表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/93

14話 ジャイアニズムなギャル

 四時限目の授業が終わったので、オレは弁当を持って廊下を歩いていた。

 なんだが……トイレに行きたかったこともあり、現在は白斗を先に行かせての別行動中である。倉田たちと合流する気なので目的地は中庭だ。


「ユーヤ!」

「ぬわっ!?」

「ふっふっふー♪ お縄につきなー!」

「またか!?」


 鞍馬が背後から羽交い締めにしてきたのは、そんなトイレでの用を済ませ、人気(ひとけ)がなくなった廊下を歩いてたときのことだった。


 オレは未だに慣れない、異性からの接触による身体の火照りに耐えながらも。


「頼むから一回離れろ!」


 と精一杯の気持ちで告げる。のだが――。


「やーだー!」

「ガキかよお前は!?」


 首を横に振っているらしい鞍馬に、あっさりと却下された。背中に当たる動作のせいでむしろ、顔を背中に擦り付けられてるようにしか思えない。


「子供じゃないしー大人だしー」

「嘘つけ! 大人のやることじゃないだろ!」


 だから、お前の乳圧のせいでオレの理性が死にそうなんだっつーの! あと女子特有の匂いで色々ヤバいんだよ!

 どちらも抗いがたい魅力はあるが、されるのなら倉田にされたいんです!!


 ……まあ二人の身体を比べると、胸囲の格差がある訳なんだが……。


「知らなーい! やーだーやーだー!」

「くっ! どうしても離れないのなら、オレは飯には付き合わないからな!」

「……な、に!? ゆ、ユーヤのおねーさんの弁当を人質に取るとか、それひきょーじゃね!? ユーヤの血は何色だしー!?」

「赤だよッ!! そもそも弁当が人質扱いとか色々とおかしいだろ! あと背中に顔押しつけたまま怒鳴んな!!」


 くぐもった声からして、オレのブレザーに唇が当たってるのは確かだ。てか口紅とか付いてないよな?


「ぷはっ! そーゆーユーヤも、声がおっきーんだけどー?」

「お前のせいだよ、お前の」


 声が戻った。どうやら顔が制服から離れたらしい。


 教室で抱きつかれることはさすがになくなったが、周囲の目がなくなるとすぐこれだ。

 こいつは絶対に自分の身体が武器として使えるのを分かった上で、オレの理性を崩しに来てやがる。


「んー! じゃあさ、中庭まで腕組んで行ってくれるならチューしたげる――」

「却下。貞操を大事にしてるんだろ? なら一生大事にしてなさい」

「はあ? 今更なに言ってんの? あーしらもうキスまでしてるんですけどー? はあ、まったく……こ、これだからドーテーくんはさあ……!」


 あ、これは煽ってくるパターンだな。段々と読めてきたぞ。


 しかし案の定、鞍馬はジュースを飲んだときの間接キスを自覚済みだったか。あと自称処女のお前が、童貞に対して指摘をする道理はなくないか?


 とにもかくにも、オレはこれから罵倒してくるであろう鞍馬に対する、迎撃用の言葉を脳内で用意しておく。


「そもそもさー、あーしの初めてはユーヤにあげるつも――あいたっ!?」


 言い切る前に頭に手刀をかます。逆手だから親指の部分が当たったはずだ。痛かろう。

 予想外のセリフだったが、『言わせないよ!』な精神で無理矢理止めてやった。


 で鞍馬が頭を押さえてうずくまってる隙に、オレはスッと離れる。


「いっつぅ……! 女の子の頭にチョップするとか、ユーヤはどんな教育受けてきたわけ!?」


 抗議しながら急に立ち上がる鞍馬。

 その動作のせいで、スカートの中の水色の布地が見えた気がする。いや、きっと見間違いだろう。うん。


「聞いてんのっ!?」

「お、お前はっ……お、オレ相手でも貞操概念を大事にするとか言ってたろ……!」


 オレは鞍馬から視線を外して答える。さすがに水色を見たすぐあとに直視出来るほどの余裕はない。


「んー? あー、あのときのこと? アレはユーヤからエロいことすんのは許可しないって意味だし。あーしからそーゆーアプローチをすんのは、むしろ問題なしって感じー?」

「なんだよそのジャイアニズム的な理論は!?」


 あまりにも理不尽だ。そんなの某音痴なガキ大将並みの暴論だろ。


「ふっふふーんっ♪ ユーヤのモノはあーしのモノでぇ、あーしのモノもあーしのモノだし。……あ、でもでもぉ、あーしの大切な……はユーヤに捧げるモノでね。……キャッ! 言っちゃったあ♡」


