呪いのブルーレイ・ディスク
こんにちは。一ノ瀬 理人です。
今時の呪いのビデオは、どうやらブルーレイ・ディスクに進化している様です。
寒くて凍えてしまった僕が、お風呂から上がると、ちょうどバーベキューの買い出しから戻ってきた宍戸先輩と恵美ちゃんが、リビングスペースでそれを発見したのです。
ブルーレイレコーダーの上に、ちょこんと置かれた……タイトルの無いブルーレイ・ディスクを。
……。
……。
……。
こ、これってさ、ま、まさか呪いブルーレイ・ディスク?!
見たら呪われる奴……???
いやいや、まさか。
だってアレ……フィクションだよね???
でも、このペンション……どー見てもホラー映画『O-リング』の舞台にソックリなんだよなぁ……?
『O-リング』は、少し前に大ヒットしたホラー映画だ。
殺され井戸に捨てられた美少女サダコの怨念が、ペンションにあったビデオに宿り、見た者を呪い殺す。殺されたくなければ、ビデオをダビングして他の人に見せるのだ。それが出来ないと、7日後にテレビからサダコが出てきて殺されちゃうのだ……。
ちなみに、O-リングとはゴムパッキンの事である。
何故ゴムパッキンがタイトルなのかって?
えっと確か……主人公がゴムパッキンの会社で働いてたんじゃ無かったかな???
あんまりタイトルと中身は関連無かった気がする。
「あのさ……これ、ま、まさかだけど……呪いのブルーレイ・ディスクなんじゃ……。」
僕は恐る恐る、ブルーレイ・ディスクを指差す。
……あっ!指差したら呪われるかも?!……やっぱり怖いので、手のひらで指し示す。
「……だったら厄介ですね。割りますか。」
恵美ちゃんがキリッとした顔で、ブルーレイ・ディスクに手を伸ばしたので、慌ててその手を掴む。
「だっ、だめだよ!!!もし本当にそんなだったらさ、マジで呪い殺されるからね?!」
「うーん。しかしなぁ。……もし、万が一だが、本物なら放置したら危険だろ???見たら呪われるなら、見れない様に割っておいた方が良いだろ???……タイトルも書かれてないし、誰の所有物かも分からない……一応処分しておこうか。」
どうやら、宍戸先輩まで割る気らしい。
なんなの?この脳筋コンビ!!!
「だっ、ダメだって!!!割ったら中からサダコ出ちゃうから!!!」
「ええー?まさか。ブルーレイ・ディスクにサダコは入ってないですよ?」
「いやいや、入ってる!入ってんの!!!……だってさ、テレビから出てきちゃうんだよ?液晶の薄型テレビからだって出てくるんだよ?カーナビのテレビからだって、下手したらスマホからだって出てきちゃうよ?!……ディスクからだって、割ったりしたら、絶対に出てきちゃうんだからねっ!!!……あっ、そうだ!黒上さん!黒上さん達に相談してみない?!」
宍戸先輩と恵美ちゃんは、困った顔で僕を見つめた。
「いやー?いくらなんでも、それっぽいってだけじゃ、ご迷惑だろ?」
「そうですよ。ここって映画のペンションに似てますけど、それだけじゃないですか?別に何も見えてませんし……。そんなの放っておいて、バーベキューしましょうよ?なんと!先輩が奮発して和牛を買ってくれたんですよ?!」
「え……?……和牛???……イイね!!!」
僕たちは、ブルーレイ・ディスクの存在を忘れ、テラスに向かった。
◇◇◇
「うまーい!!!この和牛めっちゃ柔らか!!!お野菜も甘味があって美味しいー!!!」
「ですねー!なんでも、このお肉、この辺りのブランド牛らしいですよ?お野菜も名産地なんですって!……私、こっちの先輩が仕込んで来てくれた塩豚も好きです!!!この塩味がたまりませんっ!!!」
「ああ!この牛肉は当たりだったな!……恵美は塩豚を気に入ってくれたのか?よーし、明日の朝は残りを、この美味い野菜とスープにしよう!」
バーベキューを始めた僕たちは、先輩と恵美ちゃんが買ってきてくれたお肉とお野菜の美味しさにウットリだ。
先輩が仕込んできた塩豚もイケてるし、僕たちはさっきからビールがどんどん進んでいる。ちなみに地ビールなんだって!これもコクがあって、うまい!!!
しかも、スーパーの隣にあったと言う100円ショップで、恵美ちゃんが可愛い飾りをたくさん買ってきて、ちょっと陰気めだったペンションのテラスをデコってくれたので、意外にもここは、フォトジェニックな空間に変身している。
「なんかさ、この飾り付けたら、すごいオシャレになったよね?」
「ええ!グランピング風を目指しました!100円ショップだけど、なかなか良く出来ましたよね?」
「よし!せっかくだし、写真を撮らないか?白井たちに自慢しかえそう?!」
宍戸先輩がそう言うと、恵美ちゃんは微妙な顔になり、首を横に振った。
「……私も、せっかくなんで写真を撮りたかったんですけど……。あの井戸……絶望的にダサくないですか?」
た、確かに。
僕たちのデコったオシャレ空間のテラスから、ちょうどあのジメジメした井戸がバッチリ見えているのだ。……うん、グランピングには相応しくないダサさだ。
「そうだ!井戸もデコろうよ!」
「ええっ、デコっても井戸は井戸ですよ?……オシャレになんかならないですって。」
うーん。
あっ!!!
