スペシガン攻略
さらっと第三章の最終回です。
「全ミサイル、放て!」
チャールズ元帥の号令とともに、米艦隊のあらゆる艦艇から、あらゆるミサイルが一斉に放たれた。それは、対空ミサイルや、対艦ミサイルを含むものである。
そして、ミサイルは極めて低空を飛び、敵の高射砲へと襲い掛かる。
「タイミングは完璧ですね」
「ああ。これならいけるな」
チャールズ元帥とハーバー中将は、静かに戦局を見守っている。
米艦隊からミサイルが放たれると同時に、背後からも、殆ど同数のミサイルが飛んできた。オンタリオ湖から飛んできたケラウノスである。
ミサイルの奔流は、まさに完璧なタイミングで合流し、更に大きな波を作って、スペシガンに津波の如く押し寄せる。
「着弾まで、3、2、1、着弾!」
「おお」
アイオワの艦橋には、奇術を見た時のような、静かな歓声が響いた。
スペシガンでは、日本艦隊があらゆる手段で迎撃を試みていたが、迎撃されたのは4分の3程度である。残りのミサイルは、スペシガン外縁部に降り注ぐ。
高射砲は次々と崩れ落ち、炎を上げている。
「作戦はひとまず成功ですね、閣下。敵の高射砲は無力化されました」
「そうだな、大将」
「攻撃で、敵は、混乱しているようです。今すぐに叩くべきでしょう」
「ああ。全艦、作戦通りに攻撃を開始せよ」
敵の頼みの綱だったであろう高射砲は、完膚なきまでに破壊した。しかし、敵の戦力は、デトロイトで大幅に削ったとはいえ、それなりのものが残っている。
次は、これを殲滅しなければならない。
とは言え、それは別段難しい話ではない。ここからの逆転の策は、日本軍にはないだろう。
「敵、スペリオル湖方面に動き始めました」
「ほう、逃げるのか」
「はい。敵は、もはや勝機はないと悟ったのでしょう」
敵は、高射砲が破壊されるや否や、早速逃げ始めた。艦隊戦力において既に劣勢であるなか、戦うのは無益だ。チャールズ元帥が同じ立場でも、恐らくはそうしたであろう。
「追撃しますか?」
「艦載機と、対艦ミサイルの使用は許可するが、艦砲は使うな」
「承知しました」
チャールズ元帥は、追撃は許可したが、艦砲の使用は許可しなかった。これは、スペシガンに流れ弾が落ちれば、大きな被害が出るからである。この距離では、艦砲の命中率などたかが知れている以上、都市の上空での砲撃戦など、住民からすれば爆撃とさして変わらない。
ミサイルでも被害は出るだろうが、それはかろうじて許容できる範囲だ。
「艦載機を出せ。また、敵の周囲からの対艦ミサイル攻撃を主とし、犠牲を最小限に収めるよう、伝えてくれ」
ここで戦闘攻撃機同士の死闘を繰り広げる意味もない。あまり効果はないだろうが、安全な攻撃が選ばれた。
「対艦ミサイルもだ。この際、撃てるだけ撃っておけ」
米艦隊から、またもやミサイル群が放たれる、逃げる日本艦隊に襲い掛かる。だが、今回は殆どが迎撃されている。
同時に、後方の空母からも、戦闘攻撃機が飛び立ち、艦隊の上をかすめていく。
「敵戦闘攻撃機、出ました」
「やはりか。全機に、無理そうならさっさと逃げろと伝えろ。別に、成果は端から期待していない」
敵も同様に戦闘攻撃機を出してきた。戦闘攻撃機は、敵艦隊の周囲を周り、攻撃を防がんとしている。
対して、米軍機はその更に周りからちまちまと対艦ミサイルを放っている。これも効果は薄いが、無駄死にが出るよりはマシである。
「敵がスペシガンの外に出ました。砲撃しますか?」
「いや、やめておけ。敵が砲撃したら、スペシガンに当たるだろう」
「了解しました」
「それと、追撃はこの辺りで切り上げよう。何だかんだで、エリー湖からこのかた、補給もないしな」
米艦隊は、追撃をやめ、スペシガンの中央に向かっていった。また、戦闘攻撃機部隊も空母に戻っていく。
また、日本艦隊はそのまま逃げていった。
かくして、スペシガンは解放された。戦争が始まって以来、始めて都市が解放されたのだ。これは、大きな転機となるに違いないと、皆が思った。
崩壊歴214年7月31日、五大湖より日本軍は駆逐された。戦争がますます長期化することは、間違いない。




