 暗い目で囁くように言われ、僕のシッポはブワッっと毛が逆立つ。


 ……あ、悪霊より怖い気がするのは何故だろう。


 ハッキリ言って、前世の親友、エリオスは時々ヤバいヤツだった。……いわゆるヤンデレってヤツだったんだと、今の僕は思う。対象は自分の奥さんと家族……そして僕。……ただ、時々暴走しても、対象者が多かったため、『愛が重め』で済んでいた。


 だ……だけど……。


 何で今世は、僕一本に絞ってきちゃった訳?!


 ほ、他の人も探そうよ!!!恵美ちゃんとか、恵美ちゃんとか、恵美ちゃんとかさっ!!!君の娘も転生してまぁーす!


 な、なんで僕なんだいっ?!


 ……マジで僕だけじゃ、君の重すぎる愛は、受け止めきれないからね?!


 しかもさ、僕……今世も男!!!

 男ですからっ!!!


 何故か壬生さんの中で、僕は必ず女として転生してる事になってますが、僕は今世も男でっ!!!しつこい様ですが、今世も僕は、男に興味はありませんっ!!!


 宍戸先輩とは違い、僕にとって性別は壁は極めて高いんだよっ!!!


 恐るおそる見上げると、光の無い目と目が合ってニッコリと微笑まれた。……僕を優しく抱き込みながら、うっとりと語り続ける。


「親友が死ぬときに、言ってくれたんだ……。来世では絶対に女に生まれるから、俺の嫁にしてくれって……。」


 いや、待て。


 言ってない。


 絶対にそれ、僕は言ってないから!!!


 ……。


 ……。


 えーっと、それって……確か……。


 本当は……「女なら嫁にしてやる」とかって、壬生さんが自分で言ったんじゃなかったかな???

 なんか朦朧としてて、頷いてしまった気もしないではないけど……。


 で、でも、うっかりしたかも知れないけど、それは無効だって!!!


 そんな約束したつもり、僕には無いからーーー!!!


「だから俺は今世で、あいつが愛していた将棋をする為に、棋士になったんだ。この国ではチェスより将棋の方がポピュラーだからな。……そうすれば、将棋をしているだろうアイツと何処かで会える筈だ……。ちなみにチェスもやってる。きっといつか出会えるんだ……。」


 ざ、残念だけど、それも無いんだよ、壬生さんっ!!!


 そう。確かに前世の僕はチェスと将棋を愛していた。


 で、でもね……。


 前世で僕は、チェスの恨みから殺されかけて、護衛騎士だったロイド……宍戸先輩に、身を挺して助けられてる。

 そのトラウマのせいか、今世の僕はチェスや将棋の類が、とても苦手なのだ。

 盤の前に座ると、酷い不安感に襲われて、まるで楽しめない。……前世を思い出すまでは、何故、こんななのか意味が分からなかったが、前世を思い出してみて、妙に納得したんだよね。自分が殺されかけた事もだけど、目の前で宍戸先輩が死んでしまうかも知れないという恐怖……。どうやらそれが蘇って来てしまうらしい。


 つまり、チェスや将棋の得意だった僕は、もう居ない。

 だからね、壬生さん……いくら将棋やチェスを極めても、僕には会えないんです。


 ……うっかり車で僕を轢いたけど。


 そんな事を知るはずもない壬生さんは、僕を撫でながらさらに語る。


「あいつは、きっとものすごい美女に生まれているはずだ。」


 ……。


 すいません、美女でも美青年でもありません。

 ……残念ですが、ただの美猫です。人型になると、バタ臭い顔の中学生……いや、下手をしたら小学生!!!


「今世で俺はね、女のアイツと、沢山の子供をもうけるつもりなんだ。楽しみだ……。そうして、なるべくアイツの事は外には出さずに囲い込むつもりなんだよ。……他の男には、アイツを見せたくないしな。この広い屋敷は、囲うにも、沢山の子供にも最適だろ……?……俺は稼ぎもあるし。」


 ……こわい。


 怖すぎます。エリオス……いや、壬生さん!!!


 僕……女じゃなくて……まだ、見つけられて無くて、マジで良かった。


 僕は壬生さんの腕の中から逃れようと、モゾモゾと動く。

 ここの場所は不明だけど、とりあえずこのお屋敷から逃げ出そう。……バレないうちに。


「こら……。逃げられないぞ?」


 優しく制する言葉と腕なのに、背筋がゾクリとなる。


 見上げると、目はまるで笑っていないのに、笑顔をたたえている……。ひっ……。


「お前の目は、リチャードの目にそっくりだ……。本当に美しいな。あの美しい瞳はリチャードが死んだ時に、思わず取り出しておこうかと思たくらいだ……。」


 !!!


