ある科学者の記憶
サブストーリーです。ある何とかシリーズ再開ですね。
これは、世界大戦が始まる前、即ち、人類の全盛期の頃の記憶である。
日本の中心である東京の北西部の山岳地帯。そこでは、ある科学者の男が、生物兵器の開発に従事していた。
開発とはいうが、それは、1から作ったものではなかった。そのオリジナルとなるウイルスは中国地方で「発掘」されたものである。その正体は依然として謎に包まれていたが、そんなことはどうでも良かった。
科学者が研究していたのは、このウイルスを如何に兵器にするかであった。
当時の国際情勢は、非常に逼迫していた。22世紀に入って以降、世界中は不況に見舞われ、あちこちにスラムができるにまで至った。日本も、その例外ではなかったのだ。そして、始まったのが戦争である。国民の不満のはけ口として、侵略戦争は常態化した。そんな時代、核に頼らない抑止力として期待されたのが、生物兵器であった。
やがて、N.I.の協力もあって、研究は順調進み、人を不死身の化物にするウイルスの試作品が完成した。いや、してしまった。これが、まさか文明を滅ぼすことになろうとは、誰も思わなかったのである。
さて、完成の暁には、臨床実験をしなければならない。
幾つかの実験の末、ついに、人間で行う番がやってきた。スラムから拾ってきた子供達にウイルスを感染させ、経過を観察するという、非人道的な実験である。
だが、政府はこれを認め、研究所一帯は、徹底した情報統制下に置かれた。
実験は、順調に進むと思われたが、思わぬ邪魔が入ることになる。スパイが紛れているかもしれないと、科学者の部下から報告があった。ちなみに、被験者と直接触れ合うのは、男女2人の助手であった。他のものは、場外から実験を観察していた。
スパイがいるとなれば、このウイルスが奪われる可能性があった。しかし科学者は、これを黙殺し、実験を継続した。
しかし、それは大きな仇となった。
戦争が始まっておよそ2年の頃、ウイルスを運送中だった列車が、何者かによって襲撃されたのである。列車の護衛は全滅しており、助手も殺されていた。護衛を全滅させた手練れからするに、相当な訓練を受け、十分に武装した集団であったと思われた。しかし、その正体は全く掴めなかった。
そして、最悪の事態が起こった。
ニュースで報道され始めた奇病。それは、科学者には、自らの生物兵器であるとすぐ理解できた。そして、これが世界の終わりの始まりであると。
ここまで来たら、仕方がない。科学者は、生物兵器の存在を公表することにした。もちろん、隠す部分は隠してだが。
科学者は、ウイルスとともに治療法も用意していたのだ。その治療法とは、感染初期の患者に有効なものである。
これで、事態は沈静化すると思われた。実際、感染者全員を癒せるだけの薬を用意することは可能であった。
だが、それも、破滅の前には、何の役にも立たなかったのだ。
「天使にすがったのが、間違いだったか」
科学者は、燃える街を見つめながら呟いた。
最後の発言中二病。




