表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/93

23話 黒猫さんは二次元知識に詳しいのです

「へー。メイクってそんなに時間かかるのか?」

「そーなんよー。まっ、あーしの場合は時短でやれるから早めなんだけどねっ♪」


 あたしたちは映画館に向かうため、街路樹が立ち並ぶ歩道を歩いていた。

 人の往来も多く、すれ違う人たちにぶつからないよう気をつけながら歩く。


「そーいえばさー」

「ん?」

「ユーヤはどうして、今日のデートをOKしてくれたの?」


 あたしは気になっていたことを聞いてみた。


 彼がデートを受け入れてくれた理由がわからない。

 断られたちーちゃんの代わりかも……。と昨夜冷静になったあと、メンタルが弱い自分は考えてしまったりするわけで。

 とにかく気になって仕方がなかったのだ。


「魚拓のくだりがあったからな」

「……? 魚拓?」


 魚拓ってなんだっけ? と思いながらユーヤを見つめる。


「お前、自分で言い出しておいて忘れたのか?」

「あれ? あーし、そんなこと言ったっけ?」

「だから、その……あれだ。オレがさ、倉田のことをデートに誘ったら、鞍馬ともデートするって流れがあっただろ?」

「え? あ……」


 そうだ。確かにそんなやり取りをした覚えがある。

 ってことは、ユーヤは律儀に約束を守ってくれたってこと?


「男に二言はなしとまで言っちまったからな。倉田とのデートは出来なかったけど、誘ったのは確かだからさ。だから、お前とのデートも引き受けるのが筋だなって。……あ、これだと義務感から誘ったみたいに聞こえちまうか!? いや、その! お前とのデートも満更じゃないっていうか、今も楽しいし……! えっと……!」

