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20話 確信に触れたくて

「っくうぅぅ〜! ……はあっ! ……あ。もうこんな時間なのかぁ……」


 あたしは伸びをし、壁にかかる時計を見て呟いた。

 朝食を食べてから部屋のベッドで横になり、今はソシャゲのシムシムをプレイ中だ。


 時刻はすでに昼前になっていた。

 そろそろお母さんが出かける時間だな。と考えていると一階から。


「それじゃあ行ってくるわね! ちゃんとお昼食べなさいよ?」


 とお母さんの声が聞こえてきた。


「わかったー! いってらっしゃーい!」


 あたしはそれに対してベッドから起き上がって答える。しかし返事はなく、そのまま静寂が訪れた。

 これで家に一人か。別に寂しくはないけれど、少しだけ世界から取り残された気分になる。アンニュイというやつなのだろう。


「……うーん」


 さて、なにをしようか?

 とりあえず、お昼ご飯のことを考えなきゃいけないのだけど、まずは自分のスイッチを切り替えないと。

 このダウナーなテンションまま外出するのは、私的には許されない。


 というわけで、いつも通りのメイクをし、外出用の私服へと着替える。

 鏡に写る自分の姿を見て、軽くポージングを交えながら服装も確認。


「ん、よし。今日も決まってんねあーし」


 そうして、気分は外面用のギャルへと切り替わる。

 今日の髪型はポニーテールだ。うん。悪くない。むしろいい。


 あたしは腰に巻くポーチにスマホやサイフ、ハンカチを入れて部屋を出た。




 玄関とドアを閉めて鍵をかける。


「えーと……ガスは大丈夫だったし、不要な家電も消してある。あとはー……いいかな? うん」


 指折り数えて確認。別段問題がないとわかり、あたしは玄関に背を向けて歩き出す。


「さーてと、どこで食べよっかなー?」


 そんなことをぼやきながら歩くこと十分。特にこれといった候補が挙がらなかったので、あたしはスマホを使って調べることにした。


「えーと……近場、食べるところ」


 音声認識で検索をかける。


 ……まあ、この条件だといっぱいあるよねぇ……。


 あたしは映し出された画面を見てげんなりする。

 即座に数十件の結果を出してくるスマホさんは優秀だと思いました。小学生並みの感想。


「うーん……どうしよ……?」


 もう少し条件を絞って検索してみるか。なんて悩んでいると。


「あれ? 綾ちゃん?」


 背後から聞き知った声が耳に届く。

 この声と呼び方は……。なんて、一人の女の子に見当をつけて振り返る。


「あ! やっぱり綾ちゃんだ!」


 そこには白いワンピースに、同じく白の麦わら帽子という格好をしたちーちゃんがいた。

 清楚で素朴な田舎の令嬢といった感じの装いだ。


「こんちわーちーちゃん」

「こんにちわ綾ちゃん!」


 お互いにあいさつを交わし、向き合う形でちーちゃんが立ち止まる。ちーちゃんが両手を顔の辺まで上げたので、あたしはそれにならってハイタッチをした。


「ちーちゃんはなにか用?」

「へ? ううん! 綾ちゃんかと思って声かけただけでね」

「あ、いや違う。外出してる理由を聞いたわけで」

「え? あ、そっち? お昼ご飯食べようかなって外に」


 同じ理由だった。外出のありきたりな理由なんて、買い物か遊び、あとは食事くらいなものだし、まあそんなものだ。

 ……うん? あたしの選択肢って狭すぎ?


「綾ちゃんは?」

「あーし? あーしもお昼食べようかなって」

「そうなんだ? じゃあ二人で一緒に食べない?」

「ん? いいよー。って返事してみたはいーけど、こっちはまだ決まってなくてさー」

「私はトンカツ食べる予定だよ! えへへ!」


 女子高生が昼から一人でトンカツ食べに行くつもりだったの……!?


 あたしは顔が引きつらないよう、なんとか耐え忍ぶことになった。

 ちーちゃんは相変わらず図太いというか、感性が普通の女の子とはずれてるなぁ。


「じゃあじゃあ、綾ちゃんもトンカツでいい?」

「あ、うん。おなか空いてるからそれでいーよ」


 空腹度的にも食べられないことはないし、お昼は別にカツでもいいか。

 こうして、二人して近くのトンカツ屋に行くことになった。




「いらっしゃいませー! お二人ですか? では空いてる席にどうぞー!」


 そう入り口の近くにいた店員に言われ、あたしたちはテーブル席に着くことにした。

 昼時なのもあり、中ではたくさんの人がご飯を食べている。


 あたしが周りを見回す間に、ちーちゃんが二人分のメニューを机に並べていた。

 そのちーちゃんは意気揚々とした様子で、メニューをペラペラとめくっていく。


 どれだけ食べたくて仕方なかったのだろう? と見つめていると。


「ぅん? ……もー! 綾ちゃんの分のメニューも出してあげたでしょっ? そっち見ようよ!」

「へ? あー、ごめんごめん! そうだったし!」


 あたしは指摘されて慌てる反応を装い、目の前に置かれたメニューを手に取った。

 チラッとメニューから視線を外してちーちゃんを見る。しかし、あの子はすでに気にしていないようで、手元のメニューへと意識を戻していた。


 ふう……。ちーちゃんが変にずれた子でよかった。

 

