7話 姉の愛が非常に重いのですが
うん眠い。超絶眠い。カフェイン不足によりマジでカラータイマーが鳴り始めた。
午前の授業が終わり、今は昼休みの時間だ。つまりは、ここから眠気に拍車がかかる時間でもある。
白斗の前の席にあたるクラスメイトの机を借り、いつも通り白斗と向かい合う形で座るオレ。
そして、野郎二人のランチタイムが今開幕す――。
「ふわあああああぁぁ……!!」
「あくびしすぎじゃないか? 二桁超えた辺りから数えるのやめたぞ」
オレは猛烈に眠いんだよ。てか、なんで回数数えてんだよお前は……。と若干引きつつも、オレは弁当の包みを開けた。
「お? 相変わらずの弁当箱だな。今日もお姉さんが作ってくれたのか?」
「ああ。断っても作ってくれるからなぁ」
オレの弁当箱は、長方形で二段組になったステンレス製。
いつも上段にご飯が敷き詰められていて、下段にはおかずが入ってる。という組み合わせだ。
その上下を分離させ、オレはご飯側の弁当箱を持ち上げる。
音も立てずにふたを掴み、周りに見られないようにしながら、それをゆっくりと開けていく。
隙間から覗き込んだ結果、オレは「ははっ……」と引きつった笑みをこぼしてしまった。
『I LOVE YU-CHAN!! \(*´꒳`*)/』
ご飯に乗せられた海苔。それによって描かれた文字と絵を目にし、オレはそっとふたを閉じた。
「ん? どうした?」
「今日はトイレで食うわ……」
「何があった!?」
オレは弁当箱を包み直して立ち上がる。
「……本気でトイレ行って食う気か?」
「いや、さすがにトイレでは食わないが、教室でってのはちょっと……」
これをクラスメイトに見られると、クラスカースト内のオレの順位を急降下させられる自信がある。
四月の時点でそうなるのは非常にマズい。一年のときは諸事情により苦い思い出しかなかったからな。
「今日の中身は相当心に響く出来なのか……」
オレは教室にいる奴らを眺めたあと、無言で弁当の包みを持った。それで察してくれ白斗。
「オーケー。お前の覚悟は分かった。だが、ボッチ飯にはさせやしないぞ」
「白斗お前……!」
ついてくる気満々らしい白斗は、惣菜パンが入ったビニール袋を手に持ち立ち上がった。
「……いいのか?」
「ふっ、友達だろ」
白斗は目を閉じて微笑み、先頭を切って歩き出す。
は、白斗様!? やだ! この人かっこいい!!
オレはホモではないが、こいつになら抱かれてもいいと思った。冗談、嘘だ。
机を元の状態に戻してから、先に廊下へ出ていた白斗のあとを追う。
前を行く白斗は、どうやらスマホをいじりながら歩いてるようだ。
「おいおい。歩きスマホはやめとけって……」
「……ああ。分かっている」
指摘された白斗がスマホをポケットにしまい、廊下の窓に向かって指を差した。
「中庭のあの辺が空いてるから、あそこで食べるか」
オレはその位置を確認し、白斗の提案に賛同して廊下を歩いた。
中庭へ辿り着き、オレたちは周囲を見渡す。
「んー、目当ての場所は埋まってしまったようだな」
「だな。どうにも運が悪かったみたいだ」
お目当てのベンチには、すでにカップルが陣取っていた。まったくもって裏山けしからん奴らだ。
オレは「けっ!」と悪態をつきながら、また周囲を見渡した。
ベンチは当たり前だが全部埋まってるし、暖かな日差しが降り注ぐ芝生には、レジャーシートを広げた生徒たちの姿がチラホラ見当たる。
これは無理そうだな。シートも持ってないし、他をあたった方がよさそうだ。
なんて考えてるところに――。
「あれー? ユーヤに茅野っちじゃん?」
聞き慣れたギャルの声が耳に届いた。
「お? 鞍馬さんに倉田さんじゃないか。二人はここで昼食を?」
「うん! 茅野くんたちは、今からお昼を食べ始めるところ?」
少し離れた場所に花柄のレジャーシートが敷かれていた。
その上にちょこんと女の子座りをして弁当を持つ倉田。そしてブレザーを足にかけて胡座? をかいているらしき鞍馬の姿もあった。
おお! マイエンジェル倉田までいるとは! なんたる幸運……!
