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僕の可愛いお馬さん

「ちょっと待ってよ?!……アルベルトはさ、すごく賢いポニーだった!人懐っこくて、僕のお話だって、ちゃーんと分かる仔で……。どうして……どうしたら、そんなになっちゃったんだい???」


「ん〜?……オレさ、今も人懐っこいよネ?……それに、今もさぁ、割と賢いんだよ!オレってば、オベンキョーできたから、東極大の大学院までいったんだ……マジ、賢者〜。」


 ……東極大学?


 宍戸先輩が目を見開く。


 あ。……確か、その大学って、先輩の母校でもあったはず。この国の、北東の地方にある、名門の難関国立大学だ。


「俺の母校……だな。」


「え、マジ?ルイってば先輩?……ルイパイセン?うぇ〜い!!!……ほらぁー、ルイ、ハイタッチだって!」


 宍戸先輩は歩クンに無理矢理に手を持ち上げられ、ハイタッチさせられてる。


「う、……うえー……い……?……ところで歩、お前、学部は何処だったんだ?」


「オレはぁ、農学部だよ?……リヒトが前世でニンジン、おやつにイッパイくれただろ?だからさー、やっぱニンジン関係に進みたくって、農学部に行ったんだ。ほら、オレって、リヒトをリスペクトしてる系っしょ?ま、そーいってもさ、農学部って、ニンジン育てて無かったけどね?入っちゃったし、まっいっかー的な?……ルイパイセンは何学部?」


「経済学部だ。……そっか、農学部じゃ、キャンパスは違ったんだな。」


「あーそうっスね?……デモ、経済って、なんかルイパイセンっぽいー?……うぇ〜い!」


 またしても、宍戸先輩はハイタッチさせられている。

 ……なんだろう、先輩、このノリに慣れてきちゃったのかな?


「し、しかし……。……ペットが飼い主に似るって本当なんだな?……確か……理人、お前も学歴だけは良かったよな……?」


「あ!そうでしたね、理人さん、学歴だけが売りでしたよね?!……会社では、もはや四流大卒の私と同格扱いですけど、理人さんて、こんなんでも、たしか京東大で大学院まで出てましたよね……?」


 ……。

 ……。

 ……。


 やめてよ。学歴の話はよして……。


 確かにさ……勉強はできたんだ、僕。


 理系ならね!!!……答えがキチンとあるから!!!


 それに人生、三回目てのもあってかさ……まあ、それなりにはイケたんだよね……。ハッキリと前世を思い出したのは最近だけど、あれ?なんかコレ知ってるかも?みたいな記憶はあったしさ……。

 世界によって歴史は変わるし、言葉によって文法は変わるけど……理数系はこの世の真理だから、普遍だしね。


 ……だけどさぁ?……仕事ってさ、正解や答えが無いんだよね。


 どの選択も間違いって事もあるし、正解って事もある。正解じゃないけど、悪くもないって事もあったり、一見ダメだけど、ダメでも良しになる事もある。良さそうだったのが、イキナリダメになったり……答えが出ない事ばっかりだったりもする。


 それに、暗黙の了解とか、忖度とかってのも多すぎるんだよね。・・・それって、どこで習えるんだい?僕は院まで行ったけど、そんな授業はどこにも無かったよ?……なのに、社会人をやるには重要なスキルで、当たり前に求められるんだ。……意味が分からないよ。


 良くさ、『このくらい常識だろ』って言われるんだけどさ……。だけど、人によって常識って異なるじゃん?!

 だってさ、どっかで統計とって、中央値から算出してる訳じゃないだろ、それって。……そしたらさ、その常識を僕が知らなくても、おかしく無いよね?


 なのに、僕がその常識とやらを知らないとさ、京東大のくせに、こんな事も知らないのか?って言われるんだよ。


『空気読め』とかもヤメて欲しいよね……。まだ『風を読め』なら可能だよ。どっちの方向から吹いてるかとか、風速を測定すれば良いんだろ?……だけどさ、その読まなきゃいけないらしい空気ってヤツはさ、測定出来ないじゃん?!……二酸化炭素濃度とか測るのは『空気読む』ってのとは違うんだろ?!


 そもそもさ、学歴良いからってさ、勝手に使えるヤツだとか思わないで欲しいよね……。


 学歴差別、反対だよ!!!


 僕が院まで行ったのはさ、就職出来そうもないなって自分で思ってたからで……。だってさ僕さ、社会人として、絶対に使えないタイプだって、自分で分かってたからさ……。

 ほら、前世で名家を簡単に傾けちゃいましたし?

