兆し-2
────ルーマニアにて
ルーマニアの新たなる元首レミリア・スカーレットと、ルーマニア宰相 十六夜咲夜、参謀本部戦務参謀長パチュリー・ノーレッジ、ルーマニア陸軍最高司令官 紅美鈴、その他政府・軍要人が一堂に会する議会。
「さて、どうするべきかしらね」
引きこもりがちとはいえ類まれな記憶力や洞察力、発想力といった才覚が認められて、戦務参謀長に就任したパチュリー。
「レミリア、どうするの?」
ルーマニアはブルガリアに政府の交代を欲求、受け入れを渋ったために軍事行動すら辞さない最後通牒を突き付け、ブルガリアはこれを受け入れて事実上の傀儡国家になってしまった。
そしてレミリアの「ある計画」のため、名目上は完全な独立国家としておかなければならないために、内部でのドタバタ、そしてブルガリアと面するギリシャ・トルコとの小競り合いに表立って介入できないのである。
しかし、ブルガリアとの安全保障条約(軍の通行権や施設群の使用権と引き換えの独立保証)もあり、軍を送らないわけにもいかない。そんな折のことである。
「本当に・・・どうしましょう・・・。ハンガリーの本格的な再軍備・・・認めていいのかしら・・・。」
そう、ハンガリー王国の再軍備、これをハンガリーの使節団がブカレストへ派遣され、そしてルーマニアに承認を求めたのだ。
ルーマニアはバルカン半島において最も大きい国力を持ち、工業力・軍事力も頭一つ抜けている。
咲夜主導での大規模なインフラ整備と工業地帯建設、美鈴とパチュリーの作製した新兵訓練要項と下級指揮官選抜訓練要項により、飛躍的に装備・兵の充足率・練度の向上を着実に進めている。
そのせいもあり、レミリアと咲夜の国民からの人気は高く、美鈴とパチュリーも女性ながら軍部からの支持も堅い。
政治的にも安定してきており、軍事力も列強国といえど無視出来ないほど強力になってきてはいるが、周辺国家の殆どが仮想敵国であり、そして列強国もドイツ・イタリアを除いて無関心、あるいは敵対的である。予断を許さない状況なのだ。
そんな中でのハンガリーの再軍備である。
「承認すべきではありませんか?」
外務大臣の言。
「どういうことかしら?」
「はい、再軍備を承認すれば、ハンガリーとは友好的な関係を築くこともできるでしょう。しかし、承認を拒否すれば、ハンガリー政府から敵視される恐れもあります。隣国とはできるだけ友好的であったほうがよろしいでしょう」
「ふむ・・・」
「なるほど、一理あります。しかし、承認すれば、要らない火種を巻き込みそうでもあります」
「つまり、咲夜は反対なのかしら?」
「ええ、お嬢様。私は反対です。ハンガリーはかの世界大戦のきっかけにもなったそうです。またそうなれば巻き込まれることは間違いありません。まだルーマニアは、世界を敵に回すわけにはいきません。」
双方の意見、どちらにも頷く者がいる。賛成派と反対派、半々なようだ。そんな中で、元首であるレミリアの考えはというと
「どちらの意見も最もだわ。でも、私は元から拒否するつもりだったの」
「理由を・・・お聴きしても?」
反対派の1人と思われる者が言う。
「理由は簡単よ。まだ、世界を敵に回すわけにはいかないわ。どうせバルカン半島を征服するのだから、ハンガリーと敵対するのが遅いか早いかの違いよ。」
「しかし────
反対派の数人は食い下がった。だが、レミリアの決断を覆らせるには至らなかった。なにやら、固い意志があるようだ。
そしてその3日後、ルーマニア政府からハンガリー政府への解答が送られた。内容は要約すると
「再軍備など以ての外である。世界大戦の責任を感じていないのか。我が国は、政府の交代を要求し、これに応じず、あるいは再軍備を推し進めるならば断固とした対応をする」
というものであった。
バルカン半島でのつかの間の平穏は、いつまで続くだろうか?