オレは今日、神へと祈ることを決意した。
「ああ。しかし、場所が空いてないようでな。俺たちは別を当たろうかと話していたところだ」
「そ、それなら私たちと――」
「じゃあさ! ユーヤと茅野っちもここ使って食べたらいーじゃん! ……って、倉田っちと意見かぶってた?」
「かぶっちゃったね。あと呼び方ー!」
倉田がむくれながら、再三にも渡る鞍馬の呼び方を注意していた。
「あはは……ごめんってば、ちーちゃん」
「てかいいのか? オレたちがお邪魔しちゃっても」
むしろ、オレとしては倉田と昼食を共に出来る機会なんだから、断る理由なんてまったくない。
今のはあくまで社交辞令だ。
「あーしはむしろウェルカムじゃんよ」
「わ、私も大丈夫だよ」
「白斗は?」
「ん? 断る必要があるか? また場所探すのも面倒だろ?」
こいつは合理的だなぁ。もうちょっとこう、情緒とかさあ……。
なんて思いつつも、オレは靴を脱いでお邪魔する。
シートはかなり大きめで、オレと白斗が加わってもまだ余裕がある広さだった。
てっきり、鞍馬はギャル系の友達と昼飯食ってるもんだと思ってた。それよりも幼馴染みである倉田との付き合いを優先してるんだろうか?
「ユーヤは弁当持参? もしかして自分で作ってたりしてんのっ? なにそれ、やばたにえんじゃん!?」
お茶漬けやふりかけ販売してる企業がなんだって?
「いや、こいつのはお姉さんが作っているらしい」
「なーんだ。女子力高いのかと期待しちゃったし」
「いやまあ、少しは料理するけどな。包丁は、姉ちゃんがいないときにしか使えないけど……」
姉ちゃんの手伝いをして、一応料理の作り方を覚えたりはしてる。
しかしいかんせん、あの姉が刃物を使わせてくれる訳もなくて……。
脳内の姉ちゃんが「優ちゃんは包丁使っちゃダメえええ! 火を扱わせるのもお姉ちゃん反対なのに!」と過保護全開で訴えてきた。
オレはカップラーメンですら自分の手で作らせてはもらえないのだろうか?
「ねえねえ。私、お姉さんが作ったお弁当がどんな感じなのか興味あるの。見せて見せて」
「ん? 倉田そんなに興味あんのか?」
その問いに対して倉田が「うん!」と笑顔で返事をするもんで、オレは意気揚々と弁当の包みを解く。
身内の腕前に興味を持ってくれたのと、倉田が楽しみにしてくれてることが、オレには嬉しかった。
「ではご開帳――」
「開けていいのか優也?」
弁当のふたに手をかけたところで、白斗の声が制止するように飛び込んできた。
「え?」
「いやほら、教室で……」
「あ……」
白斗がささやくその言葉でオレは思い出した。海苔で彩られた姉の重い愛情を。
「ユーヤ何してんの? あ! 開かないのならあーしが開けたげるし!」
「ちょっ!?」
オレの手から無惨にも奪われたご飯が入った方の弁当箱が、鞍馬によって呆気なく開封されてしまった。
その中身を見た鞍馬と倉田、そして白斗の顔までもが歪み始める。
「おー……これ、って……」
「わ、わあー……」
「うむ……」
くぅ〜終わりました! これにてオレのスクールライフ&ラブコメ完結です!
ご愛読ありがとうございました!!
進藤先生の次回作にご期待ください!!
※続きます