 ……本当はね、もっと大学に残りたかったよ……。でも、お金が尽きちゃったんだもん、学生じゃ居られないだろ?


 ……。


 はあ……。


「……なあ、歩クン。……そろそろ僕を下ろしてくれないか?」


 そんな事を考えていた、僕をよそに、宍戸先輩と大学ネタで盛り上がり始めた歩クンの頭を、ポンポンと叩き、声をかける。


 ……そう、さっき四つん這いのお馬さんを拒否したら、僕は歩クンに肩車されてしまったのだ。


 もうね。どうしてこーなった?としか言えないよね。


 ……歩クンは180センチ近くあるから、大変に見晴らしが良い……。落ち着かないけどね?!


「え〜。リヒトぉ、まだまだオレ、イケるよ?……あ!じゃあ次は、ルイパイセンが乗るぅ?」


「い、いや……。俺は重いから……!」


「大丈夫!!!オレ、この日の為に、鍛えてきたから!!!狼だけど、獣人だけど、二人を乗せる覚悟で鍛えてきてるから!!!ジム行ってるし!!!……前世、馬だけに馬鹿力ってね!!!……やべー、ウケるぅ!」


 歩クンは僕を下ろすと、宍戸先輩に狙いを定めた様だ……。後退る宍戸先輩に、歩クンはにじり寄る。


 ……うん。暫く宍戸先輩と遊んだら良いよ。歩クンは宍戸先輩も大好きだったし……。


 不意に、恵美ちゃんが目に入る。


 恵美ちゃんは、僕らのドタバタには目もくれず、今度はもんじゃ焼きをガッツいていた。……しかも、僕が大好物なカリカリになったチーズの所ばかり。


「……ねえ、恵美ちゃん。」


「なんです?理人さん?」


 恵美ちゃんが、ヘラを咥えたまま顔を上げる。


 ……本当はさ、恵美ちゃんが僕を置いて行ってしまうみたいで、すごく寂しかった……。

 だってさ……僕にとって恵美ちゃんは、やっぱりとても大切で……。


「あのさ、ひとこと言わせて?」


「……何でしょう?」


 僕は恵美ちゃんと向かい合う。

 ……そして、恵美ちゃんの小さな手を握り、その温もりを感じなら……笑顔で言った。


「ねぇ、恵美ちゃん。……人生三回もやってんのに、馬にも負けて、四流大学卒って……それってさ、どんな気持ちなんだい?」


 恵美ちゃんの口から、ポロリとヘラが落ちる。


 お。……効いてる、効いてるなぁ……これ。


 だってさ、僕にとって恵美ちゃんは……。


 永遠のライバル……なんだよね!!!


 ◇◇◇


「呪われたバイオリン?」


「そ〜なんっスよ。僕のカノジョがそれに魅入られてるっぽくって、そのバイオリンを演奏してからおかしいんです。……ここに来るまでに、エミから、リヒトとルイパイセンと、オバケ退治してるって聞いて、マジで助けて欲しいんスよね〜。」


 宍戸先輩を無理矢理に肩車した歩クンは、突然、真面目な顔になると、そう告げた。


 どうでも良いけど、デカい男二人の肩車はすごい高さになっていて、先輩の頭は、高級マンションの高い天井に付いてしまっている。


 なんだかシュールすぎる光景だ。


「そうなの!なんか歩クン、困っててさ。だから、黒上さん達を紹介してあげようかなって思うの。」


 恵美ちゃんが合いの手を入れる。……どうやら、ここに来る道中に、その話を聞いていたようだ。


「うーん……そうだな。呪いか……。よし、禮さんに連絡してみるか。……おい、だから歩、そろそろ下ろせ。ほら、もう満足したろ?」


 宍戸先輩に言われ、歩クンは渋々と先輩を下ろした。


「じゃあ次はエミ、乗る?」


「ええっ、私はスカートだしっ、ちょっとヤメとく……。てか、歩クンて彼女いたんだね……?さっきまでは、バイオリンに呪われたのは、友達って言ってなかった?」


「あ、ヤベー。バレちゃったか。……エミが可愛いから、思わず彼女いるの隠しちゃったんだ、オレ。」


「何それ。……でも、可愛いって言ってくれたから、許してあげる。」


「ありがとう。エミ、そういうとこ、大好きかも。……あ!そうだ。彼女居ても良かったらさ、今度、僕と不健全な遊びとか、しちゃわない?……オレさ、エミみたいな子も割とタイプなんだよねー???」


 歩クンは、軽〜く恵美ちゃんを口説き始めてしまった。

 こんな時に、絶対に止める宍戸先輩は、禮さんに電話する為に、席を外してる。


 ……え?僕が止めないのかって???


