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金曜日のサンクチュアリ

「あのバイオリンを送ってきた奴は、勝手にカレンをライバル視してる奴だったんだ……。呪いのバイオリンの噂を信じずに買ったものの、不幸な目にばかり遭ったらしく、ならばカレンが酷い目に遭えば良いって思って送り付けたらしいヨ……ムカつくよねぇ~。……うおっ!ルイパイセン、このカレー、マジうめぇ!!!」


 歩クンはカレーをモグモグと食べながらそう言った。


 はい。……今日はいつもの金曜日の夜です。


 またしても、僕と恵美ちゃんはは宍戸先輩のマンションで、宍戸先輩にスパイスから作らせたカレーをご馳走になっていたんだけど……。


 図々しくも歩クンが現れたのだ。

 彼女いるのに。金曜日の夜に……!!!


「何で、彼女持ちの歩クンが金曜日の夜に、先輩のマンションになんか来るんだよ。カレンちゃんとデート行けよ、デート。……彼女、元に戻ったんだろ?」


「まぁ、そうっスけど……。あれからカレン、忙しくなっちゃって。……ほら、バイオリンに入ってた魂のせいで、一時的に演奏が変わってたデショ?それでさ、カレン的にも色々と考える事があったらし〜んだよネ。カレンてさ、内気で、あんまりこう情熱とか表現するの下手だったんだけど……あの魂が、オレに迫った事で、嫉妬とか焦がれる気持ちが理解できたらしくって、それを表現してみたくなったんだってサ。そしたら演奏の幅が広がっちゃったってーの?なんかそれがイイって今は引っ張りだこなんだよ〜!ま、オレへの愛ゆえの覚醒だからさ、オレは大人しくリヒト達と遊んで待っててやるんだ〜!」


 ……なんだそれ。

 ノロケか。……ノロケなんだな。


 転生してから、僕はあんなに可愛がっていたペットが1ミリも可愛く思えないんだが、どうしちゃったんでしょうか……。


「歩クン……ここはね、彼女持ちや彼氏持ちは来ちゃダメなんだよ?!この場所はね、お相手の居ない人のサンクチュアリなんだからね?!」


「恵美……勝手に俺のマンションを、そんな切ないサンクチュアリにするな……。歩、暇な時は遊びに来て構わないからな。」


 宍戸先輩が焼きたてのナンを持って来て、僕たちに配りながら歩クンに優しく言う。


「ルイパイセン。さすが懐が深いっス〜!!!ナンも美味いし、マジ大好き!……あー、そーいや、あの後、あのバイオリンはどーしたんスか?」


 ……そう、あの邪悪な魂が入ってたバイオリンは黒上ブラザーズが持ち帰ってしまった。


 一時的に自分の体が乗っ取られてたカレンちゃんは、二つ返事で手放したし、僕と恵美ちゃんがバイオリンになって引き篭ろうとしてたのが先輩にバレ……ますます厳重に保管?封印?される事になったのだ。


「黒上さんたちが、どっかに保管?封印?したらしーよ。詳しくは教えてくんないんだ。宍戸先輩が怒るから。」


「当たり前だ。働きたくなくて、バイオリンになろうなんて、愚か者が身近に二匹もいるんだ。絶対に見つけられないように片付けて貰わなきゃ困るだろ……。」


 黒上ブラザーズの調査によると、あのバイオリンに入っていたのは、あのバイオリンのだいぶ前の持ち主だったらしい。……自分が死ぬ時に、あのバイオリンに魂を移した……そうで。


 あのバイオリンと魂を入れ替えられるのは、入っている魂と同等以上の腕前のヤツだけなんじゃないかって事だった。現に、それ以外の奴には不幸な事が起きただけらしいから……。まだ演奏活動をしたいという無念を抱えて死んだあの魂が、自分並みの腕前の奴に演奏されるのを待っていたんだろーって。


 そして、お眼鏡に叶う奴が現れたら、そいつと入れ替わって、また自分でバイオリンを演奏しようと目録でいたんじゃないかって事だった。で、自分より劣る奴にとっては、酷いアンラッキーアイテムになって、次の奴の手に渡るようにし……ずっーと素晴らしい奏者を探して来たんだろうってさ。


