最悪の罠
大和はヒューロン湖上空に入った。
大和にはいくつもの傷が残り、敗軍の将然とした面持ちを見せている。
「ふう、やっと一安心といったところですね」
「ああ、そうだな」
連合艦隊の視界の中に、巨大な浮島、湖上要塞が入った。敵として対峙するときは悪夢のようであったが、今なら絶対の自信に繋がる光景である。
帝国軍は、湖上要塞に陸戦部隊を無理やり送り込むという荒業で、アルテミスなどの要塞を攻略したが、普通に戦う限りはアルテミスが負けるはずはない。
さらには、米軍も同じことをしてくることを想定し、要塞の中は侵入者を迎撃する装備で埋め尽くされている。敵が入っていたこようものなら、たちまちに蜂の巣にされることだろう。
湖上要塞の射程にいる限り、傷ついた連合艦隊でも、負けることはないと思われた。
連合艦隊は、湖上要塞で補給を済ませると、すぐに臨戦態勢に入る。
「敵、距離200kmに接近。また、ミサイルは確認できません」
「結構。全艦に、湖上要塞上空で輪形陣をとり、防衛に務めるよう伝えてくれ」
東郷大将は、湖上要塞を積極的に使っての迎撃を指示する。武人としては多少汚い策かもしれないが、そんな中世的な伝統など、現代では必要ない。
歴史上、数々の汚い行いで多くの国を侵略してきた、最後の帝国主義国家アメリカ連邦、かつてはアメリカ合衆国だが、よりはマシである。
「やはり、敵はミサイルなどは撃ってこないですね」
「敵が湖上要塞の強さを知っているのは、当然だろうな」
東條中佐が指摘したとおり、敵は、常套手段である遠距離でよミサイル攻撃などはしてこない。それは、湖上要塞の無数の対空ミサイル、対空砲の実力を知ってのことだろう。
いくらミサイルを撃とうが、全て撃ち落とされるのは明白である。
「しかし、それにしても米艦隊の動きが鈍いですね。何か策があるのでしょうか」
「私にもわからん。だが、それに惑わされず、堅実な策をとるべきだろうな」
「確かに、そうであります」
東條中佐は、また違うことに気づいた。
米艦隊は、確実に迫っているのだが、その動きからはどうも覇気が感じられない。精神論という訳ではないが、その不自然さは、どこか不気味なものである。
そして、その予感は見事に的中してしまった。
「なっ、なんだ!?おいっ!どうなってる!?」
突如とし、大和は激しい揺れに襲われる。その揺れは、デトロイトでのそれの比ではない。
しかし、事態はそんなものではすまなかった。
「おいっ、嘘だろ……」「こっ、これは……」
大和艦橋は、激しい光に包まれた。
真っ白な光。
一瞬遅れて訪れる、内臓に響く轟音。
そして、眼前にあったものは……
「きっ、キノコ雲、なの、か?」「はっ、はい。そう、です」
艦橋、いや、連合艦隊の誰もが狼狽した。それは、あまりにも信じがたいものであった。
キノコ雲。
人類の業では、核爆発に固有のそれが、天高く上がっていた。
誰もが理解できず、静止して、ただただそれを眺めていた。
「はっ。総員!何を眺めている!被害報告!」
最初に現実に戻ってきたのは東郷大将である。東郷大将は、艦橋に怒号を飛ばし、状況の把握に務めさせた。
しかし、その状況は、最悪のものであった。
「あっ、アルテミス及び湖上要塞3基、第三艦隊の半分が……」
「半分が、なんだね」
オペレーターは、酷く言いにくそうにしている。しかし、東郷大将は、事実を知らねばならない。
しかし、その時口を開いたのは大和であった。
「半分が、消滅しました」
その時の大和は、極めて落ち着いていたものの、その声からは、僅かに悔しさが感じられた。
「なっ、なんだと」
爆心地は、アルテミスそのものであった。恐らくは、アルテミスの核融合炉を爆破したのだろう。
そして、被害は壊滅的だ。
残存艦艇の3割を完全に喪失し、頼みの綱の湖上要塞も壊滅した。
その中には、貴重な飛行空母が2隻も含まれていた。
「全艦、もはやここでの防衛は不可能となった!スペシガンまで全力で撤退せよ!」
もはや、ヒューロン湖は捨てるしかない。そして、最後の希望はスペシガンの天羽々斬にかけるしかないのだろう。
連合艦隊は、戦わずして、負けてしまった。