「じゃあさ、このペンション、ちょうど僕たちしかいなくて、貸し切りだろ?管理人さんもすぐに中に篭っちゃったし。あの井戸の上にさ、金網でも張って、キャンプファイヤーをしない?……そこにちょうど薪もあるしさ!!!」
「そうだな!もう使ってない古井戸みたいだし、良いかもな!!!石造りで火事にもならないだろうし!……なんか、小学校の頃のキャンプを思い出して、ワクワクしてきたな。」
「うわぁ!キャンプファイヤー!!!素敵です!!!超グランピングです!!!……三人で『燃えろよ燃えろ』歌ってハミングしましょう!!!」
こうして僕たちは、井戸を無理やりにキャンプファイヤー台に改造した。……ビールがすすんでいたせもあってか、かなりアゲアゲで準備は完了した。
火の神役の宍戸先輩がキャンプファイヤーに火をくべると、僕たちはそれをバックに映える写真を撮りまくり、最後は三人でハミングを決めた。
……途中で、唸るような音が聞こえてきたけど、きっと薪が燃えて崩れた音なのだろう。僕らは歌いながら、さらに薪をくべていった。
「あっ、マシュマロ炙りませんか!!!」
「恵美ちゃん、オシャレ!」
「俺はチーズを炙ろうかな!」
「宍戸先輩もオシャレです!ここはやっぱり、ラクレット風でいきましょう!!!」
「じゃあ、ワインも開けなきゃだね!」
……こうして、僕たちのキャンプファイヤーの夜は更けていった。
◇◇◇
ピンポーン!
早朝にペンションの部屋のチャイムが鳴り、僕たちは二日酔い気味で目を覚ました。
「……だ、誰だろ?」
「さあ?……ここ、朝食付きじゃなかったはずだが?」
「ニャー!」
……高原で少し肌寒かったから、夜中に恵美ちゃんが獣型になって僕のベッドに潜り込んできたのだ。僕も寒くて、宍戸先輩のベッドに潜り込むか悩んでいたので、僕は獣型の恵美ちゃんを連れて先輩のベッドに潜り込んで、ぬくぬくと眠ったのだ。
……いわゆる猫団子である。僕と先輩は人型だったけど。先輩はライオンだけど。
悠里くんにバレたら社会的に抹殺されそうだが、寒かったんだから仕方ない。
のろのろと三人で玄関に向かう。僕は湯たんぽ代わりに恵美ちゃん(猫)を抱っこして行った。
ドアを開くと、そこには美人なヒトのお姉さんが立っていた。後ろには身長の高い男性が二人控えている。
「朝早くに、すいません。私、鉢屋 愛と言う者で、記者をしているのですが……。」
不意に背後に目をやると……あ、あれっ??
「黒上……さん???」
「「……宍戸さん、理人くん、恵美ちゃん???え???」」
……?
えっ???
えーっ?何でっ???
◇
「……あのね、僕たち、愛さんからの依頼で、呪いのブルーレイ・ディスクを探しているんだ。どうやらこのペンションのこのコテージ始まりだって、やっと突き止めてね。……ほら、少し前に流行っただろ?ホラー映画『O-リング』。あれ、映画ではビデオだったけど、本当はブルーレイ・ディスクだったんだよ。それを見てしまった大学生達がが呪いで苦しんでいて、祈祷とかしてもらってもダメなんだ。相当に強い怨霊らしくってね。……その中には、愛さんのイトコもいるそうなんだ。だから、なんとかその怨念の震源地を探り出して、禍根を晴らさないと呪いは解けないんじゃないかって、こうしてやっと突き止めたんだけど……。」
黒上さんの片方が矢継ぎ早に説明してくれる。
ネクタイが赤いから……禮さん、かな???
「の、呪いのブルーレイ・ディスク……???」
宍戸先輩が僕を見つめる。
……ほらぁ、やっぱりアレ、やばいヤツだったんじゃん!
