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14話 ちょっとやそっとでは揺るがない関係

 学校に向かう途中にある桜並木。あたしは地面に散り落ちた花弁を踏みしめながら、重い足取りで歩みを進めていた。


 その内の一本の桜に背を預け、スマホをいじっているミャーコの姿を見つける。

 見つけると同時に駆け出すと、こちらに気づいた様子のミャーコが、スマホをしまって桜の幹から背を離した。ミャーコは軽く手を挙げると。


「おいっすあやや。おはよーさ――」

「ミャーコおおおおお!!」

「ん――ぐへあっ!?」


 あいさつしてきたミャーコに飛びかかる形であたしはすがる。

 ミャーコはよろけるように二、三歩下がってから動きを止めた。


「――おまっ!? こんの、どあほうがッ!! ウチを押し倒して殺す気か!? 脳挫傷(のうざしょう)起こすと、下手したら死ぬんやっちゅーに!!」

「ごめえええん!! でもでもユーヤにいいい!!」


 ミャーコにしがみつきながら、あたしは「うえええええん!」と泣き崩れる。


「あーもう! それはラインで聞いたっちゅーの! 一旦落ち着きーや!」


 なだめられたあたしは立ち上がり、ミャーコから身体を離して涙を拭った。

 ミャーコはというと、首をさすり「はあ……」とため息を吐き、左右に傾けてはゴキゴキと鳴らす。


「とりあえず返信がこーへんかったんやろ?」

「うん……。調子に乗ったせいで、ユーヤに嫌われたかも……」


 ミャーコにラインを通して伝えていたのは、ある写真を送ったせいでユーヤを怒らせてしまったかもしれない。という内容だ。

 正直、あたしは未だにかなりへこんでいる。


「んなら、さっさと謝ればええことやんけ」

「そうなんだけどぉ……。あれだけ調子に乗ってたから、許してもらえるかどうか……」

「どんな会話しとったら、そない落ち込むほどの煽り方になるんや……?」


 ミャーコは目を閉じて腕を組み、困惑した顔をしていた。


「え、えっと……会話の流れ見る?」


 スマホを取り出してラインを開き、ミャーコの顔の前に持っていく。


「ええんか? まあ、実際に見れるんが一番手っ取り早く済むわな」


 ミャーコはスマホを受け取って操作し始める。


「うん。説明するよりも早――」


 言って気づく。ミャーコに会話を見せるということは、貼り付けた写真も見られるということで……。


「ぶはっ!? あやや何しとんねんやこれ!?」


 という反応をミャーコがするのも当たり前のことだった。


「説明しーや!!」


 ミャーコは写真を開いた状態であたしの方に向け、スマホを指差しながら顔を赤くさせている。


「うわあああ!! 閉じて!! 一回閉じてよ!! 他の人にも見られるじゃんか!!」


 あたしは歩いてる他の生徒の視線に気づき、両手を使ってスマホの画面を覆った。

 通学路でそんな写真を見せびらかすようなマネはしないでほしい。いや切実に。


「せやかてあやや! こんなん撮って送るとか、どんな流れやってん!?」

「だから!! やめてってばー!!」


 あたしはミャーコからスマホを奪い取った。すぐさま画像を閉じるが、騒いだせいで、周りの人たちの怪訝めいた視線が注がれてきて胸が痛い。


「その説明を省くために見せたのにぃ……!」

「あ、せやったな! ……画像に気ぃ取られて、会話の方まで目が行かへんかったわ」

「もう! よ、要するにね――」


 ラインでした会話についてミャーコに教える。

 しかしその顔は、徐々に赤さが引いていくと呆れ顔に変わっていった。


「……アホらし。しょーもな」


 言葉通りな顔をし、頭をかくミャーコ。


「し、しょーもなくなんかないし!」

「しょーもないやろが! 自分から煽っといて、どう解釈しても調子乗ってたせいやんけ!」

「だから最初にそう言ったじゃんかあああ!」


 これなら家にいるときに、トーク画面をスクショしてミャーコに送っておくべきだったと後悔する。

 現状を公開処刑と評しても、あながち間違いとは思えない状況だ。


「すまんすまん。せやったな。……んで、あややは仲直りがしたいと?」

「うん」

「ほんなら、やっぱり謝るべきやろ」

「どう、謝ったら……?」

「正々堂々真っ直ぐに! やろ?」


 ミャーコがあたしの顔に向かって指を差す。

 その動作に少しだけ仰け反りそうになりながらも、あたしはコクリと頷いた。


「わかった。学校に着いたらユーヤに謝る」

