旅行先はどちらですか?
怨霊で炙ったマシュマロとチーズを食べちゃった僕たちだったが、黒上さん達によると、そんな話は前代未聞だから分からないけど、浄化されてるし大丈夫なんじゃない?って事だった。
まあ、お腹痛くなるかも知れないけど、呪われたりはされないから、出すだけ出したらスッキリするんじゃないかなって……軽〜く言われた。
……やっぱりお腹は痛くなるかもなんだ……。
僕たち三人は、目の前がちょっと暗くなったし、思い出したらちょっとオエッてなってしまった。
だってさ、考えても見なよ、ものすごく怖い怨念が燃えてた火で炙ったチーズとマシュマロだよ?……怨念さんには悪いけど、気持ち悪さはゴキブリ並みですって。
ゴキブリを燃やしてる火で炙ったの、食べたらどう思う?って話だよ。
三人で頑張ってオエオエしたけど、僕たちの強欲な胃はチーズもマシュマロも出す気は無いらしく……特にお腹も痛くはなってこなかった。普通通りに消化、吸収を行うみたいだよ???……目から光も消えちゃうよね?
だから、しつこく何度も言うようだけど、火で滅菌されてて無害だからって、ゴキブリを燃やした火で炙ったチーズやマシュマロを消化して自分の体に吸収しちゃうちうんだ、僕たちの体は……って感じの絶望感だよね。
まあ、暗い気持ちになっちゃわないかい?
……だけど、記者をしている美人の愛さんからは、大変に感謝されたから、それは良かったって思おう。
結構長い間、苦しんできたらしいイトコさんを救えたのも良かったし……。
愛さんは、僕たちに、お礼だと言って旅行券をくれた。
実は、愛さんは記者って言っても、旅行記者をしてるんだって。イトコの為に、イロイロなコネを使って調べてたけど、オカルト系の記者じゃないんだってさ。
だから「いっぱいあるんで、とりあえず御礼に貰って下さい!」って、なんと20万円分も旅行券を貰っちゃったのだ。しかも、「旅行関係なら詳しいんで、いつでも相談に乗らせてくださいね?おすすめスポットから、穴場のレストランまで、国内外問わず詳しいのでっ!」って、連絡先も教えてくれた。
◇◇◇
「あの……。理人さん、宍戸先輩……!」
帰りの車の中で、貰ったチケットを眺めて、何処行く?有給とれる?早速、愛さんにオススメ聞く???なんて話で盛り上がっていると、恵美ちゃんが思い切った様に切り出してきた。
「……どうした、恵美。行きたい所があるのか?」
「は、はい!!!……実は……その、私……越前ディノニクス・ランドに行ってみたいんです!」
「ディノニクス・ランド???……あの、夢と浪漫が溢れる古代の国……恐竜のテーマパークだよね?」
ディノニクス・ランドはこの国で最大かつ、最高のテーマパークだ。恐竜をモチーフにしており、誰もが知ってる人気キャラクターのディノ君や、彼女のニクスちゃんを筆頭に、ちょっと怒りぽいTレックス君や、のんびり屋のブラキオさんなどのキャラが有名なのだ。
オープン以来、長年にわたり沢山の家族連れやカップルで賑わっており、デートや旅行で行きたいスポット、No.1だ。
「……実は、ずーっと行ってみたかったんです!……でもココからだと、ちょっと遠いですよね?……子供の頃、家族旅行で行くはずだったんですが、熱を出して行けなくなっちゃって……。その後、悠里が留学しちゃったので、何となく家族旅行は行かなくなっちゃったんです。家族で、悠里の留学先に遊びに行ったりする様になったので……。」
「へえ、そうなんだ……。」
まあ、ここからだと、電車でも数時間かかるし、車じゃ半日はかかっちゃうから、行くとしたら泊まりだもんね。
子供にとっては一度は遊びに行きたい場所ではあるけど、そうホイホイと行けるとこでは無いんだよな。チケットも近くにあるオフィシャルホテルもお高めだし。
大好きな人は年間パスポートを持ってて、足繁く通ったりするらしいけど、普通だと家族で数回行って、大人になってからは、彼氏や彼女とお泊まりデートで数回行くって感じだ。まあ、お友達同士で行ったりしもするけど。
「だから、ずっと行きたいって思っていて……就職して、初ボーナスで悠里を誘ったんですけど、『カップルで行く場所に、姉としての恵美と行くのは嫌だ。』って断られちゃって……。お姉ちゃんを辞めたら、一緒に行ってくれる?らしいんですけど、ディノニクス・ランドごときで、家族の縁を切られちゃうって、ちょっとなぁって思うんですよね……。」
「ええっ?、……悠里くんはそんなにもディノ君が嫌いなのかい?!」
……まあ、トカゲっぽいからなぁ。
最近では恐竜は鳥の祖先とかって言われてるけど、やっぱりディノ君は爬虫類っぽさもあるし、苦手な人は苦手なのかも???
