3話 どうやら告白は失敗したようです
さあ、ついに放課後になったぞ。
ということで、オレは手紙に書いておいた体育館の裏手側にやってきた。そこにはハードルやライン引きなどの道具が置いてある用具倉庫がある。
そして今、オレは倉庫の壁にもたれる形で倉田のことを待ってる訳だ。
待ち遠しかった放課後。いつも通り過ごしているように見えた倉田。何度も行ったトイレ。
オレは今日この日、自分の殻をぶち破ります!
ダメだ。卒業式の答辞みたいになっちまった……。
落ち着けオレよ。すでに賽は振られたんだ。
あとは出る目が望んだ目であることを願おう。
人という字を手の平に書いては飲む。更には深呼吸もして落ち着きを取り戻そうとがんばる。
「すーはーすーはー…………にしても、さすがに遅くねえか?」
オレはスマホを取り出して時間を確認した。
帰りのHRが終わってから、もう二十分は経っている。
何かあったんだろうか? と思いつつスマホをズボンのポケットにしまう。
別件で予定が入った。会話に夢中で抜け出せず、来られそうにない。
時間が経ちすぎたせいで忘れている。そもそも来る気がない。
考えれば考えるほど、色々な予想が浮かんでは消える。更には段々と胸が苦しくなってきた。
「も、もしかして既読無視的な感じか? いや純真っぽい倉田に限ってそんな! さすがに返事くらいはしてくるよな!? あれ? でも実は、倉田は闇が深い系女子なんて可能性も……!」
「なにそれー? あんたは倉田っちのことをなんだと思ってんの?」
「え? ……く、鞍馬!?」
「とりま、そこはふつー、恥ずかしくってラインの返事が出来ないとか、送信した文面に問題があったとか考えるべきっしょ」
建物の曲がり角から現れたのは、ロリポップのキャンディーを舐めてる鞍馬だった。今朝会ったあのギャル女だ。
泣きぼくろがある左目をウインクさせながら、あいつは「やっほー♪」と言って近付いてくる。
なんでこんなところに鞍馬が来た?
でもそうか。あいつの言う通り、倉田が恥ずかしがって可能性もあったか。
「にしても、マジヤバすぎ。あ、進藤もキャンディー舐めたい?」
そう言いながら鞍馬は棒の部分を指で挟み、口からキャンディーを取り出す。
ぷりっとした艶かしい唇からキャンディーが吐き出される様。その仕草にオレは、思わずドキッとしてしまった。
鞍馬は笑みを浮かべると、今まで舐めていたものをこっちに向かって差し出してくる。
「はい、どーぞ♪」
「って食えるか!!」
「なーに? 間接キスとか気にしちゃうタイプー? 進藤って、結構純情系だったり?」
ニヤニヤと笑い、鞍馬はまたキャンディーを舐め出した。
「わ、悪いかよ!? てか、なんでお前がこんなとこに来るんだ? バレー部やバスケ部なのか?」
「なわけないじゃん。それだったら体操服着てなきゃマズいっしょ?」
た、確かに。今の鞍馬は普通に制服を着てる。
「なら、なんでここに?」
「そマ? ひょっとしてド忘れしてる? んじゃ、コレなーんだ?」
「へ? そ、それは!?」
そう言って鞍馬が制服の上着のポケットから取り出したものは一通の封筒だった。
どう見ても覚えがある。間違いなくオレがラブレターを入れてた封筒だ。
ちょっと待て! あれは倉田の下駄箱に入れたはずじゃ!?
「あーしの下駄箱に入ってたんだけど、名前は進藤で間違いないよね? 中身も読んだ上でここに来たんだけどー?」
「う、あ……」
どうしてだ? ……そ、そういうことなのか?
オレが焦って間違えたことで、倉田の次の名簿にあたる、一つ下の段をあてがわれた鞍馬の下駄箱に入れてしまったと?
「ちょいちょーい! なんか言ってくんないと、あーしがちょー恥ずいんですけどー?」
「な、何か言えって言われても……」
どうすんだよお……。いやもう、正直に渡す相手を間違えたって言うしかないだろこれ。
さっきから身体中を嫌な汗が流れてる。鞍馬と話す前の浮ついた気持ちなんか吹き飛んだ。
だからといって、どう話を切り出すべきか分からないオレがいる。
「……進藤?」
鞍馬が怪訝な顔でオレの名前を呼んだ。
「あ、あのさ。実はそれ……っ……」
「……実は間違えてたとか? 入れる下駄箱を」
「なっ――!?」
「ふーん? ……ここに来てから進藤の返事が変だと思ってたけど、そーゆーことか」
鞍馬は悟ってくれたようで、気まずそうな顔をしてモミアゲに指を巻いていた。
「そ、そうなんだよ! いや、本当にすまん! お前を騙すとか、嫌がらせでやったんじゃなくてだな!」
「相手は?」
「あ、相手?」
「そ。マジで渡すつもりだった相手は?」
こ、ここでバラせってのか? そんなの言える訳ないだろ!
「言わないなら、このラブレターをコピーして全校にばら撒くし」
「はあ!? それは人としてやっちゃダメだろ!?」
「あーしにそれをして欲しくないなら、さっさとゲロっちゃえばー?」
鞍馬はバカにしているのか、わざとらしく飴を噛み砕く音を鳴らす。
こいつ……!
オレは怒りが込み上がって、自分の身体が震えてることに気付く。
「あと三秒ー」
「ちょっ!?」
「二ィー! イーチ!」
「分かった! 言う! 言うからカウント止めろ!」
「りょ」
鞍馬の口が閉じた。これは止めてくれたってことでいいのか?
怒りが湧き上がって即降参とかカッコ悪すぎだろ。
てか、「りょ」ってなんだ? 了解か? 了解の意味なのか!?
「で、進藤の好きな子は誰?」
「うっ……! ……く、倉田。同じクラスの倉田千歳だ」
「くら、た……? そっか。それで倉田っちのこと呟いてたんだ……」
「鞍馬?」
目を見開いて唇を噛みしめる鞍馬。
「ほ、ほら。ちゃんと言ったんだし、それ返してくれないか?」
「あ、うん。…………やっぱダメ」
「はあ!? ダメってなんだよ!?」
奪い返そうと近付いたところで、鞍馬は舐め終わった飴の棒をポケットに入れ、封筒を持っていた方の手を背後に移動させやがった。
「おい! ふざけんのも大概にしろよ!」
「ふざけてないし! 進藤はコレ返してもらったら、今度こそ倉田っちの下駄箱に入れるんでしょ!?」
「あ、当たり前だろ!」
なんて啖呵を切ったはいいものの、また勇気を振り絞らないといけないのはキツい。
正直、もう全部なかったことにして元の状態に戻りたかった。
「じゃあ返さない」
「おまっ、なんでだよ!?」
「それは……!」
頭を下げたことで、鞍馬の両目が前髪によって隠れる。
「決まってんじゃん!! あーしが進藤のこと好きだからよッ!!」
「……は?」
表情を読めないまま告げられた、鞍馬からの告白。
突然のことで、オレは何も言葉を返すことが出来なかった。
どうやらオレの初めての告白は失敗したらしい。
その代わり、オレは別の……好きでもないギャルから告白されてしまった。