「まっ、あんま気負わんでもええんちゃうか? 大事なんは真心や。ちゃんと目を見て謝れば誠意は伝わるはずやで」

「……うん!」


 あたしは今日もミャーコからアドバイスをもらい、ユーヤとの関係を修復することを胸に誓う。




 そうして教室に着き、しばらく自分の席で待っているとユーヤたちがやってきた。

 『ユーヤたち』と称したのは、ユーヤ以外に茅野くんやちーちゃんも一緒だったからだ。


「ほらあやや。チャンスやで。こうゆーんは、時間が経つほど言い出しにくぅなる。せやからスピード勝負でいくんや」

「う、うん……!」

「ん? なんのスピード勝負なんだ?」

「あん? ……なんや、かやのんやんけ」


 ミャーコの声に釣られて視線を動かすと、鞄を持ったままの茅野くんが、少し離れた位置からこっちを見ていた。


「いくらかやのんでも、乙女の密会へ勝手に立ち入るんは褒められへんなぁ?」

「すまない。つい聞こえてしまってな。何か悩み事でも……いや立ち入るのは失礼だったか」

「べ、別にいーし。……ちょっとユーヤとケンカをしちゃって、これから謝ろうかと思ってて」

「あやや?」


 ミャーコが言っていいのか? という顔をする。

 けど、優也の友人である茅野くんなら力になってくれるはず。と思えたから、彼にぼやかした形で事情を話したのだ。


「ケンカか……。なるほどな。なら、あまり気負う必要はないさ鞍馬さん。優也はナイーブだが、あれで他人を労わることを欠かさない奴だ。些細なことで、友人である君を嫌いになるような玉じゃない」

「なんや。かやのんも分かっとるやんけ。さすがは数少ないシンドーの友達ってか?」

「数少ない……か」


 ミャーコの言葉に茅野くんは苦笑いを浮かべる。


「……そうだね。ありがとうミャーコ、茅野っち。あたし行ってくる」

「おう。がんばるんやであやや」

「心配しなくとも大丈夫だと言っておこう。一応、鞍馬さんの健闘を祈っている」


 二人の後押しもあり、あたしは勢いよく席から立ち上がってユーヤの席に向かった。


「あー、痛てぇ……」


 しかし、ユーヤはなぜか席に着いたまま、自分の背中をさすっていた。

 その行為に疑問を持ちながらも、あたしはユーヤへと話しかける。


「あ、あのユーヤ」

「ん? げえっ!? 鞍馬!?」


 その反応には少し傷ついてしまう。けど、あたしの自業自得なのだから、ここで怯むわけにはいかない。


「その、今朝はごめんだし!」


 謝りながら頭を下げる。


「へ?」


 すると間抜けな声が耳に届く。あたしは頭を上げ、改めて謝ることにした。


「だ、だから! 今朝のラインで嫌な思いさせちゃったよね? 少し……ううん。だいぶ調子乗ってた。だから、ユーヤの気を悪くさせたのなら謝りたい。ごめんユーヤ」


 あたしはそう告げてもう一度頭を下げた。


「あ、いや…………別に謝られるほどじゃねえよ。まあ、イラッとしたのは確かだが、お前と会話するのは嫌じゃないっていうか……。ったく、こっちの調子が狂ってくるぜ……」

「ユーヤ……?」


 とりあえず怒ってはいないようなので、あたしはチラッとユーヤの姿を伺う。


「と、とにかく! お前がオレにちょっかい出してくんのは予定調和みたいなノリだし、そんなんで一々お前のことを嫌ったりしねえよ。もう慣れた」


 ユーヤは照れているのか、机に肘を突いてあごを乗せた状態で、あたしから顔をそらして話していた。

 ううん。間違いない。頬が赤く染まっている。


「けど、あんま調子に乗るようならオレにも考えとかあるからな?」

「う、うん。……ありがとうユーヤ」

「なっ!? なんで礼なんてしてくるんだよ!?」


 ユーヤが驚いた顔でこっちを向いた。彼の視線とあたしの視線が交わる。


「へ!? あ、いや! ちょっ、ちょっかい出してもいいって許可くれたからっ?」

「いや、疑問形で答えんなよ……」


 慌てたあたしは身体を起こして答えるも、ユーヤからは控えめなツッコミが入ってしまう。

 そこから二人して笑みを浮かべたところに、HR(ホームルーム)の始まりを知らせるチャイムが鳴った。


 あたしがユーヤに別れを告げて自分の席に戻ると、茅野くんはすれ違い様に「お疲れ様」と笑みを浮かべながら告げる。

 あたしも「ありがとう茅野っち」とだけ告げ、サムズアップするミャーコの元へと戻るのだった。

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