 ……ねえっ!!!


 僕の亡骸に何してくれる気だったんだいっ!!!


 ……まあ、生きてるうちに取り出そうとした訳じゃないし、もう使わないからまぁ良いけど……。


 で、でもさ、そんなの他の人から見たら、ドン引きされちゃうからね?!


「息子に咎められ、なら俺も一緒に埋葬して欲しいと言ったら、妻に泣いて止められたんだ……。」


 ……。


 な、なんてホラー。


 先に死んで良かったな、僕……。

 これ、止めた方もダメージすごくないか???


「今は良い思い出だ……。」


 ねぇ、ドコ?何処に良い思い出あったんだい???


 こ、怖すぎるだけどっ!!!


 ……ん?


 でも、もし僕が男だったらどうするつもりなんだろう?

 流石に嫁には出来ないよねぇ???


 壬生さんと目が合う。


「そう言えば、お前はオス猫だったな。……もし、リチャードがまた男に生まれていたら……。……そうだな、転生出来る事も分かったし、心中でもして、次に行くかな……。」


 ア、アウトーーー!!!




 ◇◇◇





「……過呼吸でしょう。昨日の事故を思い出してしまったのかも知れませんね。」


 ここは、再び昨日の動物病院。


 壬生さんの病みっぷりと、バレたらヤバい!逃げられない!心中エンド!!!…… そんな感じで、パニックを起こしてしまった僕は、猫なのに過呼吸を起こし、慌てた壬生さんが病院に連れてきてくれたのだ。


「そうですか……。幸いにも怪我は無かったとは言え、死にかけていますからね。……。」


 ビクゥ!!!


 優しく壬生さんに撫でられそうになり、逆毛が立った僕は、腰が引けたまま、後退りする。


「……壬生さんが車で轢いたのを思い出したのでしょうかね?」


「……。」


 伸ばした手を握りしめ、悲しげな顔で僕を見つめる壬生さん。

 ……ええっ、そんな顔しないでよ。僕が悪いみたいじゃないか。き、君がさ、勝手に僕が女に転生してるって決めつけて、嫁にしようとしてくるから……男なら心中するとか言うから、怯えてるだけなんだぞ?


「猫ちゃん……。」


 ……。


 ぼ、僕は絆されないからね……。


 そんな可哀想な顔してもダメなんだぞ……。


「嫌われちゃったのかな……?」


 き、嫌いでは無い。

 怖いだけで。


 前世の親友だよ?

 嫌いな筈ないだろ……?


 もう、二度と会えなくても、僕は壬生さんの事、応援してるよ。将棋、頑張れよ!


 僕は診察台からハラリと飛び降りた。


 ……ドアは開いている。ここから、宍戸先輩に怒られそうになった公園は近いはず……。

 よし、このまま帰ろう。


「お、おい。……行ってしまうのか?」


 ……。


 ごめんね。


「……リチャードみたいに、お前も俺を置いていくのか?」


 ……。


 だめだ。


 悲しげな声に振り返ってはいけない。

 待っているのはヤンデレ・エンドだ。別に人生に何の目的も無いが、もっとお気楽極楽でいきたい……。僕ってシリアスよりコメディ向きだし、怠惰な僕に激重ヤンデレ男は荷が重い……。


 僕はクールに無視して外へ向かう。


 シッポは垂れ下がってるけど。


 ……エリオス……ばいばい。病んで無ければ、また来世……!



 僕が病院の玄関までやってくると、バタバタと大きな足音が近づいて来て……。


 ドンッ!!!


 すごい衝撃で僕は吹き飛ばされた。


 ……な、なに……。


 い、痛いんだけど?!?!


「いた!!!宍戸先輩!!!理人さん居たよ!!!この病院だ!!!ここに運び込まれてたんだ!!!」


 飛び込んで来たのは恵美ちゃん。

 そして僕は勢いよく開けられたドアに、吹っ飛ばされたのだ。


 恵美ちゃんは、グダッとした僕を拾い上げ、後ろから入ってきた宍戸先輩にポイっと渡す。……極めて雑な扱いだ。


「理人!!!よ、良かった!!!急ブレーキの音が聞こえて駆けつけてたら、もうお前が居なくて……。ごめん、怒鳴ったりして……!!!」


 宍戸先輩が僕をギギューっと抱きしめる。猫にやっていい抱きしめ方じゃない。……どうしてコイツらはこんなに雑なの???……ヤンデレだけどさ、壬生さんの丁寧さ見習ってよ?!