 あれこれ考えた挙句、あたしはレディース御前を。ちーちゃんは厚切りロースカツを頼んだ。

 その品も十分ほどで届き、雑談を打ち切ってあたしたちは食事を始める。


 しかし、食事も終わりに差しかかったところで、おもむろにちーちゃんが口を開いた。


「そういえば綾ちゃん、最近仲がいいよね?」

「え?」


 仲がいいってユーヤとのこと?


 あたしは思わず食べる手を止め、ちーちゃんの顔を見つめる。


「あ、あたしが誰と?」


 いやしかし、ちーちゃんのずれ具合なら明後日の方向に勘違いしている可能性もある。別の人とか――。


「もちろん進藤くんのことだよ」

「うっ……」


 ですよねー。さすがのちーちゃんでもそこまでアホじゃなかったか。

 ……あ。心の中とはいえ、アホとか言っちゃった。ちーちゃんごめん。


「……ま、まあ仲はいー方なんじゃない?」

「ふーん? もしかして綾ちゃん……進藤くんのことが好きなの?」

「っ!?」


 心臓が跳ね上がった。そしてすぐに鷲掴みにされたように締めつけられる。


「な、なんでそう思った……し?」


 唇が震える。声すら震えてしまう。


 陥落宣言した朝のやり取りで気づかれてた? きっとそうかも。ちーちゃんにバレるような行動はそれ以降取っていないはずだし。

 恋のライバルなのもあって、一応バレないように気を遣っていたつもりだったのに……。


「うーん。勘かな。なんか進藤くんと話してるときの綾ちゃん、すごく生き生きしてたから」


 勘? じゃあまだ気づいていない?

 どうするあたし? 素直に好きなことをカミングアウトする?

 そもそも、ちーちゃんはユーヤを好きなの?


「そ、そういうちーちゃんはどうなのさ? 好きな人は?」


 あたしはぼやかした問いかけをした。直接聞くのはやっぱり怖かったから。


「え!?」


 予期せぬ質問だったようで、ちーちゃんは目を開いて顔を赤くした。

 これはいる。と確信出来る反応だった。


「わ、私は……」


 ちーちゃんが顔を赤くしたままうつむく。


「…………いるよ。好きな人。同じクラスに」


 片言のような、たどたどしい声だった。


 いや待って。え? 同じクラス? なんでそんな中途半端な形で答えを晒すの?

 ダメだ。相手がユーヤかもしれないという疑念が消えない。消えてくれない。

 

「お、同じクラスの……だ、誰だし?」

「それは言えないよ。言っちゃだめだから」


 それはそうだ。いくら幼馴染とはいえ、言えないことくらいある。恋愛事ならなおさらだ。

 あたしだって、今回みたいにちゃんとちーちゃんに話せていないことだってある。


「あ、あはは。なんか変な空気になっちゃったね? ごめんね綾ちゃん。私が聞いちゃったせいで」

「う、ううん。ダイジョブだし」


 そのあとは微妙な空気のまま食事を食べ終わる。

 食後のデザートとしてバニラアイスも食べたのだけど、なんの味かもよくわからなかった。


「そ、それじゃあ私行くところあるから、ここでお別れだねっ」

「うん。またねちーちゃん」


 お店を出て話すも、やっぱりぎこちなくなってしまう。


「本当、空気変にしちゃってごめんね! でも綾ちゃんと一緒に食べられて嬉しかったよ!」


 そう言って、ちーちゃんは手を振りながら歩いて行った。

 あの子の後ろ姿を見つめながら、あたしは呟く。


「はあ……。どーしてこうなったんだろ?」


 偶然会ったことじゃない。もしかしたら同じ人を好きになったかもしれないということをだ。


 無理してでも、ユーヤを好きなのか聞くべきだったのかもしれない。

 そうすれば、少なくともこんな気持ちのまま帰宅する必要もなかった。今後の方針だって立てられた可能性も……。


「ふう。気分転換にウィンドウショッピングでもしてから帰ろうかなぁ……」


 結局、あたしは一時間ほどブラブラしてから家に帰ることになった。

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