「うーん。……昔はディノ君、好きだったんですけどね……?18歳って、家族で遊びに行くのは抵抗があるのかもです。……引きこもりの悠里には、恋人も友人も同僚も居ないんで、哀れんで誘ってあげたのを察したのかも……。」
う、うわぁ。
確かに、それを感じたら絶対に一緒に行きたくは無いカモ……。恵美ちゃん、そういうの顔に出そうなタイプだし。
「それなら、悠里くんも誘って皆んなで行かないか?!……これだけ旅行券も有るし、オフィシャルホテルの『ホテル ジュラコスタ』に泊るのも有りだよな?!」
「えっ!!!……『ホテル ジュラコスタ』!!!私、テレビで見てて、すごく憧れてたんですっ!ホテルからパークが見えるんですよね!!!行きたい!泊まりたいです!!!」
「ぼ、僕も!……パークのシンボルである、チクシュルーブ隕石が部屋から見えるなんて、ロマンチックだよねぇ!お部屋も、さりげなくディノ君やニクスちゃんが配置されてるんだろ?!」
「じゃあ決まりだな!……よし、ならどこか土日に有給でも付けて予約しよう。楽しみだな!恵美、悠里君の都合を確認しておけ。……実は俺も、行くのは初めてなんだよ。」
宍戸先輩も、ワクワクした様子で言った。
「僕は、すごーく小さな頃に両親と行ったよ。でも、写真があるだけで記憶は無いんだ。だから凄く楽しみ!……ねぇ、ガイドブック買おうよ!イメトレしない?!」
「あっ!!!良いですね!!!……先輩、本屋さんに寄ってから帰りましょう!」
僕たちは、楽しげな気持ちで、帰路についた。
◇◇◇
僕たちはガイドブックを買うと、ワクワクで恵美ちゃんのアパートまで行った。善は急げ!だからね。悠里くんの予定を聞いて、早めに予約しなきゃとなったのだ。ガイドブックの情報によると、ジュラコスタは、眺めの良いお部屋から埋まっちゃうらしい……。
だけど、アパートに僕たちが着いた時、ちょうど悠里くんは出かけるみたいで、少し大きめのバックパックを背負って、家から出てきたところだったのだ。
「あれ?悠里、どこに行くの???」
「あ、恵美、おかえり。宍戸さんと理人さんもいらっしゃい。……実はさ、留学先で知り合った親友が、今度さ遊びに来る事になったんだ。……彼さ、この国の神社や仏閣に興味があって、古都に行ってみたいんだって。」
「へえ……。悠里くんは留学してたんだっけ?……親友さんて、外国人なのかい?」
クールな悠里くんにしては珍しく、嬉しそうな顔になる。
「うん。そうだよ。だけど、すごい気が合うヤツでさ……。帰国してからも、メールとか、ネットを通じて、頻繁に会ってたんだけど、実際に会えるのは2年ぶりになるんだ。……だから、下調べに出かけようかと思って。」
「下調べ……か?」
宍戸先輩が大きなバックパックを見つめながら聞く。
「えっとさ、ロケハンってヤツ???……俺、わりと子供の頃から留学しちゃってるから、古都とか行ったことないし、神社仏閣も全く詳しく無いんだよ。……ガイドブックやネットでも情報は集められるけどさ、実際に色々と見て調べて、案内してやりたいんだよね?……この国、気に入ったら住もうかなってアイツは言ってたし、アピールしたいって下心もあるかな。……ついでにさ、少し国内をフラついてみようかなって思って。恵美にはもう、宍戸さんや理人さんもいるし、俺がずっと付いてなくても大丈夫だろ?……あ、恵美。サプリは忘れんなよ?あと、獣型でも風呂に入れよな?人型で風呂入るだけじゃ、その艶は維持できないからな?!」
