上がる反撃の狼煙
これより、第四章の開幕です。
今章では、いくつかの戦闘をまとめて一章としました。これから先も、割とこんな感じになると思います。
果たして、戦争に勝利するのはどちらでしょうか。それとも……
はい、あらすじのくだりでした。
崩壊暦214年8月3日13:23
五大湖領域内の日本軍は撃退された。現在、チャールズ元帥率いる米艦隊は、スペリオル湖とヒューロン湖の間の都市、スペシガンに駐屯している。
「日本軍って奴は、何て高貴な軍隊なんだ。まったく、我が軍とは正反対だな」
チャールズ元帥は、スペシガンに降り立ち、現状を報告されたときに、思わず、感嘆しながらこう呟いた。
まず、スペシガンは一切破壊されていなかった。また、住人の為のインフラも、完璧に整備されていた。スペシガン市民は、日本軍占領下でも、生活に困ることはなかっただろう。
米軍がこれまで、都市を破壊して時間稼ぎをしてきたことを鑑みれば、日本軍は高尚な軍隊である。
そう言えば、向こうでは自らを「皇軍」と呼ぶらしい。
そして、チャールズ元帥の言葉には、ニミッツ大将への皮肉も混じってはいた。
「都市機能は、完全に復旧しました。これで、五大湖は奪い返したことになるでしょう」
「ああ、結構だ。引き続き、艦隊の整備と補給も頼むぞ」
「承知しました」
そんな日本軍の行いのお陰で、スペシガンはすぐに復興した。そして、現在は、先の戦闘で傷ついた艦隊の整備と、武器弾薬の補給が為されている。
そして、チャールズ元帥が見据えるのは、その先のことである。
「なあ、ハーバー中将。私は、即座に日本軍に攻撃を仕掛けるべきだと思うのだが、中将はどう思う?」
アイオワの艦橋で、チャールズ元帥は戦争の話を始める。
「閣下らしくない、積極策ですね。私も、同じことを考えていました。時間が経てば、日本軍に増援が来る公算が高く、その分我が軍は不利になるでしょう」
ハーバー中将は、少し驚いた表情をした後、チャールズ元帥に応えた。
「ああ。私も、同じことを考えていたよ。後は、政府に報告しとこうか」
「はい。その方が賢明でしょう」
この時代、政府の軍への干渉は、公然のものと捉えられる節がある。軍には、作戦行動に関する限り、独自の行動ができる権限があるが、そんなことをしたら、国民に叩かれるのが常である。
そして、これで国民を喜ばす為の戦争の出来上がりである。
「それと、ミシガン湖方面の日本軍の情勢は?」
五大湖の戦いの中で殆ど動きが無かったため、あまり注目されないことが多いミシガン湖であるが、一応、ミルウォーキーの日本軍と米艦隊が相対し、両軍ともに遊兵を生じさせていた。
その結果として、スペリオル湖からヒューロン湖にかけてのルートでの決戦が起こった訳である。
「現在、レーダー探査距離外にまで逃げ、その後の行動は確認されていないとのことです」
「そうか。予想通りだが、少々厄介だな」
スペシガン解放に伴い、ミルウォーキーの日本軍は颯爽と撤退を始めた。そして、現在はもはや位置を掴めないところにまで逃げたようだ。
しかし、それは同時に、日本艦隊の主力に増援が来ることを意味する。しかも、殆ど無傷の一個艦隊である。
「しかし、同時に、張り付けられていた我が艦隊も、閣下の元に集まれます。条件は五分五分でしょう」
「確かに、そうだな。やはり、五分五分である内に攻撃すべきかな」
「はい。私もそう思います」
どのみち、時間が経てば日本艦隊は再建さへるわけで、それを待つ理由はない。やはり、速攻がベストだろう。
その時、ニミッツ大将が艦橋に入ってきた。どうも、報せを持ってきたように、急ぎ足で歩いてくる。
「閣下、連邦政府より、セントポールを奪還せよとの入電がありました」
「おお、珍しく、政府も同じことを考えてたんだな。よし、決まりだな」
「なっ、何が決まりなのですか?閣下」
ニミッツ大将が持ってきたのは、珍しい朗報であった。これで、チャールズ元帥とハーバー中将の作戦にゴーサインが出た。
混乱しているニミッツ大将に、ハーバー中将は先程の会話を説明した。
「なるほど。異論はありません。すぐにでも、日本軍に目にもの見せてやりましょう」
「ああ。決まりだ」
米艦隊は、日本軍への更なる攻撃を決定した。そして、すぐに出撃の準備が整えられる。既に戦闘の準備は進んでいたため、すぐに出撃態勢はできた。
スペシガンの空港に、米艦隊は集結している。
「全艦に告ぐ。これより、セントポール奪還作戦を開始する!各々、全力を尽くし、日本軍を追い返せ!」
米艦隊は飛び立つのであった。