「……黒上さんたちの話からするとさ、つまりカレンさんにバイオリンを送りつけたヤツは、たいした腕じゃないって事ですよね?だって、ただ不幸な目に遭っただけなんでしょ?……確かに、歩クンが言うようにムカつくけどさ、カレンさんのライバルですらないんだね。」


「おー。エミ、イイ事言うじゃん???……だな。……なんかムカついてたケド、そいつ、スゲ〜哀れな気がしてきた!……カレンは、危ない目にもあったけど、お陰で演奏に深みも出たし、オレとの仲も深まったし……ほんと、相手にするだけ無駄だな〜。」


「うん。そーだよ、捨て置きなよ。ヤツがまたカレンさんを傷つけないように気をつけておく必要は、まだあるカモだけど……。でも、カレンさんが、名声を欲しいままにしていくのを、指を加えて見てるしか出来ないんだよ……最高のざまぁね。」


 恵美ちゃんがそう言うと、少しイラついていた歩クンからは力が抜ける……。


「ん???あれ?……ちょっと待った。リヒトも入れ替わったよね?!……つまりさ、リヒトは、カレン並みの腕前って事?!……そう言えばカレンもリヒトの腕前に驚いてたな……。」


「……確かに理人は、かなりの腕前だよな。前世の時から凄いとは思ってたんだ……。少し真面目にやればイイものを……。どうせ練習したくないとか、嫌いな曲はやりたくないとか、リハーサルは怠いとか、そんなんで本気でやらないんだろ。」


 当たりー……。


 音楽は本気でやったら、ストイックさが必要なんだよ?……そーゆーの、マジで、もーイイもん。


「……僕はさぁ、浮浪猫になったら、ストリートミュージシャンを存分にやって、小銭を稼いでいく計画だから、今はまだバイオリンはイイんだよねぇ……。そうなったらさ、嫌でも弾かなきゃならなくなるだろ???」


 先輩が溜息を吐きながら、頭を振った。


 ◇◇◇


「お前ら、また泊まってく気か?!」


 スパイシーなカレーと手作りナン、それから、もちろんビールで満腹になった僕と恵美ちゃんは、ソファーでゴロゴロし始めていた。


 ……ちなみに歩クンは1時間ほど前に帰って行った。どーやらカレンちゃんの練習?リハーサル?が終わったらしい。

 えっと……何?先輩の家って、無料暇つぶしスポット(ごはん付き)って感じですかー……???


「いーじゃん……明日は土曜日なんだし……。」

「そーですよ……もう帰るの面倒くさい……。」


「あのなぁ……俺は明日、早くから用事があるんだ。泊まっても良いが、サッサと帰れよ……?」


 ……?


「え……何の用事があるんだい……?」

「先輩って、休出の予定でしたっけ?」


 僕たちがダラダラしながらそう言うと……先輩はサッと目を逸らした。


 んんん???


 恵美ちゃん耳がピンと立たて、パッと起き上がり先輩を見つめる……。先輩は、恵美ちゃんの目を見ないように、カレーの皿やらビールの缶を、そそくさと集め始めた。


「まさか……先輩……彼女ができたんですか?……それで明日デートとか???」


 恵美ちゃんがそう聞くと、宍戸先輩の耳と尻尾がピクリと揺れる。


 ……ま、マジか……???


 絶対に安パイ中の安パイだと思ってた宍戸先輩が……?!

 僕たち史上、最大級のサンクチュアリが???……破られた……???


「……え。……マジでデートなの……先輩……?!」


 何だろう、ペットの馬に負けても、宍戸先輩には、揺るぎない安定感で、絶対に負けないと確信していたのに……!


 い、いつの間に?!


