スペシガン攻略前夜
ちなみに、前回のやつは水爆です。
崩壊暦214年7月31日09:32
「いやあ、閣下。開戦以来、初の大勝利ですね」
「デトロイトとアルテミスを失って、だがな」
「アルテミスなど、大して重要ではありません。それに、連邦の存続を考えれば、デトロイトなど……」
ニミッツ大将は、相変わらずの資本主義者のようである。どちらかというと社会主義者であるチャールズ元帥からすれば、勝利の為に国民の生活を犠牲にするというのは、不快な考えだ。
だが、ニミッツ大将は合理的であるがゆえに、怒るに怒れないのだ。
「閣下、やはり、事前の準備は勝利の鍵ですね。結果的に、市民に犠牲はない訳ですし、閣下としても、心が痛むものではなかったでしょう」
「ああ、そうかもな」
チャールズ元帥は、半ば呆れたような返事をする。まあ、ニミッツ大将も皮肉屋であると自覚しているだろうから、そんな返事も折り込み済みだろう。
さて、デトロイトでは、日本軍が気づかないところで、至るところに罠が仕掛けてあった。
耕作地の地下に仕掛けてあった、電磁波攻撃装置もその一つである。デトロイトの不自然な構造は、これに起因するものである。
そして、実は、デトロイトには一般市民は残っていなかった。デトロイトにいた者は、全て変装した軍人である。日本軍が迫るなかで、外出する市民などそうそういないという日本軍の思い込みから、外を歩く市民が少数でも、違和感はなかっただろう。
実際は、それしか人間は残っていなかったということだ。そして、少数の軍人は、日本軍を撃退した後、さっさとデトロイトを撤収したのだ。
「閣下、敵を捕捉しました。敵は、スペシガンで防衛にあたるようです」
「そうか。予想通りだな」
ハーバー中将は、既に200km程に迫った日本軍の動静を報告する。敵は、新型の高射砲を備えたスペシガンで、米艦隊を迎え撃つつもりらしい。
それは、少し考えればすぐわかることだ。
そして、その対策も既に用意されている。
「トロントに、ケラウノス発射の用意をするよう伝えてくれ。射程ギリギリだが、スペシガンのあれは破壊できるはずだ」
「了解しました」
チャールズ元帥は、唯一厄介なスペシガンの高射砲を破壊するため、ミサイルによる飽和攻撃を考え付いた。
オンタリオ湖の西部に位置する都市であるトロントは、スペシガンからおよそ500kmの距離にある。
そこからケラウノスを放ち、それがスペシガンに到達するタイミングで、米艦隊からもありったけのミサイルを放つ。これでもって敵の対空能力を超えるミサイルを叩き込み、高射砲を破壊してやろうという寸法だ。
「しかし、湖上は酷いことになってるな」
「はい。今次の戦争では初の核攻撃ですから、こうなるのは当然でしょう」
湖上には、粉々になったアルテミスの残骸が浮いていた。そして、その周囲には、表層が溶け、砲がことごとく吹き飛んだ湖上要塞が浮いていた。
もはや、これらは廃棄するしかないだろう。
軍人としては、見るに耐えない光景であった。
「これが、戦争ですよ、閣下。使えるものは何でも使うべきです。終わったことは気にせず、勝利の美酒を味わおうではありませんか」
「まあ、それはそうだがな」
アイオワには、沈痛な空気が流れている。そして、自らが指揮していた要塞が粉々になっても一切動じないニミッツ大将は、周りからは浮いていた。
それから数時間後。
「閣下、計算上、ケラウノスを撃つべきポイントです」
「わかった。直ちに発射させてくれ。それと、艦隊は輪形陣をとり、臨戦態勢に移る」
「直ちに」
はるか彼方のオンタリオ湖からは、無数のケラウノスが放たれた。今は見えないが、いづれスペシガンを襲うだろう。
そして、米艦隊もまた、スペシガンに近づいてきた。まもなく、戦闘が開始されるだろう。