 …………うっっっぜえええええええ!!


 話しの途中から鞍馬が両頬に手を添え、腰をくねらせる動作をつけ加えていた。それがわざとらしくて余計に腹が立つ。

 きっと、今のオレの額には血管による怒りマークが浮かんでるはずだ。


「……むぅ? 何か言い返してこないと、つまんないんですけどー?」


 そんな安い挑発に乗る気はない。つまりは無視だ。

 オレは付き合うのもバカバカしくなってきたので、無言のまま中庭へ向かおうと歩き始める。


「ちょっと! 〜〜っ! か、構ってくんないと……昨日上げたインスタの弁当は進藤優也くんのでーすって、フォロワーにバラしちゃうぞっ☆」

「暴君かお前は!?」


 さすがに止まって振り返ざるを得ない。


 視線が合うと、今度はウインクをしながら手でハートマークを作る鞍馬。

 鞍馬の煽り能力は相当高いらしいな。オレの怒りがトップギアでフルスロットルだぜ。


 てか、こいつの誘惑度はもうビッチクラスだろ。オレの純粋な心を弄びやがって……!

 いや待てよ……。信じるかどうかは別にして、こいつは初めてをオレにとか、初々しいことをちょくちょく言ってくるんだよなぁ。


 つまりは一途系ビッチ? いや貞操高い系ビッチとかになるのか? そもそも尻軽なビッチの定義に、鞍馬は当てはまらないような気がしてきたぞ。


 最早、それはただの純情な女の子なのでは? なんて思考に行き着いたのだが、こいつと倉田を同系列で語るのはどうかと思い、オレは考えるのをやめた。


「なんかー、ユーヤからエロい視線感じるしー。視姦さーれーてーるー♪」

「お前は一回病院行ってこい。精神病院に。なんなら今から調べに行くか?」

「真面目な声と顔で言ってくんの、割とマジでひどくない? ちょー傷付くんですけど」

「自業自得だろ」

「……なかなか来ないと思ったら、お前らはなんの話をしているんだ?」

「ん? 白斗?」


 声がした方に振り向くと、白斗が呆れた顔をして近付いてきた。


「ごめんごめん茅野っち! ユーヤがあーしのこと、メッチャいじめてきてさー!」

「捏造すんな。被害届を出したいのはオレの方だ」

「どっちが何をしたとか知らんがな。とにかく中庭に行くぞ。倉田さんが一人で待っている」

「中庭に一人でか? てか、スマホで連絡してくれればよかっただろ」

「したぞ。お前たち二人揃って、授業中に鳴らないようマナーモードにしたままだろ?」


 あ、そういえばマナーモードだったな。


 スマホを取り出して確認すると、案の定、白斗からラインや着信が入ってた。


「あまり一人で待たせる訳にもいかない。早く中庭に行くぞ」


 昨日同様、オレは白斗に先導される形で中庭に行くことになった。今回は鞍馬がオレの後ろをついてきていることで、三人での縦列移動だ。

 なんかロールプレイングゲームみたいだなぁ。と思いながら、オレは中庭を目指す。


 中庭に着くまでの間、ちょくちょく鞍馬が背中をなぞってきたりして、ちょっかいを出してきた。

 その度にオレが手刀の構えをし、対する鞍馬が頭の上で腕をクロスさせて防御の姿勢を取り、白斗が「お前たちイチャつくな」と指摘する流れが何回か発生したのだが、それについては端折っておく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] もう鞍馬さんと付き合っちゃえよ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