「違う!……デートではない。……見合いなんだ。」


「お見舞いですか?!」

「誰がご病気なの?!」


「なあ?!わざとやってるのか?ソレ?!……見合いだよ、見合い。……以前に、どうしてもって言われて……断り切れなくて……。こんな事になる前だったし……。」


 宍戸先輩はバツが悪そうに、モゴモゴとそう言って俯く。


 ……。

 ……。


 あ!もしかして……。


 お見合いのお相手が、可愛いかエロいかどっちか……もしくは両方を兼ね備えた、ど真ん中ストレートのタイプの子が来たとか???

 だからマジ照れで、バツが悪そうにしてるのかな???


 うむ……それは是非とも……写真を見たい……。


「先輩!お見合い写真見たい!!!ねぇ、どんな人ですか?!」


 恵美ちゃんが目をキラキラさせて先輩に詰め寄る。


「僕も!僕も見てみたい!!!好みのタイプの女性なのかい?」


「……。」


 宍戸先輩は、黙ってテーブルを拭いている。


「「ねぇ・・・先輩?」」


「‥‥…。」


 えー……無視する気???


 何でだよ、お見合いに連れてけって言ってんじゃないんだぞ?写真くらい見せてくれてもバチが当たらないろ???


 よし……ならば……。


「主君として命じます。類、写真を見せなさい。」


 僕がそう言うと、恵美ちゃんも「命じます!命じます!」と騒ぎ始めた。でも、先輩は何だか難しい顔でムスッとしていて……散々二人でしつこく騒ぎ続けると、やっと観念したのか、渋々テレビ台の下からお見合い写真を出してきた。


「どれどれ……。」

「ワクワク……!」


 しっかりした台紙のお見合い写真を広げると……。


 ???

 ???


 な、なに、これ???


 台紙の中にある写真は、三人の見目麗しいライオン獣人の女性が写っていた。

 一人は椅子に座り、二人は後ろで笑顔で立っているという……お見合い写真にしては、ちょっと変な写真だ。可愛い系の子が椅子に座り、美人系の子が右、セクシー系の子は左に立っている。なんとなく顔立ちが似てるから、どうやら姉妹みたいだけど……?


 ……でもこれ、お見合い写真ってより、家族写真じゃない?


 んー???


 恵美ちゃんも、不思議そうな顔で、写真を見ている。


「……えっと先輩?……どの子がお相手なの?……この、椅子に座ってる子?……この子が一番、宍戸先輩の好みっぽいよね?」


「……だ。」


 僕が聞くと、宍戸先輩が低音でボソボソと答える。


「えっ?聞こえない。左の子???」


「違う。……んだ。」


「んだ??……なんだよ、本当に聞こえないよ……!なにを照れてるんだい?お見合いのお相手の写真くらいで……。あ、まさかの右の子なのかい?」


「違う。そ、その……三人、全員だ……。」


 ……は?


 はぁ???


 はあーーーーー???


「え?!……ちょ、ちょっと待って下さい。三人とお見合いして、どの方にするか決めるって事ですか???……ず、ずいぶん変わったお見合いのシステムですね???」


 恵美ちゃんが、驚いた顔のまま尋ねる。


「い、いや……それも違うんだ。……三人とお見合いし、上手くいけば、三人と結婚する……。そ、その……ライオン獣人は、一夫多妻なんだ。」


 ……。

 ……。


 は、はぁーーーー?!

 何そのエロゲみたいな仕様?!


「え???ナ、ナニソレ?!そ、それって、ハーレムって事???……後宮?大奥?そういう事???……それが、ライオン獣人の結婚なの???」


「ま、そういう見方もあるが……。」


「……ええ……。引くわぁ……それ、なんか無理ぃ……!」


 僕が興奮気味になる横で、恵美ちゃんがドン引きしてる。

 まあ、女子には理解出来ませんよね……。でも、男には夢ですよ?!


 えぇ……いーなぁ。

 三人とも美人だし!!!最高じゃない?


 先輩、ムッツリでエロいの大好きだし、そりゃ大喜びですよね?!


 そう思ってニヤニヤと先輩を見つめると、何故か宍戸先輩は深い溜息を落とし、暗い顔になってしまっていたのだった。


 あ、あれ???


 な、何で???





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