 もちろん、止めないよ。


 だってさ、前世の僕の愛馬に口説かれる恵美ちゃんってさ……なんか、笑えるだろ???

 しかもさ、完璧なキープ扱い。しつこいようだけど、前世の僕の馬……いや、ポニーちゃんにだよ!!!


 恵美ちゃんもさ、前世でポニーを可愛がってたのに、酷いと思うよね?

 ……でもね、仕方ないんだ。だって恵美ちゃんはさ、厩のお掃除の時とか『臭すぎて無理!』とかって、いつも大騒ぎして逃げてたもん。


 ……ポニーだった歩クンは、そんな恵美ちゃんを、いつも何か言いたげに、ジッと見てた……。


 だってさ、掃除してあげなきゃ、厩は臭くなっちゃうんだ。ポニーはお掃除出来ないし、おトイレも無いからね。歩クンだってさ、本当は綺麗好きで、清潔な厩で過ごしたいんだよ?お掃除してあげると、すごく喜んだもん。


 なのに恵美ちゃんは、ポニーが臭いんだって言わんばかりの騒ぎっぷりでさ……。

 僕はね、もしかしたらそれって、歩クンは傷ついてたのかも知れないなって思うんだ。だって、すごく賢い仔だったからね?


 ……だからまあ、歩クンには少しなら「ざまぁ」させてあげようって僕は思うんだ。……それに、本気で恵美ちゃんを弄ぶ気は無くて、わざとあんな言い方してるって分かるし。

 僕の愛馬は、誠実な奴だったもん……。それはきっと今も変わって無い。たとえどんなにチャラく見えてても、ね。


「なんか、歩クン、酷くない?」


「うん。オレ、酷い系なの。……でも、やっぱエミと遊ぶのはよしとくよ。リヒトとルイパイセンが悲しんじゃうからさ。……イケメンのオレと遊べなくて、ごめんね?」


「ごめんねってさ……。遊ばないし!!!……あ、宍戸先輩戻ってきた!先輩、どうでした?」


二人がギャーギャーと話していると、ちょうど先輩が電話を終えて、部屋に戻ってきた。


「歩。来週の金曜日の夜なら、黒上さんたち空いてるそうで、とりあえず話を聞いてくれるらしい。俺たちも一緒に行ってやるから、相談に乗ってもらおう。」


「ほ、本当に?!あ、ありがとう!……助かるよ!!!……彼女をさ……オレ、なんとか……助けたいんだ……。……本当に、あのバイオリンを弾いてから、何だかおかしくなってて、すごく心配で……。どうして良いかも分からなくてさ……。ありがとう……。」


 そう言った歩クンの目には、あのチャラさはまるで無くて……真摯な光が灯っている。恵美ちゃんには、あんな事を言って揶揄ったが、やっぱり彼女をちゃんと大切にしているんだろう。


「ありがとうね。ルイパイセン……。」


「……お礼は全て解決してからだ。……不安だったんだな?大丈夫だ、歩。……黒上さんたちは、そういうのは詳しいらしいし、俺たちも力になる。お前の彼女さんは、きっと大丈夫だ。」


 宍戸先輩が優しくそう言って、歩クンの頭を撫でると、歩クンは顔を緩めて、宍戸先輩にギュッと抱きついた。


「……あの……理人さん。」


 その様子を微笑ましく見ていた僕に、恵美ちゃんが声をかける。


「なんだい、恵美ちゃん?」


 恵美ちゃんは、僕の手を取るとそれを包むようにして、ギュッと握った。


 ……んー???


「何だい?恵美ちゃんもハグしたくなったのかい???」


「いえ……。こうして手を握るのがお決まりなのかなって?」


 ???


「何が言いたいんだい?」


「私も……ひとこと、言って良いですか?……理人さん。前世の自分のペットに彼女がいるのに、自分には彼女がいないって……ねぇ、それってどんな気持ち?」


 ……。

 ……。


 恵美ちゃんは、僕に嬉しくて堪らないって笑顔を向けて、僕の柔らかなピュアハートをガッツリと抉っていった。


 ……永遠のライバルってのは、実に油断大敵である。






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