悠里くんは恵美ちゃんにそう忠告すると、軽く手を振って駅の方へと足を向けようとした。
「ちょ、ちょっと、待ってよ……悠里!いきなりすぎだよ???」
恵美ちゃんは慌てて、悠里君のバックパックから出ている紐みたいな所を掴んで引き留める。
「んー?まぁね。でもさ、俺って……この国で、高校とか大学行ってないし、知り合い少ないよなぁって思ったんだよね?恵美が理人さんや宍戸さんと楽しくやってんの見てさ、留学先で親友と過ごしてた毎日を思い出したんだ。俺、忙しさと恵美の心配にかまけて、少し家に籠りすぎてたかもって。ありきたりだけど、自分探ししよっかなーって。……親友は来月には来るって言ったたし、それまでには帰るよ。毎日メッセージも送る。……親友が来たらさ、恵美や理人さんと宍戸さんにも紹介するよ。ま、ちょっと見分を広めてくるって思って見送って?!」
「悠里くん、駅まで車で送ろう。……見送らせてくれ。」
俯いてしまった恵美ちゃんを見て、宍戸先輩が慌てて車の鍵を取り出す。
「いいって。宍戸さんも大げさだなぁ。……駅なんて数分だし、歩くよ。……恵美、本当に旅行に行くだけだって?すぐに帰ってくるから、そんな顔するなよ?な?」
泣きそうな顔で俯く恵美ちゃんに、悠里くんは屈んで視線を合わせる。
「で、でも……なんか……悠里が留学に行くときの事、思い出しちゃって……。」
「今回は、長くても一か月だって。すぐに帰ってくるよ。親にも旅行するって事と、恵美にはしっかりした人がついてるから、大丈夫って言ってある。……宍戸さん、恵美がもし困ったら、よろしくお願いします。」
悠里君はそう言うと、宍戸先輩に向かって頭をペコリと下げた。
……えーーーっと……僕もいまぁぁぁす。
「ああ、何かあれば、俺が力になるから大丈夫だ。」
……えーーーっと……先輩も、そこは『俺たち』じゃないですかねぇ……?
「恵美……戸締りと、火には気を付けるんだぞ?困ったら早めに、宍戸さんに相談するんだ。離れてるけど、父さんや母さんだって居るんだし、最悪は理人さんでも構わない。自分一人で抱え込むなよ?……あ、あと、あんまり散らかすと、帰って来たらキレるからね、俺。……なあ、そんな顔されると、行きにくくなるんだろ…?」
「うん……。」
悠里くんは恵美ちゃんの頭に手を置いて、名残惜し気に撫でていたが、顔を上げると「じゃぁね!行ってきます!!!なんか土産とか、恵美が好きそうなモン見つけたら送るよ!」と無理に作った笑顔を見せて、駅に走って向かって行ってしまった。
……最悪は理人さんでも構わないって……どういう意味だろう?
言っておくが僕ほど人生経験豊富な奴もそういないと思うのだが。……人生三回目ですからね???
あ!……恵美ちゃんもか……!!!
うーん。なんだか僕と恵美ちゃんの待遇には、深刻な問題をはらんでそうだから、もう考えるのはよそ……。
恵美ちゃんは、駅に向かって小さくなっていく悠里くんの後ろ姿を、ジッと切なそうに見つめていたが、その影が角を曲がって見えなくなると「じゃぁ、私達は『ディノニクス・ランド』の計画でも立てましょっか!早めの予約、大切ですもんねー?!」と、アッサリ気持ちを切り替えて僕たちに言った。
だから僕たちも、気持ちを切り替えて、「そうだね!僕らも旅行の予約をしようか!楽しみだねー!」「ああ、早めの予約で良い部屋に泊まろう!」ってなって、部屋に入って行った。
……ネコ科の生き物とは、切り替えが極めて早いのだ!
一方、悠里は電車に乗っても、置いてきた恵美を考えて感傷に浸ってます……。