「……あの。その猫は、貴方がたの飼い猫なんですか?」


 騒ぎを聞きつけたのか、奥から壬生さんと先生が出てきて、先生が先輩に尋ねた。壬生さんは、俺たちを見たくないみたいで、俯いている。


「あ、いやこいつは飼い猫って言うか……イッ、痛い!!!おい、理人!!!何で噛む。」


 余計な事を言いそうな宍戸先輩をガブリと噛む。


「理人さん……どうしたの?……あ!!!」


 恵美ちゃんが、声を上げ……壬生さんを見つめる。


 しっ、しまった!!!


 恵美ちゃんと壬生さんは、前世では親子だ!気づいてしまったんだ……。


 壬生さんもその声に顔を上げ、恵美ちゃんを見つめると目を見開き驚きの眼差しで見つめる。


 二人は見つめ合ったまま近づくと……。


「えっ。……本物の壬生 英良だ……。やばい。震えそう。……大ファンなんです。握手していただけますか?」


「え……。猫獣人って本当にいたんだ。うわ……しかも三毛猫なの、君……?え、俺こそ握手してもらって良いかな?なんか縁起良さそう……。」


 ……。

 ……。


 えっ???


 き、気付いてない?!?!


 そう言えば……恵美ちゃんて、悠里くんなんか絶対に前世のお兄さんにしか見えないのに、まるで気付いてなかったよね……?!


 あ、壬生さんも鈍いタイプなのかも……???

 前世、親子だもんね……。似てるのか???


 二人はニコニコと握手しあっている。


「私、下手なんですけど将棋が大好きなんです!壬生さんの大ファンで、室井さんって方を通して、先日サインをいただいたんですよ!」


「えっ、室井くんに頼まれたサインって、君だったんだ?えーと……。君が、恵美ちゃんかな?」


「さっ、さすがです!!!さすがのプロ棋士!!!記憶力が良いんですね!!!」


 僕を抱いた宍戸先輩を見上げると、先輩も生の壬生さんに会えた感動のあまり、ウルウルきているみたいだった。……やべ。先輩も壬生さんのとこに行っちゃう!!!


 僕は慌てて宍戸先輩を噛んだ。


「痛い!何だ?何で噛むんだ?」


「ニャー!ニャ、ニャー!!!」


「ウニャウニャ鳴いててもわからん。人型にもどっ……いっ、痛たたたた!!!もう!何で噛む?!……お、お前、まさか……調子悪いのか……?」


 先輩は、壬生さんと楽しそうに話す恵美ちゃんを、羨ましそうに見つめていが、慌てて僕の顔を覗き込み、獣医さんに確認した。


「すいません、先生、理人に何が……?」


「ああ。昨日、壬生さんの車に轢かれたんですよ。幸いにも異常は無い様ですが、パニックを起こしたみたいで……。貴方たちが飼い主なら、早く安心できるお家で休ませてあげた方が良い。昨日は壬生さんのお宅に泊まったのですが、落ち着かなかったのでしょう……。」


「轢かれた……!理人、疲れてるのか……?おい!恵美、帰るぞ!理人は昨日車に轢かれたそうだ。すごく疲れてるみたいだし、早く家で休ませてやろう。……壬生さん、うちの理人がご迷惑をおかけしました。車の修理代などお支払いいたしますので、こちらにご連絡下さい。」


 先輩はそう言うと、壬生さんに名刺を渡した。


「えっ!そうなんですか?じゃあ早く帰りましょう!……壬生さん!それでは、将棋、頑張って下さいね!幸運の三毛猫、恵美ちゃんが応援してますヨ!……あっ、もー!待って下さいよ、先輩!」


「ほら、早く!!!……見てみろ、理人のヤツ、耳がペチャンコになってる。可哀想だろ?……壬生さん!俺もファンなんです!対局、頑張って下さいね!」


「えっ?待って、君たち……?!修理代なんて要らないよ……!あ、ね、猫ちゃん……?」


 壬生さんは声を上げだが、護衛スイッチが入ってしまった先輩は、振り返りもせずに車に戻り、ジュニアシートに恵美ちゃんを固定すると僕を抱かせて、サッサと車を出してしまった。


 宍戸先輩の車で、恵美ちゃんに抱っこされた僕は、安堵感からか、徐々に微睡み始めた……。


 ……壬生さん……いやエリオス……。


 お前こそ、女の子に生まれ変わって、僕の嫁になれよ……。僕は女の子なら、守備範囲広めなんだぞ……?女の子なら、中身が君でもアリよりのアリだからな……?


 ……なんて思いながら、僕は眠りに落ちていった……。

 





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