「……ふふっ」


 ユーヤは途中から取り繕うように、アタフタとしながら話していた。

 その仕草が面白くて、そんな気遣いが嬉しくて、思わず笑みがこぼれてしまう。


「……く、鞍馬?」

「ふふっ、もー! さっきから焦りすぎだし。ユーヤの思いはちゃんと伝わってるから安心して」


 こっちを向くユーヤが安堵したような顔に変わる。


「ホント、ユーヤは気が利くし優しいよね」


 言いながら、あたしは彼と顔を合わせるのが気恥ずかしくなり、前へと向き直る。


「……うん。そういうとこ、やっぱ大好きかも……」


 ああ、ホントに大好き。一緒に行動する機会が増えたここ最近だけでも、彼の気遣いや優しさが目に見えてわかってしまう。

 きっと、ユーヤにとっては無自覚でやっていることなのだろうね。それがまた、あたしの心の奥をくすぐってくる。その感覚すら愛おしくなってしまう。


 映画館までの道のり。あたしたちは他愛のない話を続けて目的地に辿り着いた。

 屋内に入り、入口から正面にある受付へ向かう。


「そーいえば、なんの映画見んの?」

「え? あ、そうだなぁ……二分の一の異能、なんてどうだ?」


 ユーヤが視線を動かす。その柱には、彼が候補として挙げた映画のポスターが貼られていた。


「お? いーじゃん! あーしもまだ見たことないんだよねー。そんじゃ、それにけってー!」


 ビクサー映画とはユーヤもわかってるねー。

 フルCGのアニメーション映画で、ここに敵うものはまずいない。


 あたしたちは受付を済ませて、一度その場から離れた。上映時間までまだまだ時間がある。


「さて、どうするよ?」

「うーん……。とりま、食べ物とか確保しとく?」

「だな」


 あたしたちは販売店の列へと並ぶ。

 少し待ち、あたしたちの番が回ってきた。


「えーと、メロンソーダにキャラメル味のポップコーンで」

「キャラメル味いいな。じゃあオレは……コーラと、こいつと同じキャラメル味――」

「ちょいタンマ。キャラメル味ならあーしのあげるからさ、ユーヤは別のにしなって」

「え? シェアするってことか?」


 こっちを見ながらユーヤが怪訝そうな顔をする。


「そそっ! あーしは甘いのだから、ユーヤは塩味とかどーよ?」

「まあオレは別にそれでも構わんが」


 頼み終え、軽く雑談を交わしてから二人分の飲食を受け取る。


「んじゃ、そろそろ座席確保しておくか?」

「おけまる水産だし。ユーヤ、座ったらポップコーン少し食べよーよ!」

「始まる前に食い尽くすなよ?」

「はあ!? 少しって言ってんじゃんか!」


 やっぱりユーヤはデリカシーないなぁ。

 まあ惚れた弱みというか、別に嫌な感じなんかは全然しないけどさー。


 あたしたちは上映が始まる前に席に着く。

 ポップコーンを摘みながら話していると暗くなり、あたしはスクリーンに視線を注いだ。


 しかし映画を見ながらも、シーンの合間や何気ない場面でユーヤのことを盗み見る。

 最初のうちはたまに目が合って「映画見ろって」と指摘されたりもしたけど、それも徐々に減った。

 あたし自身が映画を見るのに集中しだし、ユーヤもスクリーンに釘づけになっていたからである。


 そうして――。


「……ユーヤ」


 映画が終わり場内の照明が点く中で、あたしはユーヤの名前を呼んだ。


「……なんだ?」

「……うぅっ! 感動したよおおおおおっ!!」


 あたしはボロボロと涙を流しながら、映画に対する感想をぶちまける。


「だよなっ! 最後の姉妹のやり取りとか、オレ思わず泣いちまったんだが……!」

「それな! わかりみが深いし……!」


 二人して号泣し、しばらくの間語り合う。

 けど、次々と他の人たちが退館していくのに気づいたので、あたしたちも映画館をあとにした。




「でさー、あのギャルの妖精とのカーチェイスとか、どちゃくそヤバかったよね!?」

「分かる分かる! あと、断崖絶壁を異能を使って走り抜けるシーンも個人的には好きだな」


 で、外に出て歩いている最中も映画について話すあたしたち。


「そこもすこ! でもさでもさ! やっぱビクサー映画の醍醐味だいごみと言ったらー」


 あたしたちは向かい合い、指を差し合って言う。


「「家族の絆!」」


 さっすがユーヤ。これはもう相性抜群だとしか言えない。


「ユーヤもわかってじゃーん♪」

「そっちこそ」


 あたしたちは互いに手を出して握手を交わす。


 わかったしプ◯シュートの兄ィ!! ユーヤの感性が! 「言葉」でなく「心」で理解できた!


 気分は今やペ◯シのそれである。

 あたしはユーヤに対してそんな親近感を抱きながらもスマホを取り出した。時間を確認するために。


「お? お昼回ってるけど何か食べる? あーしはポップコーン食べたから、小腹レベルで減ってるけど」

「そっか。映画見たからそれくらいの時間か。この辺だと何かあったか?」

「ちょいとお待ちー。ふっふふーん♪ ただいま検索中ー♪」


 あたしは昨日同様、近場にある飲食店で検索をかける。

 そんなこんなで数十秒。とてもお手頃な場所がすぐさまヒットした。


「ほほう? 一番近いとこでミックあんじゃーん。ミクドナルドー」

「まあ小腹を満たすだけなら、ミクドでもアリじゃないか?」

「んじゃーそこで。てかさ、ユーヤって呼び方ミクド派?」

「そういうお前はミック派か?」


 意図せず、古今東西で行われる呼称問題へと行き着いてしまう。

 これはもう――やり合うしかない!


「てかミクドー? ちょいちょいちょーい! それはおかしくなーい?」

「はあ? なんでだよ?」

「だってさー。普通はミックでしょっ?」

「ああん? 決め付けはおかしくないか? ミクドでも間違いないだろ」

「違うんだなーこれが」


 そのまま言い争いに発展するあたしたち。

 さっきまでの和やかな雰囲気はどこへやら? と言った感じだけど、個人的にこれだけは譲れない。


 しばし何度か言い合うものの、当たり前だけど決着はつかず。泥沼な争いになりそうな流れだ。

 だがあたしには切り札がある。ミャーコ相手でもこれで言い負かした実積があるのだ。


「オレはミクド派なんだよ! そもそもミクドを否定出来るその理由を言ってみろ!」

「ふっふっふっー♪ 言ったなー? ついに言っちゃったなー?」

「な、なんだよっ?」


 ユーヤが足を止めて嫌そうな顔をした。

 無事に目的地のミックへと辿り着けたこともあり、あたしも足を止め、必殺の一言をユーヤに告げた。


「じゃあさー! ビッグミックやミックシェイクは、なーんでそー呼ぶのかなー? ねえユーヤー?」

「なっ!? くっ……!? そ、それは……!」

「そもそもー! 数年前の公式のアンケートでミックが圧勝だったしー! 公式も認めてるんだよねー! てことはー、呼び方はミクドじゃなくミックが正しいってことっしょー?」

「ぐっ、ぐうぅ……!」


 ユーヤが言い返せなくなって黙り込む。


 勝った! 第三部完!

 あたしは高笑いをし、レスバトルの勝者として悠々とミックに入店した。

 てかてか、さっきからあたしジ◯ジョネタを多用しすぎな気がする件。心の中でとはいえ自重しないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