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2話 ラブレターを投函しよう

 翌朝――。


「さすがに誰もいないよな?」


 オレは自分のクラスの下駄箱にたどり着いた。

 まだ運動部の連中が朝練をやってる頃、つまり人の少ない早朝の時間帯だ。


 最終確認の意味を兼ね、オレは肩にかけていた鞄から一通の封筒を取り出した。

 昨夜家で書いた手紙、いわゆるラブレターが入っている封筒を開け、中身に目を通す。


「いきなりの手紙ですみません。オレはあなたの笑顔に一目惚れしました。あなたは彼女作りをがんばってとオレに言ってくれましたが、そんなあなたに彼女になって欲しいんです。あなたを本気で好きになってしまいました。今日の放課後、体育館裏であなたを待っています。そのときに返事をください。進藤優也」


 思わず朗読してしまったが、周囲には誰もいないし大丈夫だろう。

 念のため、廊下の様子を探って確認する。が、もちろん誰一人としていなかった。


「……ふう。よし」


 元の位置まで戻り、オレは改めて文章を確認する。


 うん。悪くない内容のはずだ。オレの想いも盛り込んであるし、本気だと分かってもらえる手紙にはなってるはず。……そうであって欲しい。

 やっぱり想いを本気で伝えるのなら、直筆のラブレターが一番だな。いやだって、直接とかまだ怖いんですもの。


「……あー、やばい。すげえ緊張してきた。ラブレターなんて書いたの初めてだしな」


 唾を飲み込むと、改めて鼓動が高鳴るのを感じる。

 手紙を落とさないように封筒へとしまい、オレは息を吐きながら下駄箱を見つめた。


「倉田……倉田…………あった!」


 鉄製の下駄箱。そのたくさんある扉の中から、倉田千歳の名前が印字されたシールを発見した。


「落ち着けオレ。落ち着くんだ。まずは深呼吸をしようじゃないか」


 目をつむり、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。

 そうして決意を胸に秘めて目を開け、扉へと手を伸ばした。


「……でさ」


 そんなとき、廊下の方から男子の声がわずかに聞こえてきた。

 しかもよりによって、突然湧いた声に驚いたせいでオレは封筒を落としてしまう。


 くそっ、タイミング悪すぎだろ! てか、こっちに向かってきてる!?


 足音が段々と近づいてきてるのが分かる。


 やばいやばいやばい! どうする!?


 とにかく手紙を拾う。そこから一旦離れようかと考え――。


 いいのかオレ? ここで引いたら、この恋は終わるかもしれないんだぞ?

 巡ってきたチャンスを逃して、決心が鈍ったらどうするんだ? 出せないまま終えるつもりか?


 そんな自分自身の問いかけが聞こえた気がした。


「そ、そんなの……」


 嫌に決まってる。あんな惨めな失恋だけしか恋愛経験がないなんてごめんだ。


 恋人は欲しいさ。でも恋して振られるのは怖い。

 そんな甘ったれた考えを変えるためにも、ここで逃げる訳にはいかないんだ。


「くっ!」


 オレは廊下の足音を気にし、目をそっちにも配らせながら下駄箱を開ける。

 そこに持っていた封筒をしまって、一目散に校舎の外へと飛び出した。




 ははっ、やった! やってやった!

 ラブレターを出せたぞ! こんちくしょー!


 必死に走って校門まで辿り着いたオレは、壁に片手を突いてもたれながら、小さくガッツポーズをした。

 緊張で未だに手足が震えているのが分かる。息だって整ってなんかいない。


 だけどそれこそが、自分が偉業を成し遂げたことに他ならないと、オレに実感させてくれる。


 あとは放課後に体育館裏で待たないと。

 いやいや、授業もちゃんと受けるからな。サボるのは無しだ。


 なんて感じで舞い上がっていたら――。


「あれ? あんた進藤ー?」

「え?」


 降って湧いた声で我に返る。顔を上げると、そこには校門を通り抜けたらしき女子生徒がいた。


「お前は……えっと……」

「……ふーん? ま、そーいう反応になるよね。同じクラスになったとはいえ、接点もないし……仕方ないか。ってわけで、ちゃんと覚えなよ? あーしの名前は鞍馬綾音(くらまあやね)! あんたと同じ二年三組なんで、よっろしくー♪」


 名乗った女子は、小憎らしい笑みを浮かべて前髪をかき上げた。


 薄めの金色の髪。それが手に触れたことでなびく。

 はねっ毛気味の巻きが入った、腰くらいまであるロングヘアーだ。

 耳にはピアスが付いていて、鞍馬とやらの動きに合わせて装飾の部分が小さく揺れていた。


 そういえば、こんな見た目の女子がうちのクラスにいた気がするな。と思いつつ視線を動かす。


 身長は百六十前後で童顔。スカートは短く、上は首元のリボンも含め、着崩した制服の着方をしてた。

 ブレザーの前は開きっぱなし。ブラウスのボタンは胸元まで空いていて、たわわな胸がこぼれ落ちそうなほど主張してる。


 薄いピンクのネイルやナチュラルメイクな化粧が、こいつの童顔を補う大人っぽさを演出してるようにも見えた。結論、まごうことなくギャルだ。


 特徴的な人物とはいえ、鞍馬が言うようにまともに関わった記憶がオレにはない。

 むしろこういうタイプは、オレから進んで話したりしない人種だった。


 私的に好みのタイプじゃないっていうか、ちょっとギャル系の要素が強すぎなのが問題だったりする。

 どちらかといえば清楚だったり、倉田みたいな純朴な子に惹かれる今のオレとしては、あまり関わりを深めたくない部類の女子だ。


「そんで、進藤はなんでこんなとこにいんの? てかさ、あんたっていつもチャイムギリギリで教室に来てなかったっけ?」

「え!? そ、そうだったか? ……き、今日はたまたま早く起きたもんでな」


オレの下手な言い訳に「ふーん?」と、真意を探りにくい返事をする鞍馬。


「ってわけで、オレもう行くから! じゃあな!」


 オレはボロを出さないよう、さっさと下駄箱へと向かって走ることにした。

 背後から「なんなのよあいつー?」なんて、納得出来てない鞍馬の声が聞こえてきたが、まったくもってその通りだと思ってしまうオレがいる。


 とにもかくにも、今から放課後が待ち遠しい。……でも倉田に振られたらどうしよう。

 いや、やらずに後悔するよりも、やって後悔することに誇りを持とう。


 走りながら腹が痛くなってきた。とりあえずトイレにでも行っておくか。

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