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17話 シスターフレンド

「いらっしゃいませ! 人数はお二人ですね? おタバコは吸われますか?」


 ファミレスに入ってすぐ、女性の店員が駆け寄ってきて出迎えた。


「はい二人です。あとタバコは吸わないので禁煙席でお願いします」

「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」


 と姉ちゃんが受け答えをして席へと案内される。

 今さっき片付け終えた、比較的入り口に近いテーブル席だ。昼時なのもあって、どうやら禁煙席側のテーブルはこの一つしか余っていないらしい。


 オレたちは席についてメニューを広げ、とりあえず何を頼むかを話し合う。

 朝はトーストやスクランブルエッグとかの洋風だったからな。昼は和食というのもありか。


 あれこれと悩んだ末、オレは海鮮丼のセットと和風のサラダを頼む。

 少食な姉ちゃんはカルボナーラのみだ。


「あとドリンクバー二つと……ポテトとからあげもください」

「はい。かしこまりましたー」

「あれ? 姉ちゃんそんなに食べれるの? 追加で注文するなんて珍しいね?」

「ううん。優ちゃんの分だよ。お姉ちゃんは食べないから、安心してぜーんぶ召し上がれ♪」


 おう……そういうことですか。

 まあ、食べられなくもないから大丈夫だとは思うけど。

 にしても、相も変わらずな姉のお節介である。せめて食べるかどうか聞いてから頼んで欲しいものだ。


 店員が注文を繰り返して確認を取り、去っていく。

 それをオレが見送っている間に、我が姉上はドリンクバーへと向かっていた。


 いつも通りオレの飲み物も取ってきてくれるようだ。戻ってきたらちゃんとお礼言わないとな。

 そんな訳で暇が出来たということもあり、とりあえずスマホをいじり始めるオレ。すると、出入り口の扉に取り付けられたベルが乾いた音を鳴らす。


「いらっしゃいませ! お一人様ですか?」

「ええ。タバコは吸わないわ」

「あ……誠にすみません。ただ今の時間、大変混み合っておりまして。禁煙席のテーブルに空きがない状況で……」

「そうなの? 困ったわね……。時間ずらして来るべきだったか」


 どうやら新規のお客さんが来たらしい。けど、席に空きがないようでお困りの様子だ。

 オレはなんとなしに気になって視線を向ける。


 店員と話していたのは、スラッとした長身でモデル体型の女性だった。髪は、茶色のメッシュが所々に入った黒く短いもので、もう少し筋肉質なら男性に間違えてしまいそうな容姿だ。


「……なんかファッション雑誌とかに載ってそうな人だなぁ」


 スタイリッシュで大人っぽい服装なのもあり、思わず感想を呟いてしまうオレ。


「よろしければ、喫煙席ならすぐにでも案内が出来るのですが……」

「そっちはちょっと……。匂い移るのは勘弁してほしいかな」

「そうですか。では、テーブルが空くまでもう少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

「そうね。そうさせてもらうわ」


 この時間だと混んでるからな。まあ仕方がない。

 他人事ながらオレはスマホに意識を戻しつつ、その人がすぐ座れるようにと脳内でエールを送っておいた。


「ん? あれ? あれれ? もしかして(つかさ)ちゃん?」


 そこに飛び込んで来た声は、まさかの姉ちゃんのものだった。


 何事かとオレは改めて視線を送る。

 すると、姉ちゃんは空のグラスを二本手に持ったまま、さっきの女性へと歩み寄っているではないか。


 もしかしなくても知り合いなのかもしれない。

 オレはその動向が気になり、スマホを操作する手を止めて見入る。


「ん? あら梓。なに? あなたここで食事していたの?」

「そうなの! 司ちゃんもここでお昼?」

「ええ。けど、禁煙席が空いていないみたいでね」

「じゃあ、わたしたちと一緒に食べない?」


 会話を聞いていたら、おかしな方向に舵が切られていた。


 え? 姉ちゃんの知り合いらしきあの人と相席する流れなのか?