「映画みたいに、簡単には呪い殺されたりしてないんだが、夜な夜な井戸から女性が這い上がってきて、少しずつ近づいてきているらしくて、彼らは発狂寸前まで追い詰められているんだ……。こんな早朝で済まないけど、良かったら部屋を見せてくれないか?」
青いネクタイの推定蓮さんが申し訳なさそうに言う。
「ご迷惑おかけしてすみません、本当に時間がなくて……。イトコはもうそこまで来てるって言うんです!こ、ここに、もし呪いのブルーレイ・ディスクがあれば、何か呪いを解く手掛かりになるかも知れないんです!井戸の事も何か分かるかも……!」
愛さんが必死に訴える。
「い、いやね、実はブルーレイ・ディスクはあったんだ。中は見てはいないが、昨日発見して、三人で少し騒いでな……。良かったら中へどうぞ。」
僕たちは、黒上さん達と愛さんをリビングへ案内した。
「えっと……理人、ブルーレイ・ディスクはどうしたっけ?」
「えーと……?確かね……レコーダーの上に戻したはず。あ、ほらあるじゃん……え???」
「ウニャ?」
ブルーレイ・ディスクは確かにレコーダーの上にはあった。
だけど、なんだか火に炙られたみたいに黒こげになって、穴も開いて歪んでしまっている。
「あ、あれっ???」
「昨日は普通だったよな???」
「ニャ???」
黒上さん達は手に取ると、計器を取り出して調べ始めた。
「う、うーん。何も反応しないなぁ?……呪いのブルーレイ・ディスクなら、怨霊が浄化されてしまってるみたいな気がするんだけど……?三人は、何かしたの?」
「いや……?そのディスクは見つけた時に少し騒いで、すぐに戻したんだ。昨日は……テラスでバーベキューしただけだよな?」
「うん。あと、キャンプファイヤーもしたんだよ!!!あ!!!黒上さんにも、見せてあげるね?!めっちゃ映える写真も沢山とったんだ!!!」
僕は首を傾げ考え込む二人に、昨日のキャンプファイヤーの写真を見せようとフォルダを開いた。
「あっ!……え?あ、あれ???」
僕が驚いた声を出すと、黒上さん達に愛さん、宍戸先輩にネコのまんまの恵美ちゃんも写真を除き込む。
写真の中には、ほろ酔いでゴキゲンな僕たちと……その背後にあるキャンプファイヤーの中で、顔を歪めて苦しげに燃えている怖い感じの女の人が写っていた。
写真をスワイプする度に、浮かれて調子に乗ってる僕たちの写真はヤバい感じで、変顔をする様になってゆき、背後の怖い顔の女性は燃えているのか、どんどん薄くなって……最後は安らかな顔になって、消えてしまっていた。
「つまりコレは……怨霊を燃やしたのですか……?」
黒上さんに言われて、宍戸先輩と僕たちは顔を見合わせる。
「い、いや?知らないよ?ちょうど良い井戸があったんで、オシャレな写真にしたくて、キャンプファイヤー台にしたんだ。」
「井戸?!……夢で悪霊が出て来る井戸があるのですか?!そ、そこが元凶なんじゃないかって、黒上さん達と話していたんです!」
愛さんが乗り出すように聞いてくる。
「夢と同じかは知らないよ???でも、中庭に井戸があるよ。じめっとしてて、だっさいから、キャンプファイヤー台にしたんだ。」
僕がそう言うと、黒上さんと愛さんは、急いで中庭にある古井戸に向かった。
僕と先輩も慌てて追いかける。……恵美ちゃんは僕の腕からスルリと抜け出し、自分の部屋に入っていたから、着替えてくるのだろう。
「うそだろ……浄化、されてる……?空気がとても清浄だ……。この井戸に怨霊が付いていたはずなのに……。愛さん、ちょっと意味不明かも知れませんが、イトコさん達を苦しめていた怨霊は消えました。……多分、もう何も心配ありません。」
「ほっ!本当ですか?!」
愛さんはホッとした様に顔を緩めた。
「はい。三人のキャンプファイヤーで燃え尽きて浄化されたのでしょう。……キャンプファイヤーは火の神を下ろす儀式でもありますし、炎での浄化は良い手段です。きっと炎か、火の神によって怨霊が浄化されたのかと……。」
黒上さんは達はちょっと困惑気味にそう言ったが……そうか、燃えたのか。なら良かったね。
「愛さん、良かったね?」
「ああ。ノリでやったが人助けになって、良かった。」
僕たちがそう言うと、愛さんは可憐な笑みを浮かべた。……ふわぁ、可愛いなぁ。
「ですが、あれだけの怨霊を良く浄化出来ましたね……。」
不意に、黒上さん達に、探るようにジッと見つられる。
あれだけって言われてもさ……良く分からなないし、僕らは楽しんだだけだよ???
もしかすると、楽しそうな僕らを見て、『恨んだり呪うのよそ……。』って思ってくれたのかも知れない。
そうしているうちに、人型に戻りお着替えを済ませた恵美ちゃんが、走ってやってきて……恐ろしい事を黒上さんたちに語りはじめた。
「あっ、あの!……黒上さん。……昨日、怨霊を燃料としたキャンプファイヤーで、私たちね、マシュマロやチーズを溶かして食べちゃったんですが……。こ、これって……お腹痛くなりませんよね……?」
あ”っ!!!
僕のシッポは、あまりの恐怖に、ボワッと広がった。宍戸先輩も同じようになっている。
やばい……。
僕ら……怨霊で炙ったマシュマロやチーズ……沢山……食べちゃった!!!
補足:ペンションでは、最初は理人と類が一緒のお部屋で、恵美は別の部屋で寝てました。夜中に猫になって理人のベッドに行っちゃいましたが、変な意味はありません。……猫とは、とても寒がりな生き物なのです。