「いいの梓? わたしたちってことは、あなたは一人で食べに来てるわけじゃないのよね?」

「うん。二人でだよ。ほら、あそこでスマホを持ってる眼鏡の――」

「ああ、あそこの眼鏡の彼? 梓って、ああいう男の子が好みだっけ?」

「ふぇ?」

「ん? 彼氏じゃないの?」

「か、かれ……彼氏ぃ!?」


 姉ちゃんが顔を真っ赤にして声を上げる。オレとしては、手に持つグラスを落とさないかと内心冷や冷やものだった。

 あと彼氏という部分も、早急に否定しなければならない。


 オレは周囲の注目を集めてしまわないか恐々としながら、意を決して立ち上がる。


「あの――」

「優ちゃんが彼氏……! そっかぁそっかぁ! わたしと優ちゃんは恋人同士だったんだぁ♪」

「違いますからね。オレは弟です」


 恍惚とした顔をする姉はこの際ほかっておき、オレは司という女性にそう進言する。


「あ、やっぱりそう? あたしも変だとは思ったんだけどね」

「うぅぅ……優ちゃぁん……」


 なんで言っちゃうの!? 束の間の幸せを壊さないでよ!

 って言いたげな顔で姉ちゃんがにらんできた。


 そりゃあ、色々な意味で危ないんで訂正しますよ、弟としては。


「ま、このまま立ち話もなんだし、あなたはさっさとジュースを注いできなさい。あたしは弟くんのとこに行くわ」

「わかったぁ……。あ! 司ちゃんは何飲む?」

「烏龍茶。でも入れてきちゃだめよ。あたしはまだ、なんにも頼んでいないんだから」


 と姉ちゃんに釘を刺す司さんは、こっちに向かって歩いてきた。


「やっほー弟くん。申し訳ないけど、相席させてもらうわね」

「いえ、姉の友達なら大歓迎です」

「ふーん? よく出来た子ね。でもそっか。あなたが噂の優ちゃんな訳か」


 司さんが話しながらオレの正面の席に座る。そんな司さんに、オレは困惑しつつも聞き返す。


「う、噂って?」

「梓だからね。あなたでも想像つくでしょ?」

「あー……大学でもオレの話とかしてます?」

「ええ。頻繁にじゃないけどね。でもまあ、なにかあれば弟くんのことを呟いてるかな」


 テーブルに肘をついて手の平に顔を乗せる司さん。

 とてもいい匂いがする。香水の類なのか、司さんがまとうバラのような匂いがオレの鼻に届く。


「んー? どうしかした? もしかして、司お姉さんに見惚れちゃったかにゃー?」

「なっ!? い、いや別にそういうわけじゃ……!」


 ニヤニヤと笑う姿に、オレは思わずドキッとしてしまった。

 同時にその笑い方や語尾が、どうしてか鞍馬のそれに重なってくる始末だ。


「ふふっ、慌てちゃってかわいいー♪ どう? 司お姉さんと良いことしてみない?」

「え!? あ、いや……!」


 これはマズい。鞍馬はじゃれつく子猫なんだと自分に言い聞かせることで、これまでなんとか、鞍馬に対する欲求を律してこれた。

 けど、この人から感じられる大人の魅力なようなものが、それすらも切り崩し、オレの中へと土足で踏み込んでくる。


 なんでだ? オレはこういうグイグイくるタイプが苦手になっていたはずなのに……。

 だから、倉田のような素朴なタイプに惹かれるんだと思って――。


「あー!? 司ちゃん! わたしの優ちゃんを誘惑しないでよー!」


 割って入る姉ちゃんの声。そのおかげでオレの意識は引き戻された。


「あら残念。梓お姉ちゃんが戻ってきちゃったかー。あ、そうだ弟くん。あなたの名前は優でいいの?」

「えっと……せ、正確には優也です」

「……ゆうや? で眼鏡。梓の弟なら高二……か。へー……そういうことね」

「司さん?」

「お姉ちゃん帰還ー! 司ちゃんは早くドリンクバーにゴーだよ!」

「ごめーん。あたし、まだなにも頼んでなくてさー」

「えええぇぇ!?」


 姉ちゃんに催促されて店員を呼ぶ司さん。

 その姿を見ながら、オレはこの人に対するよく分からない違和感を感じていた。

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